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はじまりの合図

部員達が会議室に入るとノマ部長が大路地先生に「先生!いつの間に来てたんですか?」とびっくりしたように聞いた。


大路地先生は持っていた英字新聞を畳むと、「昨日の昼から来てたわよ。ここの近くの学生の絵も観てみたかったし、

なによりもここからの風景が素晴らしくて。老後はここで暮らしましょうかね。」と笑みを浮かべながら光が乱反射する深い青の海を


見ながら答えた。大路地先生はしおさい高校の生徒以外にも絵を教えているらしく、函館の美術部員達の絵はレベルが高いと


言っていた。その学生達と全国大会への出場権を争うのかと思うと緊張感が部員達の中に生まれた。この様子を大島先生は察知すると


ふふん、と笑いながら会議室の前の方に立ってみんなに聞こえるようおおきな声で言った。


「これからSeaSideArtClub夏の合宿を始めます!予定としてはこれから外で絵を描いた後、ここ、『ひまわり』で食事

と入浴をして就寝。2日目は午前中に大路地先生のクロッキー講座があります。その後外で今日描く絵を完成させて修了となります。

それじゃノマちゃん、あとは任せたわよ!」


そういうと大島先生は指名されてしどろもどろになっているノマ部長の横を通り過ぎて会議室の外に出て行った。部員達が乗ってきた


ハイエースはレンタカーで、明日帰る時に借りる手続きをしなければならないというようなことを先生は車内で言っていた。


ノマ部長は隣の舞先輩と小声で話し合いをした後、部員達に言った。


「えーと、とりあえず夕食の時間は6時だから今日は5時くらいまで外で絵を描いて続きを明日やるって方向でいいかな?

昼食は各自自由に採ること。あ!その前に泊まる部屋のメンバーを決めないとね!...タカジョー何ニヤニヤしてんの?女の子は3人

だから男子だけで部屋割りをきめてよね。それじゃわたしたちは泊まる部屋をみてくるよん♪」


と言い残すと荷物を持ちぺたんぺたんとスリッパを鳴らしながら女子チームは上の階にある宿泊用の部屋に向かった。女子と一緒の


部屋になれなくて残念がる条一郎をなだめ、残った男子部員は三上先輩の提案により、じゃんけんのグー&パーで2つの部屋を4人ずつの


グループで決めようと言った。何回かじゃんけんをして2つのグループが出来上がった。


301号室

 三上悠人 伊達詠進 斉藤サイト 大和健


302号室

 大清水学 神崎智紀 松野良風 高城条一郎


部屋のメンバーを書いたメモを大路地先生に渡すと先生はにこやかに頷いた後、「すこし函館を観光してくるわ」と言いバッグを抱え


外出する準備をした。あまり面識のない大清水先輩と一緒の部屋になった神崎がぎこちなく挨拶をすると大清水先輩が


「こちらこそよろしく。かんざきクン。」とキリっとした表情で返した。今日の大清水先輩はいつもの挙動不審な感じではなく、


なにか決意を決めたようなビシっとした空気感をジェルでバッチリ固めた髪型が物語っていた。三上先輩はにやりと笑うと


「俺達も泊まる部屋に行ってみようか」と言い、部員達は荷物を持って3階へ続く階段をのぼった。


宿泊施設「ひまわり」の3階にあがると、廊下の窓が開いており山の木々の深い香りと磯の潮風の匂いが同時に鼻腔に流れてきた。


ちょうど海と山に挟まれているからだろう。サイト達は女子チームがいる角部屋の303号室をちらっと見た後自分達の部屋のドアを開けた。


泊まる予定の部屋は大体10畳くらいの小部屋で2段ベッドが2つあるだけの質素な洋室になっていた。ちょうど4人ずつの


グループだしちょうどいいだろう。荷物を置いていると隣の部屋から松野のうわー、という声が聞こえてきた。初めての合宿ということで


はしゃいでいるのだろう。三上先輩がノマ部長にもう外に出て写生会を始めてもいいのか聞いてくると言って廊下に出た。


部屋に残っていたサイトがカバンからキャンバスノートを取り出した詠進先輩に聞いた。


「先輩、今回は水彩画を描くんですか?」


「い、いや。今回はあまり時間がないから鉛筆でデッサンするだけにしておくよ。サイト君は水彩画かい?」


「はい!全道大会にむけて油絵を描こうかと思ったんですが2日間という事で水彩画にしました!大和も水彩画だよな?」


サイトが聞くと後ろにいた大和が首を縦に振った。詠進先輩が描く絵が色付きの絵ではないことが残念だったがレベルに高い先輩達と


過ごせるこの期間は絵の技術をあげるのには絶好のチャンスだとサイトは考えていた。前回絵を描いた発表会から多少ブランクはあるが


すぐにカンを取り戻せるだろう。そう思いながらサイトは大和達と一緒に水のみ場に行き、水彩セットの容器に水を汲み始めた。


1年生部員を見渡しながら神崎が言った。


「みんな、どこを描くか決めた?俺はハリストス教会を描こうと思ってるんだけど描こうと思ってるやつ、一緒に描こうぜ。」


神崎が水道の蛇口を止めるとサイトの隣にいた大和が手を挙げた。条一郎は海岸沿いまで降りて赤レンガ倉庫を描きたいと言った。


松野はどうするのかと聞くと「まだ考え中」と答えが返ってきた。「単独行動で不審者と間違われんなよ〜」と神崎が冷やかした。


サイトもまだ何を描くか具体的には決まっていなかった。詠進先輩と一緒にチャーミーグリーンの坂を描こうとも思ったが今回は


建物の絵を描いてみたいと思っていた。こないだテレビでやっていた「美の巨星たち」という番組でユトリロという画家の作品の


特集を見てサイトは建築物の絵に興味が沸いていた。夏の大会で建物を描くかどうかは今回の出来次第で決めよう。サイトがそんなこと


を考えながら玄関で靴を履き替えていると立ち膝でくつひもを結んでいた大和のシャツから携帯電話が落ち、水彩バケツの中に


入ったので一同は大爆笑した。大和は無言で携帯を拾い上げ、故障していないことを確かめると安心したようにほっと、息をついた。


サイトは他の部員達と分かれ、水彩セットを抱えながらセミが鳴く山の近くまで坂道を登った。俺も一緒に教会を描けばよかったかな。


そんなことを少しだけ思いながら日の当たる坂道の中央で額に浮き出た汗をぬぐった。

次回でやっと絵を描き始めます。長い目で見てやってください^^;

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