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絵を描く理由

2部もついに30話まで続きました。飽き性の私ですが小説だけは完結させるのでこれからもよろしくです^^

日曜日の昼、部室で持ってきた弁当をたいらげたサイトがぼんやりと他の1年生達に言った。


「なぁ、ともちゃん本当に登別までいったのかなぁ?」


「昨日旅館に泊まって...今日水族館に観に行くって、メールがあったよ...」


大和が携帯電話を見つめて微笑む。昨日は大雨が降っていたため心配していたサイトは「じゃあ大丈夫そうだな」と胸をなで下ろした。


「えっ?ザッキー旅行に行ったの~?もしかして彼女?」


目を輝かすノマ部長に対し部員達が「ないない」と手を横に振る。松野がお茶を飲みながら話に参加する。


「でも神崎、妹がいるって言ってたよ」


「ほんと?じゃあ今度紹介してもらおうかな?」


「やめとけ。どうせアニキそっくりな顔の妹に決まってる。」


おどけるサイトに条一郎が釘を刺す。条一郎にも妹がいることを知っている松野が「それって体験談?」と茶化すと


「ジョーコの悪口を言うやつはゆるさん」と条一郎は松野にヘッドロックを仕掛け始めた。サイトは2人を無視してノマ部長の絵を見て本人に聞いた。


「先輩の絵に描かれている人って誰なんですか?」


ノマ部長の油絵には老婆がにっこりと微笑む姿が描かれていた。「もしかして先輩のお婆ちゃんですか?」サイトが聞くと


「んーん、親戚のおばさん。笑顔がとってもキュートでしょ?前々から絵のモデルにしてみたかったんだー。」


先輩が答えると再びその絵を眺めた。おばあさんのほかにも白髪頭のおじさんや眼鏡を掛けた老人が後ろに描かれており、一家の団らん、と


いった感じだ。そういえばノマ部長の絵を観るのは初めてだった。部長ってこういう温かみのある絵を描く人だったんだ。サイトの心が


ほっこりすると「山田先輩...あんまり部室に顔ださないね...」と大和が呟いた。ノマ部長がそれに答える。


「蛍子ちゃんはキャンバスを持って帰って家で描いてるみたい。去年もそうだったんだけど...わたしはみんなと一緒に絵を描けたほうが楽しいな!」


先輩の言葉を聞いて「そうですよね。その方がみんなの意見も聞けるし、それに、」サイトが一呼吸おいて言う。


「なんか、青春ってカンジがするじゃないですか。」


大和がフフっと笑みを浮かべながらコクコクと頷く。照れ隠しに景色を眺めると「おまえのその気持ち悪い絵、なんとかならないのかよ」


とサイトは大和の絵を指差して言った。大和の絵は人体模型のマネキンを参考に人間の臓器がバックに描かれた絵になっていた。


色が付けられていない臓器は心臓だろう。下書きされた心臓の真ん中に目玉のようなものが付いていたので「これはなんなんだよ?」とサイトは尋ねた。


「これは見ての通り、目の付いた心臓...その名も『心眼』。この絵の主人公...」それを聞いてノマ部長が


「ヒロなんとかボスの絵に少し似てるね」と苦笑いをしながら答えた。サイトは大路地先生の美術の授業で学んだボスの絵を思い出し


「ああ、そうかもな。でも大和の絵はただ気持ち悪いだけな気がするけどな。」と美術の教科書を取り出して言った。それに対し大和は


「ありがとう...最高の褒め言葉だ...」と満面の笑みを浮かべた。呆れるサイトを横目に松野が大和に聞いた。


「大和は、なんで普通の絵を大会で描かないの?みんなと同じように風景画を描いたりすれば確実に全道には出れるだろうに」


松野の言葉を聞いて大和は「みんなと同じじゃ、意味がないから」と珍しくはっきりとした口調で答える。


「おれは、おれのやり方で全国を目指したい。ちゃんとわかってくれる人だけおれの絵に投票すればいいと思う。おれは自分にしか描けない絵の世界を追求したいと思ってる。」


大和の宣言を聞いてノマ部長がぱちぱちと拍手した。へぇ、こいつそんなことを考えて絵を描いてたのか。絵を描く動機なんて人によって


様々だ。サイトは自分が出会った詠進先輩の絵を思い出した。見ててください。俺も先輩のように観る人を感動させる絵を描いてみせる。


サイトは意気込みを入れ直すと自分の絵に向かって再び筆を入れなおした。


「大和がなぜ絵を描いているのか」というテーマで描きました。『六月の祝日』のように大和をメインにした小説も面白そうだな、と思っています。ジョーコは本編には登場しません(たぶん)。

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