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キケンな休日<中>

「きゃーこれ、かわいいーっ!」

「ありあには、こっちの色かしらねえ……」

「うわ、セクシー路線もいいわよねえ。ありあ、これ着てみて!」

「ありあには、色気を前面に押し出すよりも、可愛く迫った方が効果的よ?」


(ううう……)


 ありあは試着室の中で、みーちゃんとれいちゃんが薦めてくれる物を次々と試着していた。

(は、恥ずかしいっ……!)

 ずっと顔が赤いまま。鏡に映る自分の姿を正視できない。ありあは一人で身悶えていた。


 ――ここは、れいちゃんがお気に入り、というランジェリー専門店。色とりどりのランジェリーが所狭しと吊り下げられていた。シースルーやらレースやらリボンやら。キラキラが氾濫してる。

(こ、こんなお店、来た事ないっ……!)

 店員さんも優しく微笑んで、おすすめ商品を選んでくれた。ちゃんと身体に合ったサイズを、とアドバイスもくれて。


 れいちゃんは慣れてるのか、冷静に選んでいた。みーちゃんは半ば興奮気味で……コメントも次第に過激になっていた。

「ねえ、この黒のブラとショーツのセット、よくない? やっぱり色気と言えば、黒か赤でしょ!」

「ありあ、色も白いから映えるだろうけど……もうちょっと、ソフト路線がいいわねえ」

「えーっ……おにーちゃんが言ってたけど、一見地味な格好の女の子がセクシー下着着けてると、そのギャップで萌えるんだって! 脱いだらスゴイんですって感じ?」

「みーちゃん……コメントが……」

 ほとんど、オジサンだ。ありあは親友の知られざる一面を見た気がした。

「そうそう、昨日も思ったんだけど……」

 みーちゃんが試着室のカーテンの中に入って来て、手を伸ばした。

 

 ――ふにゃっ


「ひゃんっ!!」

 ありあは両手で胸を隠した。

「な、な、な、何するのよっ!!」

 ふっふっふ、とみーちゃんが笑った。

「ありあって、結構着やせする方だったのね。愛いやつよのう」

「みーちゃん~っ!!」

 もう、オジサン決定! ありあは涙目でみーちゃんを睨んだ。みーちゃんがむぎゅっと下着姿のありあを抱き締めた。

「ありあ、柔らかくて可愛い~っ!! 私が男だったら、絶対お持ち帰りして、すりすりしちゃう~!!」 

「みーちゃん、放して~っ!!」

 はあ、と呆れた様な溜息が聞こえた。れいちゃんも中に入って来た。

「その辺にしておきなさい? ほら、まだまだ選ぶわよ」

「ふあい」

 渋々みーちゃんが手を離す。ありあはほっと一息ついた。

「ほら、これなんかどう? ありあ」

「え……」

「あ、かわいい! ベビードールね」

「絶対似合うわよ? ほら着てみて」

「う……ん……」

 二人が試着室から出ていった後、迷いながら試着したありあだった。


***


「つ、疲れた……」

 ファミレスでアイスレモンティーを飲みながら、ありあはテーブルの上に突っ伏しそうだった。


「ああ、面白かった! ありあ、無茶苦茶可愛いかったし! 写真撮りたかったなあ……」

「や~め~て~っ!!」

「全く……ありあで遊ぶの止めなさいよ この子、純粋培養なんだから」

 れいちゃんの冷静な意見に、みーちゃんもはあい、と頷いた。


 ――結局、ベビードールに上下セット数枚、他の店で洋服に靴、それからみんなへのお土産……とあちこち動き回って購入した。

『これは、私達からのお祝い』って、ランジェリーショップ分は二人が出してくれたけれど。

(あれ、着れるのかなあ……私……)

 自信ない。あの格好で……グラントの前に出るわけ!?

(恥ずかしすぎて、死ぬかも……)

 でも、『必ず着るわよね? ありあ』とにっこり笑ったれいちゃんが……怖かった。言う事聞かないと……呪われるかもしれない……。

「あ、彰吾さん」

 れいちゃんが席を立って、手を振った。入り口付近に立っていた男性が、こちらに歩いてくる。

「紹介するわ。私の旦那様、武藤 彰吾さんよ?」

 ありあとみーちゃんも席を立ち、ぺこりとお辞儀をした。

「橋本 美恵子です」

「北野 ありあです」

「……武藤 彰吾です。お二人のことは、よく聞いてるよ。今日は玲に付きあってくれて、ありがとう」

 低めのバリトンボイス。仕事できそうって雰囲気の、スーツ姿の大人の男性。

(うわ~れいちゃんとお似合い……)

 みんなで席に付く。彰吾さんは、れいちゃんの隣に。

「ねえ、彰吾さん? これからエステにありあを連れていこうと思うの」

「れいちゃん、別にいいよ。疲れたでしょ?」

 ありあは口を挟んだ。れいちゃんだって妊娠中。今日はもう十分歩いたし、きっと疲れてるはず。

「大丈夫。僕が車で送るよ」

 ちら、とありあの後ろを見て、彰吾さんが言った。

「荷物も多いようだしね。運ぶよ?」

「あ、ありがとうございます……」

 スマートな対応。大人だぁ~……。ありあは、思わずぼうっと見とれてしまった。

「ちょっと、ありあっ。なにぽかんと口開けてるのよ」

 みーちゃんがありあを小突いた。

「ご、ごめんなさい……」

ありあが謝ると、れいちゃんが笑った。

「ありあの旦那様だって、年上でしょ? 慣れてるんじゃないの? 年上の男性」

「うーん……」

あんまり意識したことないなあ。

「仕事してるところとか、見たことないの? 大人って感じするじゃない、仕事に没頭する姿」

みーちゃんの問いに、ありあは普段を思い浮かべた。

執務室(プライベートルーム)には行ったことあるけど……謁見室(会議室)には来るなって」

「職場って家のすぐ近くなの? 彰吾さんのマンションは会社隣なの」

()が職場になるかなあ」

「じゃあ自営業みたいなもの? だったら何時でも会えていいわよねえ」

「何時でもって訳でもないよ、みーちゃん。貴族(お客)が来たら絶対来るなってうるさいもの」

「へえ~どうして?」

「声をかけてくるから、会わせたくない、だって」

「「「……」」」

 沈黙が暫くその場を支配した。やがて、ありあ以外の三人が、揃ってはあ、と溜息をついた。

「それ……どうよ、ねえ? れいちゃん」

「……怖ろしく、過保護なのね、きっと……」

「まあ、これだけ可愛らしいのだから、見せたくないのだろうね、他の男に」

 そう言って、彰吾さんがれいちゃんの肩を抱いた。

「……僕も同じ事を思っているから、気持ちは判るよ」

「うわ~アツアツ~」

 微笑みあう彰吾さんとれいちゃんを見て、みーちゃんが、手で仰ぐふりをした。

「もう、一人身の私の事、考えてよね~ちょっとは」

「……?」

 ありあはイマイチ会話の全容が理解できていなかった。

「えーと、来るなって言ってるのは、私が邪魔するからで……」

「「「……」」」

 再び、三人同時に溜息をつかれ、ありあの頭は「?」マークで一杯になった。


***


「まあ、すごい買い物ねえ、ありあ」

 シスター・雅子は目を丸くした。あの後、彰吾さんの知り合いが経営しているエステサロンに連れて行ってもらい……全身ピカピカになった。そのまま、教会まで彰吾さんが車で送ってくれた。

「洋服もかわいいもの、選んでもらったのね」

「はい……いろいろプレゼントしてくれました」


『これで、準備万端よ? 頑張ってオトして頂戴』

『私達の考えたシナリオ、忘れるんじゃないわよっ!』


 ……親友たちの温かい励まし?を受け……ありあは今から緊張していた。

(うまくいくのかなあ……)

 でも、シスターにはこんな事、相談できない。サリも……

(結婚してるってわけじゃないし……なあ……)

 向こうの人で相談できそうな人って……と思っていたありあの頭に浮かんだ、自分そっくりな顔。

(そうだ、サーリャ!)

 サーリャだったら、人妻だし、子どももいるし、きっと『向こうの世界で二人の作戦』がうまくいくかどうか、判断してくれる、はず。

(サーリャに相談してみようっと)

 暗闇の中、ちょっと灯りが見えて、ほっとしたありあだった。

*みーちゃんがオヤジ化してます(笑)

*れいちゃんは、ありあと同い年に見えないぐらい、大人っぽいです

*次はR15指定になる予定です(笑)

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