酷く残念なRPG
ギャグ。
『どうしてこうなった』
※RPGに夢を抱いてる人は絶対に読まないでください!
――あるところに勇者という名前の男の子がいました。え、出落ちかよ?勇者は勇者だろ?とんでもない!確かに勇者なんてものがこの世に存在したら苦労はないでしょうけど、残念ながらそんなご都合主義は無いのです。…とにかく勇者という名前の男の子がいたのです。まあ、親がふざけてつけたんでしょうね。そんなある日、勇者は白の王様に呼ばれました。かったるいとは思いましたが、話の流れと命令したのが王様なために逆らうことはできません。勇者は王様のいる城へと向かいました。
「こんにちは、王様」
「おお、よく来たな勇者」
王様はゲームでお約束のような大きい玉座に座っていました。
「で、ご用件は?」
「簡単なことだ。私の娘の…リリを魔王の手から連れ戻してきてほしいのだ」
「……は?」
勇者の顔が固まりました。そりゃそうでしょう。もしあなたが魔王から姫を救いだしてこいって言われたらあなたもビックリしませんか?王様は勇者の反応をスルーして続けます。
「先日…いなくなったと思ってたリリからこんな手紙が届いてな」
そう言って、王様が差し出してきた封筒を勇者は受けとりました。なぜ差出人が魔王ではなく姫なのだろうと思いながらも、中身を読んでみます。
『お父様へ
私はあなたの過保護ぶりには嫌気がさしました。
当分ここには帰りませんのであしからず。
リリ』
「いや…これ悪いのは魔王じゃなくて王様じゃないですか?」
「は!?」
「いや、だってね!?それよりも何で姫が魔王のところに家出するんですか?」
「…?魔王というのは私の弟の名前だが?」
ややこしいぃぃぃぃぃぃ~、と勇者は思いました。
さて、さすがに勇者も姫を奪還するために出発しなければなりません。
「あれ?」
「何だ?」
「いや、あの…よくあるCuでできた剣とかこんなんじゃ駄菓子くらいしか買えねーよ程度のお金は!?」
「財政難だからな…」
「はあぁぁぁぁ!?」
そんなものも支給できない国なんて…勇者は一瞬このまま旅に出て違う国に移住しようかと思いました。ですが、残念ながらそんなことをしてはストーリーが滅茶苦茶になってしまうので不可能です。と、王様は、
「大丈夫、ケータイを用意してある」
と、言って、勇者にスマホではありませんが新しそうなケータイを勇者に手渡しました。勇者はただ、目を白黒させるばかりです。
「こっ、こんな金どこから…!」
「連れ帰る前にリリにかけさせてくれ」
「それだけのためかよっ!」
どこまでもツッコミ要員な勇者でした。
さて、とにかく勇者は魔王の城へと出発しました。装備がないのは不安かもしれませんが、心配ありません。だって今のご時世、外に出たら敵だらけなんてバカなことはありません。世界の治安は日々向上しているのです。しかもこの辺りは田舎なので事件が起きたとしても熊に襲われるか万引き程度で、怪物によって起こる事件なんてはほぼ存在しないようなものでした。なのでなんやかんや言いながらも勇者は結局ピクニック気分で城に向かいます。しばらくすると隣町に着きました。そこで勇者は初めて気づきます。
「あの野郎…」
そう、王様は魔王の城の居場所を教えるのをすっかり忘れていたのです。見せられてた手紙に住所が書いてあった気もするのですが、生憎勇者はそんなものを思い起こす記憶力を持っていませんでした。
「どうしよう…」
途方に暮れていたその時です。
「勇者ぁ~!」
誰かが勇者を呼ぶ声がしました。振り向くと、そこには幼馴染みがいました。お決まりな展開だろ、とツッコまないでくれると嬉しいです。勇者は暗くなっていた顔を明るくして、
「ヒカル!」
ヒカルという名の栗色のロングヘアの少女は勇者の前で止まりました。ヒカルは勇者の幼馴染みだったのですが、父親の左せ…転勤が原因で隣町に引っ越してしまったのです。ヒカルは勇者のことを覚えていたのですが、実は勇者はヒカルのことなんてすっかり忘れていたのでした。まあ、思い出したから問題ないんですけどね。
「まさかとは思ってたけど…本当に勇者だったや。久しぶり!」
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「うん!勇者は」
「俺も元気にしてたよ。…あ、そうだ。ヒカル、魔王って人の城の場所知らないか?王様に姫を連れ戻すように頼まれたんだけど、肝心の場所を教えてもらってなくってさ」
「魔王さんならこの近くだよ!案内してあげよっか?」
「いいのか?」
「うん!」
こうして勇者とヒカルは一緒に行動することになったのでした。
「案外近かったな」
「だから近いって言ったじゃん!」
「そうだったな。…って、これってどこから入ったらいいんだろう?」
「あ、勇者あそこ!」
勇者がヒカルが指差したところを見れば、インターホンがぽつりとありました。その上には表札があり、ご丁寧に『魔王』と書かれてあります。勇者は早速押してみることにしました。ぴんぽーん、という軽快な音が鳴ります。しばらくして、インターホンから、
「はい、魔王ですが…」
という声がしました。とりあえずドスの効いた怖い声ではなかったので勇者は安心します。少し緊張しているのを隠しながら、
「はじめまして。勇者って言うんですけど…。王様の命令でお姫様を迎えに来ました」
「ああ、兄さんが電話で言ってた方ですね。こんなところまでご苦労様です。少しお待ちください」
しばらくすると、王様と同じブロンドの髪で眼鏡をかけた、いわゆるイケメンに分類されそうな人と、同じくブロンドのロングヘアで勇者と同い年くらいの女の子がやって来ました。
「はじめまして、僕は魔王。この国の国王の弟です」
「私はリリ。この国の姫です」
「勇者です。王様に姫を連れ戻すように命令されてやって来ました」
「ヒカルです。勇者をここまで案内してきました」
「で、姫に会ったらこれで電話をかけさせるように頼まれたんですけど…」
勇者がそう言って、リリにケータイを差し出すと、なんとリリはそれを床に投げ捨てて、ヒールのかかとで思いっきりケータイを踏み潰しました。パキ、と不吉な音がしたと思ったら、ケータイは既に短い一生を終えていました。
「な…!」
「あ、私のことはリリでいいです。姫なんて肩っ苦しいですから。それにしてもお父様…まったく反省してないみたいですね?」
「まあまあ、もう1週間もここにいたんですからそろそろ帰ってあげたらどうです?」
「嫌です!当分帰りません!」
これには勇者も参ってしまいました。と、リリが思い付いたように、
「そうだ!勇者さんと駆け落ちしたことにすればいいんですわ!」
「「はあぁぁぁぁ?!」」
一緒に叫んだのはヒカルです。だっていきなり駆け落ちというのは設定上に無理があります。
「い、いやさすがにそれは無理ですよ!」
「大丈夫です、お父様は私の言うことだったらなんでも信じますから!」
「そういうことを言いたいのではなく…!」
と、勇者は気づきました。ヒカルがわなわな震えていることに。
「ど、どうしたんだヒカル…?」
「…ざっけんじゃないわよ、勇者は私のものよ!」
「はあ?!」
なんということでしょう、実はヒカルは勇者に思いを寄せていたという衝撃の事実です。と、勇者の片方の腕をヒカルがつかみました。それに負けないというようにリリがもう片方の腕を掴みます。
「ちょ、お二人さん…?」
「なんですか、先に言ったのは私ですよ?」
「本当に好きでもないのに勝手に勇者を取らないでよね?」
「魔王さんどうにか…」
「いやあ、青春ですね~」
「誰かまともな人来てくれえぇぇぇぇ!」
切実にそう勇者は願ったのでした。
さて、この話はここでおしまいです。え?勇者が一体姫か幼馴染み、どちらを選ぶかって?もちろんそれは――。
プレイするあなた次第です!
商品名酷く残念なRPG、全年齢対象、価格は四千二〇〇円で販売中――。
―END―