まだ、うちは……
まだ、隠している。
うちは何も変われていない。フラレスで少しは自分をさらけ出せたと思ってたのに、この町でまた逆戻りしたみたい。
ルノくんはきっとうちが変だって、気づいてる。うちがこの町で知りたかったことだって、教えてないけど分かってるんだ。
ノモトが手を差し出したとき、一瞬これでいいんじゃないかって思ってしまった自分が嫌い。
自分の追われる理由について考えてたことが一部否定された。でも、白髪についての三つの説とか、内界の話とか……あと、吸血鬼狩りのボスのこととか、少しずつ分かってきた気がする。
今、うちの旅が大きく進んでる。
星を見ながら横で眠るルノくんの前髪をそっとはらう。
初めて会ったときから感じる懐かしさ、その正体は分からないけど、この子と一緒に旅をしてよかった。
楽しい。そう、楽しいんだ。この子の好奇心が、いろんな人とつながりを作って、その分この子も成長する。
それを見るのが楽しい。その場に立ち会えるのがたまらなく嬉しい。
――でも、やっぱり怖い。
うちの変われない部分が、心に住み着いている。
ルノくんの頭じゃ、うちの心の奥にたどり着くのも時間の問題、そう確信してる。
それはいいことなんだろうか。
「――♪」
ふと、歌を口ずさむ。不安な時、誰か大切な人が歌ってくれた歌。歌詞まで覚えてないから、なんとなくのメロディーだけど、心が安らいだ気がした。
歌っていると、ルノくんの顔が少し笑った。
この歌のおかげだろうか。夢でも見ているのだろうか。そこに、うちはいるのだろうか。
「ルノくん、うちはね――」
眠っている間なら話せると思ったその秘密は、喉でつっかえて、うちの声を焼き尽くした。
ほんと、どうしようもない。
「……ごめんね」
せめて、ルノくんが知りたいことの手助けにならないと、うちは明るくないといけないのに。
ゆっくりと、空を見た。空に浮かぶ星を見ていると気が紛れる。
あんな遠くに浮かんでいる星、手の届かない孤高の存在。常にうちらを見て変わらず浮かび続ける姿は、うちにとって、強く感じた。
変わらなくても強くあれる存在にただただ惹かれた。
「うちも星みたいになれたらいいのに」
そう呟きながら、ゆっくりと目を閉じた。
◆
朝になって起き上がると、寝ている間も周りを見張らせていた分身体の警戒レベルを最低限まで下げる。
眠れたようで、疲れは残っていた。脳が休まる暇がないからか、それとも不安が体調に表れているのか分からない。
それでも警戒を怠るわけにはいかない。ルノくんに何か危険が近づいてはいけない。
「……おはようメルトさん」
うちが起きたのと同時に目を覚ましたようで、ルノくんも目をこすりながら起き上がった。
「……おはよー! 今日も港目指して歩くから、頑張ろう、ルノくん!」
「うん……パンドラってまた遠いんだね……」
「そうだねー、なんてったって海の上、だもんね!」
パンドラに行くには陸路は使えない。それはパンドラという都市が一つの孤島全体を利用した場所だからだ。
どの国にも属さず、パンドラ周辺は独自の領域を持つらしい。
うちもどこかでかじった程度の知識しか持ってないけど、あとはなんか三つのエリアに分かれてるとか……
うちが周りを片付け始めると、ルノくんも寝具を片付けはじめる。
「お金とかだいじょうぶなの?」
「たしか、入るのも図書館の利用も特にお金はいらないはずだよー」
「そうなんだ」
ルノくんは片付けを終えると、軽くあくびをしながら体を伸ばした。
「準備できたよ、メルトさん」
「よし、それじゃレッツゴー!」
うちはルノくんの手をとり歩き出す。土を踏みしめる度、先へ進まなければという使命感と、知られたくないという恐怖が頭の中で混ざることなくぶつかり合う。
それでも、頑張らないと、そう約束したから。




