青春って...
サイト達美術部員が外で写生大会を行っているとあたりがしだいに暗くなり始め、5時を知らせる「赤トンボ」のサイレンが鳴った。
部員達は宿泊施設「ひまわり」に戻り、あまり豪勢とは言えない夕食を食べ、決められた時間内に入浴を済ませそれぞれの部屋に戻って
いった。備え付けの浴衣に着替えた三上先輩がみんなの顔を見渡しながらにやにやして言った。
「さあ、みんな夜も更けてきたし好きな女の子の名前でも挙げてくか。詠進は誰?」
おいおい。そんな質問に真面目な詠進先輩は答えないだろう。サイトが思っていると短パン姿の詠進先輩がいった。
「僕は3組の北山さんかな。目も大きいし、すごくキュートだと思うんだ。」
サイトは詠進先輩の意外な返しに思わず飲んでいたスプライトを噴出した。あんた、キュートって...ぜーぜーと、息を切らしているサイト
に三上先輩は同じ質問をぶつけてきた。好きな女の子か、サイトは今日出会った雨宮という女の子のことを思い出した。少ししか会話
出来なかったけどいい子だったな。サイトはみんなの顔を見渡すと恥ずかしそうに言った。
「いや、その、好きな女の子って言われても、すぐに浮かびませんけど...でも今日あった女の子とかいい感じだと思いました。」
今日あった女の子と聞いて三上先輩が「ええ?」とサイトの顔を覗き込んだ。いけね。焦って余計な事言っちまった。明日も描く予定の
雨宮家にこの先輩がやってきたら面倒だ。サイトが動揺していると三上先輩の浴衣の携帯電話が鳴った。サイトがほっとしていると
三上先輩が携帯のメールをみながら、
「アイツ、とうとう腹くくりやがったか」と言った。
なんの事だろう?サイトが隣でニシワラ・エレクトロニクスとかいう、つまらないお笑い芸人のネタをテレビでみていた大和の袖を
ちょいちょいと突付くと大和はそれに気付かずふふん、とステージ上で転げ回るニシワラを見ながら笑っていた。
三上先輩はおもむろに立ち上がるとみんなに聞こえるように言った。
「みんな、いまから海岸沿いの波止場までいくぞ。たぶん、すげぇ面白いものが見られると思う。」
そういうと先輩2人は上にシャツを羽織り、外出する準備をした。サイトもテレビにかじりついている大和の頭をはたき、一緒にいく
準備をした。面白いものとはなんだろう。サイトは暗い夜道を懐中電灯で照らしながら歩く先輩2人の後を歩いていった。
しばらくして波止場に着くと三上先輩がここで待ってようかといってサイト達4人は物陰に隠れた。
これからなにが起きるんだろう。すこしドキドキしてきた。
少し待っていると横断歩道を早足で横切る人影が見えた。対向車のランプがそれを照らすと、ジェルで髪型をばっちりきめ、緑色のスーツ
の襟を立てた大清水先輩が現れた。普段とはあまりにも違う気の入り方にサイトは思わずぶっと噴出した。となりにいた大和が
笑っちゃわるいよ。とサイトに注意した。あんなにバッチリとした格好をして何をするつもりなのだろうか。波止場のベンチの前まで
歩いた大清水先輩は落ち着き無くきょろきょろと辺りを見渡し始めた。ときおり大清水先輩が挙げる「...っひ...っひ」という
不気味な声が夜道に響く以外は何の音もしなくなった。一同が一動を見つめていると反対側からコンビニの袋をぶら下げたノマ部長が
歩いてきた。あ!これはもしかして!ようやくこのイベントがなんなのかをサイトが悟ると大清水先輩はノマ部長に向かって
素っ頓狂な声を挙げた。
「ノマ!好きなんだ!」
「ごめんなさい!無理!ぜぇ〜たいに、無理!もう私に話しかけないで!バイバイ!」
大清水先輩が言い終わる前にノマ部長が叫ぶとそのままダッシュでサイト達が隠れている前を横切り、「ひまわり」の方へ走っていった。
詠進先輩が呆然と立ち尽くしている大清水先輩を見ながら行った。
「なんか...青春って...悲しい色だね...」
それを聞いた3人がうんうん、と頷いた。しばらく夜風にあたっていたから体が冷えてきた。もう一回風呂に入り直そうかな。
サイトは後ろを振り返ることなく「ひまわり」に続く坂道をのぼって今日はゆっくり休むことにした。
作者はスプライトが炭酸飲料で2番目に好きです(1位はジンジャーエール)。ニシワラ・エレクトロニクスは江頭2:50のような芸人だと思って読んでください。もう出てこないと思いますが^^;




