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来訪者Ⅳ

「二人に話しておきたいこと……いや、謝ることがあるんだ」


 第二十八闘技場の支配人室で、俺は神妙な表情を浮かべていた。俺の隣にいるのはユーゼフ。そして、向かいに座っているのはヴィンフリーデとダグラスさんだ。


「そんなに改まってどうしたの? ミレウスらしくないわね」


「闘技場の資金でも使いこんだか? ……いや、ミレウスに限ってそれはないな」


「むしろ、闘技場の改装に大金をつぎ込んでしまった、とかのほうがあり得るわね」


 そう言って二人は笑う。だが、俺が真面目な顔をしているからだろう。やがて二人とも口を閉ざして俺を見つめた。


「実は『極光の騎士(ノーザンライト)』のことなんだが……」


 どうにも言葉の歯切れが悪い。自分でもそれなりに口は回るほうだと思っていたが、そうではなかったらしい。


「『極光の騎士(ノーザンライト)』がどうしたの? ひょっとして消息を掴んだの?」


「そうじゃない。いや、ある意味ではそうなんだが……」


 つい曖昧な返事に終始してしまう。だが、このまま沈黙していては二人を呼んだ意味がない。俺は腹に力をこめると、一息に言い切った。


「……『極光の騎士(ノーザンライト)』の正体は、俺だったんだ。今まで隠してて悪かった」


 そう言って頭を下げる。だが、再び頭を上げても、二人は沈黙したままだった。てっきり驚きの声が上がるものと思っていたのだが、二人ともぽかんとした表情のまま固まっている。


「えーと……ヴィー? ダグラスさん?」


 二人に呼びかけると、彼らはようやく動きを見せた。


「ミレウスが……『極光の騎士(ノーザンライト)』!?」


「突然何を……?」


 戸惑う二人に、俺は証拠品として用意していた兜を見せた。もちろん古代鎧エンシェントメイルのものだ。


「む……」


 それに反応したのはダグラスさんだ。実際に対戦したこともあるし、『極光の騎士(ノーザンライト)』の試合はよく見ているから、見覚えがあるのだろう。俺は兜を被ると低い声、つまり『極光の騎士(ノーザンライト)』としての声を出した。


「……本当にすまなかった」


「その声……」


 今度はヴィンフリーデが声を上げる。どうやら、二人ともそれなりに信じるつもりになったようだった。俺は兜を脱ぐと、神妙な面持ちで彼らの言葉を待つ。


「だが、どういうことだ? たしかにミレウスには剣才があるが……」


 身体的な面では才能はない。ダグラスさんはそこまで言わなかったが、続く言葉は明らかだった。


「この魔導鎧マジックメイルには、筋力強化フィジカルブーストの効果があります」


「そういうことか……」


 その言葉ですべてを悟ったのだろう。ダグラスさんは納得した様子だった。それを見たユーゼフが口を開く。


「ダグラスさんは、意外とあっさり受け入れるんですね」


「今でも信じがたいが、わざわざミレウスが嘘をつく理由がない」


 ダグラスさんの視線がユーゼフから俺へ戻ってくる。


「だが、『極光の騎士(ノーザンライト)』は筋力強化フィジカルブースト以外にも魔法を使いこなしていなかったか?」


筋力強化フィジカルブーストだけじゃなくて、この魔導鎧マジックメイルは他にも多種多様な魔法を扱うことができます」


 俺の答えにダグラスさんは驚きを露わにしていた。魔法の武具は万能ではない。ダグラスさん自身も魔法盾マジックシールドの所持者であることから、多様な魔法を扱うことのできる魔導鎧マジックメイルの異常性がよく分かるのだろう。


「それが本当なら破格の性能だな……正体を隠していたのは、その魔導鎧マジックメイルを盗まれないためか?」


「それもありますが、ダグラスさんも言っていた通り、この魔導鎧マジックメイルは異常なレベルのスペックを誇っています。本来であれば、闘技場に持ち込むべきではありません」


「ふむ……それなら、なぜ『極光の騎士(ノーザンライト)』として戦った?」


 ダグラスさんの目が訝しげに細められる。


第二十八闘技場うちを第一位の闘技場に押し上げるために必要と考えました」


 視線を逸らすことなく、俺はそう言い切った。叱責されるかもしれないが、『極光の騎士(ノーザンライト)』としてやってきたことに後悔はない。

 ダグラスさんと俺の視線が交錯する。だが、ダグラスさんは静かに俺を見つめるばかりだった。


「えっと、ダグラスさん?」


 最初に痺れを切らしたのはユーゼフだった。その言葉を受けて、微動だにしなかったダグラスさんはほう、と大きく息を吐く。


「まさか、『極光の騎士(ノーザンライト)』にそんな裏事情があったとはな」


 そう呟くダグラスさんの表情は、なぜか清々しいものだった。それが不思議で、逆に問いかける。


「……怒らないんですか?」


「水臭い、とは思うがな。いかに強力な魔法の武具であれ、それを使いこなせているのであれば後ろめたく思う必要はない。実力のない者がその鎧を身に着けたとしても、『大破壊ザ・デストロイ』には勝てぬさ」


 そう言ってから、ダグラスさんはふと俺の顔を見つめ直した。


「『極光の騎士(ノーザンライト)』の正体を伏せていたのは、それが原因か?」


「……はい。この魔導鎧マジックメイルは強力すぎます」


「ミレウスは気を回し過ぎだな。それを言うなら、私も正体を伏せねばならないことになる」


 ダグラスさんは悪戯っぽく笑った。それが魔法盾マジックシールドのことを指しているのは明らかだった。そして、もう一度嬉しそうに微笑む。


「ミレウス、成長したな。まさか剣闘士として上を行かれているとは思わなかった。イグナートも喜んでいることだろう」


「そう、ですか……?」


 思わず訊き返す。古代鎧エンシェントメイルという強力無比な装備に底上げされて、ようやく試合の間(リング)に上がっている身だ。親父がそれを良しとするだろうか。


「勿論だ。ミレウスが剣才を発揮できないことを、あいつはずっと気にしていたからな。もしこのことを知れば、間違いなく喜ぶ」


「……そっか」


 その言葉にふっと胸が軽くなる。だからと言って『極光の騎士(ノーザンライト)』の正体を公表するつもりはないが、晴れやかな気分になったのは事実だった。


「ダグラスさん、ありがとうございます」


「礼を言われるほどのことではない」


 ダグラスさんらしい返事に頬が緩む。そうして穏やかな空気が漂い出した頃に、俺はもう一人の存在を忘れていたことに気付いた。ヴィンフリーデだ。


「えーと……ヴィー?」


「……何よ」


 ヴィンフリーデは口を尖らせて答えた。どう見ても拗ねている。こんなに拗ねたヴィンフリーデは十年ぶりくらいじゃないだろうか。


「その、すまなかった」


「気にしてないわよ。私じゃ秘密を守れないと思ったんでしょ?」


 氷のように冷たい声が瞬時に返ってくる。


「秘密の共有は相手に負担を強いるから、誰にも明かすつもりはなかったんだ」


「でも、ユーゼフは知っていたじゃない」


 ヴィンフリーデはちらりとユーゼフに視線を向けた。すると、ユーゼフがフォローしようと口を開く。


「ヴィー、ミレウスは君のために――」


「ユーゼフは黙ってて」


「はい」


 だが、ユーゼフのフォローはあっさり中断された。どうやら援軍は期待できないようだ。


「ユーゼフは、古代鎧エンシェントメイルを見つけた時に居合わせていたんだ。だから知っているだけで、特別に秘密を明かしたわけじゃない」


 そう説明すると、ヴィンフリーデは反論しにくくなったようだった。だが、なおも彼女は膨れっ面だ。


「そう。『極光の騎士(ノーザンライト)』のことでミレウスがいつも大変だからって、『極光の騎士(ノーザンライト)』に憤っていた私はとんだ見当外れだったのね」


「それに関しては悪かった」


 なかなかヴィンフリーデの機嫌は直らない。そこへ助け舟を出してくれたのはダグラスさんだった。


「ヴィンフリーデ。一人だけ仲間外れにされて寂しかったのは分かるが、それくらいにしてやってはどうだ? ミレウスもユーゼフも、悪気があったわけではないだろう」


「それは……そうでしょうけど」


 ダグラスさんに諭されて、ヴィンフリーデの態度が柔らかくなる。……ダグラスさんがいてくれて本当に良かったな。


「本当にすまなかった」


 重ねて謝ると、ヴィンフリーデは小さく溜息をついた。


「……もう、この流れじゃ怒れないじゃない」


 そう口にした彼女は、いつものヴィンフリーデに戻っていた。そのことにほっとしたのも束の間、今度はダグラスさんから質問が投げかけられる。


「ミレウス。どうしてこのタイミングで事実を明かした? 『極光の騎士(ノーザンライト)』の引退直後であれば分かるが……」


 その物言いに怒っている様子はない。純粋に不思議に思っている様子だった。


「そもそも『極光の騎士(ノーザンライト)』を引退させた理由は、この魔導鎧マジックメイルに回数制限があったからです」


 突然話が切り替わったことに、ダグラスさんは怪訝な表情を浮かべた。


「ですが、その回数を復活させられるかもしれません。……そして、そのためにはフォルヘイムへ行く必要がありそうなんです」


 だが、フォルヘイムへ行くとなれば一か月ではすまない。長期間にわたって第二十八闘技場うちを空ける必要がある。そうなれば、支配人秘書であるヴィンフリーデと、副支配人であるダグラスさんに運営を託すしかない。


 そう説明し、さらにヴェイナードとのやり取りを話したところ、二人は目を丸くして驚いていた。


「ユミル商会のヴェイナードさんが?」


「信用できるのか?」


「取引相手として、手を組む価値はあると思っています」


 なんらかの罠である可能性は何度も考えたが、それでも得られるものは大きい。俺はそう判断していた。


「それって、一人で行くの?」


「そのつもりだ。できれば、筋力強化フィジカルブーストの効果がある魔道具が欲しいところだが……」


「そんなものがあるの?」


「さあな……」


 それは俺が剣闘士になるための方策の一つとして考えていたものだが、これまでそんな魔道具の存在を耳にしたことはない。あれば、どんな大金を積んででも俺が手に入れようとしたことだろう。


「ともかく、ミレウスはフォルヘイムへ行くつもりなのだな?」


 俺の真意を確認するように、ダグラスさんは口を開いた。


「はい」


 短く、それだけを答える。闘技場をランキング一位にしたいからなのか、それとももう一度『極光の騎士(ノーザンライト)』として試合の間(リング)に立ちたいのか。どちらにせよ、俺の意思に変わりはなかった。


「それでは、運営の引継ぎをしっかりやってもらわねばな。ミレウスが魔導鎧マジックメイルを復活させて帰ってきても、第二十八闘技場うちが破産していては意味がなかろう」


 ダグラスさんは静かに頷くと、悪戯っぽい笑みを浮かべた。




 ◆◆◆




「試合終わりで疲れているのに、すまない」


「別にいい。……でも、珍しい」


 いつもの支配人室で、俺は試合を終えた『蒼竜妃アクアマリン』エルミラと向かい合って座っていた。これから話すことは闘技場とは関係がないが、ある程度秘密が確保された場所のほうがいいからだ。


「実は、ハーフやクォーターの遺伝発現について教えてほしいんだが……」


「どうして?」


 エルミラは不思議そうに首を傾げる。半竜人である彼女だが、俺とその辺りの話をしたことはほとんどない。疑問に思って当然だろう。

 それに、エルミラはそういったことの専門家ではない。彼女自身がハーフであることを考えると、個人的な領域の話に踏み込むことになる。


 だから、俺はこちらから情報を開示することにした。


「……俺はクォーターエルフだそうだ」


「!?」


 あまり感情を表に出さない彼女にしては珍しく、その目を大きく見開く。


「唐突で俺も驚いているが、否定するほどの材料もなくてさ」


 言いながら、俺は自分の耳を指差した。その動作でエルミラは言いたいことを理解してくれたようだった。


「支配人の耳、人間のもの。でも、クォーターならあり得る」


「やっぱりそうなのか……」


「弟、クォーター。でも、私と同じくらい大きな角がある」


 クォーターなのに、半竜人のエルミラと同じサイズの角があるということは、俺の逆バージョンか。シルヴィと同じ発現の仕方をしているわけだな。


「支配人、本当にクォーターエルフ?」


 エルミラは不思議そうに俺を見ていた。彼女の弟と違って、俺に外形的なエルフの要素はないからな。


「まあ、心当たりはある」


 それは筋肉の付きにくい身体であり、俺を訪ねて来たシルヴィの言葉であり、そして古代鎧エンシェントメイルを起動できたという実績でもある。ただ、彼らの言葉がすべて真実だとは限らないが……。


「ところで、混血種族には独自のネットワークがあったりするものなのか? 第二十八闘技場うちに出入りしてるユミル商会なんかは、ハーフやクォーターで構成されているらしいんだが」


「……知らない。一緒に生活して、助け合ってる集落はある。でも、里を捨てた人ばかり」


「里を捨てるって、珍しいことなのか?」


 ずっと暮らしていたフォルヘイムを出て、こっちで暮らしてもいいと言われていたシルヴィのことを思い出す。


「混血種族には珍しくない。どの種族でも、混血(私たち)は邪険にされるから」


 エルミラの目がすっと細められたのは、自分の過去を思い出したからだろうか。彼女は波乱万丈な人生を歩んできたと、レティシャから聞いたことがある。


「どの種族でもということは、フォルヘイムでも同じような扱いを受けるんだろうな」


「フォルヘイム、特に厳しい。純種、とてもプライドが高い。里を捨てたハーフエルフ、たくさん見た」


「そうなのか……」


 思わず溜息をつく。そんなところに、クォーターエルフの俺が出向くのだ。ろくな目に遭わない気がするな。そう告げると、エルミラは困ったような顔を見せた。


「支配人、フォルヘイム行く?」


「用事ができたんだが、どうにも胡散臭くてさ。こうして裏を取っているところだ」


 そう説明するとエルミラは納得したようだった。そして、少し険しい表情で口を開く。


「行かないほうがいい。不愉快なこと、絶対にある」


 その言葉は、俺の先行きを示しているようだった。




 ◆◆◆




筋力強化フィジカルブーストの魔道具? ……ごめんなさい、心当たりはないわ」


「まあ、そうだよなぁ。これまでもずっと探してたわけだし」


 支配人室にやってきた『紅の歌姫(スカーレット・オペラ)』レティシャの答えは、俺の予想の範疇だった。


「突然どうしたの? ひょっとして剣闘士に復帰するつもりなのかしら」


「そうじゃないが、ちょっと物騒なことになりそうだからな」


「……どういうこと?」


 眉を顰めるレティシャに、俺はヴェイナードとのやり取りを説明した。古代鎧エンシェントメイルの起動回数を復活させられる可能性があること。そして、そのためにフォルヘイムへ行かなければならないこと。


「……じゃあ、ミレウスは闘技場を離れるの?」


「ああ。早くても二、三か月はかかるだろう」


「まさか、あなたの口からそんな言葉が出てくるなんて……」


 珍しくレティシャは動揺しているようで、しきりに瞬きをしている。


第二十八闘技場うちの運営はヴィーとダグラスさんに引き継いでいるところだ」


「ミレウスがいない第二十八闘技場って、なんだか想像できないわ」


「こればっかりは、俺が行くしかないからな」


 敵の巣窟へ乗り込むようで気は進まないが、ヴェイナードの言葉が真実であれば千載一遇のチャンスであることは間違いない。


「たしかに、その状況なら筋力強化フィジカルブーストの魔道具が欲しいところね……」


「心穏やかに観光、なんてことにはならないだろうからな。筋力強化フィジカルブーストの魔道具があれば、それなりに切り抜けられるとは思うが……」


「ふふ、『極光の騎士(ノーザンライト)』だものね」


 レティシャはからかうように微笑んだあと、思い出したように口を開いた。


「それじゃ、フォルヘイムへはヴェイナードさんと行くの? それともユミル商会も一緒かしら?」


「ヴェイナードだけだ。それにシルヴィも連れて行く。親元に帰す絶好の機会だからな」


 正直に答える。シルヴィをどうやってフォルヘイムへ帰すかは最大の課題だったが、期せずして解決したわけだ。


「ふぅん……」


 レティシャは考え込んでいる様子だった。筋力強化フィジカルブーストの魔道具に心当たりがないか、もう一度記憶を照合してくれているのだろうか。


「……一つだけ心当たりがあるわ」


 そう言って顔を上げたレティシャは、なぜか楽しそうな顔をしていた。


「本当か!? どこにあるんだ!?」


 なんだか引っ掛かるものを感じつつも、俺は身を乗り出す。すると、彼女は自分の胸に手を当てた。


「……? その首飾りか? 事情が事情だし、別に女物でも気にしないぞ」


 俺の答えに、レティシャは笑みをいっそう深めた。そして、窺うように俺を見つめる。


「そうじゃないわ。私を一緒に連れて行けばいいのよ」


「……え?」


 思いがけない回答を受けて、レティシャの顔をまじまじと見る。


「それは……」


「あら、不満そうね。私が一緒にいれば、筋力強化フィジカルブーストはもちろんのこと、有事の際には色々役に立つわよ?」


「それは疑っていないが……フォルヘイムは危険だ。それに、これは第二十八闘技場の話じゃなくて、俺の個人的な問題だからな。俺の事情に巻き込むわけにはいかない」


 なんと言っても、俺の出自に端を発している事柄だからな。それに、フォルヘイムがエルフ以外を排斥しようとする地域柄であることは間違いないのだから、純粋な人間であるレティシャは俺よりも危険だろう。だが、彼女はにっこりと笑った。


「じゃあ、問題ないわね。私は第二十八闘技場の支配人じゃなくて、ミレウス個人に付いていくつもりだもの。それに、エルフ族は魔法に長けているから、フォルヘイムには興味があったのよね」


「だが、試合もあるし……」


 なんとなく口を開く。『紅の歌姫(スカーレット・オペラ)』はうちのスター選手だ。彼女を欠くと集客力が大きく落ちる懸念があった。


「遠いフォルヘイムでミレウスに何かあったらと思うと、試合に集中できないわ」


 レティシャは大げさな身振りで反論すると、さらに言葉を続ける。


「それに、筋力強化フィジカルブーストのあてがない状態で、妹さんを無事にフォルヘイムまで連れていける?」


「む……」


 フォルヘイムまでの道は決して安全ではない。そもそも、旅は危険と隣り合わせであり、途中には特に治安の悪い地域や、危険なモンスターが多数生息するエリアだって存在するのだ。


 そして、フォルヘイムでなんらかの戦闘行為が必要となった場合、彼女がいるといないとでは大きく違ってくる。しかも、その可能性は非常に高い。


「……レティシャ、一緒に来てもらえるか?」


 しばらく悩んだ後で、俺は結論を出した。彼女がいない間の集客数の低下は、他の催し等で補う。それでも影響は出るだろうが、どうせこのままでは闘技場ランキング一位には届かないのだ。長期的な展望を見据えて、今年は準備期間として割り切るのも一つの手だろう。


「ええ、もちろんよ。受け入れてもらえて嬉しいわ」


 頷くレティシャの表情は、どこかほっとしているように思えた。そんなに俺一人は不安だったのだろうか。そんなことを考えている間に、彼女の表情がいつもの悪戯っぽいそれに変わる。


「そうそう、ミレウスのご両親にも挨拶しなくちゃね。うふふ、緊張するわ」


「どうしてそうなるんだ……」


 わざとらしい声色に、俺は肩をすくめて答えた。



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