分岐 番外編 ミチルの唄〜カエルの王子様
正直言って私は綺麗じゃない。
痩せてもいない。
いいえ。はっきり言って太ってるわ!
昨日体重計に乗ったら60キロはゆうに越えていたわ!
でも私だって楓みたいに綺麗になりたい。
私は東条ミチル。
薬品会社のOLをやってるの。
こんな私にだって数年前までは彼氏だっていたんだから!・・・・・・・・・二週間で振られたけど・・・・・・。
でもね聞いて!私最近、気になる人が出来たの!
このお話はおデブちゃんのチョッピリ切ないラブストーリーです。
今日は待ちに待った給料日!
今日こそは憎っくきアイツを叩きのめしてやるわ!
私は昔付き合ってた彼氏(二週間だけど)の影響でスロットにハマってた。
私がいつも打つ台はカエルのキャラクターがメインのスロット台。
これが中々当たらない。
ゲコゲコ鳴くばっかりで私の少ない給料を吸い取っていくの!
でも今日こそは!
私がここまで熱心にこの台を打つのには二つほど理由がある。
一つは、私にはよく解らないけどスロットの規制の何たらで大好きなこの台が今月一杯で外されるらしいの。
だから今月一杯はどんな用事よりも、このカエルチャンを優先するわ!
悔いが残らないように、そして何より、今までカエルちゃんに絞り出されてきた私のお金を取り戻してみせるの!
それともう一つの理由は、私の好きなあの人と逢うため。
いつものお店の私と同じカエルちゃんの台を打つアナタと逢うために、私はこのお店に通うの。
このカエルちゃんの台は大当たりを引けば、オマケ的なものがあって、大当たり中に目押しをして遊べるようになってるの。
上手く目押しができれば、液晶上のカエルちゃんが変身していって王子様になったり、メタルカエルちゃんになったりするんだけど、私はまだ一度も成功したことがないの。
私が気になるあの人は、大当たりを引く度に毎回必ず王子様やメタルカエルちゃんを出してるのよ。
もうホントにさり気なくね。
その姿に一目惚れしちゃいました。
決して今時のイケメンって感じでもなく、髪はボサボサで良いように言えば無造作ヘアー?
洋服のセンスだって良いとは言えないんだけど、あのさり気なくカエルちゃんを打つアナタが好きです。
でも解っているの。
それは決して叶わぬ恋。
私には手に入れられない恋。
そして想ってもいけない恋。
だってアナタは来月結婚するから!
・・・・・・・・・。
私の一番大切な親友と・・・・・・・・・。
だから、この1ヶ月だけは、アナタと一緒にこのお店で大好きなカエルちゃんを打たせてね。
誰も知らない私だけの秘密。
アナタと結婚する私の親友だって知らない秘密の場所。
それがパチンコ屋さんってのもムードがないね。でもそれが私らしいかもね!
それともう一つだけ、私は・・・・・・親友の楓とアナタが出会う前からアナタの事が好きだったんだからね。
市民公園でアナタが楓に恋する前から私は、このお店でアナタに恋してたんだから!
でも、もういいのアナタも楓も私にとっては大切な人。
二人が幸せになるのなら応援するよ!
だからゴメンね楓。
カエルちゃんが外されるこの一月だけは、このお店で彼と私の二人の時間を許してね。
「あれっ、ミチルちゃん来てたんだ!調子はどう?」
「まだ負けてる。でもそろそろ来ても良さそうなんだけど。」
彼と話すこんな何気ない会話に幸せを感じる。
「そうだね!このゾーンは当たりやすいし、ストック沢山貯まってそうだね!当たればいいね!」
「うん。頑張る。」
ゾーンと言うのは大当たりし易い回転数の事で、ストックって言うのは台の内部に大当たりが貯まってることを言うの。
「ミチルちゃん頑張ってね!あっ、俺がスロットしてたこと楓には内緒ね!」
「解ってるよ。ギャンブル嫌いだもんね楓。」
せめて、このお店でカエルちゃん打ってる時ぐらいはアナタから楓の名前聞きたくなかったな。
って無理な注文だね。
その後、私の台は見事に大当たりして大連チャン!
久しぶりの大勝ちができた。
「神様ありがと!せめて今月一杯は毎日カエルちゃん打てるように見守ってね。」
私は1人呟いて家路についた。
・・・・・・・・・。
今日がカエルちゃんの台が外される最終日、何とか今日までお金が尽きずに済んだ。
悔いが残らないよう目一杯楽しまなくちゃ!
きっとあの人も来るだろうからね。
今日、私は有給を取り朝から並んでる。
「閉店まで出し尽くしてやるんだから!」
私が1人意気込んでいるところに彼はやって来た。
「おっ!ミチルちゃん早いね!
気持ちは分かるよ今日が最後だからね。
この台無くなったら寂しくなるね。」
「うん。今日だけは絶対に勝ちたいね。・・・最後だからね・・・。」
そう。カエルちゃんのこの台が今日で最期のように、この台を打つ彼の姿を見れるのも今日が最後になる。
しかも彼は来週結婚する。
奇しくも私はその結婚式で、楓の友人代表として挨拶をする事になっていた。
店がオープンして、私は昨日から狙っていた台を無事にゲットする事ができた。
・・・彼が隣に座った。
「今日は、ミチルちゃんの隣か。よーし、どっちが多くコインを出せるか勝負!」
「いいよ!私が勝ったら、私のお願い聞いてね。」
「いいよ。じゃあ早速勝負開始!」
私は本当に嬉しかったんだ。
最後のカエルちゃんでアナタと隣同士で打てることが最高に幸せだったんだ。
私が勝った時のお願い。
・・・・・・私と一度でいいからデートしてくれる?・・・・・・。
言えるわけないか。
彼はいつものように淡々とレバーを叩く。
横にはお気に入りの苦めのコーヒー。
私は本当に彼のスロットを打つ姿が好き。・・・私の台の液晶にカエルが出て来た。このカエルが5回転連続ででれば大当たり確定なんだけど。
2回転目もカエルでた。
3回転目で・・・ゲコゲコって鳴き声とともにプレミアムの大ガエル登場!
大当たり確定!
さい先良いスタートに私はホットした。
「おっ、プレミアかいいね!」
彼の言葉に
「本当に私がコイン多く出したら、お願い聞いてもらうからね。」
って返した。
「怖いな。まぁ俺に勝ったらね。」
彼は余裕たっぷりの表情で言ってくる。
絶対に勝ってやるんだから!
私の闘志に火が付く!
お昼を過ぎて私の台は良い感じで連チャンしていた。
しかし予想とは裏腹に彼の台が全く大当たりしない。
彼の表情も次第に険しくなってくる。
夕方結局彼は大負けして席を立った。
「今日は駄目だ!流石にこれ以上は使えない。」
彼が私に言った。
・・・私は以前、市民公園で彼と楓の中を取り持った。
私の中の辛い記憶。
市民公園で彼を見かけるようになって、楓から彼の事が気になると告げられた。
私は彼を市民公園で見かける前からずっと好きだったけど、私は臆病で、容姿にも自信がなかった為、楓に私も本当は彼が好きって言えなかった。
今でも後悔してる。例え振られても自分の気持ちを伝えたかった。
でも当時の私には出来なかったんだ。
結局、楓と彼は来週、結婚する。
「私のコイン使って良いよ。」
私の精一杯の勇気だった。
しかし彼は
「流石にそれは貰えないよ。楓に怒られちゃう、それに俺にも多少のプライドあるしね。」
そう言って席を離れようとした。
「あっそうだ!約束。コインの枚数勝負!
明らかに俺の負けだから、ミチルちゃんのお願い何でも聞くよ!言って!何が良い!」
私のお願い・・・・・・。
「私と・・・・・・・・・私の親友の楓、絶対幸せにしてね!・・・約束!」
「・・・解った。必ず幸せにするよ!約束する。」
そう言って彼は帰って行った。
さよなら・・・・・・・私のカエルの王子様・・・。
私にはカエルの王子様より、カレーの王子様の方が似合ってるよね。
私の台は終日、連チャンが止まらず、コインは初めての1万枚を超えた。
閉店間際の最後の大当たり、私はオマケの目押しゲームで初めて王子様を出す事ができた。
彼は私に振り向いてくれなかったけど、こっちの王子様は振り向いてくれた。
私はこのカエルちゃんのスロットに沢山の思い出を貰ったと思う。彼との思い出、勝負事の難しさ、スロットの楽しさに目押し。
本当に有難う。そして・・・バイバイ・・・カエルちゃん。
私は帰り道、コンビニでカレーの王子様のレトルトと彼がいつも飲んでいた苦めのコーヒーを買って帰った。カレーは流石に甘く苦めのコーヒーが甘さをかき消してくれた。
来週の結婚式、私は定番のテントウ虫のサンバじゃなく、カエルの歌を唄おうと思う。
きっとみんなはウケ狙いだと思うだろうけど・・・・・・彼は気付いてくれるよね!
私と彼の秘密の鳴き声
お わ り