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アナログとデジタル

びゅうです。美術部でした。

松野の絵は山の中腹から函館の市内を見下ろした風景を描いていた。濃い鉛筆で下書きされた線の上に独特の重い色が乗っている。


水彩画だというのに軽やかな描写は見られず、おそらくこういった風景画には使われないであろう緑や赤茶系の大気に覆われた風が函館の


街を落ち着いた配色に納めていた。サイトがおおう、と感嘆の声をあげると神崎が「なんか、昼間に描いたのに夜の絵みたい」と冷やかした。


松野が不機嫌そうにぷい、と顔を背けると「今回も松野ワールド全開の絵だね!」と舞先輩が笑みを浮かべて言った。気を良くした松野は


「この調子で大会も頑張りますよ!」と鼻息を荒くして左手を握り締めた。次に神崎と大和が同じ場所で描いた教会の絵をみんなに発表した。


2人とも絵に色がついていないデッサンだったが教会の形を捉えたバランスのいい絵に仕上がっていた。二つの絵を見比べていた松野が呟いた。


「うーん、やっぱり大和と比べると神崎の絵は荒さが目立つんだよなぁ。」


それを聞いて神崎が頭を抱える。「うるせぇ!悪かったな。そりゃ大和は中学の時から美術部だったんだから俺なんかより上手いに決まってるよ!

次!条一郎!早く見せて。」


神崎がスネるように条一郎を促すと条一郎はおそるおそる画用紙を体の前に出した。画用紙には赤い建物が描かれている。


「赤レンガ倉庫を描いたんだけど、観光客に見られたり声を掛けられたりしてあんまり集中して描けなかったんだ。それにレンガの特徴を

掴むのが難しくてなんか、こんな感じの絵になっちまった。」


部員達が覗き込むと赤いレンガの倉庫は赤と茶色が妙なバランスで混じった見る人に不安を抱かせるような仕上がりになっていた。ノマ部長が口を開く。


「絵を描く時は集中力が大事、って大路地先生も言ってたよね?やっぱりある程度自分の世界にこもって真剣に描かなきゃダメだよ」


先輩の少しキツめのアドバイスを受けて条一郎は申し訳なさげにうつむいた。条一郎は高校生になってこの美術部に入るまでは真剣に絵を


描いたことがない。同じ境遇のサイトが重くなった空気を変えるように声をあげた。


「あ、そうだ俺、昨日描いた絵、携帯で撮影してたんだ。ちょっとサイズちいさいけど見せるよ。」


そういいながらサイトがポケットから携帯電話を取り出すとバイブ機能が作動し、メールが届いた。メールの送り主は雨宮慈雨だ。


サイトは何の意識もなくメールを開いた。


「サイトへ メールありがとう。 構図の取り方がすごく良くて素敵な絵だと思う。 私も自分の絵、送るね」


添付されたファイルを開くとアニメのような等身の女の子がサイケデリックな風景の中で片目を閉じて微笑む絵が描かれていた。


ん?サイトが状況を飲み込めないでいると「これ...パソコンを使って描いた絵じゃない...?」と後ろから携帯を覗き込んだ大和が呟いた。


「ほんとだ。サイサイ、こんなシュミあるなんて少し意外~」ノマ部長の声を聞いてサイトが我に戻ると一気に焦りが噴出してきた。


「ち、ちがうんです!この絵は俺の絵じゃなくて!ええっと!なんて言えばいいんだろ...」


サイトが大きく頭を掻きながら弁解しようとすると舞先輩が女の匂いを嗅ぎ取ったのか目配せをしながら色っぽい声を使う。


「サイト君~。どういうことかちゃんと説明しなさいよね~誤魔化したりしたらお・し・お・きしちゃうわよ。」


ああ、こうなった以上、仕方が無い。サイトは合宿で雨宮慈雨という函館の美術部員と出会ったこと、その子の家を描かせて貰った事、


その子と連絡先を交換したことを先輩に伝えた。サイトの話を聞くと「サイト、お前、やる時はやる男なんだな...」と条一郎が目を輝かせた。


大和と神崎が驚いたように顔を見合わせている。写真の絵を覗き込んだ松野が納得できないような口調で言い放った。


「確かに上手い絵だけど、パソコンで絵を描くなんて少し軽蔑しちゃうなー。パソコンで自動で色を塗ったり拡大したりできるんだろ?


それは楽して絵を描いてるって事だろうし、純粋に美術とは言えないんじゃないかなぁ。」


サイトがむっとして言い返した。


「まっつん、WEBデザイナーって仕事知らないのかよ。今はこうやってパソコンで絵を描いてネットで発表するのが流行りなんだよ。」


サイトの様子を見て舞先輩が子供を見るような目で笑った。慈雨がこういう絵を描いてるなんて意外だったな。サイトは自分が描いた絵の


事を忘れ、デジタル技術で描いた慈雨の絵を否定する松野と言い争いを繰り広げていた。

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