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ルノと旅する吸血鬼  作者: 立木ヌエ
フラレス編

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21/30

芸術の町

 トレビオでの別れから五日、ところどころの小さな宿場町を経由しつつ、現在ルノたちは大きな街道の端に馬車を止めてもらっていた。

 馬車がよく通っており、歩いている人も見える。小さな店のようなものも並んでおり、町が近いことを実感させた。


「じゃあ、すまないが、ここで下ろすからね」


 二股に分かれた道で、ルノとメルトは荷車から降りる。


「大丈夫だよー。港のほうに降りていかないとなんでしょ? 交易口にまでついてくわけにもいかないし。あと、乗せてくれてありがとうね。宿代まで払ってもらっちゃって」

「ああ、いいんだ。あそこのマスターには世話になったからね、恩返しみたいなものだよ。この道をそのまま進めばつくはずだから、達者でね」


 御者は帽子を外して小さくお辞儀した。ルノもそれに合わせてお辞儀してみる。


「ありがとうございました」


 馬車が動き始め、小さな点になっていく。ルノは見えなくなったのを確認すると、じっくりと周りを観察する。

 まだ町に入ったわけではないが、すでに魚介を扱う店が多い。だが、このあたりでは生魚を扱っているわけではなさそうだ。他には工芸品などが多く売られている。


 そしてもう一つ、周囲を見て気づいた特徴があった。


「なんだか、きれいな絵ばっかりだね」


 いたるところに何やら絵画がよく飾られている。


「そうだね! フラレスって景色が綺麗なことで有名だから、風景画がたくさんあるんだよ!」

「だからフラレスは芸術の町って言われてるの! 有名なのだとエリオットって人の絵が凄かった気がする!」

「芸術……」


 ルノは絵画をじっと見つめる。

 様々な色が互いに重なり、その目に見える風景を形に残しているその有り様がきれいだと思う理由、それを考えてみるが、答えは出なかった。


「ルノくんには早かったかな? まあ、きれいだー! って思っておけばいいんじゃない?」

「うーん……またこんど考える」


 ルノは内心もやもやしながらも、ひとまずフラレスへと向かおうというメルトの提案に首を縦に振った。





 大通りを歩いていると、ふと、ルノの嗅いだことのないにおいが鼻へとはいりこむ。


「ルノくん! ほら! 町と海が見えてきたよ!

「……! あれが、海?」

「そうだよ! 青くて広い! あとしょっぱいんだって!」


 メルトの指す先を見て、ルノ思わず息をのんだ。

 大きな湖、いや海は、はるか果てまで続いており先が見えない一筋の線となっている。小さく船も見えるが、おそらくここから見えるよりも大きなものだろう。


 ルノは目一杯にその景色を脳裏に焼き付けていた。開き続けた目が乾燥してしぱしぱする。


「町の方もみてみて!」


 ルノはメルトの言葉で瞬きすると、今度は町のほうへと目をやる。

 こちらも圧巻だった。急勾配な斜面に家が連なり、段となっている。海の方向へと弧を描いた町は、海と合わせた一つの作品のようにも見える。ところどころ開けたところには、なにやら高くそびえたった棒のようなものもあった。

 町の入り口は何個も設置されているようで、ルノ太刀のいる地点は高さでいえばちょうど中間あたりだった。


「ハンスの地図的に……依頼した人の家は目の前のとこから町を突っ切っていけそうだね。店を見てー、あと、昼食だけとってからいこ!」 

「……メルトさん地図よめたの?」


 ルノはカヴァロの洞窟内でのメルトの方向音痴……冒険気質ぶりを思い出す。地図をかいたにもかかわらず真逆へと進むほどであったのに、今はすんなりと町の構造を把握している。

 ルノが眉を曇らせるのを見ると、メルトは口を開け少し間を置いてから笑った。


「あー、あれ? だから冒険気質だって! それにー、うちだって、ルノくんの字が上達するように学習していくんだから!」

「そっか、メルトさんもダメダメなままじゃないってことなんだね」

「ダメダメじゃないよー!」


 メルトは口を尖らせて抗議している。

 そんなメルトの様子に、ルノは心の奥に少し痛みを感じた。しかし、メルトが言った通り、誰しも成長するものだ。これもきっとそうなのだろうと、ルノは滲み出す何かを抑えて町を見つめた。





 町に入ると、町の外よりも人で賑わっていた。トレビオに比べれば少ないが、通りの左右を人が行きかっている。

 さらにいたるところに絵画が飾られており、そのタッチは異なるものの、どれもこの町の風景を描いたものだ。


「うわー! 見てよルノくん! 魔物の小さな人形だ!」

「ほんとだ! びりびりしてるみたい」


 丸い頭部にいくつもはえた足が特徴の魔物だ。その足がなにやら痙攣しているかのように見える。

 メルトは店先に並べられたそれを手に持つ。小さい人形に何やらひもがついている。そこかに括り付ける物のようだ。


「確かに。これって何、感電してるの?」


 メルトが尋ねると、店員の女性が店の奥から歩いてきた。


「そうだよ。これは昔、ここから離れたところにある離島に住み着いていた湖の主の人形さ。何年も前に沖の魚を食い荒らすようになって困っていたんだが、ある冒険家たちが天の雷を操り倒したんだ。それにちなんでいるんだよ」

「なるほどー」


 メルトがぬいぐるみをまじまじと見つめている中、ルノも店員に質問する。

 

「雷に弱いってことですか?」

「うーん、それはどうだろうね。この魔物のようなやつは電気に強いはずなんだが、実際に倒しているからねぇ」

「結構最近の話なのに雑じゃーん」


 メルトは茶化すように言いながら、ぬいぐるみを二つ持っている。


「まあ、それはおいといて、お会計お願い!」

「はいよ。でも確かにどうやって倒したのかは気になるかもねぇ」


 店員の話を聞きながら、ルノは凄い冒険家がいたのだなと感心した。電気が効かないのに雷で倒した。なにか弱点があるのだろうか。


「まぁ、滅多刺しにすれば倒せるでしょ!」

「随分な自信だねぇ」


 メルトは胸を張ってから、購入したぬいぐるみを自身とルノの持つ鞄に取りつける。


「うーん、かわいい!」

「これはー、フラレスに来た思い出ってことで!」

「そうだね、メルトさん」


 この後もぬいぐるみを揺らしながら様々な物に目を輝かせるメルトを見て、ルノは心の奥の痛みを少しづつ忘れていった。


「そろそろお昼にしよっか!」

「そうだね」


 そして、メルトの提案通り昼食のために店へと入っていくのだった。





「おいしーい! 実はうち、お魚全然食べたこと無かったんだー!」

「ぼくもあんまり食べたことないけど……おいしい!」


 現在はふらっと立ち寄った店で昼食中である。新鮮な魚を使った料理はルノたちの舌をうならせていた。


 料理を食べながら、ルノはアーカス滞在中の会話を思い出した。あれは、メルトとバラムスの料理対決の後だった。


『いやー、作りすぎたー! 今度は魚料理が作りてぇな! フラレスなんかで新鮮な魚を捌きてぇ! 本場で食う新鮮な魚はやっぱり美味いんだろうな!』

『ああ、それならワシが保証する。昔幼い頃に行ったことがあるが、フラレスの魚は美味だ。ワシは生魚を捌いたものが気に入ったな』

『えー! バラムス様、今度あそこからめっちゃ新鮮な魚仕入れてくれよ!』

『人に頼む前に自分でやれ、馬鹿者!』


 二人の些細なやり取りを思い出して笑いながら、ルノはふと別の問題を思い出す。


「でもメルトさん、お金は大丈夫なの?」

「ん? あー、それは大丈夫、ユンデネに行く分には全然足りないけど、フラレスにいる分には十分だから」

「そうなんだ」


 料理は美味しいのだが、観光の集中するこの通りの店は料理の値段が少し高い。

 ルノは、金がないといってフラレスへとやってきたというのに、ここで金を使っても大丈夫なのかと考えたが、メルトが大丈夫だというのでひとまず信用することにした。


 最悪の場合自分が財布を握ろうと考えつつ、今は目の前の料理に集中するのだった。





 昼食を食べ終え、あとは寄り道せずに依頼主の家に向かうのみである。

 依頼主の家というのは地図によれば少し町から外れた方面にあり、周りには他の家がない。

 人の密集する町から離れ、少し歩いていくことになる。ルノたちは木々が生い茂る小道を歩いていた。


「そういえば、ハンスさんは戦えればいい依頼だって言ってたけど、ぼくはどうしたらいいんだろう」

「なんか魔物の素材が欲しいらしいけど……宿にうちの分身を置いておこうかな。分身越しに会話もできるしね!」

「でも、どこでなにと戦って、どうしたらいいのか分からないとじゃないの?」


 ルノの意見はもっともである。メルトは自信満々な表情が崩れ、だんだんと考え込むように前かがみになりながら歩いていた。


「そうだね……うちの分身も維持する距離には限界があるし、町の遠くまで行くことになると困るからなー……もしもの時はルノくんも一緒に行くことになるかな」

「大丈夫! 絶対に守るから!」


 メルトはピンと背中を伸ばすと、再び自信満々に笑った。そしてルノの頭を撫でると、不意に道の外れ、何もいない先を見つめる。


「メルトさん……?」

「ん……何でもないよ! さぁ、とっとと歩いていこう! これで今出払ってたら困るからね。速攻だよ!」


 そう言ってメルトはルノの手を引き、ほんの少し駆け出したのだった。

 メルトの手は普段よりも暖かい。

多分書き終わるはずなので、投稿開始します。

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