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部log  作者: イズチ
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籠の中の君

籠の中にいる君は――。

珍しくギャグ?です。

君は小さな建物の中の小さな籠の中。いつからそこにいたのか僕は知らない。でも君は小さいからつい最近来たのかもしれないね。きっとそうだ。だって、君がもっと前にいたならもっと前から僕も君の存在に気づいていただろうから。僕は籠ごしの君に触れようとする。でも、周りの人は僕のことを邪魔してきて僕は仕方なく手を引っ込める。でも、君はそのことに気づかずにいつも純粋な目で僕を見てくる。その目を見ると僕はなんとも形容しがたい罪悪感にさいなまれるのだ。そんなこと君にしたらしったこっちゃないだろうけど。そして僕は今日も君のところに行く。


 君は相変わらずだった。僕がどんなに声をかけても気づかずに、でも、たまに視線を感じるのか気だるそうな目でこちらを見てくる。それでよかった。君がこっちを振り向いてくれる、それだけで僕は嬉しかった。声は届かないだろうから心の中で君に話しかける。聞いてくれよ、今日君に会いに行くために毎日ここに通っているって友人に言ったら、『さっさとそんなことはやめろ。どうせ飽きるんだから』って言われたんだ!酷いと思わないかい?僕は真剣だっていうのに。どうやら彼には僕の気持ちは理解できないらしい。悲しいな、そこそこ仲のいい友達なんだけど。と、君をここに閉じ込めている人に怒られて追い出されてしまった。仕方ない、君ともっといたかったけど、今日は退散するとしよう。


 どういうことだ。この頃君に会いに行くとことごとく邪魔が入る。…これは僕も決心が必要だな。ごめん、これからしばらくは君に会いに行けないよ。でも、我慢して。別に君のことを嫌いになったわけじゃないから。もうそろそろ君をその忌々しい籠から出してあげたくなっただけさ。でも、それをするためには色々と足りないものがある。それを集めてくるから…待ってて。間違っても他の人にその籠から出してもらわないでね。その籠から出すのはあくまで僕なんだから。まあ、もし君が他の人に出してもらったとしても君のことを奪い去る覚悟なんてとっくにできてるんだけどね。って、ハハッ君に固執しすぎ?でも、僕は君がいいから。だから…待ってて。絶対そこから君を連れ出すから。


 君を連れ出すのはなかなか骨が折れる。まず、前の友人に頼んで、友人の兄の知り合いがやっている会社のバイトとして働かせてもらえることになった。頭を下げると、友人はため息をつくと、お前には負けたよ、と言って紹介してくれた。やっぱり持つべきは友だな。抱きつこうとするとウザいからやめろと言われてしまったが。


 さて、仕事が決まったのはいいが、その前に両親を説得する必要がある。そうじゃないとせっかく君を籠から出せたとしても、また籠に戻してしまうことになりかねない。それだけはなんとしても避けたい事態だ。ぬか喜びさせるのは最悪だからね。うちの両親は僕が君を飼うのにいい顔をするか、しないかはわからない。夕食を食べたあと、僕は両親に君を籠から出したいことを言ってみた。それはそれは緊張したんだよ?でも、両親は結構あっさりと君を籠から出すのに賛成してくれた。どうやら僕が君を出すために仕事までしようとしたのがいい方向に効いたらしい。さあ、認められたらあとは頑張るだけだ。


 仕事は結構キツい。力仕事だからというのが大きい。でも、君のためなら頑張れる。僕は元々あまり力の無い方で、最初はそれが原因で先輩に呆れられたりしたが、慣れてくると力が無くても上手く持てるコツがつかめてきた。先輩たちとも上手くいってきた。仕事のおかげで力がついただけでなく、コミュニケーション力も上がった気がする。心なしか、学校でも友達が増えてきた気がするし。あ、そう学校で思い出した。学校の勉強もおろそかにしてはならない。と、いっても僕は元々そんなにいい方じゃないからそこそこ頑張ればいいんだけどね。でも、さすがにノー勉はまずいから、バイトがない日にちょくちょく頑張ってるよ。大丈夫、支障が出てくるほど悪い点はとってないから。…別に特別いい点をとってるわけでもないんだけど。


 そして。とうとう君を連れ出す準備ができた。


 思えば長いような短いような…よくわかんないけど、君を助けるために必死に頑張ったのは確かだよ。だから…どうか他の人がその籠を開けてませんように。自動ドアに迎えられ、僕は何度も財布の中身を確かめた。よし、大丈夫。君は知らないかもしれないけど、君を出すには結構お金がかかるんだ。と、いつも僕をめんどくさそうに追い出してきた人が近づいてきた。でも、今日は僕が財布を持ってかるからか、スゴくいい笑顔だ。…所詮人は金か。その人が、


「お買い求めですか?」


と、言ってくる。当たり前じゃないか。そうじゃないと今まで会っていなかった意味が無くなってしまう。


「はい、やっと準備できたんで。――まだいますか?」

「はい、実はあの子あなたになついてしまったみたいでしてね。他の人が来ても見向きもしないんですよ。不思議ですよね…」


それを聞いて僕は嬉しさが込み上げた。そうか、見た目ではわからなかったけど、君は僕を好いていてくれたんだね。とっても嬉しいよ。僕が行くと、君は相変わらず元気で籠の中にいた。待ってね、もうちょっとで君を籠から出してあげるから。


「――では、お買い上げありがとうございます」


僕は店員さんに見送られて建物から出た。両親が車で迎えに来てくれたので、後ろに君のご飯や――籠も詰め込む。要らないと言ったのだが、断りきれなかったのだ。まあ、今後一切使うつもりはないから。車に揺られて僕の膝の上でうとうとしてる君をみると幸せになった。なんとなくその頭を撫でると君は鳴いた。


 ――はじめまして、僕の新しい家族――。


 ――やっぱり犬より猫だよね。



―END―



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