犬みたいな貴方で5のお題
1. 人懐っこい笑顔
俺と君の年齢差、十。
初対面の日取りはそれはもう何ヶ月も前から知らされてた。今だから言えるが、俺は楽しみどころか怒ってさえいたよ。やっとまた俺のものになると信じてた人を、十も年下の君があっさり奪ってしまったんだから。
もちろん、それは君のせいでもあの人のせいでもない。当時の俺は未熟だったってことで許してもらいたいな。
さて決戦の日、俺は何度も練習したしかめっ面をたずさえ指定の部屋へ向かったわけだ。君を怯えさせ、震え上がらせ、泣かせてやろうと思ってね。あの人も困らせてやりたかった。そう、嫉妬の塊だったんだよ、俺は。若かったよね。
ドアの外で俺は渋面を作った。鏡で見たとき自分でも怖くなったくらいの、とびっきりのやつさ。
準備万端、戦闘態勢の俺は意を決して室内へと踏み込んだ。君へとまっすぐ突き進み、上から覗き込んで睨みつけ、男として存在を賭けた勝負を挑んだんだ。
そしたらまあ、君はのんきに手足を振り回して喜んでるんだから。
君に笑った覚えはないらしい、だが俺には君が極上に人懐っこい笑顔でじゃれついてきたとしか思えなかったよ。
後にも先にも、ライバルに負けてあれほど爽快だったことはない。君はそういう人間だ。最初に気付いたのが俺だってこと、掛け値なしの自慢。
2. 喜怒哀楽のお手本
俺と君の感情差、月と太陽。
太陽は人をして、温めて芽吹かせ、照りつけて汗を流させ、弱まってはハラハラさせ、気前よく笑顔にさせる。光に溢れた君はまるで喜怒哀楽のお手本。
月と太陽が違うのは、月は陽光を反射しているにすぎないということ。感情という光を冷えた理性の月面でワンクッション。適正に処理してから地球へと、人へと慎重に投げ返す。満ちたり欠けたり、全ては見せずに隠そうとし、あるいは隠しおおせる。
月は輝く太陽がうらやましくもあったけれど、今はこれでいいと思っているよ。この世の闇が不安な人々にとって、月明かりほど頼もしい存在はないからね。太陽と月は当番制で人を導いてるんだ。
それってナイスコンビネーションだと思わないかい?
そう尋ねたら君は笑うんだろうね、よく語る澄んだ瞳に同意を込めて、少し首を傾けて。
3. 日の当たる窓辺が好き
俺と君の必要太陽光量比、一対五。
人一倍愛情に敏感な君は、だからこそ寂しがり屋だ。権力者の父と名家の母を持った君は幼い頃から、世辞や機嫌取りの卑屈な笑顔にさらされてきた。
ある日、君が眩しそうに太陽を見上げながら呟いた言葉を俺は度々思い返す。
「どっちも明るいのに、人工の灯りには虫がたかるね」
だが心配してやしないよ。君には日が降り注いでる、無口で無愛想でぶっきらぼうではあるけれど。そして君はそれを知ってる、だから君はその日の当たる窓辺が好きだ。
風の噂じゃ最近、もう一筋の日に恵まれたそうだね? いつ会わせてくれるのかな。
4. 貴方の事は、俺がちゃんと守るから
俺と君の革命家資質差、引き分け。
君が君の父に初めて翻した反旗の竿を、俺も力の限り放すまい。広大な敷地での潤沢な生活、権力の傘下における安全保障、君はそこから飛び出した。若鳥が二度と戻れぬ巣を発つがごとく。
だが振り返らず行くがいい。君の事は、俺がちゃんと守るから。君が姉君に帰巣の場を捧げるように、俺も君に。
なぜなら、太陽なくして月は輝かない。太陽と月のあいだを見失ったままの俺たちは、これ以上の闇に囚われてはならない。
だから俺は俺のやり方で、君は君のやり方で、光を当てていくんだ。俺たちが振る旗は、きっと彼女の目に留まるさ。
何だかんだ言っても俺は、熱血警官で通ってたりするんだな。
5. 「ねぇねぇ、仕事終わった?まだ?もう直ぐ?」
俺と君の――携帯が鳴った、おや君か。噂をすれば何とやら。
『ねぇねぇ、仕事終わった? まだ? もう直ぐ? 近くに来てるんだ、会いたいな』
尻尾があったら君は、千切れるほど振っちゃってるんだろうね。犬みたいな君に、犬以上に犬みたいな君に逆らえる人間じゃないよ、俺は。
「すぐに終わらせるよ。おいで」
『わーい』
初めて出会った日から十七年、まだまだ君は育ち盛り。
俺と君の身長差、半年前はセーフだったが……この署へ向けて駆けてきてるであろう君に抜かされてないことを祈るよ、弟殿。
お題配布元は[モノドラマ]様(閉鎖されました)。
律季の十歳上の兄の語りでした。