表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

モンティパイソン

二〇一七年五月十九日。

鈴谷正雄佐賀県知事はそれを見ていた。

列島改造の一貫で作られたはいいものの、たいして利用者はおらず、立地も悪く使われなかった佐賀空港がついに改修されたのだ。

バードストライクの多さ(干潟の埋立地にあるのだ)と利便性(なにしろ周囲一面が田んぼである)以外において特に欠点がないこの空港は時として上海便なんかを置くことで生き残りを図ってきた。

しかしその日本人利用者が少ないLCCはいつの間にか倒産し、一日五便のスカスカの羽田行きだけになった。

福岡空港の一部を移転するにも利便性に難があり(なにしろ周囲一面が田んぼである)、空自や在日米軍の移動も時の知事が駄々をこねてお流れになった。

そのため少ない県民の少ない税金で赤字空港を維持していたが、ついに鈴谷が知事となったことで改革が推し進められ(無駄に金をかけた割に成果が出なかったICTによる教育や通り道でしかない九州新幹線長崎ルート敷設など)、県は若干より良い方向へ歩き出したのだ。

そしてその最大の功績とされる異世界とのゲート誘致。

片田舎の地方都市(意地でも都市と言わせてもらう)であっても病的に整えられたインフラと、八十数万程度の人口と合わせて片田舎のさらに田舎、しかしながら線路はある小さな町にゲートは置かれた。

それに伴う鉄道と空港の増設は北部九州の建設関連を多いに潤した。

日本人らしく過剰に環境へ配慮したエコロジカルな空港となったのだ。


鈴谷はハサミでリボンを切った。

伊勢外相やナッソーの外相、国交省大臣などの重鎮たちの端っこでテープカットを恙無く行った鈴谷。

表面上の平静を装うだけでいっぱいいっぱいである。

これまでのような見晴らしは望めないが(なにせ周囲一面が田んぼであったのだ(まぁ見晴らしといえど、見れるものは遮るもののない青天井か干潟の泥くらいだが))、新しく作られた駅舎や小さな魚港というか地元漁師の船着場(小型船ならば干潟とムツゴロウ(ハゼ科の魚)とワラスボ(エイリアンっぽい魚)の隙間を縫って有明海に出られるのだ)、関係者向けの住宅や商店が立ち並んでいる。

今や県庁所在地の佐賀市より賑やかなんじゃないだろうか。

現に佐賀市のシャッター商店街あたりの連中はこっちで商売をしているらしい。

空港エリアと市内はこれまでは田んぼにより隔てられていたが、いまでは田んぼが潰されて街が繋がりかけている。

(賑やかに慣れば税収も増え、給料も上がるというものだ)

‥果たしてそううまく行くものだろうか。

公務員の給料は人事院が決める。

木っ端知事にそんな権限はないのだ。

(これで悠々自適な老後を過ごせるな)

‥もしかしたら人事院がちょっと色をつけてくれるかもしれない。


佐賀空港は滑走路が三本に増え、その分干潟が埋め立てられた。

管制施設は空自が管轄し、施設も増設された。

さらにゲートと空港をつなぐラインも敷設され、駅舎も整えられた。

ゲート側の立派なプレハブ駅舎も改装され、巨大なプレハブ駅舎へと進化した。

これらを正規のものに置き換える準備も始まっており、佐賀はあと五年は建設ラッシュとなるだろう。

無論速成工事だからといって手抜きはない。

地震は滅多にこないが耐震基準は余裕でクリアしている。

そしていざとなれば要塞にもなる。

伊万里から唐津港も要塞化された。

これは大陸に近いため、特殊部隊が浸透する恐れもあるからだ。

佐世保にいる陸自西部方面普通科連隊も増強され、これらの港湾施設警護にあたる。


(西の守りは万全だ。米軍が来ても余裕で塵殺できる)

防衛大臣の足柄は、しかし満足していなかった。

(だが第四軍を早く実現せねば)

第四軍。

アメリカ海兵隊のような政府直轄の機動性のある軍だ。

西普連の増強でそれをなそうとしていたが、この度の佐賀防備と従来の南西の防人としての両立は厳しく、佐賀には別の陸海空混成部隊を置きたかった。

(戦略自衛隊…駄目だ。悪役になる)

どうやら気の早い連中が名前だけ考えてきたらしい。

(他のもアニメのパクリとセンスがないものばかりだ。全部却下な)

足柄は佐賀出身。

郷にいいとこを見せたいのだ。

(できれば佐賀以外にも動けるようにしたい。第四軍の隷下に佐賀防衛軍を置きたい‥)

海自所属のままの技術開発研究本部や情報部を統合するのもいい。

(そうだ)

何かを思いついたらしい。


急須と湯呑みを退け、机上に空間を拵える。

半紙を敷き、墨をする。

まずは一点。

「‥間違えた」

中学の習字の授業は寝ていた足柄。

担当がよくわからない奇妙なオジサン(寝ていた同級生に「立っとけ」と言い放った二十秒後に「目障りだ、座れ」真顔で言ったり、なにか雑談を初めて男子が話すと「男は黙っとけ」と言い出して女子の方に向き直ったり)であったのも理由だが、どうにも昔から上達しないからか習字は嫌いなのだ。

なぜそれを忘れて半紙を出したのだろうか。

多分文化人らしいところを見せてカッコつけたかったのだろうと後に秘書は言った。

カッコつけるのは諦めて雑に書く。

「味があっていいじゃないか」

堂々と恥じらいもなく書かれた三文字。


“近衛群”


「というわけで、第四軍は近衛群でいいんじゃないかと思う」

「近衛なら第一機動隊が皇居のそばにいたと思いますが」

「かと言って海兵隊ってのも違うじゃないか」

防衛省で開かれた会議。

議題は第四軍について。

「戦略自衛隊でいいのでは?」

「地球防衛軍だろ」

「ウルトラ警備隊なんてどうですか?」

「てめーらは黙っとれ。ただ二文字“男塾”と書きゃいいんだよ」

呼ばれていた海幕長の山城は頭を抱えた。

スパイ疑惑のある連中を排除したはいいが、残ったのはなぜオタクばかりなのか。

ちらと横目で空幕の夕立を見るが、彼はノリノリで科学特捜隊案を出していた。

(ダメだコイツら。早く何とかしないと)

三時間経てど会議は踊り、されど進まず。

いつしか国民の税金を電気代などに遣っている真面目なはずの会議は方向性を珍妙奇天烈、摩訶不思議な方へと傾けていた。


足柄が立ち上がってなにか全身を奇妙に揺らす。

四つん這いになって何かを咀嚼するような格好に見えなくもない。

「んー、犬」

足柄がパタパタと手を振る。

違うらしい。

「んー、ドリル」

パタパタ。

「んー、エヴァ!」

喜んだふうに飛び上がってサムズアップ。

続いて両手を前後に同高度に揃えて腰を落とす。

「んー、アフガン航空相撲」

パタパタ。

「んー、地引き網漁の様子」

パタパタ。

「んー、兵士」

サムズアップ。

続いて何かを観下して右手を斜め前に出す。

「ネルフ職員を射殺する戦自隊員だ!」

ものすごいいい笑顔で足柄がサムズアップ。

戦略自衛隊はアニメ的にいい印象がないと言いたいらしい。

「ならば次は私が」

夕立が立ち、どこからか取り出したスプーンを右手で空に(難燃性の天井と蛍光灯しかないが)かざす。

「んー、自由の女神像」

パタパタ。

「んー、ベータカプセル」

サムズアップ。

次に頭の上に両手を上向きに置く。

「ウルトラマン‥んー、ツインテール」

「そうか、グドンか」

「エビの味がする自衛隊だと?」

彼らは立派な背広を着たいい年こいた大人だが、言っていることが支離滅裂である。

全力で夕立がパタパタ。

「んー、ゼットン」

サムズアップ。

「でも科学特捜隊はウルトラマンがゼットンに負けるまで対して役にたってないでござるよ」

陸自から来た男が子どもたちの夢を壊すようなことを言う。

夕立がまたもジェスチャー。

今度は何だと皆が注目した時だった。

「何よこれは!まるでスペイン宗教裁判よ!」

女性職員が叫ぶ。

皆がドアに注目。

その時ばーんとドアが開く。

三人が入ってきた。

一人はメガネ、一人はアタッシュケースを片手に、もう一人は年齢不詳の女性だった。

皆が期待の目を向ける。

「え、何?」

「五十鈴法務大臣!そこは“Un~expected Spanish Inqusition!!”(まさかの時のスペイン宗教裁判!!)でしょう!」

「ごめんなさいねぇ。坊やが何を言ってるのかさっぱり分からないから殺すわぁ?」

「調子こいてすいませんでしたァ!」

いいのいいの分かればぁ。

五十鈴は掴みどころなく宣う。

「で、あなた達は税金を浪費しながらモンティパイソンごっこをやってたのぉ?防衛省もいいゴミぶんだわぁ」

ご身分、とはどうしても変換できない、させない威圧感があった。

ははー、とモンティパイソンごっこに興じていた連中が水戸黄門を前にした悪代官の如くひれ伏す。

「うむ、苦しゅうないわぁ」

その間にも二人の随員(山城は魔女の使い魔だと思った(その瞬間誰かに睨まれた気がした))はディスプレイにプレゼンを用意する。

「お仕事ご苦労さまぁ。さぁ立ちなさい下僕共。公安委員会から素敵なお知らせよぉ」

公安委員会は法務省の国内諜報組織。

内務省管轄の公安警察とは別組織。

秘密が多いため問題もあったが、五十鈴が大臣についてからは一斉処分行こなわれたため組織の膿は取り除かれた‥らしい。

「薄汚い中国生まれのダニ共が企てているテロの計画を掴んだわぁ。下手人は分解したけど殺しそこねたのがいるからお知らせに来たの」

十五名の訪日中の中国人がリストアップされる。

うち七名に横線が引かれている。

「多くはバラバラにして大阪港に沈めたんだけど、蛆虫どものリーダー、地下に逃げちゃってさぁ」

写真が表示される。

四肢をプレス機か何かで粉砕され、指先は製麺機にかけられたのだろうか粉々だ。

臓物はすべて引きずり出さればらばらに再置換されている。

「人間がどこまで残虐になれるかのサンプルということか」

足柄も正視できずにいる。

件の女性職員は顔色を変えて口元を抑えて化粧室に駆け込んだ。

頭蓋骨は上半分が外され、脳みそがあったであろうところに焼けた火箸が突っ込まれている。

脳みそをかき回したのか。

「えぇ。やっちゃったみたいね」

実行犯は恐らくBM班だ。

BM班は暴走族や少年院から“素質のある”少年少女を連れ出して、書類上の新しい戸籍を与え、調教した組織だ。

必要なら仲間を見捨てる冷酷さと、仲間のために命を投げうつ友情を兼ね備えた法務省公安委員会の精鋭。

粛々と痕跡すら残さず任務をはたす連中だ。

同様の隠密組織は内務省UOGや防衛省SCGなどがある。

UOGは内務省の他のオフィサーと違って大臣直轄かつ単独行動が基本で機動性が高い。

内務省オフィサーでも一部の精鋭のみで構成され、任地も制限がない。

SCGは現職自衛官だけじゃなく大卒生なんかも使う。

で、今回の工作員はそのBM班でも特に荒くれで知られる“erasurer(抹殺者)”。

粗にして野のうえ卑という救いようのない連中。

示威を含んだ汚れ仕事に最適。

「でもいいメッセージになるわぁ」

「イカれてるよ、あんた」

「それはそれは。褒め言葉と受け取っておきますわぁ」

五十鈴は意にも介さない。

「我々はこいつらを一匹残らず殺すことにしてるの。この地球のどこにいようとも、イラーシャラーを差し向けるわ。防衛省にはテロの標的となったポイントの警備をお願いするわぁ」

パワポに表示されたのは原発が七箇所。

「よろしくねぇ」

公安は探し、殺すことでテロを防ぐ。

警備のノウハウはない。

「内務省にはすでに連絡済よぉ」

手をひらひらさせて法務省からの来訪者は去っていった。



4-4ボス、ボス前で毎度大破させされる‥

運命力が足りないのかしら

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ