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合宿はじまる

この小説とあわせてブログもやってるので興味のある方はのぞいてみてください。

函館に向かう車に乗った美術部員達はそれぞれにおしゃべりを始めた。函館に行くのはひさしぶりだの、緊張しすぎて気持ちが悪いだの


おもいおもいに部員がしゃべっていると大島先生が急に振り返って発言した。


「みんな、絵を描く道具を持ってきた?...まさかフォゲットしてきた生徒はいないわよねー」


舞先輩が代表して「はーい、みんな持ってきてまーす。」と手をぶらぶらさせながら答えた。短めのスカートに右手薬指に指輪、


匂いの強い香水をつけている。この先輩は函館で男でも引っかけるつもりなのだろうか。山田蛍子やまだけいこという女の先輩を挟んで隣の三上先輩が言った。


「いや〜詠進、俺達も今回で最後の合宿だね〜。高校生活最後の夏を満喫しようぜ〜」


色付きメガネに花柄のシャツを着てニヤニヤしている三上とは違い、詠進は時々考え込むような仕草を見せていた。が、1年生達は


そのことに気付かず松野の変な服装にツッコミを入れていた。


「だから今時ベレー帽にネルシャツは無いって。まっつんのせいで俺らまで変なヤツらだと思われんじゃん。」


「絵を描く時はベレー帽は必須でしょう。それに日よけにもなるし便利なんだって。」


いつも通り神崎と松野が口げんかを始めたので、サイトは「あ〜もう、つきあってらんねぇな!」と言い、持ってきたPSPの


起動スイッチを引き上げた。隣でバイオレンス漫画を読んでいた大和がPSPの画面を覗き込んで言った。


「あ、ワンダーハンターの最新ゲーム買ったんだ...今度俺も買うから一緒に通信プレイしようよ...」


ワンダーハンターとは今月発売したばかりのPSPソフトだ。母の知り合いから「臨時収入」が出たため6000円近くもするゲームを


買うことができた。そしてその話には続きがあり、


「お母さんね、サイトがこないだの発表会で優勝した事をみんなに話したら知りあいの1人が油絵セットを譲ってくれたの。これでサイトもみんなと同じ様に油絵が描けるよね。」と言ってサイトに油絵セットをくれたのだった。


サイトは最初のうちはすごく嬉しかったが、譲って(中身は新品だったため買った物だろう)くれたのがアイツだというのに勘付くと


少し複雑な気持ちになった。俺はそんなことぐらいじゃお前にはなびかねぇぞ。まぁ今度の大会ではありがたく使わせてもらうけどね。


サイトは独り言を言いながらPSPをしまい、今回の合宿の写生大会で使う水彩セットと画用紙がちゃんと準備できてるかチェックし始めた。


ぼうっと外を眺めていた条一郎が「おい、函館にはいったぞ」と言い、矢印のような頭をしたイカの看板を指さした。


函館はイカの名産地?らしい。どことなくエキゾチックな雰囲気がある町並みを通り車は急な坂道の途中にある宿泊施設の駐車場に入った。


すると宿泊施設の係員らしき人が出迎え、笑顔でおじぎをした。今回2日間お世話になる施設の


名前は「ひまわり」という名で、全道大会に訪れる文化部の宿泊拠点として営業しているらしい。今回の合宿の運営費は部員達の


部費の他に生徒会による活動予算から支払われていた。特に今年は詠進先輩が去年全国大会出場を果たしたため例年より多めの予算が


でたようで「みんな、伊達君に感謝しなさいよハッハッー」と大島先生が車の中で言っていた。


部員達が車から降りると冷房が効いていた車内とは違いうだるような熱気が夏の日差しから感じられた。まだ昼前なので写生会を


始める頃にはもっと気温が上昇しているだろう。全員が施設内のスリッパに履き替えて廊下に集まるとこの「ひまわり」の代表と思われる壮年のおじさんと


あいさつがてら大島先生は話し始めた。話が長くなりそうなのでサイトは隣にいた三上先輩に話しかけた。


「去年はどんな塩梅あんばいで合宿は行われたんですか?」


「そーだね、まず全員でミーティングがあって、その後に泊まる部屋を決めてそれからみんな絵を描き始めるって感じかなー。去年は雨だったから室内で大路地先生が持ってきた静物の模写だったけど今回はこのお天気だし外で描くことになると思うよ。

帽子とか持ってくりゃよかったなー。」


と三上先輩は答え、松野が被っているベレー帽を見てふふん、と鼻で笑った。笑われている本人はその事に気付かず玄関に飾られていた


暗いタッチの崖の絵を興味津々に見つめていた。サイト達の話を聞いていた神崎が口を開いた。


「函館は観光名所だけあって色々絵を描くポイントがありそうですね。まずこの施設の上にある函館山。この近くにあるハリストス教会。

海岸沿いにある赤レンガ倉庫。俺ん家の近所にはたまねぎ畑くらいしかありませんからね。」


神崎は自分の住んでいる菜苗町ななえちょうを皮肉って笑いながら言った。サイトが思い出したように外を眺めている詠進先輩に聞いた。


「先輩、函館にはチャーミーグリーンのCMで使われた有名な坂道があるんですよね?是非先輩が描いた坂道を見てみたいです!」


サイトは初めて学校の玄関先でみた詠進の「風たちぬ通学路」に出会った感動を思い出して目を輝かせた。しおさい高校の田舎道


の坂道とは違い、チャーミーグリーンの坂は綺麗に舗装され、眼下には海が広がっているため絵のモデルとしては最適だろう。


詠進はサイトの高いテンションに押されながら「ああ、じゃあ今回はそこを描いてみようかな」と答えたため、


サイトはうおっしゃー、と歓声を挙げた。あの絵と同レベルの絵に再び出会えるのだ。まだ見ぬ大作にサイトの胸は震えた。



そうこうしているうちに大島先生とひまわりの代表の話が終わり、部員達は大きめの会議室に集められた。その部屋の中央には英字新聞を


読んでいた美術部顧問の大路地おおろじ先生が座っていた。いよいよ始まる夏の合宿にセミが号令をかけたように一斉に鳴き始めた。


いよいよ、という感じでSea side Art clubの夏の合宿がスタートします。

この小説のタイトルの由来ですが、前作Sea side Art clubの続きという意味とシサアクに入部したサイトの物語、という意味合いで名付けました。今後ともよろしくお願いします。

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