裏野ハイツのある日の出来事
職場に近い場所を探していた。
アパートなどが良いかと思っていた。
私は物件探しをしていたのだ。家賃は50,000円から70,000円程が良いかと思っていた。いくつか回ったが中々良い場所は見つからない。そんな中、ある賃貸の物件を紹介してもらうことに。それが恐怖の始まりとなるとは私は予想だにしていなかった。
そのアパートは【裏野ハイツ】と言う。家賃4.9万円敷金なし交通最寄り駅まで徒歩7分と言う場所的にも何の問題もない。ただ住人の中には気難しい人もいるかもしれない。そう思って聞いてみたが、帰ってきた答えは「問題ないですよ。」だった。
その後も悩んでは他の物件を回ったが、私の期待に応えてくれる物件はなかった。
空き部屋はひとつだけあるらしい。
203号室。
ただこの部屋、今まで借りてはついてもすぐに解約してしまうと言う場所だった。
なぜそうなるのかわからないが曰く付きなのかもしれないと思った。なので渋っていたが、貸す側はどちらでもいいようなとり方をする。まるで最初から諦めているような。
住人に聞いてみようと思ったのはなんとなくだった。
101号室の50代の男性は気さくに挨拶をしてくれた。靴を見ると違う種類がもう一足あったが、聞いても答えてはくれなかった。
103号室の30代くらいの若い夫婦と3歳くらいの男の子の家族は二人とも仕事をしているが、子供がうるさかったりしたことはなかった。だが、詳しいことは知らないらしい。
201号室は70代のお婆さん。
聞くと子供はいるらしいが会いに来ることはないみたいだ。あんまり聞かないほうがいい感じがする。ちなみに203号室のことを聞いてみたが口を閉ざして話してはくれなかった。何か隠してる。
202号室は誰かいるような感じはするんだけど、呼び鈴を押しても誰も出てこない。隣のおばあさんなら知ってるかなと思ったが、あれこれとあまり聞かないほうがいいのかもしれない。そんな気がした。
で、203号室だ。
場所的には悪くない。
住んでしまおうかとも思ったが、いまいち踏ん切りがつかない。
で、オーナーさんに「試しに数日泊まってみてもいいですか?」と聞くとすんなりOKがでた。拍子抜けだ。
でも、値段的にもいい感じだったので、試しに何泊かしてみることに…。
初めの数日はなんも問題はなかった。住みやすくいい感じがしたのだ。けれども4日も過ぎるとここにしようかという気になってくる。それでもまだ踏ん切りがつかなかったのは?なことがあったから。
1LDKでありながらも部屋は広々としていた。
まぁ、まだものが置かれていないからそう感じるのかもしれないが…。それなのに何故か何かの気配のようなものを感じる。それがなんなのかまだわからない所が不気味ではあるが。
そして一週間が過ぎ、賃貸物件の会社からどうするかと電話があった。
その時だ、また誰かに見られてる気がしたのは。周りを見回しても誰もいない。当然だ。私1人しかいないのだから。
でも、どこからだろう…と、たまたま上を見上げた時アッと思った。目があったのだ。体は真っ黒。唯一あるのは眼だけ。
怖い。正直そう思った。
ただじーっと見ているのだ。
それは睨みつけているような目で…。
僕は慌てて部屋から逃げ出した。
でも、部屋から一歩出るとまた入りたくなるような感じがする。何故?
まるでおいでおいでと手招きしているように。
悩みに悩んだ僕は部屋を出ることにした。
家財道具を置いていなかったのですぐに出ることができたが、あの部屋は一体何故そんな体験をすることになったのか知りたくなった。でも、借りないと言った以上教えてはくれまい。そう思った。
でも実際はペラペラと業者が教えてくれた。
「あなたが今いらした部屋ですが、むかーし…そうですね〜、5年ほど前になります。若い男性の方が1人で借りられていたんですが、その方も何かを感じると訴えられてましてね、そのままにしていたら連絡が取れなくなりましてね。心配になった家族からの通報で警察が動いたんですが、その時にはすでに亡くなってましてね。ええ、ええ、自殺です。首を吊って亡くなってました。男性は何かを睨みつけるようにして亡くなってたそうで警察もその点を調べたんですが特に何も出てこなかったので自殺で処理されてます。それからです。あの部屋を借りる方は皆初めは乗り気でも数日すると逃げるように引っ越されるんですよ。あなたが初めてですよ。1週間もいた方はいなかったので。」
それを聞いてますますいづらくなり、部屋を出ることにしたその夜、僕はまた恐怖の体験をすることに…。
その夜はちょっと蒸し暑かった。
なので、エアコンをかけ眠っていた。でも誰かに見られている…そんな予感がして目を開けた。するとすぐ目の前にあの目が…。真っ黒な物体は宙に浮いている。
でも声が出せない。
怖い怖い怖い。
逃げたかったが体が動かない。
すると『さぁ、私たちの元においで。そう、…さぁ。』と声が聞こえた気がした。
恐々とゆっくり動いたが動いた気がしなかった。体がズルズルと引きずられていく感じがある。足元に引っ張られているのだ。
何とか逃げ出そうとするも体が思う様に動かない。恐怖で汗が伝った。
「誰か助けて!」
そう心の中で叫ぶと同時に体の自由が取れ、慌てて部屋から逃げ出した。
もちろん契約はなしとして。
2度と行きたくないと思った。
カバンは逃げ出す時に持ってきたので財布等はある。だからあとは布団や雑誌類だけだ。捨ててもらうことにした。
その部屋は今もそこにあるそうで、借りてはいないらしい。
僕にはもう関係ない話だが、あそこにいたのは一体何だったのか?亡くなった男性だったのか…今はもう知るすべはない。