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部log  作者: イズチ
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恋愛空想理論

あることがきっかけで恋愛が嫌いになってしまった主人公。

そんな彼女に最近まとわりついてくる人物は…?

甘い恋愛物です。

 毒盛られて倒れたのに、王子さまのキスで目を覚ました。顔なんか覚えてないのにガラスの靴だけで相手がわかった。そんなのありえるわけない。そんなのできたら、解毒剤なんてこの世に必要ないし、人を探す苦労なんてない。全部全部……、


 空想です。


 今日もなにも変わんない1日。変わんなすぎて退屈で…欠伸が出てくる。ぼやけた思考でふと考える。さっき全部空想なんて言ったけど…思えば私は小さい頃、その『空想』ばかりを追い求めていたんだ。


 これでも私は小さい頃、小学生くらいかな、少女漫画が大好きだった。どんなに不幸でも、どんなに目立たなくても、どんなに見た目が悪くても。最終的には人気者になって好きな人とハッピーエンド。そんな空想を私も信じていたけど…それが崩れたのはテレビで漫画が『二次元』だと言われていたとき。その頃の私は小さすぎて二次元の意味はいまいち理解できなかったけど…。漫画の世界は全部フィクションの空想で、ただの薄っぺらい紙に書かれた理想で、私はそれを無様に追いかけていただけだと知った。それからは漫画もぱったり読まなくなり、買った漫画も全部古本屋に売った(さすがにそのときは親に怪しまれたけど、なんとか誤魔化した)。そして、さっきの通りなんの変鉄もない平凡で、平和で、そして退屈な中学生活を送っていた。…最近までは。


「なぁ、加藤~」


 近づいてくる最近暑くなってきたからか、学ランを着ず、シャツ1枚だけの男に私は冷たい目を向けた。早い話、声に出さず帰れと言った。男は私を見るとけらけらと笑う。


「そーんな顔すんなよ。ただ宿題写さしにもらいにきただけなのに」

「あんた自分の発言がおかしいってことわかってないでしょ」

「あんた、じゃなくて道成!せめて名字で呼べよ~」


そう言って、いかにもチャラそうな見た目の男――道成は笑った。それは、見た目に合わないくらいとても人懐っこい笑みで。なんか私は小恥ずかしくなって、道成から目をそらし、机の方を見た。実は私も宿題も途中までしかやってなかったりする。私そこまで真面目じゃないし。でも、休み時間と今真っ最中である昼休みのおかげで、あと数問で終わるというところだ。で、そこにコイツという邪魔物がやって来たわけで…。私は道成の反対側、窓の方を見て、


「悪いけど、私まだ終わってないから。他あたってくれる?」

「それが終わってからでいいから!なあ、頼むこの通り!」


ぱん、と何かを拝むように道成は手を合わせた。うるさいなあ。追い払いたいけど、私が首を縦に振るまで、ここから離れなさそうだ。しかも、さっきから周りで話してる女子が迷惑そうにこっちを見ている。お前らは会話に集中しろよ、と言いたいけれど、さっきから視線が痛い。まとめると、私は一刻も早くこの状況から脱したいのである。仕方ない。私は思わずため息を1つついて、


「仕方ないなあ。でも今週中はもうなしだから」

「よっしゃあ!加藤、サンキュ。来週もよろしく頼む!」


しまった。今週中じゃなくて、この1年間って言えばよかった。それなら道成と同じクラスとは限らないからもう教えなくてもよかったかもしれないのに。頭を抱えた私をよそに、道成は右手を挙げながら、サッとどこかに行ってしまった。おい、宿題はいいのかよ。まあ、もし写せなくても私には関係ないからいっか。とっとと宿題を終わらせてしまおう。


 宿題を無事終えると、今度は迷惑そうにこっちを見ていた女子が近づいてきた。正直に言って、あんまり仲が良くない方だ。顔をしかめそうになるけど、そうすると後の付き合いがややこしくなるからとりあえず無表情になる。女子は特に気にした風はなく座っている私をぐるりと囲んだ。なぜか顔がニヤニヤしていて正直キモい。その中でリーダーっぽい子が話しかけてくる。


「加藤さん」

「何?」

「正直に答えてね?」

「?うん」


別に今のところみんなに話してはいけないような秘密は持ってない、ハズ。強いて言えばあのトラウマくらい。宿題を昼休み等々で終わらせたことなんてコイツらにはどうでもいいことだろう。


「あのさ~。加藤さんって……道成と付き合ってんの?」

「は?」


手に持っていて弄んでいたシャーペンが手から離れて机の上にコトリと落ちた。慌ててそれを手に取り、ペンケースにしまう。よかった。床の上に落ちたらグリップのところに埃やらゴミやらがついて面倒なんだよね。…じゃ、なくて。


「なんでそんなこと?ちなみに付き合ってないけど」

「嘘ばっかり!道成、毎日加藤さんと喋ってんじゃん!」

「いやあれは…毎日宿題写させてほしいって言われてるだけだから」


そう、それだけ。それだけなんだ。


「でも、道成が転校した初日から道成と話してるよね?」

「それは…」


うっ…もう痛いところついてこないでよね。もうこうなったら面倒くさいから話してやろう。…私と道成の出会いを。こんなので納得してくれるかわからないけど。かなり誤魔化してる気はするけど、それはそれで構わない。


「――今日から転校してきた道成咲希くんです」

「道成咲希です!咲くに希望の希で『さき』って読みます!あ、こんな名前だけど男です!よろしく!」


 そんなの私にはどうでもよかった。だって転校生が来ても来なくても私には関係なかったから。窓際の席が幸いして(こんな言葉の使い方間違ってる気がするけど気にしない)、私は窓の外をボーッと見つめていた。と、


「なら道成くんは…加藤さんの後ろね」


私は、はあ?と言いたくなった。言わなかったけど。だけどよりによってなんで私の後ろ?後でわかったんだけど、私の列だけ人数の関係で1人少なく後ろが空いていたのだ。その頃の私はなんで道成がその席になったのか意味がわからず、後ろを振り向くとすでに道成は座っていて、私が見てると、にっこりと人懐っこい笑みを浮かべた。でも…なんか嘘臭い。っていうか、私は元々こういうタイプはあまり好きではない。見た目で判断するのはよくないけど…。はっきし言っていい印象なんて何1つない。もしこれでこの人懐っこい笑みがなかったら最悪だろう。また前を向こうとすると不意に肩を捕まれた。やばっ、目つけられた?その考えは今考えたらあながち間違いじゃないんだけど、私は少し焦ってしまった。


「な、何よ?」

「加藤さん、っていうんだ?俺、道成咲希」

「知ってるわよ。さっき自己紹介してたじゃない」

「ははっ、そうだな!…加藤の下の名前は?」


自分の下の名前…。あ~、言いたくないな~。でもキラキラした視線がさっきからこっちに…。ああ、こうなったらもうヤケだ。


「…彩輝よ。彩りに輝くで『あき』」


うわっ、言っちゃった…私のバカバカバカ!予想通り道成が吹き出す。先生は今は朝学習の時間(でも実際やってる子は少ない)だとかでいないから今どんだけ笑っても問題ないけど…ムカつく。私の顔が怖かったのか、道成は慌てて手を振って、ジョークジョーク、なんて言う。それなら最初っから言うなっつーの。


「それにしてもお前男っぽい名前だな~」

「言うな。あと道成も人のこと言えない」


お前だって女々しい名前の癖に。彩輝の方がまだ女でいる確率高いと思うんだけど。ま、そんなことばっかり言っててもしょうがないけど。私の(多分)痛烈な一言にも、道成は笑ってきて、しまいに、


「お前、面白いやつだな!これからもよろしくな、加藤!」


と、言われてしまった。私はこのときほど自分の失態と人生を恨んだことはなかった。そして、現在に至る。


 私はこのことを簡単にまとめて女子に説明した。でも、女子は不満げだった。嘘はついてないのに。と、リーダーっぽいやつが口を開いた。


「ねえ、加藤さん。それって…」

「加藤~!終わったか?」


女子が何か言おうとしたそのとき、道成が帰ってきた。…グッドタイミングかバッドタイミングかは女子が話そうとした内容によるけど、私的には早く会話を切りたかったので、道成はグッドタイミングのファインプレーだった。本人に言うつもりはないけど。調子乗るし。


「終わったわよ。あんたがフラフラほっつき歩いてるうちにね」

「別にほっつき歩いてたわけじゃねーし!…ちょっと用事があったんだよ」

「…まあ、信用してあげるわ。はい、これ。あと5分頑張ってね」


ちょうど予鈴のチャイムがなり、道成は慌てて席に戻った。と、そうも立たないうちに先生が入ってくる。5時間目は数学で、先生は若くて真面目な人なため、こうして早く教室に来るのが常なのだ。まあ、せっかく早く来たとしても、結局始まるのは5分後なので、早く来てもあまり意味が無いのだが、いい先生なので、言わないでおこうと思ってる。でも、やっぱり私も暇なので、体を捻って後ろを見る。道成は私のノートを見て必死に写している。普段からそんな風に勉強してたら苦労しないのに。って、そんなことこいつに言っても無駄か。


「ハロー、道成。終わりそう?授業始まったら終わってなくても返してよね」

「グッモーニング、加藤。わかってるって。ってか、もうちょっとで終わる」

「あんた…モーニングは朝っていう意味だってわかってる?」

「あ、そうだっけ?じゃあ、えーっと、えーっと…」

「アフタヌーン」

「あ、そんなんだった気がする。じゃあ、改めてグッドアフタヌーン、加藤。終わったからこれ返す」

「頑張ったわね」

「だって、テキトーに書いたし。ほら、見ろよ」


そう言って、なぜか自慢気につき出されるノートを見る。なるほど、お世辞にも綺麗とは言い難い字だ。でも、読めない字ではないからセーフだと思う。提出しないからどんな字でもいいよな、と道成は笑う。…こいつのことがよくわからなくなってきた。明らかにいいイメージは持てないのに、実は笑顔が可愛くて、格段不真面目でもない(別に真面目でもない。普通だ、普通)。なんかこういうのって…嫌だ、こんなこと考えるの。やめようやめよう。


「?どうしたんだよ、加藤。いきなりしかめっ面なんかしてさ」

「別に…強いて言えばあんたが悪い」


そう。あんたのせいで――また夢を見そうになる。もう見たくなんてないのに。そんな私の心情など露知らず道成は、目を見開いて自分を指差し、


「俺が?!」


などと言う。…わかってる、ほんとは道成なんて1ミリも悪くない。私が勝手にイライラしてるだけだ。でも…やっぱりどこか道成のせいにしたい私もいる。所詮…私も人間なのね。当たり前だけど。道成は納得していないらしく、まだ何かぶつぶつ言っている。その声も、チャイムの音でかき消された。


 新米の先生は一生懸命なことは結構だけど、話がうだうだ長いため、いい加減普段真面目な私でもだれてきた。後ろからはすでに寝息が聞こえる。お前何のために宿題写したんだとツッコみたくなった。ツッコんでも無駄だとは思うけど。頬杖をつきながらも、一応板書というなんとか昼休み後の眠気をごまかす作業(勿論勉強するためもあるけど)をやっていると、


「じゃあ、次の問題。道成。…道成?寝てるじゃないか。誰か起こしなさい」


うわぁ、これもしかして私が起こさなくちゃいけないパターン?不幸なことに人数の都合で道成の隣には人がいないのだ。私はそっと後ろを向き、道成の体を揺すりながら小声で、


「お~い、道成~」

「ん…加藤?」

「あんた当てられてる」

「マジ?!」


勢いよくバッと立ち上がる道成。立たなくていいっつーの。お前は小学生か。周りからもクスクス笑いが聞こえ、道成はハッとして、慌てて椅子に座った。


「せ、先生何番ですか?」

「…教科書二十四ページ、練習五の一番だ」


顔をしかめながらも教えてくれるのはさすが新米教師といったところか。でも寝てたんだからわかってるはずないのは当たり前なのに。私が教えてたら別だけど。そこらへんはなんか抜けてる気がする。赤ペンを弄びながらも、教科書に視線を移す。さっきも解いたが基本中の基本、といった内容だ。これなら道成も解けるだろう。後ろを向いたら怒られそうだったから前を向いたまま道成が答えるのを待つ。少したって、


「五センチメートル」

「正解。では次の問題は…」


先生はそう言って次の問題に移る。はてさて道成が小さく『うっし!』と言ってたのに気づいた人はどれくらいいるのだろうか?


 時間は飛んで放課後。帰宅部の私は特に用事はもう学校にはなく、重たい指定鞄(ボストンバック)を背負って教室のドアをくぐると、


「よっ!一緒に帰ろうぜ!」


そう言って左手を挙げたのはまたしても道成だった。


「…いつも思ってるんだけど、あんたどこからわいてくるの?」

「ちょ、虫みたいに言うなよ。帰ろうって言ってるだけじゃん」


まったく反省の意志が見られない道成に思わず仁王立ちして顔を近づける。私の顔がよっぽど怖かったのか、道成がたじろいだ。でも、こういうのはバシッと言っとかないと、もしも何かあったとき非常に面倒くさい。


「一緒に帰ると誤解する人が出てくるってわかってる?」

「…俺って、そんなに常識ないやつに見えるわけ?」

「わかってるなら結構。ならバラバラに帰るわよね?」

「待てよ!それとこれは話が別だ!」


ガシッと肩をつかまれる。男子だからか力は強く、逃げられそうになる。なによ。自分の都合に私を合わせるのに道成の自己中!そんな悪態を心の中でついていると、肩はいつの間にか解放され、代わりに腕をぐいぐい引っ張られ、私は強制的に道成と帰ることになった。


 道成に引っ張られて、連れてこられた先は、道成の家でも、かといって私の家でもなく、お互いの家のちょうど中間地点ほどにある川の堤防だった。コンクリの階段部分の端っこに私と道成、二人でちょこんと腰かける。無言の時間がしばらく続いた。最初にこの沈黙を破ったのは道成だった。


「なんかこれって漫画みたいだよな」

「漫画?」


思わず顔をしかめた私の顔を道成は真っ直ぐすぎる目で見てきた。どれだけ噂が流れていようと、道成の目はいつも真っ直ぐ。なんだかこっ恥ずかしくなって、道成から視線をそらす。


「加藤っていっつもそうだよな」

「何の話?」

「俺とか他のやつがこんな感じのこと言うといつも嫌そうな顔をする」

「そう?」


なるべく無表情にするようには努めてたのに。でも、認めるのはなんか癪だから、無自覚なふりをする。


「うん」

「でも別にいいじゃないそんなこと」

「まあ、どうでもいいって言ったらそこで終わるんだけど。でも、気になるんだ」

「何が?」

「お前さ、嫌な顔するくせに…」


『どうして悲しい顔もしてるんだ?』


 風がさっと2人の間を通りすぎた。お互い顔を見あったまま(あくまで見つめあってはいない)、何も話さない。静寂が広がる。聞こえてくるのは風の音とどこかで散歩しているのか、犬の鳴き声だけだった。――どれくらいたったのか。長い時間のように思えたけど案外一瞬なのかも。それは、嫌なことをやってると中々時間が経たないような感覚と同じように感じた。この静寂を破ったのは紛れもなく道成だった。


「悪かったな。加藤は訊かれるの嫌だったんだな」


笑う道成。違う。私はそんな表情をして欲しくなんかない。


「今日は…帰る。加藤も気を付けて帰れよ?」


道成が固い冷たい階段から立ち上がる。このまま帰ってしまう?誤解したまんまで?


「ちょっと待って!」

「うおっ?!」


いきなり道成の腕を引っ張ったからか、道成はバランスを崩して危うく階段から転げ落ちそうになった。なんとか踏ん張って落ちるのを阻止すると、恨めしげにこちらを見てくる。


「危ねーじゃん!」

「勝手に帰るあんたが悪い。それに落ちたぐらいで死にやしないわ」

「相変わらずひでえやつ…」


道成が頭をかく。でも、もう気まずい雰囲気なんてなかった。私は1回深呼吸をしてから、


「あのね、道成。私は私の表情なんてわかんないの。だって人間だもの、鏡を見ないとわかんないわよ。でもね。もし道成が私のことを変えたいなら…自分で変えなさいよね」


道成の目が大きく見開かれる。が、その口元はすぐに弧を描いた。なんか自分自身すごく恥ずかしいこと言った気がするけど、この際無視無視。


「おうよ!まあ、今日は帰ろうぜ~」

「早く来ないと置いていくわよ」

「お~。って、早っ?!待てよー!」

「待たない」


 漫画の世界なんて全部嘘、そう思うけど…もしの確率でそれがあるのも悪くないかも。そういう風に思えるのは――、一体誰のおかげかしら?


―END―


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