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ルノと旅する吸血鬼  作者: 立木ヌエ
トレビオ編
16/21

隠した本心

 喫茶店を出たルノたちはひとまず宿へと向かい、ハンスも一緒に部屋に連れてきた。

 殴られてからというもの、ハンスは陽気に笑う姿も、軽く愉快なトークも、何一つが嘘のように静かだった。椅子に座る背中は項垂れ、小さく丸まっている。


「で、ハンス、まだ何も話さないわけ? 返事もしないなんて、感じ悪いよ」

「すまん」

「謝罪が聞きたいんじゃないんだけどー、はぁ」


 やっと口を開いたかと思えば、ハンスは口々に『すまん』と謝るのみである。ルノはそんな様子を見ていたくなかった。

 ナンパに失敗してもへこたれず、メルトの弄りにも笑って返してくれる、そんな明るい男は見る影も無くなっていた。


「ハンスさん……どうしても話せないの?」

「……すまん」

「ぼくは、ハンスさんとフレンさんが喧嘩してたとしても、仲直りして欲しいよ。むかし、なにがあったの?」


 ルノが出せる精一杯の言葉だった。だんだん怒りで変貌していくフレンの様子に動揺し、しっかりと整理できなかったが、今は落ち着いて内容を思い出せるようにはなり、ハンス側の情報が欠けていることが気になっていた。

 ルノは喧嘩の要因はそこにあると考えたのだ。どちらが悪いかを決めたい訳ではなく、この先の、仲直りした二人を見たいと思ったのだ。


「あのさー、あんた大人でしょ? いつまでウジウジしてるワケ? ルノくんに気を使わせて不甲斐ないとか思わないの?」


 メルトは遠慮せずにズケズケとものを言う。ハンスはそれでも動かなかった。

 ルノはどうにかしてハンスを元に戻そうと、頭を回す。

 やがて、一つの結論にたどり着いた。


「へいへい、そこの落ち込んでる兄ちゃん!」

「ルノくん!?」

「……ぁ? ルノ……?」


 ルノの突然の変化にメルトは目と口を大きく開いて固まった。

 ルノはハンスが少し反応した様子を見てから、演技を続けた。


「んー? 声が聞こえないなぁ! どうだい? ……俺にひとつ、相談してみないかい?」


 拙い演技で陽気なフリをするルノ、ハンスはいつの間にか顔を上げて、ルノを見つめていた。


「なんだよ、それ」

「俺は相談されるのが得意、じゃないけど……いや、得意だからな! ぼく……俺が相談に乗ってやるよ!」

「ルノ……」


 ハンスは、めげずに演技を続けるルノを見ると、何かを決意したかのように立ち上がった。


「ルノ……すまねぇな、心配かけちまって。メルトちゃんも」

「ハンスさん……!」

「うちは心配してないよ、単にナヨナヨしてだっさいなーって思っただけですー」

「おいおい、そこは嘘でも心配したって言ってくれや」


 まだ力ない感じだが、メルトにツッコミを入れる元気はあるようだ。

 ルノはその様子を見ると、安心して笑った。


「大丈夫? ハンスさん」

「おう、ありがとな……お礼というかお詫びに、俺の話を聞いてくれるか?」

「うん」


 ルノが承諾すると、ハンスは部屋のドアを開けた。


「まぁ、ここで話してもなんだからな、この町の北に丘がある。開けた場所だが、人がいないんだ。そこで話そう」

「えー、なんでわざわざ移動するのー?」


 メルトが文句を言うも、ハンスは笑って答える。


「あんまり面白い話でもないけどな、できれば開放感があるというか、明るい雰囲気の所で話してぇんだよ」

「メルトさん、行こう」

「まぁ、ルノくんが行くならいいよ」


 ルノの言葉に、メルトも渋々といった風に答えた。

 かくして、三人は宿を後にするのだった。





 ハンスに連れられ、町外れの方まで来たルノたち、そこは町の中に比べて建物もなく、ただ緑の盛り上がった大地であった。

 町を眺めることもできるこの景色は、トレビオの営みの全体を見渡せる絶好の場所だ。


「ここは祭りの様子が広く見えてな。人混みに疲れたら来るんだ」

「人に疲れるってあんた、いい大人なのにナンパばっかしてるような奴にそんな感情があるの?」

「メルトちゃん、人をなんだと思ってるのさ……この世にはどんな人間だっているがな、外と内は別物なことも多いってのはありふれたことなんだよ」


 ハンスは遠い人並みを見つめながら答えた。メルトはそういうことは聞いてないと口に出そうだったが、ハンスの言いたいことを優先して、声には出さなかった。


 ルノは、ハンスの言葉を聞くと疑問を持った。それぞれが考えることがあるというのは分かっていたが、人との関わりを積極的に行うようなハンスが、人が多いという状況から離れたくなる――人との関わりに消極的になるということの意味をうまく飲み込めなかった。

 人の裏表など、見せたくないから隠すというような手段までは分かっても、本心でそう思うということが分からなかったのだ。


「ともかく、俺も外と内が違う人間の一人ってことなんだよ。実はあんま初対面で話しかけるってのが得意じゃねぇんだ」

「え? ハンスさんが?」

「そう、俺が」


 ルノが聞き返すと、ハンスは地面に寝転がる。

 風が吹き、気持ちがいい。


「まぁ、なんでこうなったかってのが、俺の昔話……たぶんルノが知りたいことに繋がると思う」


 ルノはハンスを真似て地面に寝転んだ。メルトもその横に寝転ぶ。

 そして、ハンスが語り出す。


「もう十五年前になるな。まずは冒険しようと思ったきっかけなんだが――」

トレビオ編残り3話は朝7時更新となります。

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