ノマの告白
次の日サイトは恵港と呼ばれる合宿の待ち合わせ場所である港に立っていた。
恵港は海岸通りにある休憩所のようなところでマリンスポーツや函館に向かう人などがたまに立ち寄る程度で辺りには
ほとんど人が居なかった。待ち合わせの時間より早めに来てしまったらしい。サイトが周りを見渡していると公衆トイレから
ノマ部長がお腹をさすりながら出てきた。サイトが挨拶をすると、ノマ部長は恥ずかしそうに手を振って挨拶を返した。
「ちょっと、早く来すぎちゃいましたね。他に誰も来てないみたいですし。」
サイトが言うと、ノマ部長が
「わー、ウミネコがいるー。サイサイ、ちょっと行ってみようよ。」
といってサイトのシャツのすそを掴んで待ち合わせ場所と反対側の海岸の方に歩き出した。サイトは相変わらずのノマ部長の突飛な行動
に慌てながらずんずんと歩く女の子と青い海の上を飛ぶ鳥を見つめた。裾から手を離すと彼女は言った。
「ねぇ、ウミネコって、にゃーにゃー鳴くからウミネコっていうんだってー。知ってた?」
無邪気に笑う部長を横目に、
「あれはカモメじゃないですかね。」とサイトがいい、「いや、ぜったいウミネコだって!」「鳴き声以外に見分け方ってあるんですか?」
「><・・・」ノマ部長が少し黙った後に目線を対岸の釣り人に移しながら言った。
「サイト君だっけ?発表会の時ネコの絵を描いたの?」
ノマ部長の急な問いかけに少し驚いたがサイトは発表会の緊張感が蘇った。はいそうです。というとノマ部長が続けた。
「わたしも1年生の発表会の時ネコの絵描いたんだ。あの時は1票も入らなくて帰りにひとりで泣いちゃったなー。」
突然の告白に驚いたが、サイトはノマ部長がなぜ自分に投票してくれたのかがなんとなくわかってきた。
「1番票が入ったのってサイト君だったよね?先生やみんなもすごいってホメてたよ。あたし達がいなくなっても大丈夫だよね?」
サイトの口からえっ、と言葉が漏れると後ろの方から車のエンジン音と大島先生のカン高い声が響いた。
「あなた達、こんなところにいたのね!早く乗らないと置いていくわよ!ハッハッー!」
サイトとノマが大島先生の白のハイエースを見るともう他の部員達は全員車に乗り込んでいた。どうやら少しだけ待ち合わせポイントを
間違えていたらしい。ノマ部長が助手席に乗り、サイトが1年生部員に部長と2人っきりでいたことをからかわれながら後ろの席に座った。
12人乗りのワゴン車が合宿地である函館を目指して動き始めた。