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A

 恋人はもちろん、友だちのひとりもいない孤独で惨めな不細工の為の物語があるとするだろう。

 あるんだよ。

 そうしたら、原稿用紙とペンを用意して、思いつくままにバーっと書くのさ。

 そこに出たのが、波打ち際ブンガクだよ。

 だから例えば、それはこうやって始まる。



 確かにおれは何でも良かったし帰りたかった。

「こんなパーティー、抜けだして寿司でも食べに行こうか」

 カラ出張の服部が俺に謎の提案をする。

「その金もカラ出張で着服したやつですよね」

 カラ出張が苦笑いする。

「そう言うなよ」

 カラ出張服部はクソだ。

 しかし、繰り返したカラ出張不倫で居場所を無くした服部が持つこの厚いツラの皮は、ひとの顔色を伺って生き抜いた氷河期世代サラリーマンとして見習うべきかも知らない。


 そうだ。

 その日はクソよりも顧みられない番組の収録を終えて居室に戻り、ようやく仕事から解放されたなと言う気分になれたと思ったんだ。

 しかし何と言うことだろう!

 会議室でささやかな忘年会をやるとチーフが言っていた。

 大して仲良くもないスタッフで忘年会だって?

 正直、誰ひとり気乗りしない会だ。

 どうせ暖かい飯も無ければ煙草だって吸えない、単なる低予算の立食パーティーだ。

 さっさと帰ってラーメンでも食べていたいのが本音だ。



 しかし会社と言う組織で生きていくのならそれなりの社会性を発揮しなければならない。

 氷河期世代の労働者としては尚更だ。

 そんな事で来年の契約に因縁を付けられたら困る。

 だから気乗りしないまま会議室に入った。


 会議室には、すでにアル中アフロ斎藤とプッツン松井が所在無さげに立っていた。

「お疲れ様です」

 それぞれの眉間辺りに視線を送る。

 二人とも曖昧な返事を寄越した。

 机の上を見ると、どこで発注したのか知れない惣菜とお菓子、あとはヌルくなっているソフトドリンクと缶ビールがあった。

 見捨てられた番組にはお似合いだ。

 別にチーフが吝嗇だとは思わない。

 しかしピザなりフライドチキンなりがあればまた気分も違っただろうにと思う。



 湯水の如く暴言を吐き散らかす昭和レガシー型パワハラ爺のチーフが珍しく忘年会なんてのをやると言うから驚きだ。

 独裁番組ならではの参加率100%の飲み会に期待するのは、そんなチーフの引退発言だけれど、奴の定年はまだ先だ。

 死ぬ予定もまだ見えないくらいに元気100倍でこっちが疲れる始末。



 

 ところでプッツン松井は、今朝方の番組打ち合わせで急に怒鳴ったり土下座したりと言う大立ち回りなんて無かったかの様にニコニコと笑っている。

 情緒の安定を母親の産道か父親の尿道に忘れてきたんだろう。

 そばにいると何をきっかけにまたプッツンするか分からないから話しかけたくない。

 かたやアル中アフロ斎藤はそわそわと缶ビールを見ている。

「みんなまだ来ないっすね」

 水を向けてみると

「あぁ?うん」

 とアル中アフロ斎藤は気のない返事をした。その返事をしている間もビールから目を離さないあたりはさすがだ。

 日頃から便所で隠れて飲んでいるだけある。




 会議室の空気が気だるくなろうかと思った時だった。

「それはどうかな!」

 堀辺(俺は極真やってるからさ)タロウが入ってきた。

 極真タロウは普段からオラつき散らかしつつ、やった事もねぇ編集の心構えだとかを説いては悦に浸るタイプの野郎で全ての編集マンから嫌われている。

 だご本人はそれを孤高とでも捉えている節があり、控えめに言っても階段から落ちて両手足を複雑骨折して欲しいと思う。



 ついでに言うと極真オラつき太郎は前回のロケでマイクの手配を忘れた時に「チーフに言わないで」と何故か編集マンに泣きついてきた事なんかすっかり忘れて

「あれ?場の空気が温まってないよ?ほら、若手なんだからそういうのちゃんとしないと。芸でも見せてさ」

 などといつものオラつきを存分に発揮している。



 続いてカラ出張の服部、唐揚げは堅あげ原理主義の望月、通帳▲の加藤、レーズン乳首の福島キャスターが会議室に集まってきた。

 どうでもいいが極真オラつき太郎はレーズン福島が好きらしい。



「あとはチーフだけっすね」

 誰となく言うが、アル中アフロ斎藤は缶ビールから視線を外そうともせずに

「先に始めちゃおうか」

 と言って手を伸ばした。

 極真空手オラつき堀辺タロウは「ほら、斎藤さんに渡すんだよ」などと若手に対するオラつきを存分に発揮しつつアフロ斎藤に追従しながら缶ビールを持ったが、まだビビりがあるのかプルタブを引くに至らない。

 世界はクソだ。

 だがこれはそのクソの始まりに過ぎなかった。

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