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ルノと旅する吸血鬼  作者: 立木ヌエ
ユンデネ編

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40/51

なぜ?

 ラーメン屋での談義の最中、ルノが生きる目的をノモトに聞くと、彼女は感情的な部分を露わにした。

 メルトは怒りノモトが罪悪感に襲われるも、ルノはそれを受け止めノモトの過去の話を聞くことにした。

 そして、ルノが場を離れると、ノモトはメルトの正体を見抜き、自身の正体をも明かすのだった。


「は? 騎士団長? あんたレクスの上司ってこと?」

「おや、もしかしてこの前レクスが帰還に遅れた理由は君たちか。なるほど、分からなくもない」


 ノモトは淡々と続ける。メルトはますますノモトという人間が分からなくなった。


「あーもう! それで、まず吸血鬼狩りを追うこととユンデネの関係はなに?」

「それならある程度察しがついてるでしょ。内界についてだよ」


「吸血鬼狩りが持ってる十字を象った物とか、銀の武器、あれって内界の宗教をもとにしたものなんだよね」

()()()()()()()()()()()()。そのうちの二つなんだ。君も自分の弱点自体は知ってるでしょ」


 メルトは眉間にしわを寄せながらも頷く。


「それとほかにも内界由来のものがある。それは通信魔道具、私らでもそうやすやすと使えないそれを、奴らが持ってることが分かってね。これで組織としての動きが確定した。これまで以上に結束して動いてる。君にとって恐ろしいことだ」


「そりゃそうでしょ、言われなくても分かってる」


 これはメルトもレクスからの情報で分かっていたことだ。吸血鬼狩りが組織で動いている。

 メルトがこれまでと違って慎重になった要因の一つである。


 だがその由来が内界であることは初耳だった。


「そうだね。悪かったよ……ただ、その由来ってのが大魔法使いサトウでね。かといってこの町は国の要請にも簡単に応じないほどにトリト教が強い……だからこっそり調べに来たんだ」

「なるほどね」


 ノモトは秘密だぞと人差し指を立てる。

 メルトは嘘をついているようには見えないため、次の疑問をぶつけることにした。


「それで、うちが吸血鬼だって分かったのはなんで? いつ気づいたの」

「それは最初からだね。体を覆い隠すような服、白い髪に紅い瞳、そしてとがった牙、とか他にもあるけどね」

「職業柄っていうか、人を観察する癖があってね。それで分かったんだ」


 元々メルトは、ノモトの実力の高さには勘づいていた。

 そのため、この告白もすんなりと受け入れた。さらにレクスという男の上司ならば、なにもおかしなことではない。


「ただ、メルト、君はただの吸血鬼じゃない。その白髪は天然物だろう?」

「白髪というものがこの町で神聖視されることは知ってると思うけど、そもそも白髪にはいくつかの言説があってね」


 ノモトはそう言うと指を三本立てた。


「一、白髪は魔法的才能に溢れた天才である。二、白髪として生まれるものが少ないだけで魔法との因果関係はない。三、トリトの子孫ではないか?魔法の才能もそれ故だ。って三つがあるんだけど、どれにしても、白髪が特別という前提の話なんだよ」


「じゃあ、白髪の吸血鬼はどれほどの存在なんだろうね」


 メルトは唾を呑み込み、静かに話を聞いていた。

 恐れで体中に冷や汗が滲む。その謎が心臓を強く叩くのを感じながら次の言葉を待つ。


「……ただ、私は吸血鬼には本当に詳しくなくてね。これ以上は証拠もない憶測しかでないし、話すこともないかな」


 メルトは拍子が抜けると、瞬時に怒りが湧いてきた。


「は? ここまで引っ張ったのに分からないだ?」

「ちょっと待ちなって、それで、君達が聞いた話があるでしょ」


 ノモトがメルトの耳元に近づく。


「吸血鬼の祖が二人、これ、誰から聞いたの?」


 そうだ。この情報は吸血鬼狩りと思われる男から手に入れたものだ。

 勘の鈍い男で、そばにメルトにという吸血鬼がいたことにすら気が付かなかったため、メルトはあまり意識していなかった。


「……吸血鬼狩りだよ、うちにすら気づかなかったし、弱いやつだと思うけど」

「そう、でも問題はそこじゃない」


 ノモトはまだもったいぶっている。メルトはイライラしながらも問う。


「じゃーどこが問題だって言うの」

「その情報の元、どこなんだろうね?」

「……!」


 ノモトは吸血鬼狩りの持っていたものから内界に関する調査をしにユンデネにやってきた。

 するとユンデネに吸血鬼狩りがいたうえ、吸血鬼の祖に関する情報を真偽はともかく持っていた。


 さらに、ノモトには話していないが、ルノとメルトは謎の吸血鬼にも出会っている。あの男も関係があるのかもしれない。


「これも憶測だからあんま話したくないけど、もしかして、その情報も内界に由来するんじゃないかな。もともと内界についての情報っていうのは断片的だったりして曖昧なんだ」


「じゃあ、確定できることは何か? 吸血鬼狩りという組織が持つ十字のシンボルに銀の武器、カヴァロの森で吸血鬼狩りの死体から見つかった通信魔道具、どちらも内界由来だ」


「そして、そんな内界と縁のある町にいた吸血鬼狩り、それの持っていた吸血鬼の祖についての情報……なんとなく内界繋がりだと思うのは当然じゃない? 君の白髪も関係あるように思える」


 メルトはノモトの語る憶測に恐ろしい程に引き込まれていた。


「たしかに……そうかもしんない、ね」


 メルトは自身の求めるものが吸血鬼狩りにもつながっていることを知ると戦慄し、力なく肯定した。


 ――メルトがユンデネで探していたもの。それは白髪に関する情報だった。


 メルト自身、白髪であることが珍しいことはわかっていた。

 そのうえ吸血鬼である。既に数を減らした世界から見れば珍しい種族である吸血鬼が、さらに白髪であることに何か意味があるのだと考えていたのだ。


 メルトは、気づくと追われる人生を過ごしていた。

 そんな中で、他の吸血鬼に会ったことのなかったメルトは、内心では吸血鬼なんてもう他には居ないのではないか、もしくは追われているのは自分だけなのではないかと考えるようになっていた。


 そのため、白髪の吸血鬼というものを調べれば、何か分かるかもと思っていたのだ。


 しかし、吸血鬼狩りの組織化や、ユンデネで自分と同じ雰囲気を持つもの――自分以外の吸血鬼と出会ってしまった。


 これは、メルトが探す「白髪かつ吸血鬼だから追われている」という理由を否定するに充分な証拠だった。


 では、何故自分は追われているのか。やはり吸血鬼だからか。

 メルトはそう考えると、これまで奥底に閉まっていた不安が押し寄せるのを感じた。


 ノモトは力の抜けたメルトを見ると、強く肩を叩いた。


「それで、色んな情報を出して何が言いたいかっていうとさ、私達は吸血鬼の敵じゃないってこと。正体をバラしたのもその誠意みたいなものなんだよ」


「メルトがどんな目的で旅してるかとか、何故ルノを連れているのかは聞かない。けれど、私達を頼ったっていいんだ。レクスも気に入ってるみたいだし、私が何とかする」

「これは国としてじゃなくて、個人としての話だ」


 ノモトは改めて右手を差し出した。

 メルトはノモトの目を見つめた。嘘を言っているようには見えない。本当にこのノモトという女はメルトを案じているのかもしれない。


 彼女の手を取れば、メルトもルノも安全に生きていけるかもしれない。それどころか、国の騎士団長が何とかしてくれるのだし、普通よりもいい生活が出来るかもしれない。


 でも、その手を取ることは出来なかった。


「うちは、その手は取れない」


「ルノくんを連れ出しちゃったから、うちはルノくんの生きる目的を見つけるまでは旅をしなきゃいけないんだ」


「うちも、やらなきゃいけないことがある」


 メルトがルノを連れ出したのは、ルノの生きる目的を探すためだ。

 ルノはそれを受け入れ、フラレスでメルトが自身の命を諦めた際にはその責任を取れとすら言った。


 そんな信頼を裏切ることはできない。

 

 それだけではない。メルトにも、まだルノに明かせない目的がある。ユンデネに来たのもその道中、白髪を探るのは最終目標ではないのだ。


 ノモトはメルトの目を見ると少し眉を下げ、手を下ろした。


「そう、なら仕方ないね」

「……さっきも話したけど、何か調べたいならパンドラに行くといいよ。あそこの大図書館――()()()()()()なら、白髪についてとか、吸血鬼について何かあるかも」

「……ありがと」


 メルトが素直に礼を言うと、店の扉が勢いよく開く。

 メルトは慌てていつもの様に奔放な自分を作り直す。


「ごめんなさい! 遅くなっちゃった!」

「おかえりルノ、じゃあ行こうか」

「そうだね! お腹大丈夫?」


 メルトがしゃがみこみルノの手を握ると、ルノは笑って答える。


「だいじょうぶだよ。それより、はやくノモトさんの話が聞きたいな」

「ああ、あんまり面白い話じゃないけど、贖罪はするよ」


 こうして三人は暗い道を歩き出したのだった。

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