ココロノクスリ
今、自分は何処に居るのだろう。
周りを見渡せど暗闇と自分自身の身体しか見えない。
ぼんやりとした頭で考えやっと思い出した。
――そっか、今さっき思考の海に堕ちたところだった。
いつからこんな事をやりだしたんだっけ?
わかんないな。
でもきっかけならわかる。
自分はいつだって『言葉のクスリ』を飲んでいた。
心が不安定な時はいつでも
「大丈夫」
そう語りかけてた。
ちょっと気に障ることがあっても
「大丈夫」
此方を見られていても
「大丈夫」
分かり易く笑われても
「大丈夫」
ああ、今傷ついた。なら、
「大丈夫」
これがあれば何処までもやっていける。
そう、信じてた。
そんなのは甘い考えだと知るのはそう遠くなかった。
その日もたくさんの「大丈夫」を使った。
「大丈夫」「大丈夫」「大丈夫」「大丈夫」「大丈夫」「大丈夫」「大丈夫」「大丈夫」「大丈夫」「大丈夫」「だいじょうぶ」「ダイジョウブ」――
あれ、「大丈夫」ってどんな意味があったっけ。
そんなことであっけなく崩れた。
部屋に籠った。
布団に包まり外が見えないようにした。
記憶に潜った。
そこには懐かしいけれど決して届かない"笑顔”があった。
戻れない日々を想った。
毎晩泣いた。
それでも、数少ない記憶は底を尽きる。
とうとう思い出せるような記憶は全て思い出してしまった。
そんなこんなで外に出ることもできず、記憶の世界に行くこともできず辿り着いたのがこの『思考の世界』だった。
何も考えずにいるとよくある天使の囁き声が聞こえてきた。
「貴方はそろそろ此処を抜け出さなければなりません。」
――そりゃそうだ。分かってる。けど、
「頑張ったんだからまだいいだろ~」今度は悪魔。
――でも、本当にこのままでいいのだろうか。
ただへこへこ頭を下げて愛想笑い貼り付けて誰も傷つかないように怯えてるような自分を変えないままで。
泣いてばかりで何も変わろうとしないままで。
結局は「自分は弱いからしょうがない」と思っている。
認めたくないから見て見ぬふりをしているだけ。
自嘲的な笑みが自然と零れる。
そうだ、自分は元からこんな奴だった。
無駄に殻を分厚くして"本当"に触れないでほしいと思っていた。
それなのにどこかに"本当の自分に気付いてほしい"とも思っている我儘な自分もいた。
今ので核心に近づいた。
もう少しで本音がわかりそうだ。
自分は何が欲しかった?
自分は何を望んでいた?
答えはきっと"自分"の中に――
ああ、わかった。
愛されたい。
それだけだった。
簡単、かつシンプルな答え。
だけど全てが腑に落ちた感覚がした。
――そろそろ、戻ろっか。
簡単には変われない。けど、
何かを信じて歩いて行ける気がしたんだ。
無理やり信じ込ませていた自分はもう終わりだ。
「大丈夫」
あの時とは違う、あたたかさがあった。
世界は狭く、広かった。
はじめまして。こんにちは。
最後までお読みいただきありがとうございます。
少しでも何かのきっかけになれば、と思います。