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展示会始まる

しおさい高校美術部員達は2学期の始業式が終わると玄関に止めてあったおなじみのハイエースに乗り込んだ。


「みんな、準備はいい?出発するわよ?」


ノマ部長が部員達を数えると大島先生の運転する車はハイスピードで「風たちぬ通学路」をくだった。


その絵の制作者、伊達詠進が車内で1年生にねぎらいの言葉を掛けた。今回の大会に不参加である先輩は「僕に出来ることがあればなんでも


言ってくれ」と申し出てこの絵の展示会に参加してくれていたのだった。


「みんなこの夏休みの期間で全員絵を完成させることが出来て本当に良かったと思う。僕や大清水といった出場辞退者が出た中みんな


集中を切らさずに完走できたことを本当に嬉しく思う。みんな、頑張ってくれ。」詠進先輩が言い終わると「あたしのセリフ、取らないでよ~」


とノマ部長が声をあげる。松野が自信満々に声を張る。「先輩、任せてくださいよ!僕か大和、もしかしたら神崎が全国大会に出場して


見せますから!」それを聞いて「おれは全国に行けないのかよ!」とサイトと条一郎が同時につっ込む。「松野君は何を描いたんだい?」


詠進先輩に聞かれて松野が答える。「僕は今回、自画像を描きました。来月16歳の誕生日を迎えることもあって、今回の制作には気合が


入りました。絵のタイトルは『僕のみている風景』。最低でも全道!最高で全国!」松野が訳のわからないキャッチフレーズで締めくくったため


車内に笑いが起きた。詠進先輩が心配そうに三上先輩を見て言う。「ユージンは大丈夫?なんか夏休み中、遊び歩いてるって聞いたけど...」


それを聞いて三上先輩が咳払いをして答える。「オレは家で描いてましたよ。まぁ毎日って訳じゃないけど。」サイトが「え?じゃあ絵は


自宅からデパートに送ったんですか?」と聞く。部員達が描いた絵は昨日の午後に梱包し、大会の主催地である丸山デパートに送っていたのだった。


「うん。そう。なんか完全に自宅で仕事をしてる、ってカンジで大会に向かって絵を描いてるって気がしなかったな。」三上先輩の言葉を


聞いて「私も家で描けばよかったかもなー」と舞先輩が言うと松野が静かにうなづいた為、先輩達にわき腹をつねられていた。



そんなやりとりをしていると車は函館の丸山デパートの駐車場に入った。ここが俺達の戦場になるのか。車から降りると詠進先輩が展示会の


ルールを説明してくれた。


「まず、5階の展示コーナーに行ったら係員に名前を聞かれるからそこで自分の名前を答えて、自分の絵を受け取って。そうしたらどこに


飾ればいいか言われるからそこに絵を持って行って絵を設置してくれ。一緒にタイトルを書く札も渡されるからそれも忘れずに貼り付ける


ように。」先輩が言い終ると、「またあたしの役割取られた~」とノマ部長が地団駄を踏んだ。条一郎が5階に続くエレベーターの中で


「いよいよだな」と呟いた。そうだ。長くて短い夏休みの成果を発揮する時が来たんだ。ドアが開くとサイトは思わず息を飲んだ。


自分達の同じ高校生の美術部員達が各々の絵を持ち、絵を展示し始めている。その数、ここから見えるだけでも50人以上はいるだろうか。


「道南地区の学校だけでも相当あるからね。」詠進先輩の


言葉を聞くとふと我に戻った。「今日で全参加者が来てる訳じゃないけどエントリー数が多いもんなぁ。これじゃ票が割れんのも仕方ないよ。」


三上先輩が手を広げて周りを見渡した。サイトは完全に空気に呑まれている松野の膝を崩すと「全国に行くんだろ?こんなんでビビってどうするよ?」


とゲキを飛ばした。松野は起き上がると「そうだね...戦うのは僕自身じゃなくて絵だからね。自分の絵を信じよう!」1年生部員はヨッシャ、と


気合を入れて自分達の絵を取りに受付へエントリーしに向かった。しばらくして名前を呼ばれるとサイトは自分が梱包したダンボールに


包まれた絵と再会した。絵のタイトルを記入するネームプレートを受け取ると「斉藤、サイトさんですね。それではA-3にその絵を展示して


ください」と係員に指示を受けた。A-3?サイトは受付にあった展示図でAの場所を調べるとうわ、と声を挙げた。Aの位置はこのフロアの


一番手前側だ。つまり、絵を観にこの階に訪れた客は一番先にAブロックの絵を観ることになる。そういった場合、印象に残る絵、インパクトのある絵が


有利になるため今回のサイトの絵のような落ち着いた風景画は若干不利になるように思えた。大和と場所、変わってもらおうかな。そんなことを


考えながらサイトは絵を担いでAブロックに向かった。


サイトがAブロックに向かうと自分が絵を飾る予定のA-3の両隣にはすでに絵が展示してあった。左にはアニメのイラストのような絵、


右には廃墟らしき建物を描いた油絵が飾ってあった。サイトは梱包をはがすと自分の絵、「雨待ち風」を取り出して祈りを捧げた。


頼む、全国とまでは言わないが、せめて全道大会には行ってくれ。昨日取り付けたヒモを展示ボードのフックに引っ掛けるとちゃんとバランスが


取れるように絵の位置を調節した。そして自分の絵を両隣の絵と見比べた。うわ、完全にオレの絵、埋もれてるわ。サイトが肩を落そうと


すると鼻先をやわらかい匂いが突き抜けた。この匂いは嗅いだことがある。サイトの記憶がフラッシュバックする。振り返るとそこには


見覚えのある影が立っていた。雨宮慈雨がそこにいた。

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