多極化
4-4突破で資材資源ががが
フサール=カーロイド陸軍卿はガボード=ザボ海軍卿とナッソー首都イルフナートのバーで上品に飲み交わしていた。
「ヨーカイ空軍卿はまだなのか」
彼らはウィスキー片手にヨーカイ=モーレ空軍卿を待っていた。
フサールは名前と違ってハゲ上がった中年。
しかし加齢臭などとは無縁の、オジサマ、と言うべき人である。
ガボードはふさふさ。
植毛疑惑があり、海軍内部で事実確認が急がれているも二十年間その秘密は隠され続けている。
ヨーカイ=モーレ空軍卿はふさふさ。
元空軍エースであったが、ベイルアウト時の事故で二度と飛べない体になってしまった。
「ロヴァーズ=シャーンドル少佐をあちらにやってよかったのか?」
ロヴァーズは今の空軍エース。
ヨーカイの再来とされ、二年前の戦争では大いに活躍した。
そのニュースをイルフナートで見ていたヨーカイは興奮し、もう一度飛ぶと言い出して周囲に取り押さえられ、ぎっくり腰になったのはご愛嬌だ。
「だが、少佐でなけれ誰があちらに行けただろうか」
彼のアフリカ戦線での敵エース、ヴュルガー小隊との激戦はいまでも語り継がれている。
前線の救援要請に対し、ナッソー空軍はアフリカに展開していた唯一のパイロットであったロヴァーズを単機投入した。
機体は対戦車戦を想定した重爆装攻撃機。
エンジンと羽があれば何でも動かせるマルチドライバーな彼だからできることだ。
しかし救援要請はロヴァーズ一人を狙った偽電であった。
対空兵器が数多く展開し、さらに迎え撃つのはルフトヴァッフェのヴュルガー小隊四機。
援軍はなく、退路も絶たれた。
ロヴァーズ機の無線周波数に合わせ、敵が降伏を呼びかける。
〈貴官逃げ場なし。ベイルアウトされたし。さすれば我々は貴官を礼節を持って迎え入れよう〉
4>1。
当たり前に考えれば勝ち目はない。
しかも制空装備の四機と対空兵器群に対し、重爆装の一機だ。
「戦力差は4-1、戦局は当方に極めて有利なり」
だがロヴァーズはそれを勝てると言い切った。
相手はドイツ空軍、ユーロトップのエース。
米空軍のリヴァイアサン小隊に引けを取らない最精鋭。
されどドイツ陸軍の対空部隊は壊滅、ヴュルガー小隊も全機撃墜。
4<1。
撃墜されてもしぶとく生き残っていたヴュルガー隊四人はこの後前線を離脱し、後方で教官職にまわされたらしい。
「遅れたかな?」
ヨーカイがやって来た。
これで三人の中年が揃った。
「まずは乾杯だ。友情に」
「友情に」
「友情に」
軍学校同期の彼ら。
いわゆる“五十二期ギャング(オゥトヴェンキィ=バンダ)”のメンバーだ。
ナッソー軍立大学校第五十二期生は極めて優秀であった。
それゆえ国、企業の上層部にバンダのメンバーが集まってしまったのだ。
横の繋がりが極めて強く交流なども活発だが、派閥が形成されてしまった。
三軍の長だけでなく、情報卿のラーザール=ジェルジエなど軍外にもバンダが蔓延っている。
「我らは良識ある面子ではあるが、後継者となるとそうはいかん。だがずっと我らがトップにいるわけにもいかん」
人事異動は組織の常。
人が動かねば組織は動脈硬化をおこしてしまう。
「バンダに近いことを傘に着る連中もいることだ。抜本的人事改革が必要だ」
定年前に膿を出しておきたい彼ら。
自身もバンダの繋がりで重工業との癒着があるというのに呑気なことだ。
彼らは三年後の定年後にはしっかりと天下り先が用意されている。
結局、自分たちの権益を譲りたくないのだ。
後進が自分たちの作り上げたシステムにタダ乗りするのが気に入らないというみみっちい理由である。
しかし、それがまかり通るほどにシステムは精巧で、それを隠せるほど彼らは古狸だった。
バンダの勢力は強いため、首相でさえ手出しをためらうほど。
というか前の首相もバンダだった。
今でもバンダ関連の大臣を更迭させようとすると、いろいろな企業や圧力団体が裏で仕掛けてくる。
彼らもバンダなのだから。
学費返済義務がなかった当時、ペーパーテストの成績が優秀なバンダたちは多くが民間に降り、起業した。
コネを活用し御用企業となったり、あるいは既存企業の重役にのし上がったりするなどした者もおり、バンダの影響は一気に広がった。
強い仲間意識と複雑に絡み合った利害関係がこのバンダの拡大を成功させた。
そして今、バンダは続々と現役から退きだしている。
そして権力の空白を狙った暗闘が活発化している。
警察は(長官は無論バンダ(来年定年予定(天下り先確保済み)))これらの動きでも目立つものを摘発し、暗闘を牽制した。
今、三人の軍司令官が集ったのは後任人事についてであった。
「陸軍としては‥」
「空軍なのだが‥」
「海軍の意見は‥」
三軍の司令官は対立しない方がいい。
だが馴れ合ってもいけない。
後任となる者たちはバンダとの関係は深いが、官民が馴れ合いつつも大して問題を出さなかったバンダとは違うのだ。
結局この密談は翌朝まで続いた。
同日、セントラルドグマでは日本とナッソーのマッドサイエンティスト達が打ち合わせをしていた。
地下にある巨人は再起動し、時折地震を起こすものの、その秘密は解明されつつある。
頑強な装甲板の正体、その内部の構造、製造時期。
今は複製を試みている。
人型機の欠点は、歩くときのバランスと酔いだ。
人間でさえ歩くと頭が上下に動く。
人型機のスケールだと悪酔いというレベルでは済まされないだろう。
かと言って常時飛ばしておくのも大変だ。
まずは安定しそうな四脚から試すことにした。
山岳地帯が多い日本でも使える多脚戦車だ。
整備性以外は結構いい線いくんじゃないだろうか。
「四脚じゃだめだ!キャタピラを!」
「ガチタンは邪魔なんだよ!」
「逆脚中量二脚がかっこいいぜ」
日本人技術者だけの会話ではない。
ナッソーにも汚染されたものは多い。
「ガチタンだけは譲れない!」
「多脚のほうがいい!」
この後、多数決という民主主義の基本に則った数の暴力によって多脚戦車に決定する。
動力の解明も進んだ。
龍脈だ。
「この世界には神聖性がある土地が多いのです。例えば皇居。例えばムラクモ神殿。ここらの“気”はとても綺麗で、美しい。この巨人はそれを食っていますのです」
「つまり、食って、汚して、終わりか」
「違いますのです。民俗学が絡みますが、“気”は使われ、“気枯れ=穢れ”ますのです。これを再生する機構もあるのです。それが“禊”“祓い”の儀式ですのです」
その口調、うざいからやめろと一人がいい、説明をしていた男がウザイのDEATH、と言い返す。
「その儀式はどうするのだ?」
「さぁ?」
すこーン、とスリッパが飛ぶ。
あべし、と男が額を抑えてうずくまる。
「さぁ?じゃないでしょ。調べなさいよこのアホたれめ」
オカマめいた研究員が抗議する。
「冗談ですよ怖いなぁ。コフン、‥祓いは簡単。“気”をぶつけるのです」
咳払いで気を取り直して説明再開。
「気枯れといっても、汚染じゃないのですのです。まだ仮説の域をでないなのでちょっといじれば戻るっぽい?」
この辺は実際にやってみればいいんじゃないかな、と男。
解散した後、彼らは巨人の動力炉の抉り出しと複製、その他実証実験に励むことになる。
新装開店した佐賀空港に、五機の戦闘機が着陸態勢に入っていた。
平べったいボディ。
蒼黒い海洋迷彩。
推力偏向ノズル付きの二基のエンジン。
ノーズアートには蛇。
《オロチリーダーより佐賀コントロール。着陸許可願う》
《佐賀コントロール、着陸を許可する。一番滑走路へ進入せよ》
《了解、着陸を開始する。列機は我に続け》
車輪を出し、高度を下げる。
《佐賀コントロール、貴機の速度が早い。減速されよ》
《現在正常速度で降下中》
管制塔は目を疑った。
減速するそぶりさえ見せず、彼女が華麗なランディングを決めたからだ。
《こちら佐賀コントロール、肝が冷えたよ》
《おや、風邪ですか?暖かくしてお休みになることをお勧めします》
新開発のヘルメットを脱ぎ、キャノピーを開ける。
加圧された空気がぷしゅう、と抜け、機は地上待機していたレッカー車に咥えられて格納庫へ向かう。
「全員ブリーフィングルームに参集せよ」
毎時十キロ程度でゆるゆる動くコックピットから飛び降り、不知火は先に施設の中に入っていった。
巻波、如月、霞、早霜は機がレッカー車に咥えられて止まっているうちに降りる。
そして不知火の後を追っていった。
「三沢よりの第二回フェリーを終了。これより再度三沢に戻り、F-3の第三回フェリーを実施します。いいですね?」
F-3戦闘機、十七年十二月に設計が始まったこの期待は、わずか半年で飛行試験をクリアした。
本来防衛省が指示したものとは違うが、それまでのギャップを埋める機体として事後承諾的に許可された。
扶桑重工の独断と暴走が開発させたその機体は、かねてからの心づもりのままに“烈風”と名付られた。
技術実証機“心神”を始め、国産戦闘機の開発は前々から行われていたが、この烈風騒動により発展途上であった技術は一ダース足飛びに発展し、防衛省希望の戦闘機開発もこれで弾みがついたのだ。
企業はこの烈風騒動で獲得したノウハウをさらに深化させていくことになる。
そしていつの間に作ったのかは知らないが、烈風性能向上型というのもあった。
烈風一一型(第一回、二回のフェリーで佐賀空港に運んだ烈風の先行量産機)をベースとして空自に正式採用される予定の烈風二一型をさらにいじって作られた烈風改。
エンジンを換装し、アビオニクスも手を加えたものだ。
さらに耐G関連もかなり弄られている。
結果機動性は向上し、とてもじゃないがただのパイロットには扱えないじゃじゃ馬になったのだ。
シュミレーションでも九割のパイロットは“墜落”した。
それをまともに飛ばせた数少ないパイロットが不知火と教え子たち。
烈風一一型はファントムライダーに任せて、彼女らは烈風改を乗りこなすべく移動するのだ。
ちなみに佐賀発の旅客機で三沢に戻る。
六月、ドイツ。
ハンブルクの街の隅にあるブレーメン=EI社の第三研究所でラインハルト=ハーデガンは歓喜の声をあげた。
「やった!やったぞ!」
日頃は無口な彼はかつてそんな声を出したことはなく、周りの研究者たちは何事かと彼の周りに集ってきた。
「こいつを見てくれ」
未だ興奮冷めやらぬ彼は、スクリーン上の設計図を見せる。
「これは...!」
「いつの間に‥」
彼の発明は今世紀三指に入る発明とされ、人類の歴史を変えたと後世に語り継がれるだろう。
「これは…世界線が収斂する地点となるかもしれんな」
だが、同様の革命的発明は同時期にドイツ各地で行われていた。
「緘口令だ」
ヨアヒム=シュプケドイツ首相はそれら革命的発明の情報流出を厳しく規制した。
「よいのですか?」
秘書は民主主義の観点から緘口令に否定的だ。
「これらの発明を世界に知らしめ、我が国の威信を高めるべきでは?」
「ナイン。今は調停機関たる国連がない。メルボルンのアレは国際連盟的な立ち位置に過ぎず、世界平和をもたらすわけではない。そして英仏のごろつき共は現状好景気とは言えない。この技術はドイツを軍事的に圧倒的優位に立たせるものだ。それを恐れて連中が侵略して来ないとも言えない」
徹底して秘匿し、早急に隣国に攻められることのない軍事、経済力を身につけねばならない。
世界大戦の度、国土を夷狄に蹂躙されたドイツ。
もう関わりたくない、というのが本心だ。
一次大戦ではヴェルサイユ条約。
二次大戦ではマーストリヒト条約。
他国に国富の多くを奪われる悲しみを彼らはよく知っている(ちなみにEUでは負担も大きいがかなりの利益を出していたりもしていた)。
「せっかくEUの弱者どもを背負わなくてよくなったんだ。厄介事は少ないに限る。可愛そうだが、例の部隊を結成するぞ」
「本気ですか!?貴方は‥もしかしたらそれは三度目の悲劇をもたらすやもしれません」
「権限は最低限に抑える。時限立法で蔓延らないようにもする。アポトーシス付きのウイルスだ。俺の後任には触らせん。俺の代だけで体制を作り上げて潰すさ。これは最もコストパフォーマンスがいい手法だ。同時に短期間で済む」
「首相、どうか主にお誓いください。濫用しないと」
「神に誓うよ。私はただ一人これを使い、ドイツ国民のために地獄への階段を降りる。これは俺の道だ。誰にも渡さんし、逃げたりはしない」
真摯な姿勢は本物だ。
(この人は‥)
秘書は一礼し、首相の指示を正確に遂行する。
ドイツ第三帝国の秘密警察、ゲシュタポ同様の組織を組むのだ。
目的は秘密保護。
漏らすもの、盗むものを探しだし、処理する組織。
ドイツの薄暗い記憶。
触れてはいけない記憶。
(ネオナチの動きも最近活発化している。警戒が必要だ)
アメリカはネヴァダ州。
砂漠の真ん中の研究所で白衣の男が一心不乱に電極を振り回していた。
「ぐわっわあああああ」
「足りないよ!もっとだ、もっと上げろ!」
助手が電圧を上げ、かえって悲鳴は小さくなる。
否、被験体が絶命したのだ。
「人間は脆いな」
「全くです」
といいつつ助手が次の被験体とともにアンプルを差し出す。
「配合分量を微妙に変えております」
「良きかな良きかな」
ぶすりと新たな被験体の心臓のあたりに針を差し込む。
「ぐっぁ」
「第七十九回実験、開始する」
「観測機正常」
「っ、あああああああああ」
毒々しい緑の液体が男に注射される。
血管が浮き出て、眼球の毛細血管が破裂する。
拘束具に繋がれた腕が暴れ、太い鎖を引きちぎらんとする。
「あああああああああ」
「通電」
飽くことなく続く実験は無知の者からすれば無駄に見える。
ただの拷問趣味だ。
しかし彼は言う。
これは強化人間プログラムだ、と。
アメリカ政府が恐れたのは日本の忍者。
日本内務省のUOG所属特殊任務従事諜報員のことではない。
多勢に無勢でありながらも死を恐れず突撃してくる旧大日本帝国軍の兵士のことだ。
七十年前の亡霊は未だアメリカに取り付いていた。
きっとアイエエエエエ、と叫びつつホワイトハウスに襲いかかってくるんだ。
特に近年はジャック=クロフォード大統領の情報封鎖によってアメリカ国民はステレオタイプの日本人像をよく見るようになってしまった。
謎の忍者が西部劇チックな保安官に斃されるような番組を子供むけ人気カートゥーンでやるくらいだ。
勧善懲悪の正義を幻出するために、日本のイメージはとても愉快なものになってしまっている。
道具もなしに宙を舞い、腕から不思議な光線を放って無差別に市民を殺す忍者。
銃弾はすべてハラキリソードで切り刻まれ、接近戦に持ち込めば正義の味方の仲間のモブを一瞬で殺す忍者。
その妄想を打ち砕くためには強い力が必要なのだ。
ファンタスティックでスーパーで、絶対無敵の強い力。
ちなみにカートゥーンの主人公は金髪碧眼筋肉もりもりマッチョマンで、忍者は出っ歯小柄なメガネだ。
ステレオタイプに忠実である。
「ならばショーグン型戦艦やキング=オニなんかを作ってアメリカを潰さないとな」
「大臣、お戯れを」
日本、内務省。
UOG、Unknown Operation Groupのオフィサー、鬼怒は大臣日向の前に立っていた。
「なんてことはない。アメリカの人体実験はフェイズセブンに移行したらしい。これで連中、強化兵士と機械歩兵を送り込んでくるぞ」
「リニアコイルでぶっ飛ばしますか?」
「名案だが、まず海で沈めるのが一番だ。そもそも研究に失敗すればいいのに」
「御意」
しゅん、と消える鬼怒。
UOG発足以来、ちょくちょくアメリカに渡っていた彼もまたアメリカのステレオタイプに汚染されて忍者化していた。
彼の格闘術は一級品で、能代がまだ修理中の今は唯一のUOGオフィサーだ。
まぁ七名のオフィサーのうち五名は欠番で、本当にやる気があるのか疑いたくなる。
‥ただかっこいいからやってると言われても、きっと納得するだろう。
「さて、ドイツは愉快なことをしている。アメリカも、我が国もだ。そしてイギリスもどうやら英国面に墜ちつつある。この世界はまだまだ面白くなるな」
鬼怒が消え、無人のはずの大臣室。
しかしコトリと音がする。
背後二ヤード、七時の方向だ。
「大臣。もしやあなたは異世界からいらしたラノベの主人公かなにかですか?」
「そうだと言ったらどうする?能代」
「物語途中で死ぬ主人公ってのも、ありじゃないですか?」
右手を日向につきつける。
「冗談半分さ」
「いっそ本気なら面白いんですけどね」
手首が開き、右腕から紅茶が注がれる。
「いいギミックだ。だれの設計だ?」
阿賀野が趣味で組んでくれました、と能代。
「君らUOGには期待しているよ」
「でしたら、人員を何とかしてください。七人編成で二人とか罰ゲームです。恥ずかしいですよ」
あなたの遊び道具みたいで、と付け加える。
「はっはっは。優秀であれば、な。君らほど凄いのを私はまだ知らない。推薦があれば頼む。優秀な駒は多いほうがいい」
この紅茶美味しいねぇ、誰がいれたんだ?
駒、と、さらりと非情にいう日向。
能代も気にした風はない。
「おっぱいが大きな女性電二課員です。そこしか見ていなかったもので、名前は知りません」
電波部二課、国内のネット工作を主とする部署だ。
「そういや新発売の香水をふってましたね。バラのやつです」
「そこは覚えているのか」
「朝使っているのを、ホテルで見ましたから」
「...」
お手つきのようだ。
「おい能代。イギリスのお嫁はどうした」
祟られるぞ、と日向。
「下世話ですよ大臣。彼女とはビジネスで付き合いがあるだけです」
ヴァレリー=メディロスは羽田空港の入管に並んでいた時、可愛らしくくしゃみを一つ漏らした。
(また何か言ってるわね。あとでミンチにしてあげるわ)
ロンドンの無実の部下に誤った殺意を飛ばす。
偶然か必然か、そのときエドワード=サイフレットがくしゃみをして紅茶を腕にこぼしている。
彼は“きっとお嬢がやつあたりでもしているのだろうな”、と正解を言い当てている。
「Whats the purpose of visit ?」
「On bisiness」
「Have a nice days」
定型文のやりとりを終え、キャリーバッグを回収する。
京急に乗り、まずは在日英国大使館へ。
預けてあるステアーS40-A1拳銃を受け取る。
オーストリア製の拳銃で、九ミリパラベラム弾を十三発装填。
いつものCz75は持ち込めなかったので、“こんなこともあろうかと”日本の大使館に用意しておいた予備銃を使うのだ。
もとのステアーM40と違い、S40-A1は小型化近代化され、使いやすくなっている。
そのくせ弾薬と弾数は同じなのだから恐れ入る。
(KAIZEN、というやつね)
足らぬ足らぬは工夫が足らぬ、をモットーに無理を気合で何とかしてきた日本のものづくりを範としたKAIZEN。
オーストリアも目立たない国だが、やるときはやるのだ。
ちなみにステアー社の有名な銃はステアーAUGだ。
ヴァレリーはスケルトンめいたAUGがあまり好きではない。
L85A2のほうがまだいいとさえ思う。
(まるで骸骨じゃないの)
大使館を出て、浅草にホテルを取った。
とくに理由はなく、アサクサという街のセンソーテンプルで土産を買ってこいと上司のMに言われたのだ。
翌朝から観光を始める。
(あれが‥センソーテンプル?)
大きく雷と書かれたジャパニーズ=ランタンを潜り、スクールトリップ中らしいステューデンツやビジターでホットなナカミセストリートを歩く。
(Whats that !)
ハンドメイド=バンブー=アートのテナントの前で立ち止まり、ジャパニーズ=ファンが飾られている一角に立ち止まる。
タートルめいた歩みでナカミセ=ストリートをエンジョイするヴァレリー。
だから後ろからアーティフィシャル=ハンドアンドレッグの男がストーキングしていることに気が付かなかった。
(How nice cloth !)
ジャパニーズ=ワーキング=ウェアを掛けている店の前で立ち止まった時、突如として後ろから声をかけられた。
「...follow me」
「Take me the L size one. .. no, the black one. yes yes」
Thanks、と作務衣を受け取って義手義足の男に続く。
「生きてたの?しぶといわね」
「よく言う。助けたのは君だろう」
「生きた貴方を引き渡すことで、恩を売れるからよ」
「しかし手放しかけた命、拾ってくれた君には感謝が尽きない」
「な、なによ。別に感謝なんていらないわ」
(ツンデレ乙)
内務省電波一課、阿賀野は能代の襟元のマイクから情報収集をしていた。
電波一課は対外諜報の中でもSIGINTを行う部署だ。
必要とあらばペンタゴンでもクラックする。
(何が悲しくてリア充の会話を聞かにゃならんのか‥)
無論、情報収集のためだ。
(わかってるさ。給料分の仕事はする。でも愚痴くらい言わせろよな)
かく言いつつも、阿賀野はアメリカの掲示板を漁っていく。
同時にタブを四つ開き、オートでスクロールしながら英字の羅列を読み込んでいく。
欲しいのは反政府的な思潮。
しかしそのほとんどはアメリカ政府に消されているらしく、不自然な欠落が目立つ。
(自由、自由ってなんだ?自由を守るために自由を侵害していることを振り向かないことさ)
パラノイアめいた矛盾。
(アルファコンプレックスに近づきつつあるのかも知れんな)
その果てにあるのは人類の窒息。
「なぜ国家が存在するか。それは国家だけが人々に採算度外視の平等を与えうるからね。利潤を追求する企業には決して不可能なこと」
「人々に自由を与えることこそが国家の存在意義。しかしアメリカはマスメディアと政治を同じ人間が握っている。自浄作用が働かないわけだ」
「パックス=エコノミカ。企業による超資本主義的統治。金が全ての格差社会」
「貧民には生きる資格なく、上位者の奴隷となる。そこに未来はなく、希望もない」
能代とヴァレリーは東京タワーの展望台にいた。
「しかしアメリカの閉塞が速すぎる。ネット検閲を行い、思想統制を行ってもここまで早く閉じこもったりしないだろう。現に今でも東京にはアメリカ人がたくさんいる」
もともとグローバリゼーション=アメリカナイゼーションの先頭をきっていたアメリカ。
それがボーダーレス同然の状態から二年も経たずに鎖国を完成させてしまった。
「アメリカ人は自由の民。自らの自由意志で鎖国を選んだのなら、この鎖国も理解できるかもしれないわ」
「そしてその自由意志を統制可能な大統領。メディアと権力の癒着ほどどうしようもないものはない」
「困ったことに暴力もオプション装備よ」
州軍が暴走しないかしら、と顎に手をやるヴァレリー。
「たった一年の戦争、たった一度の戦争でアメリカ人は自らの正義を失ってしまったんだろうな」
「“不敗の自由守護者”という看板を落としてしまったんですもの。アイデンティティの喪失ね」
厨二病患者が賢者モードに突入した状態だろうか、と能代は黙考。
「いずれにしろ、今は後ろにいる奴を殺す必要があるな」
能代はベレッタM90-two、ヴァレリーはステアーS40-A1を。
彼らの後ろにいたコートの白人は大型拳銃のLARグリズリーを抜く。
「Lets Partyyyyyyyyyyyyyy !!!」
もうね、【戦闘(陸海空)】【諜報】【政治】【経済】この四つをバランスよく書いていくとか無理なんじゃないかな、って思うんだ。風呂敷広げ過ぎ症候群。
でも私、やるよ。趣味だし。 以上、言い訳めいた愚痴でした。
あと話の切り方が下手だからタイトルつけにくい。