二人の英雄 Ⅱ
剣と破砕柱がぶつかり合い、眩い光を放つ。『極光の騎士』と『大破壊』の戦いが始まってから、すでに半刻ほどが過ぎていた。
『再び凄まじい攻防だあぁぁっ! 英雄たちの激闘はなおも続く! 『試合の間』の至るところに激戦の爪痕が刻まれていくうぅぅっ!』
実況者が言うとおり、俺と『大破壊』の戦いの余波は、『試合の間』をボロボロにしていた。石床には無数の罅が入り、陥没している箇所も一つや二つではない。
そして、そこで戦う俺たちもまた、無数の細かい傷が増えていた。傷自体は浅いものばかりだが、『大破壊』は身体の至るところから出血していたし、『極光の騎士』の魔導鎧もそこかしこがへしゃげている。鎧には自己修復機能があるが、完全に直るまでには時間がかかるだろう。
そんな状態ではあるが、お互い動きに支障はない。陥没した石床に足を取られないよう気を付けながら、俺は『大破壊』と技の応酬を繰り広げていた。
「ぬぉぉっ!」
「――っ!」
相手の攻撃をかわし、受け止め、そして反撃を叩き込む。俺は魔法剣を併用しているが、『大破壊』には『闘気』という魔法めいた力がある。
通常攻撃に混ぜ込まれた闘気を俺が魔法剣で相殺すれば、フェイントの陰で放った魔法剣を『大破壊』が闘気でかき消す。
さすがに戦いが長引いてきたこともあり、向こうも決着を見据えているのだろう。俺と『大破壊』は、両者とも強力な技を連発していた。
次はどんな攻撃を仕掛けてくるだろうか。警戒しながら『大破壊』の挙動を見ていた俺は、思わず目を見開いた。
「あれは――」
尋常ならざる破壊力を誇る『大破壊』の逸話は数限りなくあるが、その中でも特に有名な技が『重爆鎚』だ。
堅固なことで有名だった巨城の城門を、一撃で木端微塵にしたという逸話だが、恐ろしいのはそれが実話だということだ。
そして、『大破壊』はその重爆鎚の予備動作に入っていた。闘気の輝きが増し、目が眩むような赤い光が破砕柱に集まる。
闘気が集まりきる前に止めたいところだが、あれはフェイントであり、迂闊に近づけば返り討ちに遭う可能性もある。一瞬悩んだ後、俺は魔法を起動させた。
『威力増幅起動』
より強力な攻撃を放つための魔法を起動すると、立て続けに本命の魔法剣を起動させる。直後、俺の持つ剣は黒い輝きに覆われていた。その輝きは、『大破壊』の闘気に勝るとも劣らないものだ。改変された物理法則が剣を揺らし、剣を覆う魔力が荒れ狂う。
そして直後。俺と『大破壊』の発声が重なった。
「ぬぉぉぉぉっ!」
「超重圧壊!」
赤い闘気に包まれた破砕柱と、黒い魔力に後押しされた剣が激突し、轟音とともに石床が砕け散る。『大破壊』に押し負けなかったのは、凄まじい重力が俺を後押ししていたからだろう。
超重圧壊によって『大破壊』にも凶悪な負荷がかかっているはずだが、彼が吹き飛ぶ様子はない。
その代わりと言うべきか、『大破壊』の真後ろにある結界が、限界を示すように不規則に明滅していた。
お互いの技の威力で、俺と『大破壊』はじりじりと後ろに押される。武器を打ち合わせていた俺と『大破壊』の間には、いつしか十メテルほどの距離が生じていた。
『こ、これはまさかの展開! あの重爆鎚を、『極光の騎士』が正面から受け止めたぁぁぁっ!』
実況者は興奮した様子で叫ぶ。『大破壊』の代名詞とも言える重爆鎚は、個人が放つことのできる最強の攻撃とさえ言われていたのだから、それも無理はない。
そんな実況を聞き流すと、俺は『大破壊』目がけて走り出した。まだ技の余波で大気が荒れ狂っているが、悠長に構えるわけにはいかない。むしろ、大技を繰り出した直後の隙を突くつもりだった。
「っ!?」
だが、そう考えたのは俺だけではなかった。同じタイミングで『大破壊』も前に出ていたのだ。彼が破砕柱を振りかぶり、俺は剣を突き出す。二人の大技が激突したまさにその場所で、俺たちは再び得物をぶつけ合った。
『うおおおっ!? あれだけの大技を繰り出しておきながら、直後に激しく打ち合っているぅぅ!? 人類が到達できる最高の破壊力すらも、両者にとっては相手を倒すための前座に過ぎないのかぁぁぁっ!』
膨大な質量を持つ破砕柱が縦横無尽に振るわれ、様々な角度から俺を打ち据えようと迫ってくる。動きを読んで、正面から剣を合わせないようにしているが、それは非常に神経を使う作業であり、頭が今にも悲鳴を上げそうだった。
それでも、ここで止まるわけにはいかない。俺は『大破壊』の動きを予測し、その猛攻を捌き続けた。だが――。
ゴッ、という音と共に視界が揺れる。何が起きたのかも分からぬ間に、俺は試合の間から吹き飛ばされていた。眩い光が迸ったのは結界に弾かれた証拠だろうか。
気が付けば、俺は試合の間に倒れていた。朦朧とした意識の中、俺は半ば無意識に魔法を起動する。
『千の剣……起……動』
直後、広範囲に光の剣が降り注ぎ、試合の間を光が埋め尽くす。数少ない広範囲魔法だ。気配を捉える余裕すらなかったが、追撃を狙っていたであろう『大破壊』への足止めだった。
光の雨が降りしきる中、俺はゆっくりと身を起こす。全身が痛むが、特に左腕が重傷のようだった。動かそうとしても動かないどころか、ズキリと激痛が走る。魔導鎧の防御力がなければ、おそらく死んでいただろう。
『治癒起動。左腕に魔力を集中』
俺の指示通り、魔導鎧は回復魔法を起動する。おかげで、なんとか左腕は動くようになったが、元通りとはいかないし、全身を襲う痛みはそのままだ。
もともと、この魔導鎧は回復魔法が充実しているわけではない。それ以外の能力に重きを置いているのだから、それは当然のことだ。
俺は痛みを堪えて立ち上がると、近くに落ちている剣を拾い上げた。そして、さっき受けた攻撃を分析する。あれはつまり――。
「……筋肉の緊張によるフェイントと、素手での打撃、か」
ぼそりと呟く。俺が相手の行動を予測する材料の一つに、筋肉の緊張がある。剣を振るっている腕の緊張状態が弱かったり、別の箇所が極度に緊張している場合は、フェイントもしくは他に狙っている攻撃がある、という感じだ。それを逆手に取られたのだろう。
しかも、俺を攻撃したのは得物である破砕柱ではなく、おそらく無手での拳撃だ。『大破壊』の格闘技にも気を付けていたつもりだったが、筋肉のフェイントと併せて使われたことで、わずかに反応が遅れてしまったのだ。
そう結論付けると、俺は『大破壊』に視線をやった。ちょうど千の剣の攻撃が止んだタイミングであり、こちらを見ていた『大破壊』と視線が合う。
「お前に満足のいく一撃を入れたのは初めてだ」
「……喜んでもらえて何よりだ」
ダメージなど受けていないかのように、ふてぶてしく答える。すると、『大破壊』は右の拳を俺に見せつけた。その手は血塗れになっており、魔導鎧を殴りつけた時のものだと容易に知れた。
「久しぶりに痛みを感じるが、その価値はあった」
「闘気を纏わせて、素手で鎧を殴ったか。よく拳が砕けなかったものだ」
俺は心底感心する。破壊力を増す闘気と、魔導鎧の強固な防御力に挟まれたのだ。並の肉体であれば、腕ごと潰れていてもおかしくない。
『おおおおっ!? 吹き飛んだ『極光の騎士』だけでなく、『大破壊』も拳が血塗れになっているぅぅっ!? あの一瞬の攻防で何があったと言うのかぁぁぁっ!』
彼の動作で気付いたのだろう、実況者が驚きの声を上げるが、俺たちは構わず言葉を続ける。
「それにしても、あのフェイントが有効だったとはな。試してみるものだ」
「次はない、とだけ言っておこう」
それは強がりではない。『大破壊』がそういう行動を取る可能性があると分かっていれば、同じ手に引っ掛かることはない。向こうもそれが分かっているからこそ、拳での奇襲という奇手を交えて使用したのだろう。
「俺が知る限り、あのフェイントに引っ掛かるのはお前と『魔鏡』だけだ」
「……だろうな」
素直に同意する。『魔鏡』はランク四位の剣闘士であり、その名の通りカウンター攻撃を主体としている。特に対戦相手の行動予測に優れていることから、俺と重なる部分も多かった。さっきのフェイントも、彼との対戦で編み出したものかもしれない。
『大破壊』自身は、相手の行動予測をするタイプではない。彼の反応速度と身体能力があれば、先読みをせずとも対応できるからだ。
「あれは非力な者が修める技術であり、『魔鏡』が例外だと考えていたが……認識を改めるべきかもしれんな」
その言葉を聞いて、俺は兜の下で苦笑を浮かべる。俺が非力であることは間違いない。非力だからこそ、磨かざるを得なかった技術だ。
「それでは、もう少し試してみるか?」
言って、青白く輝く剣を突き付ける。火がついたような痛みが全身を苛むが、ここで退くわけにはいかなかった。
「……当然だ」
獰猛な笑みを浮かべると、『大破壊』は血塗れの手で破砕柱を構えた。そして、無数に繰り返されてきた打ち合いが再開される。
『おおっとぉぉっ! ここでまたもや嵐のような攻防が繰り広げられる! 満身創痍にもかかわらず、二人の戦いは止むことがないっ!』
実況を背に、俺たちは幾度も得物をぶつけ合う。負傷や疲労によって鈍っている面はあるものの、それはお互いに言えることだ。
横薙ぎに振るわれた破砕柱をかいくぐり、剣で斬り上げる。『大破壊』は即座に破砕柱を引き戻して剣を弾くと、その足で蹴撃を繰り出してくる。
斜めに構えた腕で蹴撃を受け流すと、俺は体勢が崩れた『大破壊』に剣を振り下ろした。その斬撃を、『大破壊』は闘気を込めた拳で打ち払う。
攻撃を仕掛ければ受け止められ、攻撃を仕掛けられれば受け止める。その攻防を繰り返すうち、まるで剣舞でも行っているかのような錯覚に囚われる。
一手先も分からない状況で、予定調和のように得物が打ち合わされていく。それは剣闘の醍醐味の一つだ。この瞬間こそが、剣闘士としての俺が受け取る最高の報酬だといってもいいだろう。
「――っ」
だが同時に、剣闘試合は勝敗を決するものでもある。そして、『極光の騎士』は敗けるわけにはいかない。
このまま続けていると、先に体力が尽きるのは俺だろう。その前に『大破壊』を倒す必要があった。
破砕柱を強く弾いた俺は、バックステップで『大破壊』と距離を取る。試合を決めるための大技を使うためだ。
対する『大破壊』もそれを察したのだろう。距離を詰めることなく、その場で破砕柱を握り直す。何も言葉は交わしていないが、俺たちの間で緊張感が高まっていく。
『二人が距離を取ったぁぁっ! そして両者の間で高まる緊張感! この試合の勝敗を決する大技が激突するのかぁぁぁっ!?』
『大破壊』の構えは、重爆鎚のそれによく似ていた。だが、集まっている闘気が尋常ではない。赤く輝く闘気に覆われて、もはや『大破壊』の姿は見えない。ただただ、荒れ狂う力が渦巻いている。
次撃で繰り出される破壊力が、重爆鎚を遥かに凌いでいるだろうことは想像に難くなかった。
『威力増幅起動』
対して、俺も魔法剣を起動する。すると、この試合中は静かにするよう依頼していたクリフが念話を飛ばしてきた。
『主人、肉体の損傷が著しいようです。今の状態で威力増幅した魔法剣を使うと、主人の身体がもたない可能性があります』
魔導鎧がボロボロになっても黙っていたクリフが、敢えて念話を飛ばしてきたのだ。俺の身体は、自分で思っている以上に危険な状態なのだろう。
『……中途半端な魔法じゃ、『大破壊』の大技に押し負ける。あの攻撃をまともに浴びれば、どのみち死ぬだろうからな』
だから、それ以外には考えられなかった。クリフに念話を返すと、俺は最後の一手となる魔法剣を起動した。
『終端の剣』
発動と同時に、剣を中心として魔力が膨れ上がった。実体を持たないはずの魔力が気流を生み出し、破損した試合の間の破片が転がっていく。
破壊力は甚大だが、荒れ狂う魔力の制御が難しいため、滅多に使わない諸刃の剣。それが終端の剣だった。
やがて『大破壊』の闘気に対抗するように、紫闇色の魔力が俺を覆った。魔法が完成したことを確認すると、俺は静かに剣を構える。
向こうも準備が整ったのだろう。『大破壊』も破砕柱を振り上げるところだった。
そして、俺たちは同時に石床を蹴った。
「ガアアアァァァ!」
獣のような咆哮を上げて、『大破壊』は破砕柱を振り下ろした。俺もまた、荒れ狂う魔力を束ねて剣を繰り出す。
「おおおおぉぉっ!」
刹那、世界の崩壊を思わせる破壊音が轟き、凄まじい衝撃が俺たちを襲った。終端の剣の魔力に補助されていなければ、今頃俺も吹き飛ばされていただろう。
視界の上方で光が弾けたのは、結界が破れたためだろうか。客席がある側面や、地下設備がある底面に比べると、上方の結界は少し強度を落としているため、そこから決壊した可能性があった。
だが、これ以上結界を気にしている暇はない。闘気に包まれた『大破壊』と、終端の剣の魔力に覆われた俺のせめぎ合いは続いており、少しでも気を抜いたほうが押し負ける。そんな状況だった。
「くっ……?」
にもかかわらず、俺の剣と『大破壊』の破砕柱は直接触れ合ってすらいない。それぞれの武器を覆った光が力場を形成しており、その光同士が激突しているのだ。
圧倒的な、それでいて曖昧な手応え。今まで経験したことがない感覚に、俺は必死で同調しようとする。見れば『大破壊』も戸惑っているのか、その眉間には訝しむような皺が刻まれていた。
あの重爆鎚を上回る破壊力を備えていると考えれば、それも無理はない。通常であれば、こんなせめぎ合いになることもなく、対象が消し飛んでしまうのだから、この不思議な感覚は未経験なのだろう。
ならば、この感覚を先に掴んだほうが勝つ。鍔迫り合いのさなか、俺は全力で未知の手応えを分析し、あやふやな感覚すらも含めて自らの腕の延長線上だと規定していく。
「――っ!」
そして。拮抗していたエネルギーのぶつかり合いを、俺は意図的に揺さぶった。
「ぬっ!?」
予想外の動きだったのだろう、『大破壊』は驚きの声をもらした。
さらに、エネルギー量はそのままで、僅かに剣をずらす。すると、膨大な破壊力を宿した破砕柱は少しずつ下向きに逸れていった。その様子に目を見開きながらも、『大破壊』は力を込め直す。
だが、それが俺の狙いだった。力を込めたタイミングに合わせて、『大破壊』の力のベクトルをずらす。闘気に後押しされた破砕柱は剣の上を滑り、今度は上方へと逸れる。
「な――」
『大破壊』が驚愕の表情を浮かべた直後、赤い輝きが上空へ向かって放たれた。極大の光線のようなそれは、再生していた結界を再び突き破り、空の彼方へと消え去っていく。
「うおおおおっ!」
『大破壊』の攻撃を弾いた俺は、間髪を容れず輝く剣身を振り下ろした。
「ぬぅっ……!」
『大破壊』は咄嗟に破砕柱を手放し、腕に闘気を集中させることで、攻撃に耐えようとしたようだった。その反応はさすがだが、『大破壊』はすでに闘気の大半を失っている。終端の剣の圧力にはもはや耐えられなかった。
『うおおおおっ! 『大破壊』が吹きとんだぁぁぁっ! 人知の域を超えた奥義のぶつかり合いは、『極光の騎士』に軍配が上がったぁぁぁっ!』
実況の言葉通り、吹き飛んだ『大破壊』は凄まじい勢いで壁に激突すると、眩い光と共に弾かれた。展開されていた結界に接触したのだ。
どう考えても戦闘不能に陥っていそうだが、俺はまだ『大破壊』を注視していた。人類の域を超えた存在である彼ならば、まだ戦えるかもしれない。そう警戒していたのだ。
やがてその予想を裏付けるかのように、倒れていた『大破壊』はゆらりと上半身を起こした。だが、その様子から戦意は感じられず、それ以上立ち上がる様子もない。
「終わったか……?」
思わず呟く。俺の言葉が聞こえるはずはないが、『大破壊』は静かに頷いたように見えた。
『うぉぉぉっとぉぉぉぉっ! さすがの『大破壊』も立ち上がれない様子だぁぁぁ! 『極光の騎士』、ランキング一位の座を守り通したぁぁぁっ!』
実況の声に一拍遅れて、地を揺るがすような大歓声が上がる。『極光の騎士』を褒め称える声もあれば、『大破壊』の戦いぶりを賞賛するものもあった。
彼らの声を背に受けながら、俺は『大破壊』へ向かって歩き出す。声を交わせる距離まで近付くと、『大破壊』は小さく笑った。
「見事だった。……通常の攻撃ならともかく、あの荒れ狂う力を制御して攻撃を弾くとはな」
「分の悪い賭けだったが……上手くいったようだ」
失敗すれば、逆に俺が押し負けるところだったからな。力場の制御は初めての経験だったが、攻撃を受け流す方法は身体が覚えている。それが今回の勝因だろう。
「分が悪かろうと、この試合の勝者はお前だ。誇るがいい」
「ああ、そのつもりだ」
頷くと、『大破壊』を立ち上がらせようと手を差し出す。だが、彼は首を横に振った。
「……立ち上がるには、もう少し時間がかかる。俺のことは気にせず、勝者は勝者らしく振る舞ってこい」
彼らしからぬ返答に驚きながらも、俺は平静を保つ。『大破壊』が受けたダメージは大きいようだった。
「……そうか」
俺は『大破壊』に背を向けた。これ以上彼に構うことは失礼というものだろう。それに、試合の間の中央で称賛を受けるのは、勝者の特権であり、義務でもある。
『ついに……! ついに頂上決戦に幕が下りたぁぁぁ! 世界最強を決める英雄たちの戦いは、『極光の騎士』に――え?』
と、実況者の声が不意に止まった。中央に向かって歩き始めていた俺は、思わず『大破壊』のほうを振り返る。彼が戦意を取り戻したのかと思ったのだ。
だが、彼の様子に変化はない。相変わらず、上半身だけを起こして空を見上げている。そう認識したところで、俺は首を傾げた。
「……空を?」
胸騒ぎを覚えて、俺は『大破壊』の視線の先を追った。その先に広がるのは、青空と、僅かばかりの雲。そして――。
『あれは……ド、竜!?』
驚愕に満ちた実況者の声が、闘技場に響き渡った。