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新兵器

「どうも、扶桑重工の最上です」

過日の烈風開発騒動の元凶、扶桑重工の親玉だ。

あの件で政府は海外勢力からいらぬ疑惑をかけられ、釈明に苦労したものだ。

「あの件については触れないでください。当時私はナッソーにて古代兵器の研究に従事していましたし」

「言い逃れるか‥」

「だが事実です」

外務省から来た次官が嫌味を漏らすが意に介さない様子。

「それでは人型兵器のコックピット周りの機構についてです」

最上がスライドを動かす。

「件の烈風、こと、烈風改の耐G関連技術がこれです。完全装備で12Gまで対応可能です。人型機にはこれの進化版を搭載します。そもそも烈風のサイズでは小型化したバージョンしか積めていないのです。本来なら18Gにも耐えられる想定です。さらに現在開発中のショックアブソーバーをコックピットに組みこむことで上下左右前後に激しく揺さぶられ続ける状態をパイロットが感知することなく、代替現実のテクノで展開された‘揺さぶられていない’外部映像をコックピット全球に映し出します」

彼はこれらの技術は予算さえ付けば三年以内に実用化できます、と続けた。

「まずは人型可変戦闘機の前段階として四脚の歩兵を研究中です。空戦はできませんが、山岳地帯でも運用可能な戦車となるでしょう。四脚ならばアスファルト陥没以外特に被害を出さずに展開でいます。戦車や装輪戦闘車より速いです。バリア機構についても、ただ張るだけでなくそれを拡大展開して周囲の敵を吹き飛ばせるような武装に発展させたいと思います」

早い話が、アサルトアーマーだ。

「軽量四脚なら整備性耐久性以外はいいとこ行くんじゃないかな」

陸幕長は渋い顔だ。

定年前の彼はもはや新世代(笑)の兵器体系についていけていない。

(アニメの世界が現実になるか‥私は若い後進に早く席を譲らねばな)

「さらに、パイロットの身体を凍結させ、脳だけ直接機械に接続するシステムの研究もわずかながら進んでおります」


「‥陸幕長、引退をお考えですか?」

まだまだプレゼンは続くので、一度ティーブレイクが挟まれた。

ちなみにコーヒーは出ない。

防衛大臣がこの場にいないくせに文句をつけたからだ。

いわく、“人類は紅茶やワインといった美しい色の飲み物をのでいた頃は平和だった。しかしコーヒーやコーラと言った汚水の色をした飲み物を飲みだした頃からそれがおかしくなったんだ”とのこと。

言いがかりであるが、防衛省所属の職員たちは紅茶を手配した。

そのセイロンティーを飲みながら、陸自の研究本部から来た男が声をかける。

研究本部は開発ではなく新戦術の研究や新武装の調査などである。

「まぁ、私には話の内容と、それによって変化する未来の戦闘というものがよくわからなくなってしまった。私の時代は終わったんだよ」

「しかし閣下。天使が翼を畳むのは、ラストダンスを終えてからですよ」

何が言いたい?

「これだけの技術革新、諸外国からの疑惑はさらに深まるでしょう。帝国主義ガー、と叫ぶ輩も出るでしょう。何より財務省はいつもどおり邪魔しに来るでしょう」

「‥そうだな。私が退官するのは決めたことだ。だからといって、最後に何もしないのは寝覚めが悪い。かくなる上は微力を尽くすとするかな」

「永遠ならざる平和のために、ですね」

二人はこれらの革新的新兵器/新技術は平和を日本国にもたらすであろと考えていた。

だがそれは武力を背景にした帝国主義的平和でしかない。

そしてそれは彼ら自衛官が望む平和ではない。

そして平和など永劫に続くものではない。

彼らはせめて、戦争と戦争の間のたかだか数十年くらいの平和を求めているのだ。

「敵はまず財務省にあり、だ」


「さて、次なる案件です」

愛宕は別の男を紹介した。

「どうも。私が提案いたしますのは新世代の戦闘艦です」

‘海洋支配戦略護衛艦’と書かれたスライドを前に白衣の男は話し出す。

「現在の海戦は、主に潜水艦と空母が主力です。特に米軍の機動部隊は原潜、空母、イージスを十隻単位で編成した紛れもなく世界最強の水上戦力です。これらは潜水艦と対艦ミサイルに対する備えであります」

米軍のそれは旧ソ連の対艦ミサイル飽和攻撃ドクトリンに対する回答。

海自もそれを踏襲している。

「ならば、対艦ミサイルよりも速く、凶悪な破壊を彼らに届けるのはいかがでしょうか」

四十五口径四十一センチ光学連装砲。

「龍脈のエネルギーを圧縮して撃ち出します。射程は基本的に無限大、エネルギー圧縮率によって変動しますね。水平線の向こうへは現状残念ながら撃てませんが、対空砲によって敵のミサイルをことごとくなぎ払うことができます。砲弾もしかり」

ようするに、‘撃つまで撃たれて、撃った後は撃たれない’を地で行くのだ。

「速力も従来船より速い五〇ノット、まさに無敵です」

「対潜はどうだ」

海幕長の山城は尋ねる。

魚雷を片舷に集中して叩き込まれればいかな船とて海底に沈むことになるのだ。

「龍脈砲は水中でも威力が減衰することはありません。対空、対艦両用砲で数を減らし、スーパーキャビテーション航行で振り切れば問題ありません」

その男、よくよく見れば扶桑重工の社員証を身につけている。

それに気づいた何人かは彼を睨みつける。

これまでのマッドたちとは違い、まだ足の爪分くらいは常識世界に見をおいている彼はそれにたじろぐ。

「‥こ、これ一隻で太平洋かんちゃいもせ、殲滅可能でち‥」

「大丈夫かな‥」「これはいかんのじゃないか?」「むぅ」

発言者の態度というものはそのプレゼンそのものに影響する。

これまではキチガイ、もとい狂人ばかりで財務省ごときの横槍では自説を曲げそうにない堂々とした者達ばかりであったために若い彼のたじたじな態度は海洋支配戦略護衛艦そのものの評価を下げることになってしまった

最後のプレゼンの時間が来た。

「衛星軌道掃射砲をご提案いたします」

そう言ってJAXA所属の彼はスライドを出してきた。

「現在、宇宙空間にはあまたのスペースデブリが漂っており、宇宙開発の妨げとなっております」

試用期間の過ぎた古い衛星は回収されることなく衛星軌道上を漂っている。

一説には四五〇〇キロのデブリがあるとも。

また、帰還したスペースシャトルの外壁には五〇〇以上の着弾跡が見つかったという。

わずか直径数センチのデブリでさえ有人宇宙船を破壊することができるのだ。

「この衛星軌道掃射砲はスペースデブリを大火力で一掃します。それによって宇宙開発への道をつけます」

彼は衛星軌道さえクリーンになればもっといろいろな研究ができるという。

「例の計画の失敗率をお下げいたしましょう」

例の計画、そういって出されたのははやぶさ2計画。

研究の遅れ(原因は予算不足)や戦争などで遅れていたH−2Bによる小惑星探査衛星の計画だ。

無論自衛隊関係者は彼が本来何を言わんとしているかを理解した。

‘星一号計画’。

はやぶさの帰還時のそれを応用して、地表のピンポイントに衛星軌道からの狙撃を行うのだ。

すでに専用の衛星はスペースデブリの中に潜んで指示を待っている。

結局使用されないまま終わるかもしれないが、核戦力を持たない日本の切り札であった。

このプレゼンターは星一号にかかわる人間。

政府自衛隊でもごくわずかしか知らされていない計画を知る一人だ。

デブリ帯の中に潜む衛星はいつ被弾するかわからない。

デブリ帯は常に一定速度で周回するため問題ないが、ほかから来たイレギュラーが衛星を破壊するかもしれなかった。

「衛星軌道掃射砲は世界の宇宙進出に貢献します。ぜひともご裁可を」


かくしてマッドによるプレゼンは終わった。

それぞれで持ち帰って来月正式に研究を開始する項目を決定するのだ。

その時には怨敵、財務省も出席するらしい。


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