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妨害 Ⅵ

「あと五日か……あっという間だったな」


 闘技場の完成が目前に迫ってきた俺は、家で考えをまとめていた。


 建設は順調に進んでおり、ギル親方が倒れでもしない限り、予定通りに完成するだろう。その後は初興行に向けて万事を調整することになる。


 訓練場の関係で、剣闘士はすでに新しい闘技場に馴染みつつあるが、従業員の多くは建設現場内に踏み込んだことはないはずだ。

 完成後は早々に新しい闘技場に入ってもらい、興行に支障がないよう馴染んでもらう必要があった。


 そして、場所が変わったことで流通関係にもかなり変更があった。新しい取引先として急浮上してきたのは、三十七街区を束ねているセイナーグさんのマルガ商会と、ハーフエルフのヴェイナードが率いるユミル商会だろうか。


 特に食料品などの消耗品については、取引先の大幅な変更もあり、予定通りに品物が搬入されているかのチェックが必要だろう。

 交通網については、巨人騒動の関係で、帝国が大通りを中心に整備を行うという嬉しい誤算があったため、あまり苦労することなく目的を達成することができた。


 公共エリアにちょっかいをかけようとすると、帝国の許可を得るのに手間取ることが予想されていたため、これは本当にありがたい話だった。


 ひょっとすると、うちの剣闘士にして皇子でもあるモンドールが何かしたのかもしれないが……その辺りは深く聞かないことにしている。


「……あっちも目立った動きはないようだしな」


 脳裏に浮かぶのは、ウェルヌス闘技場の支配人の顔だ。建設を妨害していた奴らとの関係性は証明されていないが、彼が黒幕だと俺は確信していた。


 捕らえた二人については、ウィラン男爵がだいぶ粘って尋問をしたようだが、白灰豹アッシュパンサーの入手経路や操る方法については本人たちも曖昧だったらしい。

 せめてリーダー格の男を捕まえていれば話は違ったのだろうが、現行犯でもない今となっては、彼を捕らえるわけにもいかない。


 ただ、剣闘士を建設現場に常駐させたおかげで、妨害行為はほとんど見られなくなっていた。彼らの一味と見られる不審な人間は今も見かけるそうだが、遠巻きに見ているだけだと言う。


 現場の入口付近にたむろしたことが何度かあったらしいが、通りがかった剣闘士に凄まれると、顔を青くして逃げ出したらしい。


 剣闘士には大体の事情は説明しており、積極的に警備をする必要はないと伝えている。ただ、訓練場の出入りの際に揉めているところを目にすれば、自分から首を突っ込みに行く人間も多く、それが助けになっているようだった。


「さて、今日はどうするか……」


 今日はたまたま、差し迫った用事がない日だ。明日以降は予定が詰まっていることを考えると、奇跡的に空いた日であり、最後の休日でもある。

 レティシャにもらった疲労回復の香料も残り少ないが、今日はその香りの中でゆっくりするべきだろうか。


 そう考えていた時だった。ノッカーの音が家に響く。今日は予定を入れていなかったはずだが……。自分の記憶を探りながら玄関へと向かう。

 扉を開けると、そこに立っていたのは幼馴染の姿だった。


「おはよう、ミレウス。元気そうでよかったわ」


「ヴィーか。どうした?」


 今までは、ほぼ毎日顔を合わせていたヴィンフリーデだが、闘技場が建設中の今は数日に一度くらいの頻度になっている。打ち合わせ事項は多いが、それぞれ別行動で仕事を片付けているからだ。


「ほら、今日が最後の休日だって言っていたでしょう?」


 そう言って、手に持っていた籠を差し出す。そこから漂ってくる甘い香りからすると――。


「カスタードパイよ。ミレウスの好みに合わせて、果物を多めにしてみたわ」


 その言葉を聞いて、即座に籠を受け取る。ヴィンフリーデが作る料理や菓子は、絶品と言っていいレベルだ。今は支配人秘書をやってくれているが、本当は店でも出したほうがいいんじゃないかと思うほどで、断る理由はない。


「ありがとう、楽しみだ」


 籠に掛けられた布を取り去って中身を確認する。小ぶりではあるものの、パイが丸ごと一つ入っており、バターの香りが鼻腔をくすぐった。


「ちょっと多かったかしら?」


「いや、今日中に食べ尽くすと思う。……ん?」


 と、そんな会話をしていた俺は、ふと視線を感じて周囲を窺う。すると、十メテルほど離れた場所に見知った姿を見つけた。


「ミレウス、どうし――あら? シンシアちゃんじゃない」


 ヴィンフリーデもその姿に気付き、笑顔で手を振る。すると、シンシアはおずおずとこちらへやって来た。その胸元では、もはやトレードマークと化した感のあるノアがピィピィと賑やかに鳴いていた。


「こんにちは、シンシアちゃん」


「ヴィンフリーデさん、こんにちは。ミレウスさんも、お元気そうでよかったです」


「新しい闘技場はこれからが本番だし、体調を崩すわけにはいかないからな」


 そう答えると、シンシアはクスッと笑いを漏らした。


「ミレウスさんらしいです。ところで、その……」


 彼女は何かを言いかけて口籠もる。なんだか表情に翳りがある気がして、俺は首を傾げた。


「どうした?」


「な、なんでもないです!」


 シンシアは慌てた様子で首を振った。そして、俺とヴィンフリーデを交互に見比べると、遠慮がちに口を開く。


「ここって、ミレウスさんのお家ですよね……?」


「まあ……一応はそうだな」


 言葉の歯切れが悪いのは、本来の権利者(ヴィンフリーデ)が隣にいるからだ。だが、当の彼女は平然としていた。


「間違いなくミレウスの家よ。シンシアちゃん、よくここが分かったわね」


「この前、『極光の騎士(ノーザンライト)』さんとお話させてもらったのが、ここでしたから……」


「あら、そうだったの?」


 尋ねるような視線が俺に向けられる。黙って頷くと、ヴィンフリーデは納得した様子だった。そして、そのヴィンフリーデを眺めていたシンシアは、戸惑ったように口を開く。


「どうして、ヴィンフリーデさんがミレウスさんのお家に……あ、お仕事ですか?」


「いや、今日はそういうわけじゃないが……」


 答えると、シンシアの表情が強張る。そして手元のノアに視線を向けた後、恐る恐るこちらに戻した。


「ひょっとして、お二人はこ……」


「こ?」


 シンシアがなかなか次の言葉を口にしないため、思わず訊き返す。だが、彼女から続きが語られることはなかった。


「……あ」


 そして、代わりにヴィンフリーデが声を上げる。どうしたのかと注目していると、彼女は楽しそうな笑みを浮かべた。


「シンシアちゃん、ひょっとして私とミレウスを恋人同士だと思ってない?」


「……っ!」


 シンシアは無言で驚く。そのリアクションからすると当たりみたいだな。


「どうしてそうなるんだ……」


「まあ、仕事抜きで異性の家を訪ねるとなれば、親密な関係だと考える人は多いわね」


 俺の呟きをヴィンフリーデが拾う。


「でも、俺とヴィーだぞ?」


「ミレウス、シンシアちゃんに私たちの関係を話したことある?」


「いや……わざわざ説明することでもないと思って」


「それはそうだけど……だから誤解されちゃうのよ」


 そんなやり取りを続ける俺たちを、シンシアとノアが無言で見つめている。


「ピィ!」


 と思ったら、ノアが鳴き声を上げた。話に混ぜろとでも言っているのだろうか。それに答えるように、ヴィンフリーデが口を開いた。


「実はね、私とミレウスは幼馴染なの」


「幼馴染、ですか?」


 シンシアは意外そうに訊き返す。


「だから、シンシアちゃんが考えるようなことはないわ」


「そう、ですか……」


 いまいち納得していないようで、彼女は小首を傾げた。まあ、幼馴染の間に恋愛感情が生まれないわけじゃないからな。それこそ、ヴィンフリーデとユーゼフがいい例だ。


 とは言え、シンシアの強張っていた表情は、少し緩んできたように思えた。それを見た俺は、ヴィンフリーデに合わせて情報を追加する。


「それどころか、家族に近いな。この家だって本当はヴィーのものだし」


「え……?」


 シンシアは再び固まった。表情はともかく、ノアを抱く手に力が籠もっている。


「それって……つまり、お二人は一緒に暮らして――」


 シンシアの表情が目まぐるしく変わる。そして俺の隣では、ヴィンフリーデが大きく溜息をついた。


「……ミレウスって、たまに抜けてるわよね」


 そう言ってシンシアに向き直る。いったい何を考えたのか、シンシアは大きく動揺しているようだった。


「私たちがこの家で一緒に暮らしていたのは、三歳から十歳くらいまでの間よ。その後は私がこの街を離れていたし、帰ってきてからも別の所に住んでいるもの」


「三歳……本当に、ご家族なんですね」


「手のかかる弟みたいなものよ」


 ヴィンフリーデは微笑む。その言葉を聞いた俺は、一つだけ主張することにした。


「弟か兄かは、今だに決着がついてないからな」


「何を言ってるのよ、どう見ても私が姉でしょう?」


「ヴィンフリーデは若く見えるからな。ここはやっぱり俺だろう」


「持ち上げても駄目よ。ここ数年、ミレウスは顔の造りが変わっていないもの。明らかにミレウスのほうが若く見えるわ」


「姉になりたいからって、無茶な主張を……」


「妹が欲しいからって、無茶な主張を……」


 ヴィンフリーデは俺の口調を真似る。三歳の頃から繰り返されてきた議論は、今回も噛み合わないようだった。


 と、そんな時だった。小さな笑い声が耳に入ってくる。声の主であるシンシアは、面白そうにこちらを見ていた。


「あ、ごめんなさい……本当に姉弟みたいだな、って」


 言いながらも、まだ笑いが収まらない様子だった。だが、彼女の表情からは固さが取れている。そのことにほっとすると、俺は話題を振ることにした。


「ところで、シンシアは何か用事があったのか?」


「その、ちょっと闘技場のことでお話が……」


「分かった。……立ち話もなんだし、家に入るか?」


「えっと……」


 シンシアが悩んでいると、先にヴィンフリーデが口を開いた。


「――私は失礼するわ。今日は久しぶりのデートだから」


「え……?」


 ヴィンフリーデの言葉を理解するにつれ、シンシアの表情が驚きから戸惑い、理解へと変わっていく。というか、言ってよかったのか? 


「そうか。ヴィンフリーデ、差し入れをありがとう」


 まあ、シンシアなら人に吹聴することもないだろうし、相手さえ伝えなければ問題ないという判断だろう。

 そう結論付けると、ヴィンフリーデに礼を言う。すると、彼女は思い出したように俺が持っている籠を指差した。


「そうそう、シンシアちゃんがよければ、そのパイをミレウスと一緒に食べてもらえない?」


 シンシアの視線が籠へ向く。その視線に押されるように、俺は覆いの布を外した。


「あ、これって……」


 姿を現したカスタードパイに、シンシアの目が釘付けになる。……そう言えば、彼女は甘いものが好きだったな。


「もともと、これを届けに来たのよ。一つ作るのも二つ作るのも一緒だったから」


 つまり、本命のパイはユーゼフと一緒に食べるのだろう。俺にはお裾分けというわけだ。そして、ヴィンフリーデはシンシアの耳元に口を寄せる。


「――」


「ふぇっ!?」


 ヴィンフリーデが何を言ったのかは聞こえなかったが、シンシアの変な声はしっかり聞こえてくる。何を言われたのか、顔が真っ赤だ。


「ヴィンフリーデ、何を言ったのか知らないが、シンシアをいじめるなよ」


「ふふ、そんなことをするわけないじゃない。……それじゃ、私は行くわね。ミレウス、シンシアちゃん、またね」


 別れの挨拶を交わすと、彼女は身を翻す。


「ピッ!」


 その背中に挨拶をするように、ノアが鳴き声を上げた。




 ◆◆◆




「あの、本当にすみません。突然お邪魔したのに、素敵なお菓子まで……」


「別にいいさ。一人で全部食べられるか不安だったんだ」


 リビングに通されたシンシアは、目の前に置かれたカスタードパイを遠慮がちに見つめていた。

 少しずつ身を乗り出しているように見えるが……そこは何も言うまい。


「せっかくだし、温かいうちに食べよう」


「はい!」


「ピ!」


 シンシアとノアが揃って声を上げる。……ノアは食べられるのか? と思っていたら、別に食べるつもりはないらしい。シンシアの声に合わせただけのようだ。本当に賢い雛だな。


 一口目を口に入れるなり、シンシアは幸せそうに微笑んだ。


「美味しいです……!」


「ああ、さすがヴィーだな」


 パイ生地とカスタードクリーム、そして果物が一体となり、口の中でハーモニーを奏でる。わずかに香ばしいのは、薄く塗られたカラメルソースだろうか。ともすればバラバラの存在になりがちな果物も、見事にまとめ上げられている。

 カスタードパイと紅茶を交互に口にすると、無限に食べられそうな気がした。


「ミレウスさん、ご予定は大丈夫でしたか?」


「ああ。今日はもともと休日だったし、のんびりする予定だったからな」


「よかったです」


「あ、ノアは何か食べるか? せめて水でも出そうか?」


「ピピッ! ピッ!」


「あ! ノアちゃん、そっちに行くと羽にクリームが……」


「ピィィ……」


「あー、手遅れだったか。ノア、そんなに落ち込むなよ。拭いてやるから」


「ピッ!」


 そんなやり取りをしているうちに、いつの間にか皿のカスタードパイはなくなっていた。見れば、シンシアのほうも残りはわずかだ。となれば……。


「パイはまだ残っているが、食べるか? 少なくとも、俺はもう一切れ食べるつもりだ」


「……!」


「ピィピィ!」


 主の代わりとでも言うように、ノアが元気に返事をした。シンシアは言葉こそ発しなかったものの、期待と申し訳なさが入り混じった複雑な表情を浮かべている。


「ほら、置くぞ」


 残りのカスタードパイを切り分けると、勝手にシンシアの皿に追加する。人によっては体型を気にしたり、容量オーバーだったりするところだが、シンシアがそうじゃないことは知っている。

 なんせ、支配人室でヴィンフリーデのパイやタルト、ケーキをたくさん食べてるところを見ているからな。


「あ、あの……!」


 シンシアが驚いたり喜んだりしている間に、俺は向かいのソファに腰を下ろす。


「……ありがとうございます」


 少し恥ずかしそうに、だが嬉しそうに礼を言うと、シンシアは二切れ目のパイに手を出した。俺もそうだが、食べる速度は全然落ちないな。

 それなりに会話もしているのだが、どうしてもメインはこっちになってしまう。


 小ぶりとは言え、丸ごと一つあったカスタードパイは、半刻と経たないうちに食べ尽くされていた。


「美味しかったです……! ミレウスさん、ありがとうございました」


「どういたしまして。……まあ、俺は切り分けることしかしてないが」


 口の中に残る余韻を楽しんでいた俺は、ふと用件を忘れていたことに気付いた。


「そう言えば、闘技場について話があるんだったか?」


「は、はい……!」


 話を切り出すと、シンシアは背筋を伸ばして座り直した。


「新しい闘技場の、最初の興行なんですけど……その、私も救護神官として参加させてもらいたくて」


「それは構わないが……どうかしたのか?」


 シンシアは救護神官として定期的に闘技場うちに来てくれるが、興行のたびに、というわけではない。順番からすると、新闘技場の初興行日は非番であり、彼女はお客として『極光の騎士(ノーザンライト)』の試合を観戦する予定だったはずだが……。


「実は……神託があったんです」


「神託……?」


 俺は顔を引き締めた。今までの俺なら、一笑に付していたかもしれない言葉だが、巨人騒動の一件では、彼女の神託に救われたと言ってもいい。それを考えると、真面目に聞かないわけにはいかなかった。


「いつも通り、断片的なイメージしかないんですけど……」


 シンシアは目を閉じると、静かに口を開く。


「たくさんの人が、興奮して盛り上がっている場所。そして、その人たちを襲う、強大で圧倒的な何か。分かっているのは、それだけです」


 その言葉を聞いて、俺は少しほっとする。こう言ってはなんだが、その条件に当てはまる施設は、帝都だけでも無数にある。たしかにうちの闘技場も候補に挙がるだろうが、そこまで深刻ではないはずだ。

 ただ、災厄の規模によっては、不本意だが『極光の騎士(ノーザンライト)』として動く必要があるかもしれないからな。できれば避けたいが、今さらこの街を見殺しにしたくもない。


 そう考えていた俺だったが、続くシンシアの言葉は衝撃的なものだった。


「あの、それでどうしても気になって、新しい闘技場にお邪魔させてもらったんです」


「へえ……よく入れたな」


 シンシアは第二十八闘技場の関係者ではあるが、建設現場に頻繁に顔を出しているわけではない。妨害行為が続いた影響で、外部の人間の出入りを警戒しているため、普通は新闘技場の建設現場には入れないはずだった。


「この前、建設現場で白灰豹アッシュパンサーと戦った時に、私の顔を覚えてくれた人が何人かいたんです。それに、通りがかった剣闘士さんも私が関係者だって言ってくれて……」


 そんなことがあったのか。さすがはシンシアと言うべきだろうか。


「それで、客席を遠くから見せてもらったんですけど……そっくりでした」


 その言葉に、心臓がドクリと跳ねる。湧き上がる不安感を抑え込みながら、俺は努めて冷静に言葉を返した。


「神託で受け取った光景とそっくりだった、ということか?」


「はい。少なくとも、闘技場は一緒です。いつ災厄が訪れるかは分かりませんけど、あれだけ盛り上がっているということは、興行初日の可能性が高い気がして……」


 その言葉に思わず黙り込む。どうして第二十八闘技場なのか。強大で圧倒的なものとは何か。疑問はいくらでもあるが、シンシアの神託から読み解くことは非常に難しそうだった。


「それで、初日の興行に救護神官として参加しようとしてくれていたのか」


「はい、私にできることがあれば、と思って……」


「でも、当日は『極光の騎士(ノーザンライト)』の試合を観る予定だっただろう? 客席だとしても、シンシアが闘技場内にいてくれれば、充分心強いが」


「それだと、もし事件が起きた時に、身動きが取れない気がして……」


「たしかに、観客が恐慌状態に陥ってしまえば、まともに動くことはできないか」


 その点、救護室は動線も考えてあるし、緊急連絡手段も存在する。シンシアの言い分はもっともだった。


「もちろん、神託の解釈を間違えている可能性もありますけど……ミレウスさんがよければ、当日は――」


「ああ、こちらからお願いしたいくらいだ。シンシア、興行初日の救護担当を頼む」


「はい……!」


 シンシアは決心したように頷いた。救護室は余裕のある造りになっているし、担当が一人増えたところで問題はない。

 それどころか、シンシアのおかげで層が厚くなるのだ。マーキス神殿への寄付額は定額だし、第二十八闘技場としてデメリットはなかった。


 そして、俺にできるのは……古代遺跡の結界発生装置関連だろうか。今は、結界の起動や調整をする場合、いちいち地下深くの遺跡まで潜らなければならないのだが、どうやら遠隔操作ができるらしいからな。


 設定が色々面倒だとクリフに言われていたため、新闘技場が本格稼働してからにするつもりだったが、念のため、前倒しで作業をしておこう。


 そう結論付けると、俺はすっかり冷めた紅茶を口に含む。新しい闘技場の完成は、もう目前まで迫っていた。



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