透明なセカイ
作者です。調子が出てきました^^
2日後、サイトが美術室に顔を出すとすでに松野はキャンバスに木炭で自画像の下書きを入れ始めていた。あいかわらずの手際の良さに感服すると
サイトは油絵セットをロッカーから取り出すために準備室のドアに手をかけた。その瞬間、条一郎が「ちょっとまったー!」と大声で
サイトを制止した。なんだよ、と振り返ると間に合って良かった、という風に息を切らせて条一郎は言った。
「中にいるんだよ。舞先輩が。」
「はぁ!?」
サイトは顔を歪めた。あの先輩、また準備室に男連れ込んでイチャコラしてるのか。サイトの心を読み取ったように条一郎は続けた。
「それだけだったらまだいい。脱いでるんだよ。あの先輩。」
「はぁ?!」
サイトが再び声をあげる。後ろにいた松野が説明した。
「舞先輩、今度の絵で自分のヌード画を描くんだって。だから準備室は男子立ち入り禁止、ってわけ。カンベンしてほしいよ。ほんとに。」
やれやれ、という風に松野が手を広げる。なんてこった。それじゃあ舞先輩が部屋から出てくるか、女の部員が来るまで油絵セットが
取り出せないじゃないか。サイトがため息をつくと条一郎の机の上にガラスの置物が置いてある。それを指差すと条一郎が教えてくれた。
「俺、今回の大会でこいつを描こうと思ってるんだ。ガラス製のカラス。だじゃれじゃないぞ。おやじの物置にあったから持ってきたんだ。」
へぇ~。サイトがそのカラスを眺めていると松野が「面白い発想だけど透明のガラスを被写体として描くのは難しいと思うよ~。条一郎にそれが出来るのかな。」
といたずらっぽく笑った。それを聞いて「馬鹿にするな」と条一郎が答える。今回の大会は彼にとって結果の求められる大会になりそうだ。
しばらくすると「みなさーん、こにゃにゃちわー!げんきぃ~?」とノマ部長が部室に入ってきた。サイトは部長に事情を説明した。
「にゃるほど。そーいうわけだから私に準備室から油絵セットを取って来て欲しいってわけ?」
「そうなんです。お願いします。」
「だが、断る。」
シュっとした顔でポーズをとる部長に「お願いします!部長だけが頼りなんです!」とサイトは泣きついた。「仕方ないな~」という部長に
ロッカーの鍵を手渡すとノマ部長は準備室のドアをノックし、「舞ちゃん、いる~?」と扉の向こうに声を掛けた。「いるわよ~」
舞先輩の声が返ってくるとノマ部長は静かにドアを開き「覗いたりしたら殺されるよ。タカジョー。」と釘を刺してドアを閉めた。
残された3人は小声で話し始めた。
「舞先輩、中でどういう風にして絵を描いてるのかな?」
「たぶん鏡を並べてそれに自分の体を写して描いてるんじゃないのか?」
「そんな面倒なことしないで自分の裸、写真で撮ればいいのに。」
「いや、この間性器が写ってる写真は店で現像できないとかなんとか言ってたよ。」
「じゃあデジカメで撮って自分でプリントすればいいじゃない。」
「でも、そんなのが出てきたら条一郎、家に持って帰って変なことに使うだろ?」
「うん。申し訳ないと思いながら使ってしまうと思う。」
ニヤける条一郎を見てサイトと松野はやれやれ、と頭に手を置き、ふぅーと息を吐き出した。すると準備室が開き「みんな、なに話してたの~?」
と油絵セットを片手にノマ部長が飛び出してきた。条一郎が「世界の平和について、ですよ。」と意味の分からないことを口走ると自分の
席に座り、ガラスのカラスを見つめ始めた。
条一郎のガラス製のカラスですが、ただ韻を踏みたかっただけです(笑)色々ツッコミどころのある話ですが良いモノが書けるよう、頑張ります^^