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松野と詠進

写生大会が始まりました。

他の生徒と別行動をとっていた松野良風は函館山の登山口の入り口まで来ていた。そこから振り返ると青い海と住民がすんでいる住宅街が


一望できた。夜になると100万ドルの夜景と呼ばれる国内きっての絶景だ。松野はここから見える景色を描くことにし、近くにあったベンチ


に水彩セットを置くとゆっくりと腰をおろし手に持っていたペットボトルを口に注いだ。光を遮る物のないこの場所で絵を描くという事は


日差しとの戦いになりそうだ。松野は絵を描く準備を整えると鉛筆を風景に向け、大体の構図を測った後キャンバスノートに下書きを始めた。



発表会の後、松野はその結果に納得がいかなかった。絵の技術では間違いなく自分が一番だった。それは絵の作者である自分以外の


人が見ても確かだ。それなのに優勝することが出来なかった。不安を打ち消すようにキャンバスに油絵を塗りたくった。そんな荒れた心


では人を感動させる絵は描くことはできない。といわんばかりに松野の絵は方向性を失ったバランスの悪い絵になっていった。誰も参加


しなくなった美術室の真ん中で松野が頭を抱えていると、きぃ、とドアが開き3年の伊達詠進先輩が教室に入ってきた。


松野は先輩に挨拶をすると、再び自分の絵に向かって絵を描き始めた。詠進先輩はイスに座って黙って松野を見ていたがしばらくして


口を開いた。


「松野君、君はやっぱり今回の結果に納得していないのかい?」


松野は聞こえないようなふりをして筆を握った。


「みんな君の絵を認めているよ。実際君に票を入れたのは顧問の大路地先生と、最初は君の絵を馬鹿にしていた舞君。君が他の1年生と比べて1番絵がうまいのはみんな承知の事実だよ。」


松野は突然自分が褒められたのでびっくりしたがどうしても気になっていた事を詠進先輩に聞いた。


「伊達先輩は、どうしてサイトの絵に投票したんですか?」


松野はおそるおそる声をだすと詠進はすこし考えた後こう言った。


「サイト君の絵は他の1年生の絵と比べて構図のとり方が絶妙だった。それに他の1年生の作品が一つの対象を描いていた事に対してあの絵は鏡を見る猫と鏡の中の猫の2つの対象が描かれていた。本人は単なる偶然だと思っているけどこれは狙って描けるようなことじゃない。僕はサイト君のセンスを評価して彼に投票したんだ。」


松野は詠進がちゃんとした理由をもってサイトに投票したことがわかって自分が抱えていた最大の疑問が解消した。


するとどこからともなく涙が溢れてきた。泣き顔を詠進先輩に向けながら松野は言った。


「先輩すいません。ぼく、詠進先輩がサイトと仲良しだから票をいれたのかな、と思って。えぐっ、先輩は僕の絵がきらいだからぼくに投票しなかったのかな、って思って。疑って、ほんとにすみませんでした。」


泣きじゃくる松野の肩にぽんと手を置くと詠進先輩は言った。


「松野君。君のアートライフは始まったばっかりだ。ときには壁にぶつかることもあるだろう。でもその壁を乗り越えてこそ真の喜びが待ってるんだ。今回の結果をバネにして頑張ってくれ。」


詠進の言葉を受け取ると松野は「はい!ありがとうございます!」と涙を拭って返事をした。松野がある日の放課後の出来事を思い出して


いると教会の方からぼーんという鐘の音が聞こえた。もう自分の絵や人を疑ったりしない。僕は自分のやり方で全国大会を目指す。


松野は固い決意ともにキャンバスノートに筆を走らせた。

この回は前回の大会でサイトが優勝した理由がわかる話なので、2部が始まったらぜひ書きたい、と思っていた話のひとつです。次話からすこしペース緩めます^^;

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