かくも微妙なLV.3
この学園において、Lv.3の立ち位置は微妙なものである。
優秀ではあるが、少なくともランクが上な人物は3桁はいる。勿論、一般人程度では相手にならないが、能力者同士では微妙で格下でも1vs1が限界。
いて欲しいが、いなくてもいい。そんな立ち場がLv.3だ。
まあ、ぶっちゃけて言っちゃえば、主人公の最初のハードルだったり、ヒロインのフラグ立てるために倒される役だったり、ようは噛ませ犬的な役割の人程度の能力だ。
「岩田先輩……なんで」
「人でなしっ!鬼っ!」
俺は暗い路地裏の天を仰ぐ。
下半身のズボンとパンツは膝辺りまで下がっていて、排水溝をまたいで服装の乱れた少女が倒れている。
勿論、俺は男だ。一もつは、まあ、膨らまない型の方だがちゃんとある。
この状況。どう考えても一つの方向にしか結論づけれないと思う。
しかし、言い訳をさせてくれ。信じるかは自由だが。
俺はただ、尿意を感じただけなのだ。この辺りには、まともな商店もなく、仕方なく裏通りで小便をしようとしただけなんだ。
排水溝を見つけ、はい、ゴー。
制服のズボンはクリーニングに出していた。だから、チャックのない学校指定のジャージを膝まで下げ、放尿しようとしたわけだ。
すると、カランと乾いた音が聞こえた。
俺は間違っても変態じゃない。小便を垂れ流す様など見られたくない。慌てて音源を探ったんだ。
そこには骨が。血と肉が付いた、生々しい頭蓋骨が落ちていた。
スカル、って奴だな。
そして、その先の不審なビルから両手に人、片手に頭が引きちぎられた人の慣れはてと、今、目の前にいる女の子を掴んで奴が出てきた。
ん?尿?
ああ、次の瞬間出たさ。それどころか、普段出ないような絶叫も出た。
その声につられたのか、奴がニヤリと此方を向いた。奴は不思議と返り血も浴びず、俺の恐怖を楽しむかのように片方の人を喰らった。落ちていた頭蓋骨もゆっくりと。
俺も学園の生徒だから、何とか平静を取り戻せたが、正直勝てる気はしなかった。
けど、運命の女神様は俺を見捨てなかった。
やる気はないけど実力派と目される、後輩が助けに来たのだ。
ただ、悔やまれるのは奴が女で、人が来るのに感づくと、生きている女を俺の前に放り、来た後輩に媚を売ったことだ。
「い、いやっ!その子になにをするの!」
一転して救いの勇者は俺の敵に、奴は悲劇の第一目撃者になってしまった。
まあ、この状況を端的に説明すれば、そんな感じだ。
因みに腰を引かせ、俺を遠巻きに見る後輩、名前を伏地 陽という。
それにしても困った。後輩に弁明するか、後輩の隣に立つ少女を糾弾するか、ズボンをあげるか、どれをしよう……
考えるまでもなく、ズボンを上げるだわな。よいしょ、と。
「岩田先輩……貴方がそんな人間だとは知りませんでした。
僕の一番辛い時、助けてくれた貴方が……」
「あの人は女を食い物としてしか扱っていない!最低の人よ!」
「お前だろ!それ!」
目の前で人を食っていた、奴の言葉に思わず突っ込んでしまう。
「……先輩。確かに僕は気持ちを先送りにしています。
変わってしまうのが怖いから、今の不変を望んでいます
春菜にも陽菜にも京にも結論を出すまで待ってもらっています」
「隣の奴に突っ込んだんだよ!」
誰もお前に言ってねえよ!
あと、お前の恋愛事情なんて、お互い幸せそうだからどうでもいいよ!
しかし、不用意な突っ込みは更に誤解を深める結果に。
「……せ、先輩。き、君まさか……
い、嫌。本人に言わせるのは酷か……」
動物が、本能的に自分より強い相手を、察知することができるように、能力者にも優劣が感じられる事がある。
死ぬ。伏地の一挙手一頭足には、そう感じさせる何かがあった。
「僕も彼女達の気持ちに甘えている……それは結果的に、彼女達を食い物にしているのかもしれない
ですが、先輩のは何かが違うっ!」
「そりゃ、お前みたいにモテないからなっ!」
「モテないからと言って、強姦なんて……
何が先輩をそこまで……」
「俺の立場からすれば、何でこんな状況になっているかがわからないんだが……」
「挙げ句の果てに自己弁護ですか。
仕方ないです。せめて僕が……」
突っ込むごとに泥沼に嵌まっていく。一向に転じない状況と後輩の殺気に圧され、後退る。
後輩のLVは6。俺じゃ5分ももたない。戦略的撤退もやむを得ない。
そう考えた時だ。後輩の後ろにいた奴が言った。
「私が彼女を助けて交番まで行きます!
貴方は彼を止めておいてください」
「わかった」
私が彼女を助けて交番まで行きます。この目の前の少女をどうしても喰らう気か。
実は俺はこの時まで、後輩に粘り強く訴えかけて疑いは晴らし、奴を捕まえようとか甘い考えを持っていた。
しかし、俺が後輩より弱い以上、相手の目論見が嵌まってしまう。
そうなれば、この目の前の少女は奴に喰われてしまうだろう。
いや、それどころか、俺は弁明する機会をも失ってしまうかもしれない。そうなれば“性犯罪者”のレッテルに一生縛られることになるだろう。
この状況で、俺の無罪を証明できる人間は2人。後輩に媚を売っている奴と、目の前の少女だ。
前者は既に期待できない、とわかっている。だから、ここは……
「畜生!覚えていやがれ!」
「逃がすかっ!」
「待ちなさい!」
目の前の少女を抱えて逃げる。と、同時に紅蓮の炎が目の前を覆う。後輩の能力だ。
俺の中で何が弾ける。それは勇気であり、生存本能でもあった。
LV.3の能力を駆使して、なんとか格上の後輩から逃げ切ることに成功した。
だが、当然それは始まりに過ぎなかった。2日後、LV.3の性犯罪者、及び禁忌の能力者“人喰い”として、全国の警察に俺は手配されることとなる。




