貴族ぶっ倒そう同盟
貴族ぶっ倒そう同盟を発足したルノたちだが、屋敷に潜む邪悪な魔物(貴族)をどう倒すのか。
メルトは、身体が全て戻ると、ベッドに座って少年に尋ねた。
「それで、きみの名前は?」
「俺はグラム! さっきも言ったが、未来の頂点料理人だ!」
グラムと名乗った少年は、自分の胸に親指を指して言った。
「頂点料理人がなんだか分からないけど、グラム君ね、分かった。うちはメルト、こっちはルノくんね」
ルノは紹介されると、間髪入れずにグラムに問う。
「グラムさん、どうやって屋敷から色々盗んだの?」
「なんかお前常に唐突だな! まぁ教えてやるよ、同盟だからな! これを使ったんだ!」
グラムは指先から微量な炎を発する。魔法だ。ゆらゆらと、赤い炎が揺れている。一定の色、形、温度を保っている。
「ふーん、その歳にしては結構制御できてるじゃーん」
「メルトも魔法使えるんか……てか、人じゃねぇよな。お前なんなんだよ」
「ふふ、内緒♡」
ルノ以外には正体を隠していく方針のため、語ることは無いが、力の一端を見ているため、吸血鬼についての知識があった場合隠している意味は無い。
幸いそんなことは無いらしく、グラムは深く追求せず、人には事情があるもんな!と納得したようだ。
「で、この魔法で屋敷の端の方にボヤ騒ぎを起こしたうちに侵入した」
「雑だね……メルトさんくらい雑」
「ルノくん! うちをマイナスの指標にしないでよ!」
ガバガバすぎる方法で侵入できるザル警備……侵入は楽にできる可能性が見えてきた。
しかし、ここでメルトが口を挟む。
「侵入はなんとかなるかもしんないけど、問題がひとつあるんだよねー」
「もんだい?」
「あの騎士だよ、ルノくん、あれは相当な実力者だね。間違いない。あそこまで存在感がある騎士はそうそういない」
昼間に出会った金髪の騎士のことだ。ルノは爽やかで、人当たりのいい騎士だとしか思わなかった。実力者だとかを測ることなどできない。
「おそらく国つきの魔法騎士だね。なーんでこんなとこの貴族の家の盗みに首を突っ込んでんだか」
「めっちゃ強えやつが俺を追ってんのか……やばくね?」
「そうだね……ただこれも何とかしようと思えば何とかできる、かな」
あまりやりたくなさそうに口角が下がっているが、メルトは言う。グラムはどんな方法があるのかと、メルトを期待の眼差しで見つめている。
「何をしようとしているの?」
「うちが囮になるーってこと」
「うちがあの騎士を引き付けて戦うから、その隙に貴族を何とかして説得するの」
メルトが囮になり、その隙に侵入し、貴族を説得する。複雑な話ではないが、ルノは成功するか不安に思った。
囮と侵入までか成功したとして、貴族を説得することはできるのだろうか。
「説得ぅ? あいつはボコボコにしなきゃ変わんねぇんじゃねえの?」
「そこはルノくんのお手並み拝見ってことさ」
「……ぼく?」
「きみは他人を思いやり、その背景を深く理解することが出来る、と思う。貴族だって人間だ。どこかに良心が残っているでしょ!」
またもや雑な作戦にもう心でつっこむ力もないルノだったが、貴族も人間、生きる目的があるはず……もしかしたら本当に悪い人ではないのかもしれない。
「わかった。ぼくがなんとかする」
「いよっ! その意気だルノくん!」
「まじかよルノ! 何とかできるのか!」
「……うん、できる」
正直、自信などルノの中にはほんの少ししかなかったが、やってみなくては分からない。
ルノはその精神を持って、挑戦してみることにした。
◆
翌日、早朝に宿に集まった同盟三人組は、この後の段取りを確認していた。
「しくじって顔見られたことがプラスに働いたな!」
「見られたマイナスを消せてないと思うなー」
「う、うるせえぞメルト!」
何やら自信満々に言うグラムだが、実際ルノたちに見つかった原因は手配書になったように、顔を見られたためである。
自身のドジをまるで功績かのように振る舞うグラムに、メルトがぐさりと言葉で刺しに行く。
しかし、まずはあの金髪騎士を呼び寄せる必要がある。グラムの手配書が出ているというのは、餌を作るのに好都合だった。
グラムの偽の目撃情報を流しておき、実際にそこにいるのはメルトというわけである。
「メルトさん、どこで戦うの?」
ルノはメルトの戦う姿をまだ見ていない。それどころか、この世界における戦闘というものを生きてきてまともに見たことがないのだ。
戦闘の規模感はわからないが、町中での戦闘は町民に迷惑になる。戦う場所というのはとても重要だ。
「それに関してはだいじょーぶ! なんとかする!」
「えー……」
ルノのそんな考えを読んだようにメルトは答えたが、作戦といいつつ「さ」の字もかすらないようなものをたてる彼女のことを考えると、だんだん顔色が暗く、うつむいていった。
「ちょっと! うちそんな信用ない? そこまで悲惨な顔になるもの!?」
「俺は信じるぜ、メルト!」
「グラムボン! きみの評価を少し上げてあげるよ!」
「なんだグラムボンって!」
この後もおおまかな段取りこそ決めたものの、ルノは早くも不安に押しつぶされそうだった。
「ルノくん」
そんなルノの様子を見てメルトは優しく頭をポンとたたく。
「なんですか」
「いいかい? 物事に通ずる考えをひとつ、教えてあげよう」
「成功も、失敗も、行動しただけ一歩前進ってことさ。失敗は後退じゃない、成功とは別の道だが、前には進む」
「行動しただけ一歩前進……」
ルノはそんなこと、考えたこともなかった。
これまで、失敗とは仕事がうまくできずに、金が減ったり、もらえなくなるものだった。失敗したら、その分だけ自分にふりかかる重荷が増えるだけだったからだ。
「わかった。ありがとう、メルトさん」
「! な、なんか素直にお礼言われるとはずいなー」
メルトは少し頬を赤らめ、目を泳がせた。真剣だった雰囲気が台無しである。
「それじゃあ、覚悟も決まったし、日が落ちてから実行だな!」
「うん」
「そうだね!」
「うちと、ルノくんは先に目撃情報だけ広めてくるよ!」
そう言って、メルトはルノの手を引き、外へと飛び出していく。
「おい、俺はこの部屋借りてないし、正面から出らんねぇんじゃ……」
時間まで外で潜伏しておこうと思ったグラムだったが、宿の鍵を持っていなかったため、仕方なく部屋で待機することにした。