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揺れた新年

揺れない龍讓

内務省。

日向大臣は内務省エージェント、能代孝義回復の知らせを聞いた。

「まずは休暇を与えよう。ただし、しばらくは外に出すな」

紅茶を優雅に注ぎつつ部下に指示する。

茶葉の香りが室内に立ち込める。

(そうか、生き返ったか)

その声は嬉しそうだった。


能代が隔離されていたのは横須賀の技術開発研究本部の一角らしい。

右手右足の違和感はなかなか消えない。

覚醒してまだ十時間しか経っていないのだから仕方ない。

右半身は被曝により壊死、機械化された。

義足は外側が開くようになっており、そこにナイフやチクワをしまうことができる。

義手も手首にナイフを仕込んでおり、猫じゃらしなんかも入る。

これまでの右手、右足同様の反応を見せる義手は、ナマの手足より使い勝手は良さそうだった。

白衣のマッドサイエンティストの話ではスペインの病院で応急措置を受け、その後空輸されてここに搬入されたという。

義手関連技術の粋を集めた、ステキなボディーに調整したので期待してほしいとのこと。

内務省エージェントとして再就役できるように苦労したらしい。


(歩ける、走れる。むしろ手付かずの左が足を引っ張っているな。全身換装してもらえばよかった)

彼は“魂こそが人間であり、体は入れ物にすぎない”と考えるタイプの人間だ。

白っぽいイキモノに魔法少女にならないかと誘われれば、躊躇いもなく契約するやもしれない。

(とりあえずオイルサーディンでも突っ込んでおくか)

意識のないボディーにお見舞いなど必要なものではないと思うが、置かれていた缶詰の一つをしまい込む。

手首は念じれば外れるらしく、思念一つで手首の腱のあたりがくぱぁと開いた。

手首を外側に捻った時とは違い、いや確かに手首で開くのだが、手の甲が腕に触れている。

(キモっ)

しかしオイルサーディンのサイズはギリギリ手首に入らないらしい。

諦めて缶詰をデスクに戻した。

(右手足の触覚はある。そして外れた状態でも動く。キモいな)

とりあえず供物の山にあった魚肉ソーセージを突っ込んでおくことにした。

(しかし腕の中に物をしまえるとは、便利な時代になったものだ。腕の中に何かあることは質量で把握できるが、格納スペースの表面にまで触覚はないようだな)

腕の中にまで触覚があったとしたら、設計者はよほどの変態か奇人であろう。

そのような触覚など従来の人間の脳にはなく、そして脳を弄れるほどこの時代の科学技術は進歩していなかった。

アメリカでは極秘に生体実験をやっているとの情報もあるが、内務省ではなかなか尻尾を掴めないでいた。

同じくエージェントの由良の情報では、ネヴァダに極悪非道の悪の組織の実験場があるらしいが。

(まずはリハビリだな。左が足を引っ張っているならそれを整えればいい)


オホーツク海上空。

四機のジェットエンジン機が必死に一機のレシプロエンジン機を追い回している。

レシプロはひらりひらりと優雅に宙を舞い、ジェットが不様にてんてこ舞いしている。

空自の不知火と生徒たちだ。

「少しは上達したかと思いましたが、大したことはないのですね」

〈なぜ落ちない!〉

「早霜訓練生、背中ががら空きです」

ハードポイントに外付けの機銃からペイント弾が撃ち込まれる。

これでまた一機が蛍光緑に染まった。

「霞、よそ見をしている暇があるのですか?如月、加速が遅いのは怯えとみなします。巻波、チームワークを覚えなさい。その程度で高空からの奇襲を狙っているのでしたら、もう一度前世から産まれなおすことをおすすめします」

レシプロ以外は皆緑に染まっている。

しかし訓練生達は一人として教官にかすり傷さえ与えられていないのだ。

オロチ小隊の生き残り、世界最強を歌われる不知火が指導を始めて十ヶ月、四人の訓練生は未だ及第点を貰えていなかった。

同期の訓練生が早々と課題をクリアしてく中、特殊メニューを組まれた四人はエースオブエースに毎日貶されていた。

毎日というより毎時、と言うべきだろうか。

はたから見れば四人のレベルはそれこそオロチ小隊には及びもつかないが、他の部隊では十分一線で通用するレベルであった。

それでも不知火が指導を止めれないのは、彼女に与えられた指示が“オロチ小隊の代替となるエースを育てる”ということだったからだ。

生真面目な彼女である。

三途の川を一ダースほど往復させればエースに育つだろうと真面目に考えていた。

〈教官、燃料がレッドゲージです〉

「そう。今日はこれで閉めます。全機帰投」


数刻後、ハンガーにて不知火は整備士のおじちゃんに叱られていた。

「いいかい嬢ちゃん。いくら指導とはいえエアインテークを狙うんじゃない。下手したらあれだぞ、なんだ、落ちるぞ。今の季節のオホーツクは冷えるぞ?嬢ちゃんも知っておるだろう。機体もタダじゃないんだし、塗るところは気をつけておくれよ」

萎れて帰る不知火。

しかし、はたから見る限り普段と何ら変わりはない。

むしろ不機嫌そうである。

ゆえに司令部の廊下を歩くときも、行き交う多くの兵が彼女に道を譲っていた。

「一佐、どうした?」

しかしそれを気にしない男がいた。

ここ千歳基地の指揮官である伊吹上級一佐だ。

「いえ、大丈夫です」

「おおかた、整備の爺に小言を言われたんだろう。まぁ、気にするな。イジェクト経験をさせてやるつもりでいけ。うちには千歳救難隊がいるんだからな」

救難隊は自衛隊でもトップクラスの強靭さを持つ連中で、陸自のレンジャー研修を受けたものも多い。

高山から海中まで、あらゆるところで人命救助を行う部隊であり、オホーツクに落ちたヒヨッコの回収もやってくれる。

「お前はヒヨッコをせめて音速で羽ばたける程度に育てろ。他のサポートは俺の方でやっておくから」

「感謝します」


セントラルドグマ。

ナッソーの山奥で怪しげな研究を続ける最上は、二週間ぶりのシャワーを浴びていた。

水が通っていないとかではなく、時間が惜しいのだ。

直径一キロほどの地下空間に鎮座する巨人を蘇らせてみるためにはあらゆるところを調べなければならない、と信じこんでいる。

どうすればどうなるかが一切不明なので、まずは手が出せる範囲からバンバンやっているのだ。

「次はこの部分にショックを与えて‥」

「前にやったことをもう一度やるのか」

「行けると思うんだよ」

マッドサイエンティストの心が惹きつけ合うのか、すでに翻訳機は使わずにコミュニケーションをとっている。

ラミネートフィルムされた工程表を片手に、裸で垢を洗い流す男たち。

余程のことがない限り、シャワーはだいたい三週間に一回のペースで浴びるという不文律があるのだ。

浴びないと臭い。

でも時間が惜しい。

この葛藤の末に出来た三週間なのだ。

空調が完璧なはずの地下空間では特に問題もないだろうとの意見もある。

しかし、視察に来たナッソー軍幹部があまりの異様さに逃げ出したという話もある。

マッドサイエンティストの体か、雰囲気か、どちらかに恐れをなしたのだろう。

最上は二十三日ぶりのシャワーから出て先ほど話した犬耳のマッドサイエンティストと受け持ち区域に行く。

「いい加減、なにか答えろよな」

巨人の装甲をペチペチとはたく。

材質不明の合金だ。

装甲の隙間に電極を差し込み、電流を通す。

やはり反応がない。

「最大電圧でやってみようぜ」

横から悪魔の誘いが。

「しかし、一箇所だけなら意味がないんじゃないか?」

最上は何かを思いつたような顔で同志研究者を見つめた。

「そういえばまだやっていませんでしたね。てんでんばらばらにやっている弊害ですな。同志モガミ、やりましょう」


十分後、各部で一斉に通電試験が行われた。

直後、セントラルドグマで地震が発生する。

「メーデー、メーデー、メーデー!セントラルドグマにて地震発生!繰り返す!セントラルドグマにて地震発生!」


地震発生の一週間前、阿武隈はイルフナートのホームレス街を抜け出していた。

日本大使館にて装備を受け取った後にバスへ飛び込んだ。

ホームレス仲間の皆には悪いが、戻らないかもしれない。

そして地震発生の瞬間、彼女は中部山岳地帯北側の森林地帯にいた。

震央だ。

(マグニチュードで四ぐらい?直下型!)

ターミナルドグマからわらわらと逃げてきた研究者をかわしつつ、状況がわかるところまで移動する。

エスカレーターを駆け上がる運動不足の白衣ども。

その中に資料で見た顔を見つけた。

扶桑重工の最上だ。

九州産まれで地震に不慣れな彼は半狂乱になって出てきた。

よく見ると日本人は脱出者の中にはあまりいない。

落ち着いているものも多く、最上のようなパニックになっている日本人は最上一人だ。

その数名の日本人は重要書類を運んでいるらしい。

おそらく残って被害を食い止めようとする連中がいるのだろう。

「アブクマーより大使館、地震は例の施設です」

きっと研究対象が暴走しているのだろう。


鈴谷は上司の最上を見捨て、多くの日本人研究者とともに残った。

獣耳もいくつか見えることから、ナッソーの連中にも肝の座った男はいると見える。

「大きな機械からは離れろ!潰されるぞ!」

「スパナなんかは片付けちまえ!散らかったら逃げられんぞ!」

「対象に変化!」

目が光った。


西暦二〇一七年を愛宕は頭痛とともに迎えた。

昨年は落ち着いた戦間期と思っていたが、最後に面倒ごとが起こった。

ナッソーで研究中の遺跡で地震発生、古代兵器が起動したのだ。

ありたけの情報を集めさせているが、ナッソーの情報封鎖でうまく行っていない。一月三日の時点でゲートを超えた通信に検閲がかけられたのだ。

簡易的な暗号を用いた通信で状況把握は行っているが、いかんせん詳細を大使館ですら把握しきっていない。

技術開発研究本部としては優秀な研究者を失いたくはないのだ。

なんとかして異界の地の状況を把握しなければならない。

「しかし手の出しようがないのも事実。足柄大臣に要請して情報を集めろ」


足柄は研究本部からの電話を切ったあと頭を抱えた。

(俺だって情報が欲しかっさッ)

今はゲートの奥、ナッソー政府からの連絡を待たねばならない。


一方、ナッソー側もてんてこ舞いであった。

長年起動しなかったものが動いたのだ。

調査と事実の隠蔽が必要だった。

「私だ、アルベルトだ。そうだ、ゲートは封鎖。高雄氏には私から断りを入れておく」

下手に野党に知られれば、日本との同盟に反対する勢力がどう動くか分からない。

アルベルトは日本との同盟をなんとしてでも堅持しなければならないと考えているのだ。

なににも増して、その一点では高雄との合意を得ている。

「官邸と回線を繋げ」


研究中の古代兵器が起動したことはようやく日本にも伝えられた。

すでに断片的な情報なら大使館経由で得ていたが、これで詳細が明らかになったのだ。

日本政府は必要とあれば技術者を追加で送ると伝えた。

そしてこの動きは表立ってはボーグやアルマタといったゲートの奥の世界には広まらなかった。

人気のない森林地帯での局地地震であったことが幸いしたようだ。

暫くしたらゲートの封鎖も解かれ、大使館との通信も復旧した。

これらの動きを知るものは最小に抑えられたが、それでも日本の一部にナッソー不信の種を与えてしまった。

信頼関係はいまだ完全には構築されていないが、両国の間の壁が低くなるのはもう少し先のようだ。

4-4のボスに辿りつけないのは仕様でしょうか。


そういえばもう2月ですね。佐賀は最近暖かいです。電気ヒーターを動かしたのも冬の間に二回だけ。あとは椅子の上の電気カーペットだけ。地球温暖化で夏と冬の気温の佐賀すごいことになるという説を信じていただけに暖冬は嬉しくないものです。まぁ3cmの積雪で南の方の交通は麻痺するんですけどw

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