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反撃 Ⅲ

決戦仕様オーバードライブ……?』


 聞き覚えのない名称に目を瞬かせる。すると、クリフはどこか得意そうに説明をしてくれた。


決戦仕様オーバードライブとは、起動回数を一回分消費して発動する特殊仕様のことです。お忘れでしょうか?』


『……あれか。そう言えば、一度説明を受けたな』


 起動回数を余分に消費すると言われて、それ以上の興味を持たないようにした記憶が甦る。だが、今となっては躊躇する理由もなかった。


『分かった。決戦仕様オーバードライブを起動してくれ』


『――了解しました。決戦仕様オーバードライブを起動します』


 その瞬間、俺の視界が変わった。周囲で光が揺らめいているのか、不規則な明るさが生じていたのだ。だが、視界そのものは細部まではっきりしており、なんらかの魔法による補正を受けているようだった。


「騎士殿、その凄まじい魔力は一体……!? それに、その光は――」


広域知覚エリア・パーセプションを起動します』


 神官の言葉を遮るように念話が聞こえてきた。その直後、俺は驚きの声を上げた。


「これは……!?」


 それは奇妙な状態だった。視界はそのままだが、この街を上空から見下ろした俯瞰図もまた認識できていたのだ。見えていないのに分かるという不思議な状態に、俺は軽く酔いそうだった。


主人マスター、調子はいかがですか? この魔法は脳で複雑な情報処理を行うため、術者によっては一歩も動けない、ということもあり得るのですが……』


「……いや、大丈夫だ」


 それはやせ我慢というわけではない。たしかにおかしな感覚だが、身体を動かせないほどではなかった。強敵であればともかく、一般的な相手であれば広域知覚エリア・パーセプションを発動したままでも対処は可能だろう。そう伝えると、クリフは驚いた様子だった。


主人マスター、やせ我慢はしないでくださいね? 歴代の主人マスターにも、この魔法を苦手としていた方は少なくありませんから』


『こんな重要な話を、やせ我慢で片づけたりはしないって』


 自分の能力を正確に推し量ることは大切だからな。こんなところで無理をしてもメリットは少ない。


『まあ、主人マスターは本能レベルで戦闘を行える方のようですから、そちらに処理容量を割く必要がないのかもしれませんね』


『褒められてる……気はしないな』


 そんな念話を交わしつつ、俺は帝都の俯瞰図に意識を向けた。


「これは――」


 帝都は見知らぬ軍勢で埋め尽くされている。……というわけではなかった。たしかに敵の数は多いが、いくつかのエリアに敵が集中的に投入されていることが分かった。


『あれは……うちの闘技場のあたりか?』


 俺は首を傾げた。ダグラスさんと一緒に脱出した第二十八闘技場。その周辺にかなりの戦力が投入されていたのだ。それも百や二百ではない。帝都の軍勢の過半数はそこに集まっているように思えた。


『それに皇城前も多いな。後は……このマーキス神殿か?』


 いくつかの部隊が合流しながら移動している様子を見て、俺は眉を顰めた。ディスタ神殿やティエリア神殿はそうでもないのに、なぜマーキス神殿には集中的に部隊が派遣されるのだろうか。


 そんなことを考えながら敵の動きを追っていると、もう一つ重要なことが分かった。敵部隊は、現在の数がすべてではない。現在進行形・・・・・で増えていた(・・・・・・)


『なんだよ、あれ……』


 帝都の外周部に、空間が揺らめいている場所があったのだ。空間自体がおかしいのか、それとも濃密な魔力がそう見せているのか。原因は分からないが、そこから敵が湧いているようだった。

 揺らめいている空間の中ははっきり視認できないが、その空間からちらほらと敵部隊やモンスターが出て来る様子が見える。


『空間魔法でしょうか。大規模なゲートの魔法が発動された時に、あのような現象が起きたのを見たことがあります』


『あれが(ゲート)?』


 クリフの言葉に思わず訊き返す。その魔法は知っているが、最高峰の難易度を誇るうえに魔力消費も尋常ではないため、軍事行動には利用できないと各国が研究を断念したはずだ。


 だが、今回の電撃戦をなし得た理由としては非常に説得力があった。本来、これだけの大部隊が国境を越えたのであれば見つからないはずがない。だが、それも術者が帝都に入り込んで戦力を召喚したのであれば説明がつく。


 そのことをクリフに伝えると、彼も考え込んでいる様子だった。そして、ポツリと呟く。


『――ということは、まさか……』


『クリフ、どうかしたか?』


『いえ、優れた術者がいるのだろう、と思いまして。……ところで主人マスター、この後はどうなさるおつもりでしょうか』


『そうだな……』


 俺は俯瞰図を睨み続ける。敵の動きからすると、重要拠点と思われる場所は四ケ所だ。皇城、第二十八闘技場付近、マーキス神殿、そして(ゲート)が開かれていると思わしき外周部だ。


「……まっすぐ進むか」


 面白いことに、このマーキス神殿から外周部へ向かってまっすぐ突き進むと、途中で第二十八闘技場付近を通ることになる。つまり、皇城を除く三地点をすべて確認することができるのだ。そこに何か意味があるのかとも考えたが、特に思い当たる節もない。


 ともかく、敵戦力が補充され続けている現状では、このまま敵部隊を迎撃していても意味がない。となれば、やることは一つだ。


 俺は少し離れてこちらの様子を窺っていた神官に声をかける。


「探査魔法で確認した。外周部……第六十二街区に(ゲート)が開かれている可能性がある。それを潰す」


(ゲート)ですか!?」


 彼も(ゲート)という魔法については知っていたようで、目を丸くして驚いていた。


「このままでは、いくら敵を倒してもキリがない」


「それが本当なら、たしかにそうでしょうが……しかし(ゲート)とは……」


「もちろん、そうでない可能性もある。だが、第六十二街区に何かがあるのは間違いない」


 そう言い切ると、神官は不思議な笑みを浮かべた。


「信じられません、と言いたいところですが……他ならぬ騎士殿が仰ることですからね」


 そうして、彼はしばらく思案する。


「戦闘経験のある神官を同行させましょうか? 騎士殿の凄まじい戦闘力は承知していますが、やはり単騎では限界がありましょう」


 その言葉は予想外のものだった。マーキス神殿も防衛戦力の確保に必死だろうに、敢えて戦力を貸してくれるというのだ。俺が驚いていると、彼は苦笑を浮かべた。


「本当は、マーキス神殿の防衛を手伝ってほしいと、そうお願いするつもりだったのですがね……。今は神殿だけでなく、街全体のことを考えるべきでしょう」


 そう言ってくれる彼の心意気は嬉しいものだった。だが、俺は首を横に振る。


「その気持ちは嬉しいが、一つ伝えておくことがある。今、敵部隊が狙っていると思われる地点は三つ。皇城、第二十八闘技場付近、そしてマーキス神殿だ。そのためにも戦力は温存しておいたほうがいい」


「なんですって!? なぜここが……」


「そこまでは分からん。ただ言えることは、先ほどと同じような規模の部隊が複数ここを目指しているということだ」


 狙いは別にあって、マーキス神殿を通り過ぎる可能性もあるが、楽観的でいるわけにはいかないだろう。なんと言っても、奴らは途中で遭遇した住民たちを虐殺して進んでいるのだから。


 神官の顔色が青ざめる。大元を絶つためとはいえ、ここでマーキス神殿を離れてよいものだろうか。そんな思考が俺の脳裏をよぎる。

 行きがけに接敵した部隊を全滅させていけば、結果的にマーキス神殿を狙う敵も減ることだろうが、それでもすべてではない。


 そう悩んでいた時だった。ふと気配を感じて、俺は剣を構えた。


「おっと、俺たちは敵じゃない」


 おどけた口調でそう答えたのは、俺も顔を見たことがある戦士たちだった。


「……『重振アクエイク』と『剣弩デュアル・レンジ』か」


 二人とも名のある剣闘士であり、『重震アクエイク』は剣闘士ランキング三位、『剣弩デュアル・レンジ』は剣闘士ランキング六位という猛者たちだ。

 この街の住民であれば、名を知らないほうが珍しい。だが、名前を呼ばれた『重震アクエイク』は興味深そうに俺を眺めていた。


「知っているなら話が早い。ちょっと頼みがあってな」


「治療か? ならば、俺ではなく神官に交渉してくれ」


 あえてぶっきらぼうに口を利く。本来の俺であれば、闘技場関係者として、そして剣士として最大の敬意を払うべき存在だが、今はそれどころではない。


 答えを聞いた『重震アクエイク』は、満足そうに頷いた。


「こいつは失礼した。だいぶ腕が立ちそうだし、お前さんがリーダー格かと思ったよ」


 言って、自分自身の右肩を軽く叩く。


「この負傷にも気付いてたようだしな」


「そのように身体のバランスを崩していれば、気付く人間は多いだろう」


「そうか? ……はは、帝都にはまだ面白い奴がいるもんだな。どこの騎士団所属か知らないが、是非とも戦ってみたいもんだ」


 そう言い残すと、彼は俺の隣にいた神官に話しかけた。彼らは住民を守るため転戦しており、その過程で二人とも負傷してしまったらしい。

 『重震アクエイク』は重戦士の完成系と言われるパワー型、『剣弩デュアル・レンジ』は小剣と風変わりなクロスボウを使い分ける異色の中距離型であり、ともにかなりの実力者だ。


 だが、やはり剣闘試合と勝手が違う戦いということで、実力を出し切れていないようだった。


「――分かりました。治療をお引き受けしましょう」


「おお、助かる。ところで……」


 と、いつの間にか話をまとめた『重震アクエイク』がこちらを向いた。


「お前さんはこの神殿の関係者なのか?」


「……いや、ただの通りすがりだ」


「お、おう。そうか……」


 意外な返答だったのか、『重震アクエイク』はしばらく沈黙した後で口を開いた。


「聞きたいんだが、これからどうするつもりだ? 俺たちも延々と戦ってきたが、どうにも終わりが見えない。何か情報を持ってないか?」


 それは、俺だけでなく隣の神官を含めた質問だった。俺は神官と顔を見合わせる。


「……その様子だと、何か知ってるみたいだな」


「ああ。実は――」


 (ゲート)の説明をすると、彼らの顔が引き締まっていく。話し終えると、『重震アクエイク』と『剣弩デュアル・レンジ』は渋い顔をしていた。


「……なるほどな。その(ゲート)を潰さない限り、どれだけ敵を倒してもキリがないわけだ」


 しばらく考えこんでいた『重震アクエイク』は、やがて俺に視線を合わせた。


「潰しに行くなら付き合うぞ」


 隣の『剣弩デュアル・レンジ』もその言葉に頷く。俺は悩んだ後、首を横に振ってみせた。


(ゲート)を叩くためには、群がる敵をかわして術者を倒す必要がある。『重震アクエイク』にはこの神殿の守りを頼みたい」


「つまり、足が遅い奴は足手まといだって?」


「……適材適所だ」


「それなら、俺が――」


 次いで『剣弩デュアル・レンジ』が口を開く。だが、彼に対しても首を横に振らざるを得なかった。


「『剣弩デュアル・レンジ』が速さに優れていることは知っている。だが、クロスボウの弾は有限だ。乱戦には向かないだろう」


「……反論したいところだけど、さっきそれを痛感したところだからね」


 不承不承、とった感じで『剣弩デュアル・レンジ』が頷く。


「だが、この神殿で彼らとともに戦うのであれば、二人の実力をより発揮できるはずだ」


 神殿の正門近くにいる神官や警備兵を指し示すと、彼らは複雑な表情を浮かべて顔を見合わせていた。


「だが、お前なら敵軍を突破できるのか?」


「俺も正面突破をするつもりはない。魔法を併用して効率よく進むつもりだ」


「やはり、お前さんは魔法剣士か」


 『重震アクエイク』があまり驚かなかったのは、やはり周囲で揺らめく光のせいだろうか。


「向こうが奇襲をかけてくるなら、こちらも奇襲をかけるまでだ。術者一人を狙うのであれば、そこまで分の悪い賭けではない。……頼めるか?」


 問いかけると、『重震アクエイク』は小さく溜息をついた。そして、出会った時と同じおどけた表情を浮かべる。


「ま、仕方ないな。治療してくれた神殿が狙われてるのに、放っておくのも仁義にもとる」


「そうだね。……ただし、あまり長引くようなら勝手に攻めにいくから、さっさと片付けてくれよ」


「……心得た」


 俺は頷くと、隣の神官に向き直る。


「聞いた通りだ。剣闘士ランキング第三位と第六位であれば、俺以上に戦うことができるだろう。……それではな」


「はい! 騎士殿、ありがとうございました。……貴方にマーキス神のご加護がありますように」


 その言葉に頷きを返すと、俺は存在を知ったばかりの魔法を起動させた。


流星翔ミーティアスラスト


 高速で飛行できるという魔法は、魔導鎧マジックメイルを着込んだ俺の身体をあっさり空中に浮かべた。その効果に感心しながら、俺は目的地を見つめる。


「――行くぞ」


 そして、俺は帝都の空へ飛び立った。



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