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ルノと旅する吸血鬼  作者: 立木ヌエ
ユンデネ編

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48/51

繋がる点、1と1

 神父とマクマルから神仕者についての秘密を聞いたルノたちは、どこか煮え切らないまま、町への帰り道を歩いていた。

 マクマルが前を歩きながら一人様々な事を話し続けるので、道中は賑やかだった。


 まわりの建物が多くなってくると、マクマルは立ち止まり、振り返った。


「では、私はここまでです! 仕事もあるので走って帰ります!」

「そうか、ありがとうね」

「こけるなよーマクマルー」


 ノモトとメルトが手を振り別れの雰囲気を出すなか、ルノだけはマクマルの目をじっと見つめていた。


「ルノ様? どうかしましたか?」

「あ、えっと……」


 正直に言えばまだ聞いておきたいことはある。マクマルがなぜそこまで善意の塊のような人間になったのか。結局マクマルの使う魔法は善意を引き出すというだけのものだったのか。


 そして、あの夜メルトを治していた時の言葉の意味はなんだったのか……しかし、それを聞いて答えを知るだけではいけない。自分が考えなくてはいけないのだ。


 人には心があり、違いがあるはずなのだから。ボスの矛盾があろうと、そこにも何か合理的な理由があるはずなのだ。


 ――自分が分からないだけなのだ。


「ルノ様……?」

「んっと、そう、パンドラについてちょっと聞きたくて」


 ルノはマクマルにこれ以上深く踏み込まないという判断を下した。

 マクマル以外にもまだ残っているこの町の謎が明かされることは無いのかもしれない。ここで聞かなくてはもう一生分からないかもしれない。


 それでも、全てを理解することは今のルノには難しかった。

 結果、咄嗟に前までマクマルがいたというパンドラの話を出すこととなった。


 マクマルはルノが少しぼかしたことには触れず、明るく笑った。


「……パンドラですか! そうですね、あそこには沢山の書物や遺跡、技術の最先端などが集まっていますよ!」


「何かが知りたいのなら、パンドラに答えがあるかもしれません」


 最後の言葉は、マクマルからのメッセージに思えた。自分のことは話せなくとも、他の事のヒントになるかもしれない。だから行くべきだと、そう言われた気がした。


「そうなんだ。ありがとう、マクマルさん」

「ええ! こちらこそ!」


 マクマルは深くお辞儀すると、すぐに走り去ってしまった。

 その白い服装は、淡く眩しい町に溶け込み見えなくなっていった。


 ルノたちがまた歩き出してすぐ、今度はノモトが立ち止まった。


「じゃあ、宿こっちだし、私もバイバイかな」

「ノモトさんも?」

「うん、私もこの後やることができたから、またね」


 ノモトがサラッと立ち去ろうとすると、ルノは急いでその手を掴み、ノモトの目を見た。

 ノモトはルノが掴んだ手を見ると、目を丸くした。


「待って、ノモトさん」

「……どうしたの?」

「あの、いろいろ教えてくれてありがとう」


 ルノはそう言うと小指を差し出す。


「だから約束、ぼくは気にしてないから、ノモトさんも頑張って」

「ルノ……」


 ノモトの口から声が漏れた。ルノがほんの少し感じていたもの、ノモトがルノに感情をぶつけてしまったことの後悔、それを無くすための約束だった。


 ノモトは緩めていたシャツの第一ボタンを締め、ピシッと姿勢を正すと、凛々しい顔つきになる。


「了解、じゃあ指切りげんまんだ」

「うん、メルトさんもやろ」

「え、うちも?」


 メルトは、ずっと心ここに在らずといった様子で静かにしていたが、ルノに手を引かれ、三人で輪になった。

 メルトが少し戸惑う様子を見てノモトは正した姿勢を崩して笑った。


「三人でやるのはあんま聞かないけど、すごいいいね! ほらメルト!」

「うるさいなー! 分かってるよ! ルノくんのお願いを断るわけないでしょ!」

「じゃあ、約束はみんな頑張ること! メルトさん、ノモトさん!」


 全員が小指を合わせ、ルノが音頭を取る。


「ゆーびきーりげーんまーん、嘘ついたら……」


「ぼくが怒る!」


 ルノとノモトが笑い、メルトもつられて笑う。

 そんな別れだった。





 マクマル、ノモトと別れたルノたちは、宿に戻り荷物をまとめていた。


「とりあえず、町は出たいなー」


 メルトは軽く言うと、部屋の窓から町を見つめていた。


「次はどこに行くの?」

「ぼくは、パンドラに行ってみたい」


 ルノは強く決意していた。

 学術都市パンドラ、たくさんの本があり、その名の通り学術、研究の最先端を走る都市。


 そこに行けば、メルトの知りたい何かがあるかもしれない。

 そしてそこの人々と触れ合うことでルノ自身もさらに賢くなれるかもしれない。


 ルノはそんな淡い期待を持った。


「……うん、そうだね。うちも行かなきゃって、思ってた」


 メルトは、振り返らずに静かに答えると、窓を開けて外の空気を思い切り吸い込む。

 そして、少ししてから窓を閉め、振り返った。


「よし! じゃー次はパンドラだ! ルノくん!」

「うちもまだまだ頑張るからね!」


 メルトはいつものように明るく、声を張り上げて笑っていた。





『◻︎月◻︎日 今日は、ユンデネを出た。入口に近いところは、白くてきれいだった壁がボロボロで、建物も壊れてた。でも、みんな笑って町をなおしてて、すごいと思った。みんな違う心があって、頑張って生きてるだけで、人はえらいんだって思った。パンドラでもっと頭が良くなれば、なんであの白い服の吸血鬼のひとが吸血鬼狩りなのか分かるんだと思う。 ルノ』


『メモ ・トリト様は白い髪の毛→メルトさんと一緒だから何かあるかも ・大魔法使いサトウ→なんかすごい人で、分からないことが多い。異界の穴ってなんだったんだろう ・吸血鬼の祖が二人→吸血鬼がなにか、パンドラで一番に調べる。メルトさんはあんまり教えてくれない』





 荒れた山道を黒い影が颯爽と駆け抜けている。そこらの魔物では反応できずにただ認識することしか出来ないそのスピードに、当の本人は思考する余裕を持っていたようだ。


「あんな子供に諭されるなんてね」


 町で出会った、歳の割に達観した思考を持った少年に、あろうことか自分の弱さをさらけ出し、そのうえで肯定されてしまった。

 やってしまったという冷たい後悔と、救われたような暖かい気持ち、ここに来てそんなものを感じるとは思っていなかったのだ。


 黒い影――ノモトは、周囲の木々を器用に全て避けながら、風に煽られぬようしっかりと握ったメモ帳を見て、王都帰還後の動きに頭を悩ませる。


「好き勝手やったせいで辻褄合わせがめんどくさいな……レクスに振ったらなんとかしてくれるか」


 ノモトはユンデネで自身を学者と偽って調査していた。

 そのため、ここで手に入れた情報は、国としての動きで手に入れた情報と公言できない。


 吸血鬼狩りの背後にある内界の技術問題、その真相にほんの少し繋がるかもという程度の期待で、残りは個人的な調査の為に動いていたというのに、吸血鬼狩りのボスと思われる男と邂逅してしまったことで、重要な情報をどう処理するかの問題が出てきてしまったのだ。


「吸血鬼を狩る、だけが目的なわけないよね」


 ノモトが考えを整理していると、森を抜けたようで、山の斜面に飛び出していた。


「よし、レクスに相談しよう。そうしよう」


 そう決めると、ノモトは斜面を勢いよく駆け下りていった。





 暗い夜道、ユンデネが甚大な被害にあったその日の夜、一人の男がゆっくりと歩いている。

 白いロングコートのフードを外し、その赤い瞳で空に浮かぶ星を見つめると、立ち止まりすっと腕を広げた。


「ああ、素晴らしい。神仕者は残念だったが、まさかここで出会うとは……!」

「古き血族が再びこの星の元に再会した……! ノルムヴァンデの名を持つ者として、これ以上ない巡り合わせだ!」


「神仕者さえいなければこの手で……!」


 男はその手で星を掴み砕くように、強く握りしめた。


「星、内界では星という点を線で結びつけ、ものをなぞらえるらしい」

「古い伝承、反吐が出る……だが、0を1にしたことにこそ意味がある」

「では、1が異なる形になった時には、いったい何が起こりうるのか!」


 男は盛大に叫びつづける。

 その道化ぶりを星が見下ろす。


 男は興奮が冷めたのか、コートから黒く薄い板のようなものを取り出し、耳に当てた。


「吸血鬼狩りの諸君、狩りは順調かな? 夜分遅くに申し訳ないんだが、ここで朗報だ」

「白髪の吸血鬼の存在が確定した。カヴァロで不幸にも殺された同士デイブの報告は正しかったようだ」

「最優先駆除対象だ。なに、相手は天然の白髪だ。すぐに見つかるさ」


 男の瞳は歪み、口元の尖った歯が鋭く光っていた。

 そして、黒い板をしまうと、その手をポケットに入れた。


「……伝承は私が書き換える」


 星の光をスポットライトに、男は歩き出したのだった。

ユンデネ編は以上となります。断章も完成次第投稿しますが、パンドラ編にいつ取り掛れるかが分からないので、また長い時間待たせてしまうと思います。

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