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短編劇場  作者: えいじ
1/8

百人目

目が覚めて、朝食をとり、そして散歩に出かける。


休みの日にはこうして少なくない準備をして散歩に出かけるのが、この男の数少ない趣味だ。


どうやら散歩の途中でふと思い立ったのか、普段は通らない道を進むことにしたようである。

こうしてたまには違う道を通らないと、飽きてしまうこともありうるのだろうか。

もしかするとルーチン通りの動きをしたほうがストレスも少ないのだろうか。


そんな益体もないことを考えながら顎に手をやろうとし、それができないまま一人の若い女の人とすれ違う。

彼女は手にリードを持ち、その先は一匹の犬につながっていた。


「こんにちは、いい散歩日和ですね」


声をかけて気づく。今の時間だと「おはようございます」のほうが良かったのではないだろうか。


「こんにちは」


彼女は微笑みながら返してくれた。良かった。

いや別にどちらも正解であったのだとは思うのだけれども。

犬は大人しいものだ、こちらを見て固まっている。

そんな犬を引きずるようにようにして連れていく彼女。



そしてしばらく歩くと、今度は少し年を取った男の人とすれ違う。

二本のリードを持ち、片方は犬に、そしてもう片方は猫につながっていた。


前に出会った女の人と同様に軽く挨拶のみを交わして、そして男の人もまた先の彼女と同様にペットを引きずって去って行った。

いやはやペットの散歩というものは誰であっても大変なものである。


そして三人目、次にすれ違ったのは近くの高校の制服を着た男の子だった。

三本のリードを持ち、一つは犬に、一つは猫に、そしてもう一つはウサギにつながっていた。


四人目、四本。五人目、五本。


…………、五十人目、五十本。


「いや、珍しいこともあるものだ」

男は眉を顰め、一人呟いた。返答が帰ってきても、それはそれでどうでもいいのだろう、程度の呟き。

散歩にでかけ、すれ違う人数が一人増えるごとに彼ら彼女らが持つリードの数も増えていく。

当然つながれた動物の種類も。

これは当然、先が気になる。


五十一人目、五十一本。五十二人目、五十二本。


ここまでくると、百人程度ならいってしまうのではないか、そう考えるのも無理はないものだ。

次増えるのはフクロウだ、いやここは亀だ。

そんなくだらないことも考えるようになってしまう。


しかし予想を裏切るような動物も増えていく。

例えば六十九人目、彼はキリンを連れていた。

例えば八十二人目、彼は象を連れていた。


そして九十九人目とすれ違う。

彼女は今までにすれ違った皆が連れていた動物に加えて、マングースを連れていた。


百匹目はなんだろう。百人目は男だろうか、女だろうか。


そんなことを考えながら歩いていく。


……だが、いつまでたっても、どこまで歩いても、しかし誰ともすれ違うことはない。


そうして男は歩いて、歩いて、歩いて、ふと両手を見て、


「なるほどな」


呟き、今まで来た道を帰り始めた。


……、何が分かったというのだろう。

しかしわからなくとも、私は男についていくしかないのだ。


男の持つ百本のリードは、犬や猫や、そして私の首につながっていた。

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