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変異種Ⅲ

【『紅の歌姫(スカーレット・オペラ)』 レティシャ・ルノリア】




 フォルヘイムの外周部に近い、とある建物。そのリビングでは、二人の女性が机に向かい合って魔法談義をしていた。


「ありがとうございます。基礎の違いは分かりましたから、後はなんとかなると思いますわ」


「それならよかったわ。……レティシャさんって、本当に優秀な魔術師なのねぇ」


「いいえ、アリーシャさんのご指導が分かりやすかったからです」


 そう答えると、レティシャは卓上のティーカップに口を付けた。すっかり冷めてしまったハーブティーだが、心を落ち着かせるような香りは健在だ。その香りを楽しんでいると、ふと自分を見つめているアリーシャに気付いた。


「あ、ごめんなさいね。レティシャさんみたいな魅力的な人は久しぶりに見たから、つい……」


 目が合ったアリーシャは、どことなく気まずそうに謝る。だが、それが本音のすべてということはないだろう。彼女は口にしないが、視線の理由には想像がつく。息子ミレウスが連れてきた異性だからだろう。

 自分も昔、もういない母や家族同然の仲間たちに、同じような話でからかわれたことを思い出す。


「アリーシャさんのようなお綺麗な方に、そう言っていただけるなんて光栄ですわ」


「あらあら、気を遣わなくてもいいのよ」


 あっさり謙遜するアリーシャだが、レティシャもお世辞を言ったつもりはない。シルヴィの整った顔立ちは母親似なのだろう。そう納得できる容貌だからだ。エルフの血の影響で、自分と同年代に見えることも原因かもしれない。


「あの子のために、エルフの魔法の習得方法を覚えておきたいなんて……本当にありがとう」


 と、柔らかい微笑みを浮かべたまま、アリーシャの目に真摯な色が灯る。


「いえ……純粋な興味もありましたから」


 ミレウスが魔法剣士の道を選ぶ可能性。古代鎧エンシェントメイルの再起動が上手くいかなかった場合や、彼が自分の力だけで試合の間(リング)に立ちたいと願った場合は、エルフ族の魔法を習得する必要がある。


 だが、ミレウスはいつまでもフォルヘイムにいるわけにはいかない。内心では一刻も早く第二十八闘技場へ帰りたがっているはずだ。そして、帝都に帰ったミレウスが魔法の習得を望んだとしても、またフォルヘイムに来ることは難しいだろう。


「それに、数年前ですけれど、彼に魔法を教えたことがあります。あの時は力になれませんでしたから」


「そう言えばあの子、魔法を教わろうとしたって言っていたわね」


「はい。私だけじゃなくて、いろんな方に師事していたようですわ」


「そう……」


 アリーシャの顔に翳が落ちる。エルフの血でミレウスが苦労したということは、そのまま彼女にとって引け目に繋がるのだろう。だが、やがて意識を切り替えたのか、その顔に微笑みを浮かべた。


「レティシャさんは、ミレウスとの付き合いが長いのね。普段のあの子はどんな感じなの?」


 彼女の瞳には、隠し切れない興味が浮かんでいた。ミレウス本人には聞けていないのだろう。実子より他人のレティシャのほうが尋ねやすいというのも皮肉な話だ。


「そうですね――」


 冷めたハーブティーを片手に、ミレウスの様々なエピソードを紹介していく。こと彼に関する限り、話のタネには事欠かない。一通り話し終えた頃には、窓の外がうっすら暗くなっていた。


「レティシャさん、ありがとう。とっても楽しかったわ。こんな時間まで引き留めてごめんなさいね」


「いいえ、私にとっても楽しい時間でしたから」


 それは社交辞令ではない。他人に彼の話を聞いてもらうことは楽しいし、嬉しいものだ。相手が彼の血縁だと思えば緊張もするが、元冒険者の魔術師という共通点や、母親には見えない容姿のおかげもあって、そこまでガチガチにはなっていない……はずだ。


「でも、よかった。ミレウスの話をしてくれた時のレティシャさんは、本当に楽しそうだったから。そんな表情で語ってもらえるくらいには、いい子に育ったのねぇ」


「いい子……」


 思わず言葉がもれる。帝国最強の剣闘士にして、敏腕支配人でもある彼を『いい子』と呼ぶのはアリーシャくらいのものだろう。その表現におかしさを感じていると、彼女はふっと遠い目をした。


「ただ、だいぶ危険と隣り合わせで生きてきたみたいだから、そこは心配ね。いくら古代鎧エンシェントメイルがあると言っても、今は使えないわけだし……」


 アリーシャは心配そうに呟いた。レティシャにもその気持ちは分かるが、彼女ほど不安を抱くことはない。


「大丈夫です。筋力強化フィジカルブーストさえあれば、彼はどんな危険でも切り抜けられますもの」


「でも、ミレウスは魔法を使えないから……私が少しでも、魔法の手ほどきをしていればよかったわね」


 アリーシャは悔むような顔で手元のティーカップを見つめる。とは言え、ミレウスが預けられたのは三歳の時だ。よっぽどの英才教育でもない限り、その年齢の子供に魔法を教えることはない。


「それも大丈夫ですわ。私が傍にいますから」


 ミレウスが戦い続ける限り、彼の隣にいる理由ができる。そういう意味では、レティシャはミレウスが筋力強化フィジカルブーストの魔法を覚えられなかったことに安堵していた。彼の不幸を喜ぶようで認めたくないが、それもまた自分の心の動きだ。


「そう……」


 その言葉を受けたアリーシャは、不思議と穏やかな視線を向けてきた。どこまで見透かされたのかと、レティシャは少しだけ不安を抱く。


「ありがとう。ミレウスをよろしくね」


 だが、彼女が見せた微笑みは温かさに満ちたものだった。その言葉に、レティシャは思いを新たにして頷いた。


「はい。この身に代えても、決してミレウスは死なせませんわ」


 とは言っても、大抵の場合、守られるのは自分レティシャのほうなのだが。レティシャの言葉を聞いたアリーシャは、困ったように頬に手を当てた。


「駄目よ。ちゃんと二人とも生き残ってね? 置いていかれるのはつらいものよ」


 軽い口調を装っていたが、その目は真剣だ。彼女の過去に何かがあったことは想像に難くないが、それを聞き出すような仲ではない。


「……そうですね」


 昔の記憶を思い出しながら、レティシャは頷く。先に逝った者と、残された者。そのどちらが辛いのか、生きている間は比べようがない。


 と、何かを察したのか、アリーシャが明るい声でレティシャの思考を遮った。


「レティシャさん、今日はありがとう。帝都でミレウスが魔法を覚えたくなったら、その時はよろしくね。……授業料はふんだくってやればいいわ」


「ふふ……じゃあ、彼の財産を半分貰うことにします」


 冗談めかしたアリーシャにつられて、レティシャも軽口を返す。一瞬漂った重い空気が霧散したところで、彼女は腰を上げた。ここは一般家庭の住居だ。あまり長居するわけにはいかない。


「エルフの魔法に限らず、いつでも訪ねてきてね。人間種の魔法も、研究の参考になるから」


「はい。ありがとうございました」


 やがて、二人は玄関で別れの挨拶を交わす。歩き出し、彼らの住居が遠くなった辺りで、レティシャはくるりと後ろを振り向いた。そして、視線の先にある住居を見つめる。


「……ありがとうございました、お義母さま。――なんて。ふふっ、なかなか言えないものねぇ……」


 そう言うことができれば、ミレウスをからかう格好のネタになるのだが……ほぼ初対面の間柄では難しい。それに、どうせなら彼がいる時のほうが面白いだろう。そんなことを考えながら、レティシャは上機嫌で帰途についた。




 ◆◆◆




【支配人 ミレウス・ノア】




「えっとねー、こっちが魔工砲で、そっちは魔物避けの結界発生装置、お兄ちゃんの足下にあるのはお水が湧いてくる桶だよ!」


 魔工研究所のとある一室。魔工部隊が使用するという古代の遺産を前にして、シルヴィは嬉しそうに説明を続けていた。


「水が湧いてくる桶……遠征にはうってつけだな」


「結界装置があれば、変異種を見つけるまで無用な戦闘は避けられますね」


 変異種討伐遠征は二日後だ。それまではのんびりするように、とは実母アリーシャの言であり、俺はセインと軽く試合をしたり、レティシャやシンシアはアリーシャと魔法談義をしたりして過ごしていた。

 だが、古代遺跡と魔工技術に興味を惹かれて止まないレティシャにより、魔工研究所の訪問に至ったのだった。


「これも魔工砲かしら? 大きいわね……」


 シルヴィが『魔工砲』と称したものを、レティシャは興味深そうに覗き込んだ。人の背丈ほどのサイズであり、その質感からすると金属に思える。おそらくかなりの重さを誇るのだろう。


「うん、とっても強いんだよー!」


「ふーん……」


 許可を得て、軽く持ち上げてみる。やはりかなりの重さだ。生身の俺では持ち運ぶことはできても、戦いに使うことはできそうにない。


「運ぶのが大変じゃないか?」


 台車に乗せて運ぶことも考えたが、戦場は森の中だ。まともに進めるとは思えないな。


「ううん、これはマイル君専用だから」


 すると、シルヴィはこともなげに答えた。おそらく一緒に戦うことになる魔工部隊の一人なのだろうが……。


「こんな重い武器を扱えるエルフがいるのか?」


 もし逞しいエルフがいるとしても、ここは対エルフ結界の中だ。まともに使えるとは思えなかった。


「ううん、マイル君は竜人だもん」


「竜人?」


「え……?」


 予想外の種族名に俺とレティシャが驚きの声を上げる。次いでこの研究所を初めて訪問した時のことを思い出す。そう言えば、半竜人の男性がドゥルガさんと一緒にいたな。彼のことだろうか。


「どうして竜人がここにいるんだ? ……いや、そう言えばドゥルガさんもハーフドワーフだったな」


 ここはエルフの国だ。あれだけ人間を毛嫌いしている純種のエルフのことだ、他の種族にも風当たりはきつそうだが……。


「えっとね、ドゥルガ師匠せんせいはヴェイナード様が連れてきたの。魔工技術の研究のためにって。マイル君は近くの森で倒れてたんだって」


「色々あるもんだな……」


 竜人の里はもっと遠くにあったはずだ。おそらく事情があるのだろう。そんなことを考えていると、背にしていた扉が開く。開閉装置の駆動音に振り向くと、そこには半竜人の男性の姿があった。


「あ! マイル君だ! ちょうどマイル君のお話をしてたんだよ!」


「……僕の?」


 話題の主は不思議そうに首を捻った。見た目は二十歳くらいだろうか。半竜人だけあってか身体は大きいが、威圧感を感じさせない穏やかな空気を纏っていた。


「うん! これはマイル君にしか使えないんだよ、って説明してたの!」


 そう言って魔工砲を指し示す。ようやく事情が呑み込めたようで、彼はかすかに笑みを浮かべた。そして、ふと気付いたように俺たちを見回す。


「ひょっとして、皆さんが変異種を一緒に討伐する……?」


「うん! わたしのお兄ちゃんだよ!」


「シルヴィ、それは回答になってないぞ……」


 思わず声に出してツッコむ。すると、マイルは俺をまじまじと見つめた。その目には小さな驚きがある。


「シルヴィちゃんのお兄さんということは……失礼ですけど、クォーターエルフなんですよね?」


「そのようですね。……知ったのはつい最近ですが」


 そう言って自分の耳を指差す。外形的には、俺は完全に人間だからな。シルヴィがハーフエルフにしか見えない外見だから、兄妹で並ぶと違和感があるのだろう。


「そうなんですね。実は、僕もクォーターなんですよ。こんな角をしているのでよく間違えられますけど」


「そうでしたか。シルヴィと同じなんですね」


「はい。だから、シルヴィちゃんには親近感があって……」


 思わず彼の角に視線をやる。半竜人の剣闘士、『蒼竜妃アクアマリン』エルミラの角と比べても遜色のない長さだ。


「あのね、マイル君はとっても力持ちなんだよ!」


「まあ、そうだろうなぁ……」


 筋骨隆々の体躯を見て頷く。つい羨ましくなってしまうが、ないものねだりをしても仕方がない。


「こんな見かけですけど、ほとんど竜人の特性がないんです。竜人のような筋力もなければ、固有魔法も使えませんし……」


 だが、マイルは首を横に振った。竜人は強靭な肉体を持っているから、彼ら基準では非力ということになるのだろう。


「ご苦労なさったんでしょうね……」


 自分と彼を重ね合わせてしまったからだろうか。ひとりでに言葉がもれる。


「そうかもしれません」


 マイルは穏やかに微笑んだ。この微笑みを浮かべられるまでに、どれだけの月日を擁したのだろうか。ついそんなことを考えてしまう。


「……ちょっといいかしら」


 その時だった。少し後ろにいたレティシャが俺の隣に立つ。驚きの表情のままマイルを凝視していた彼女は、やがて意外な言葉を告げた。


「違っていたらごめんなさい。……ひょっとして、あなたにはエルミラというお姉さんがいない?」


「っ!?」


 その言葉に、マイルは声にならない声を上げた。この驚きようからすると、少なくとも関係者ではあるのだろう。


「エルミラの? ……あ」


 そして、俺もエルミラの言葉を思い出す。見かけは半竜人だが、その実はクォーターであり、ほとんど能力が人間並みの弟がいると、たしかにそう言っていた。


「姉さんを知っているんですか?」


「もちろんよ。帝都で一番気が合う友人だもの」


「帝都……姉さんはルエイン帝国にいるんですね!? 無事なんですか?」


 マイルは掴みかからんばかりにレティシャに詰め寄る。だが、彼女は気にした様子もなく質問に答えた。


「ええ。今頃は元気に試合の間(リング)に立っているんじゃないかしら」


試合の間(リング)……?」


「ええ。彼女は剣闘士として闘技場で戦っているわ。『蒼竜妃アクアマリン』という二つ名でね」


「姉さんが……剣闘士……」


 マイルは呆然と呟く。姉が無事に生きていたのだ。レティシャに詰め寄った様子から、もっと喜ぶと思っていた俺は、その反応に違和感を覚えた。


「マイルさん、どうかしましたか?」


 気になって声をかけると、マイルは沈んだ表情のまま口を開いた。


「いえ……僕と違って姉さんは強かったのに、それでも捕まってしまったんですね……」


「捕まった?」


「だって剣闘士なんでしょう? ルエイン帝国に捕まって、無理やり戦わされているなんて」


「あー……」


 なんだ、そういうことか。俺はようやくマイルが嘆いている理由を理解した。


「彼女は自分の意思で剣闘士になりました。捕らえられたわけでもなければ、無理やり戦わされているわけでもありません」


「え? でも……」


「死を売り物にするために、戦争の捕虜や異種族を捕えて興行に使う闘技場があることは理解しています。ですが、ルエイン帝国では上位の剣闘士は社会的地位を持ち、人々から尊敬されています」


 言いながら、旅の途中で見た闘技場を思い出す。


「剣闘士を希望する者は大勢いますし、わざわざ嫌がる者を試合の間(リング)に上げる必要もありません」


 帝国だって捕虜の処刑試合をしている闘技場は幾つもあるが、概ね嘘はついていない。少なくとも、エルミラが所属している第二十八闘技場うちについては、嫌がる人間を試合の間(リング)に上げることはない。


「それは私も保証するわ。それを言うなら私だって剣闘士だもの」


「あなたが、ですか……?」


 マイルは目を丸くしてレティシャを見つめる。


「ええ。第二十八闘技場の支配人に勧誘されたのよ。……この人にね」


 レティシャは悪戯っぽい視線を俺に向けた。マイルも理解したようで、驚いた表情のまま俺に視線を移す。


「シルヴィちゃんのお兄さんが、闘技場の支配人……?」


「はい。エルミラさんとはちゃんとした契約書を交わしていますし、無理に戦わせたこともありません。それは保証します」


「エルミラと私は一緒に剣闘士デビューしたもの。マイル君、私が不幸に見える?」


「いえ……」


 マイルは未だに信じられないという顔で首を横に振った。


「エルミラはずっとあなたのことを探していたの。剣闘士として有名になれば、どこかで弟の耳に入るかもしれないって」


「そうですか……ここにいると外の情報がさっぱり入ってきませんから……」


 しばらくマイルは黙り込んだ。考えを整理する時間が必要なのだろう。そう考えたのは皆同じようで、誰も言葉を発しなかった。


「……よかった。姉さんは無事なんですね」


 やがて顔を上げると、そう呟く。


「もしよければ、私たちと一緒にルエイン帝国に来ない? エルミラも喜ぶわ」


 そう提案したのはもちろんレティシャだ。一緒ならお金も大してかからないし、安全面も心配ないと説明する。しばらく悩んでいた様子のマイルは、やがて首を横に振った。


「……僕は行きません」


「え?」


 レティシャが驚きの声を上げる。


「このまま帝国へ行っても、また姉さんに迷惑をかけるだけです」


「エルミラは迷惑だなんて考えないわよ?」


「それでもです。姉さんとはぐれて、大陸を彷徨って……僕は自分の無力さを痛感しました。このままじゃ、また姉さんに甘えてしまう」


「こうして古代魔道具を扱えるだけの技量があるなら、無力なんてことはないと思うわ」


「そこなんです」


 レティシャの言葉にマイルは強く頷いた。


「ここで魔工技術を学ぶことで、僕は独り立ちできるだけのスキルを身につけたい。だから、まだ姉さんには会えません」


 そう語る表情は、決意した人間のものだった。レティシャもそれが分かったようで、それ以上の勧誘は諦めたようだった。


「そんな顔をされちゃ、無理強いはできないわね……」


「すみません。……それに、フォルヘイムから無事に出られる保証もありませんから」


「それはどういうことですか?」


 不穏な言葉に思わず口を開く。


「だって、フォルヘイムは人間たちに監視されていますよね? 許可を受けた者以外は、下手をすると外へ出た瞬間に捕縛されるはずです」


「捕縛……? それはいつからですか?」


 ひょっとして、三年前の襲撃事件で包囲網が築かれたのだろうか。そう考えていた俺だったが、マイルの言葉は想像を超えていた。


「昔から、としか聞いていませんが……エルフの皆さんがそう言うくらいですから、最低でも数百年前だと思います」


「数百年前……」


 その雄大な単位に絶句する。そして同時に、その監視網が長年にわたって維持されていることにも驚かざるを得なかった。


「人間はもともとエルフを警戒していた……?」


 ということは、あの襲撃事件でエルフたちが(ゲート)を使ったのは、奇襲という意味合いだけではなく、それらの監視を欺くためだったのかもしれないな。


「監視には穴がありますし、混血種は見逃されやすいという噂もありますが……詳しいところは分かりません」


「そうですか……」


 意外な事実を前にして、場に妙な空気が流れる。それを嫌ったのか、空気を変えようとしたのはシルヴィだった。


「ねえねえ、まだ研究所の紹介は終わってないよー。……そうだ! マイル君も一緒に紹介しようよー」


「え、僕も……?」


「うん! きっと楽しいよー!」


 突然の提案に戸惑うマイルと、それを無理やりねじ伏せるシルヴィ。彼ら二人によって、魔工研究所の案内は再開されたのだった。



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