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ドイツ陸軍のオットー=クレッチマー大尉は愛用するWA2000狙撃銃を構えていた。

彼はアフリカで五十二の高級指揮官と、最低三百の兵を射殺している。

伝説的な冬戦争時のフィンランド軍狙撃兵にちなみ、現代のシモ=ハユハと呼ばれているが、本人はいたって気にした様子がない。

猟師であった故人とは違い、彼は生粋の職業軍人。

ちなみにWA2000はワルサー社の銃で、ドイツ陸軍の選定に漏れたものだ。

なぜ彼がそれを持っているかは不明。

一節によるとどこからかマッコイ爺さんが拾ってきたらしい。

演習場の小さな林の中に隠れて早三時間。

演習内容は狐狩り(FoxHunt)。

彼は狐が通りかかるのを待っていた。

三時間前から微動だにしない彼の頭には小鳥が一羽とまり、楽しげに囀っている。

(..)

小鳥が飛び立った。

ペイント弾が狐役の兵士の胸に大きなピンクの印をつけた。


オットーは迎えのピックアップに乗ってベースへ戻った。

極めて無口な男だ。

狐役の兵士はオットーに撃たれた瞬間のことをペラペラとまくし立てているが、気にした風もない。

「俺はきっとこのムッツリスケべ野朗が隠れておると思って赤外線でスキャンしたんだ。あいつのことだからきっと見通しの悪い狙撃には不向きのところに引っ込んでいると思って、あえて定石とは反対に動いたらガツンと一発よ。まるで人の思考が読めるみたいだったぜ」

「‥」

「よぉオットー、こいつ馬鹿じゃないかって思わねーか?なぁおまいら。このムッツリスケべ野朗の目が二個しかないと思ってるんか?こいつは世界のどこであっても見通せるんだよ。今もきっとニューヨークのホテルのシャワールームを覗いてるぜ」

「‥俺に見えるのは射程圏内だけだ」

ヒューヒューと囃す一同。

「かっこいいじゃん」

「‥」

「厨二病にでもかぶれたか」

「..」

オットーはことあるごとにからかいたてる仲間のテンションにはいつもついていけない。

何が楽しいのかは知らないが、きっと楽しいのだろう。

それならいいや、と思考を放棄して彼は仮眠をとる。


同じ頃、同じくドイツ陸軍のオスカー=クッシュ少尉は別の基地の車庫で車両の整備をしていた。

彼もまた、アフリカではいくつもの敵を自走砲で吹き飛ばしたエースだ。

自走砲は戦車とは違い、最前線にはあまりでない。

後方から山なりの弾道を描いて長距離に放談を飛ばす、砲撃支援をメインに行う戦車の親戚だ。

親戚だから車体(キャタピラとかその辺り)は共通にして、上のハコモノで戦車と自走砲とに分けて生産することもある。

軍にとって最大の敵である財務省を何とかするためだ。

世界中の軍隊は予算削減のための涙ぐましい努力を欠かさないのだ。

ちなみに西側陣営では戦車砲は百二十ミリ、自走砲は百五十五ミリが主流。

(政府の犬どもは何をしているのだろうか。日本はすでに異世界との交流を深めつつある。国連が倒れた今、日本と組んで新しい秩序を打ち立てるべきだろうに)

「オスカー、精が出るな。今日も政府批判を飲み込みながらの昇順調整か」

彼の車両の車長だ。

「‥ええ」

「なぁオスカー、表現の自由で内面的な思考は万人に保証されている。だが俺達は軍人だ。民主共和制の原則を忘れるなよ。お前が逮捕されれば俺達にまでとばっちりがくる。お前のせいで俺が失業したら、お前、俺の女房に殺されるぞ。気をつけろよな。それに俺はお前を気に入っている。失望させんなよ」

「‥ああ」

車長はひらひらと手をふって車庫を出ていった。

冷やかしに来ただけらしい。


ヴィルヘルム=カールス少佐も同様にハンガーにいた。

空軍基地のハンガーだ。

EF-2000タイフーン、開発失敗の駄作機との評判高い軽戦闘機だ。

〈管制塔よりヴュルガー、新型の調子はどうだ〉

「上々。だがやはり全体的に安定しないようだ」

ドイツには駄作機タイフーンを極秘に独自改良する計画があった。

ちなみにタイフーンはEF-2000にイギリス人が付けた名で、他国ではあまり使われない。

そのトランシェ3、開発に失敗した、日本に売り込まれたはずのバージョンがある。

これはトランシェ2に比べてアビオニクスがすこしマトモ。

そのトランシェ3のデータを元にして戦後第五世代ステルス戦闘機を開発する予定だ。

このタイフーンや一世代前のトーネードといった戦闘機は“ユーロファイター”計画と呼ばれ、英独なんかを中心に共同開発するのだが、NATO崩壊で欧州戦争の可能性が出てきたので他の国には極秘である。

ちなみにフランスは早々に離脱して、独自にタイフーンと同級のラファールを作っている。

こちらはタイフーンよりまとも。

今はタイフーンの形状を弄っている。

ステルスに対応する形状というものを探しているのだ。

とりあえずステルス機はSFめいた薄っぺらい機体という認識で良い。

レーダー波をあらぬ方へと逸らす形状である。

なるだけ垂直パーツは減らし、突起物も減らす。

飛行中はピコピコ動くカナード翼で機動性を確保しているタイフーンや、垂直尾翼が一枚のタイフーン、もっこりして平たくない形状のタイフーンなんかはステルス性に欠ける機体なのだ。

元々ホーネットやラファールより若干レーダーに移りにくい程度なので、何とかなるんじゃないかという希望的観測を根拠にしている。

ユーロファイター2020というプランもあるが、これもトランシェ3と同様開発は絶望視されている。

今回は機動性は推力偏向ノズルと気合でカバーするというコンセプトで、試験飛行はカナードを取っ払ってやってみた。

「やはりデルタ翼がダメなのか」

「完全な新規開発が良いかと思われます」

「ライトニングのデータを弄ってやってみるか」

F-35ライトニングⅱ。

アメリカがラプターとのハイローミックスを狙って作ったマルチロールステルス機。

こちらもアビオニクスが曲者で開発が難航している。

そもそも空軍の地上機(A型)と海兵隊の垂直離着陸機(B型)、海軍の艦載機(C型)を一緒にするというごちゃまぜコンセプトなのだ。

開発費は凄まじく高騰している。

さらに高騰により開発参加国も購入を拒否したため、売値は跳ね上がった。

航空自衛隊がF-3に予算と人員を割いたのもこのせいだ。

日本の国産ミサイル(AAM-4、高性能)は使えず(レイセイオン社談)、アメリカから性能に劣るミサイル(AIM-120C)(対戦闘機特化のミサイルかそれプラス巡航ミサイルでも撃破できるかの違い)を買わされることになりかけたのも一因であるのだが。

ドイツ空軍もライトニングⅱを欲しがったが、やはり運用コストがバカにならないので却下された。

性能だけを見るなら傑作機で間違いはないのである。

「タイフーンの方はいかがします?」

「今あるものを我慢して使うかな。この線で上に掛け合おう」

かくしてタイフーンは汚名返上に失敗したのだった。

「少佐、報告書を書いておいてくださいね」

「計画は凍結じゃなかったのか?」

「タイフーンはステルスにはならないという根拠をしめさにゃならんのです。そのためには偉いさんの覚えめでたいあなたのレポートがいるのです」

カールスは嫌々デスクに向かい、パソコンで報告書を書き始めた。

彼はドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)最強と呼ばれるパイロット。

アフリカでは七十二機落とした。

愛称はアイゼンシュツルム、鉄の嵐。

夢は世界一のパイロットになることである。

黒い機体に黄色いキルマークが目印の彼の機体は、しかし実験部隊参加にともない倉庫に放り込まれた。

チューニングを繰り返しすぎて、誰の手にも負えない機体に仕上がってしまっていたのだ。

(自由に飛びたい..)

優秀なパイロットではあるが、教官に不向きであった彼は試験部隊に移動になり、決められた速度で決められたルートを辿るだけの日々に終始している。

以前一度教官をやらせたら、生徒と一緒に抜け出して酒盛りをしていたこともあるのだ。

(早く新型を作れば、愛機に乗せてもらえるかな‥?)


十一月、佐賀県伊万里市扶桑重工。

社長は先月からどこかに行ってしまったが、職員の九割は既にそのことを忘れている。

結局のところ社長は判子を押すだけの係で、自由に研究ができればそれでいいのだ。

今月に入りアメリカから連れてきた技術者ベリークレイジーマッドサイエンティストが数名チームに参加してきたこともあり、社長の存在感は極めて希薄になっていた。

マクドネル=ダグラス社やノースロップ=グラマン社、ボーイング社の技術者が寄って集って変なことをやらかすのだ。

そして二十日、まずはモックアップが出来た。

扶桑重工が単独開発する予定の機体だ。

モデルはYF-23ブラックウィドウⅱ。

肖像権に引っかからないように、かといって性能も落とさないように形状は肉眼では分からなくもない程度に変更され、性能は微妙に向上していなくもないはすだ。

ブラックウィドウはF-22ラプターとの採用競争で負けたほう。

機体のコアになるエンジンはとりあえず正式にライセンス生産することに内定。

エンジンは大概の特許を米英に抑えられているため、自作するよりライセンス生産したほうが安くて確実なのだ。

第三国を介するもしないも、技術を盗むのは国際的な信用を無くすし自作するのも手間だからだ。

しかしアメリカは日米関係が戦後最悪なまでに落ち込んでいる現状、仮想敵国の日本にエンジンの技術を移転するはずもない。

だが諦めたらものづくり大国の誇りを無くす。

目指すのはゼネラル=エレクトリックのYF-120ターボファンエンジンだ。

扱いにくい高推力エンジン出であったがゆえに、基準値を満たす程度で若干推力が弱く、安くてバランスがいいYF-119ターボファンエンジンにラプターの尻を奪われたのだった。

だが、

「米帝に頭を下げるのはに気に食わない。ここは新機軸の自主開発をやるべきだ」「鬼畜米帝撃ちてし止まん。断じて行えば鬼神もこれを避くる。我ら日本男児にできぬことのあろうか!」「コジマは..まずい」「右手が疼くぜぇ」「ファファファファ」「ゲートの解明が進めば、龍脈の導入も可能になるはずだ」「楽しければいいぜ」「私にいい考えがある」

エンジン担当グループがライセンス生産の方針を打ち出すと他のパートの猛反発が。

曰く、自分でやりたいとのこと。

自由にやりたいとのこと。

社長代行は米英の特許に触れずにやることなど不可能だと説くがこれは黙殺される。

かなしいかな社長代行は技術畑の人間ではないのだ。

佐賀県立伊万里高校をそこそこの成績で卒業し、長崎大学経済学部をなんとか卒業した程度の彼は、都会に出る度胸もなく適当な求人に応募したらなんとなく受かったデスクワークこそ人並みにやれるもののそれだけの面白みにかけるつまらない薄髪の交換可能な浪漫を知らないメタボで融通の効かないハゲでチキンでジョークも解さない風流心のかけらもないダメなメタボのつるハゲ社長代行でしかなかったのだ。

そのマッドさゆえに京大を追い出された社長の最上や、西南大学を追放された秘書の鈴谷のような、職員にとって魅力のある(ただし社長自信よりやっていた研究に関心がある)男ではないのだ。

結局翌二十一日にはエンジンを自主生産することが決まり、社員総会で社長代行はクビになり、変わって全自動判子打ちマシーンと挨拶したらテンプルにカチンとくる笑い声を上げる程度の簡単な応答ができるプログラムを組み込んだオリエント工業謹製ダッチワイフがマイクロビキニを纏って社長室に置かれることになった。

無論事務部(マッドどものお友だち)が通していい書類と通してはいけない書類を分別し、シュレッダーと新社長代行(判子打ちマシーン)のどちらかにやたらと凝ったベルトコンベアで運ばれていくのだ。


すでに炭素複合素材の研究をしているところや耐熱セラミックの研究をしているところとは話がまとまっている。

国産戦闘機を作る夢は扶桑重工だけではなく、国内防衛関連企業すべての夢なのだ。

傑作機Fー2、ヴァイパーゼロを超える機体を。

通称“烈風計画”。

防衛省が以前作成したi3ファイター、Fー2の後継機となるはずの機体を前倒しするのだ。

i3ファイターのような野心的な無尾翼機ではなく、ブラックウィドウを元にした第五世代ステルス機。

武装は国産、素材も国産。

石川島播磨重工のi3ファイター向け純国産エンジンの研究も加速しており、二十三日には扶桑から石川島播磨に数名のエンジン技術者が出向していった。

ちなみにここまでの動きは社長の最上はしらない。

社員が勝手にやっているのだ。

協力した企業もそれを知って黙認。

それにもともと最上は独自開発に拘っていた。

自己顕示欲の現れだが、鬼の居ぬ間になんとやら、既成事実を作ってしまった。

石川島播磨だけでなく、防衛省技術開発研究本部、富士重工や三菱重工、川崎重工以下省略。

十二月になれば大手の大学も研究に加わるようになった。

年明けと同時に正式なプロジェクトとして立ち上がった烈風計画。

日本のマッドサイエンティストたちが鎖から解き放たれ、挙国一致に名を借りた技術者、科学者、変態たちの暴走が始まる。


十二月三日。

防衛大臣の足柄は呆れていた。

(最上のバカが無茶しないようにナッソーへ追い出したんだが、残った連中が暴走しやがった。学生の自由研究じゃ無いんだぞ。せっかくベールをかけてこっそりやっていたのに‥まぁいい。こうなりゃヤケだ。あえて速度を落とすよりも高速で安定させたほうが結果としてリスクも減る。胃の負担も減る。そのプロジェクトを財務省やアメリカ、国内の反動家、財務省、欧州、財務省、財務省から守るのが俺の仕事だ。何としてでも二年以内の実用化を目指させるか)

ちなみにラプターは試験機の初飛行から実用機のロールアウトまで七年かかっている。

対して仮称烈風はいまだモックアップしかない。

(せめて三年。どんなに長くても三年と一日しか待たんからな)


ロンドン。

ヴァレリー=メディロスは日本が新型戦闘機開発をなぜか加速させたことに驚いていた。

「日本へ直接見に行きます」

ロールスロイス、BAEシステムズなどのイギリスからの見学者として見にいくことにしたのだ。

「‥これまでの動きをまとめます」

所員が部屋の中央にあるタッチパネルのテーブルに資料を表示する。

「十月上旬に日本の各企業の技術者が大量に失踪。十一月中旬にゲートに近いフソー重工を中心に国内の各企業が団結したようです。もともと彼らは日本軍の新型戦闘機を密かに、というほどでもありませんが、目立たないように開発していました。それはi3ファイターと呼ばれる計画ですね」

防衛省が公表したPDF資料をテーブルに展開する。

「尾翼なし、か。可愛いな」

「コンセプトはなかなか凶悪だが、常識的じゃないか」

「指向性エネルギー兵器の文字を見てもか?彼らはヴァルキリーでも作るつもりかな」

ヴァルキリーはアラスカからモスクワを狙える長距離高速戦略爆撃機ではない。

ジャパニメーションに出てくる可変戦闘機の方だ。

「彼らなら、やりかねんな」

一人がフソー重工の社長のプロフィールを出す。

カードがテーブルの上を滑るようにデータがヴァレリーの前に滑りこむ。

ちなみにこのテーブルは良く出来ていて、カードのようにスライドしてきたデータをキャッチしそびれるとビリヤードめいて跳ねていくのだ。

ちなみに日本製ではなくイギリス製である。

「在学中にキョート大学で爆発事故を起こしている?」

「ええ。どうやら大学内で多脚戦車を作ろうとして妨害を受けたようです」

この過去が思考にバイアスをかけた。

「やはり乗り込むしかないわね」


同刻、東京。

「意識、回復します」

きゅうぃーん、ぱしゅぅ。

「覚醒を確認。数値正常域」

(ここはどこだ?俺は誰だっけ)

彼は風呂上がりの上せてしまったぼんやり頭に冷気を吹きつけられたような感じを受ける。

(そうだ、死にかけたんだ)

「これがどなたか分かりますか?」

眼前に鏡が出される。

「私だ」

「自己認識はあるようです。意識もしっかりしています」

全身が重い。

暫く筋肉を動かしていないようだ。

それに拘束具を付けられているようだ。

乗っているのはストレッチャーか、景色が動いている。

とはいえ天井しか見えないので蛍光灯がうえから下に流れるだけなのだが。

「了解。..エレベーターに」

曲がり角を曲がったようだ。

(ここは..そうか)

どうやら自分、能代孝義は核爆発阻止に失敗し、死の縁を彷徨っていたらしい。

そして今は真っ裸で強化プラスチック製の蓋付きストレッチャーに載せられ、女性看護士に見下されているようだ。

3-4、4-4の攻略準備中。

ちなみにF-35の想定されている任務の一つにA-10サンダーボルトに変わる近接航空支援があります。A-10の退役も噂されているとか。まぁF-35程度じゃA-10の変わりはできません。なにしろ素敵性能で大きく劣っているから。あとアメリカ陸軍関係者が空軍のA-10退役に強く反対してるらしいでち。みんなA-10が好きなんです。

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