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第10話 真実探偵団と、女王様のいない教室

 その日の放課後、私の部屋は、秘密基地と化していた。

 ベッドの上には、ポテトチップスとオレンジジュース。壁には、模造紙に「打倒!ミキの嘘!」と書かれたスローガン。……ちょっとダサいのはご愛嬌だ。

 メンバーは、行動派リーダーの私、冷静な分析官のサキ、そして、このチームの心の支えであるマイ。

 我ら、「真実探偵団(仮)」の結成である!


「よし、作戦会議を始めるよ!」

 私がリーダーっぽく宣言すると、サキが真剣な顔で口を開いた。

「まず、敵の戦略分析から。ミキちゃんが流した嘘を、クラス中に広めているのは、おそらくリエちゃん。彼女はミキちゃんがいなくなった今、自分が次の女王様になれるって思ってるはず」

「なるほど! 元・内部の人間がいると話が早いね!」

「……ちょっと複雑だけどね」

 サキは苦笑いしながら、作戦を提案してくれた。まずは、クラスの子たちに聞き込みをして、どれだけの人が嘘を信じているか、探りを入れることになった。


 だが、翌日。私たちの地道な聞き込み調査は、冷たい壁にぶち当たった。

「ねえ、ミキちゃんのこと、本当にカスミたちがいじめたんだと思う?」

 そう声をかけても、返ってくるのは、「リエちゃんがそう言ってたし……」「よくわかんない」「関わりたくない」という、遠回しな拒絶の言葉ばかり。

 教室の空気は、私たちが思うよりもずっと、ミキの嘘の色に濃く染まっていた。たった一日で、私たちは完全に孤立していた。


「だめだ……誰も、私たちの話、聞いてくれない……」

 昼休み。三人で机をくっつけて、どんよりとした空気でお弁当を食べていると、私のスマホが、ぶぶっ、と震えた。

 ユウからだ。


『件名:Re:進捗状況』

『本文:物事は、中心から崩れるとは限らない。時には、外堀から埋めることも有効。焦りは禁物』


 相変わらずの、ポエムというか、お告げというか……。

 しかも、添付されていたのは、ウサギのシロちゃんの、どアップのキメ顔写真だった。……癒やし画像をくれるあたり、ユウなりの優しさなのだろうか。


「外堀から埋める……?」

 ユウの言葉を反芻していると、サキがハッとした顔になった。

「そっか! リエちゃんたち、嘘を信じ込んでいる子に話を聞いてもダメなんだ! もっと周りの、『本当にそうなのかな?』って少しでも疑問に思っている子を探すんだよ!」


 私たちは、作戦を変更した。

 正面突破がダメなら、まずは自分たちの「正しさ」を証明する、動かぬ証拠を集めるのだ。


 その日の放課後、私たちは再び私の部屋に集まった。

 マイが、震える手で、いじめられていた時のことをノートに書き出してくれた。

 『4月28日(月) 下駄箱の上履きに「しね」と書かれていた』

 『5月1日(木) 机の中に、給食のパンの残骸が入っていた』

 涙で文字が滲む。それは、見ているだけで胸が張り裂けそうになる、悲しい記録だった。でも、マイは「これが武器になるなら、私は大丈夫」と、気丈に顔を上げた。


 サキも、自分の罪と向き合うように、ミキのグループにいた時に見聞きしたことを書き出した。

 『ミキちゃんは、マイちゃんの絵を見て、「この構図、使える」と言っていた』

 『リエちゃんに、私の悪口を言っているのを聞いたことがある』


 それらの証言を、私は一つ一つ、丁寧にノートにまとめていく。それは、ただのノートじゃない。私たちの「真実」が詰まった、たった一つの武器だった。


 私たちの、そんな必死な姿を見ていてくれた人がいた。

 翌日の休み時間、一人の男子が、こっそり私のところにやってきた。以前、ミキの給食失敗事件の時に、笑いをこらえていた子だ。

「あのさ、俺、前からミキのこと、ちょっとやりすぎだって思ってた。だから、これ……」

 そう言って、彼が差し出したのは、ミキが他のクラスの子の持ち物を、わざと落として知らんぷりしているのを見た、というメモだった。


 小さな、でも、確かな綻び。

 ミキが作り上げた嘘の世界に、亀裂が入り始めた瞬間だった。


「真実のノート」は、少しずつ、でも確実に厚みを増していく。

 これなら、戦える。

「このノートを持って、ミキの家に行こう。そして、クラスのみんなの前で、全部正直に話してもらおう!」

 私がそう提案すると、サキが不安そうに言った。

「でも、ミキちゃんが、素直に家から出てきてくれるかな……」

 確かに。あのプライドの高いミキが、のこのこ出てくるとは思えない。どうすれば……。


 その時、また、私のスマホが震えた。

 ユウからだった。


『件名:Re:最終局面』

『本文:舞台は整った。あとは、主役を舞台に上げるだけ。主役が一番欲しがっている『エサ』を、目の前にぶら下げればいい』


 そして、メッセージに添えられていた写真に、私たちは息をのんだ。

 それは、中学部の校舎の写真。

 そして、その写真の中央に、爽やかな笑顔で写っていたのは――生徒会役員の、五十嵐先輩、その人だった。


 ユウの、最後の策。その意味を理解した私は、ゴクリと唾をのんだ。

 なんということを、この呪い屋は思いつくんだ……!

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