シサアクのおんなたち
次の日の朝、サイトは美術室へ向かう階段を意気揚々と駆け上がっていた。昨日決心したように詠進先輩の分まで頑張って良い絵を描かないとな。
サイトが勢いよく教室のドアを開けると中で条一郎と舞先輩が手をつなぐように抱き合っていた。サイトはぴしゃり、とドアを閉めた。
「ち、ちがう!ちがうんだ!」
条一郎が急いでサイトの元へ駆け寄った。「キャンバスを張ろうとしてたんだよ!」条一郎に押されてサイトが部室に入ると舞先輩が木枠
を抱えて条一郎を待っている。どういうこと?サイトが聞くと条一郎が答えた。
「俺も初めてだからわかんないんだけどよ。1人がペンチで生地を引っ張って、もう1人がその上を釘で止めるんだ。そうやって生地を木枠に貼り付けていくんだ。」
条一郎の説明を聞いてサイトはなんだ、抱き合ってたんじゃないんだ。と息を吐き出した。それを聞いて舞先輩が
「バカなこと言わないでよ。言っとくけどあたし、年下はノーマークだから。」と誰も聞いていないことまで答えてくれた。
サイトはイスに座り、二人の作業を眺めていた。条一郎がペンチで生地を引っ張り、舞先輩がハンマーで釘を叩く。へぇ、なんか日曜大工
みたいだ。角を4ヶ所止めると舞先輩が「出来た!1年生は練習も兼ねて、自分達でやりなさいよね!」と生地を止めたキャンバスを抱えて言った。
そうか、この人は自分のキャンバスを後輩に手伝わせて作らせたのか。一仕事と終えて肩を回す条一郎に一緒にキャンバス作ろうか、とサイトは
呼びかけた。条一郎はうん、とうなづくと「引っ張る方と釘で打つ方、どっちがいい?」と聞いてきた。舞先輩がキャンバスになにか絵の具
のようなものを塗りつけて言う。
「引っ張る方はパワーがある人がやったほうが弾力のある良いキャンバスに仕上がるわよ。そのためにわざわざ条一郎にやってもらったんだから。」
条一郎が苦笑する。そういう訳で条一郎がペンチで生地を引っ張る係、サイトが釘をハンマーで打つ係に決まった。条一郎が大きな木枠を取り出すと
「これも昨日、先輩と一緒に作ったんだ。作ったって言っても4スミを止めただけだけどな」と説明してくれた。
サイトはありがとう、と言うと釘を3本口に加え、大工のように腕まくりをして条一郎が木枠を抑えてペンチで引っ張るのを待った。
「おはよー。あ!もうキャンバス張ってるんだー」
サイトがドアの方に目をやるとノマ部長が部室に入ってきた。部長に挨拶をするとサイトは釘をハンマーで思い切り打ちつけた。ガン!釘の頭が
横に曲がる。それを見て「へただなー。ちょっと私に貸してみ?」と部長が言うのでサイトは釘とハンマーを彼女に手渡した。するとノマ部長が
繊細な手つきでとんとんと静かに、正確に釘を木枠に打ち付けて行った。おおー、とサイトが歓声をあげると
「男の子なんだからこれぐらい出来なきゃもてないぞ☆」とぶりっ子のように部長は答えた。角を止め終わると部長はキャンバスを抱えて言った。
「でけた!これあたしの分ね!ありがとね、タカジョー。」条一郎がまたもや苦笑する。サイトは条一郎の肩に手を掛けて同情すると
今度こそ、と言わんばかりに自分達のキャンバスを作り始めた。
今回は書きかたを変えてみました。サイトのセリフがありません。もう寝ます。