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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一卷 第四章 陰謀の第一幕が開かれる-4

司会者しかいしゃ今回こんかい試験しけん担当者たんとうしゃ紹介しょうかいえると、すぐに今回こんかい考核こうかく内容ないよう告知こくちされはじめた。

前半ぜんはん試験しけん大別だいべつしてつの類型るいけいかれる:魔法使まほうつかいしょく戦士せんししょく能力のうりょく考核こうかく、およびふたつの職業しょくぎょう精通せいつうした組合くみあわせをえらべるオプションによる、能力値のうりょくち総合そうごうテストである。

このような試験しけん設定せっていにより、かく参加者さんかしゃみずからの実力じつりょく十分じゅうぶん発揮はっきすることが可能かのうになる。だが、わたしにとっては、この考核こうかく元来もともとかなり気まず(きまず)いものであった。


異世界いせかい転移てんいしてから、わたし職業特性しょくぎょうとくせい変化へんかしたようにおもわれる。

以前いぜん、ゲームないでのわたし職業特性しょくぎょうとくせい――絶対優位ぜったいゆういは、特定とくてい魔物まもの一体いったいロック(ロック)することで、三十さんじゅっぷん以内いないその相手あいて攻撃力こうげきりょくの130 %をられるというものだった。だが時間じかんると、つぎ魔物まもの一分いっぷん以内いないにロックしなおさなければならず、継続けいぞくして魔物まものをロックしない場合ばあいわたし攻撃力こうげきりょく即座そくざにゼロにもどり、ふたた使用しようできるようになるまで三十さんじゅっぷんたねばならなかった。

しかし、転移てんい状況じょうきょう一変いっぺんした。いまわたし任意にんい人物じんぶつ――魔物まものかぎらずだれでも――の攻撃力こうげきりょくをロックでき、その相手あいて攻撃力こうげきりょくの200 %を直接ちょくせつることができる。しかも時間じかんてき制限せいげんはなく、緹雅ティア攻撃力こうげきりょくさえもわたしはロックすることが可能かのうだ。

ただし制約せいやくは一つのこっている。てきをロックしていない場合ばあいわたし攻撃力こうげきりょくじかにゼロになるてんである。この特性とくせい自己じこ能力のうりょく偽装ぎそうするさい非常ひじょう有用ゆうようである。


このような変化へんかは、わたしにとって間違まちがいなくおおきな優勢ゆうせいである。しかし(しかし)、同時どうじにかなり後悔こうかいもしている。あのときもっと攻撃こうげきがた魔法まほう修行しゅぎょうしていれば、将来しょうらいにだいぶ役立やくだったはずだ。

魔法まほうしょ使つかわない状況じょうきょうでは、現在げんざいわたし所持しょじしている攻撃こうげきがた魔法まほうおおくない。

たしかに私は他人たにんよりもつよ攻撃力こうげきりょくることができる。しかし(しかし)、それがわたしなにおそれない存在そんざいにするわけではないと承知しょうちしている。攻撃力こうげきりょく強弱きょうじゃく戦闘せんとうにおけるひとつの優勢ゆうせいぎず、戦術せんじゅつ各種かくしゅ魔法まほう戦技せんぎとのわせこそが勝敗しょうはいけるかぎである。

これこそが、総合そうごうてき実力じつりょくにおいてわたしがなお上位じょういつらねることができる理由りゆうでもある。


このとき亞拉斯アラース一言ひとことわたし警戒心けいかいしん一層いっそうたかまった。

じつおどろくべきことだ。わたしおな魔力まりょくゆうしているのに、攻撃力こうげきりょく異常いじょうひくい。こんな状況じょうきょうわたしはじめて見る。」亞拉斯アラース口端こうたんをわずかにげ、ふくみのある微笑びしょうかべた。

私は驚愕きょうがくしていた。亞拉斯アラースはどうやらわたしたちの能力値のうりょくちることができるらしい。これはわたしにとってすこ意外いがいだった。

わたし緹雅ティア虚偽きょぎ手環てかんよそおっているため、亞拉斯アラース能力値のうりょくち完全かんぜんにせであった。だが、亞拉斯アラース一目ひとめ他者たしゃ能力のうりょく見抜みぬけるという事実じじつは、わたし好奇心こうきしん刺激しげきした――それはつまりかれ十級じゅうきゅう相当そうとうちからゆうしていることを意味いみするのだろうか。


わたしふかおもいをめぐらせていると、亞拉斯アラース突然とつぜん緹雅ティアほういた。

緹雅ティア能力値のうりょくち興味きょうみしめしたのだ。

「ねえ、きみ実力じつりょく、けっこういいさ。以前いぜん、どうしてきみかけなかったんだ?」とかれは問い(と)いかけた。

緹雅ティアはそれをいてほんのすこ微笑びしょうかべ、のんびりした口調くちょうこたえた。

「だって彼氏かれしが『てみたい』ってったから、付きつきそってたのよ〜」と彼女かのじょいながら、わたしけてやや挑発ちょうはつてき視線しせんげた。

かれ彼氏かれしだって? 緹雅ティア!!!」と私はその言葉ことばて、たちまち言葉ことばまり、顔色かおいろすこ狼狽ろうばいした。

鼓動こどう無意識むいしきのうちにはやくなり、この突如とつじょとした公然こうぜんたる宣言せんげんに私は戸惑とまどいをかくせなかった。


亞拉斯アラースはそれにたいしてまったにしていないようで、むしろわらった。「おや? そういうことなら、きみたち二人ふたり実力じつりょく随分ずいぶんおおきいな。そんな弱者じゃくしゃんでくのは、やはり危険きけんすぎるよ。」とかれい、口調くちょうふくまれる軽蔑けいべつ空気くうき瞬間しゅんかんにして凝固ぎょうこさせた。

緹雅ティアはその言葉ことばいて心中しんちゅう非常ひじょう不快ふかいおぼえたが、すぐに平然へいぜんよそおってこたえた。

大丈夫だいじょうぶよ、かれ補助ほじょスキルをたくさん使つかってわたしたすけてくれるんだから!」

彼女かのじょかおには無理むりつくった笑顔えがおかんでいたが、にはその不快ふかいかくしきれなかった。

亞拉斯アラースまゆをわずかにげて興味きょうみしめし、「あら? かれにもそんな能力のうりょくがあるのか。たしかに、補助ほじょスキルはそれほどおおくの攻撃力こうげきりょくようしないからね。」と軽蔑けいべつめてった。

その言葉ことば緹雅ティア気分きぶんをさらに悪化あっかさせたが、彼女かのじょはそれでも反論はんろんこらえてだまっていた。


そののち亞拉斯アラース口調くちょうえて提案ていあんした。

「いい提案ていあんがある。きみたち二人ふたり十二じゅうにだい騎士団きしだん一戦いっせんどうだ? もしやぶれたら、その小娘こむすめわたし小隊しょうたいい。もしてば、すぐに混沌級こんとんきゅう格付かくづけしてやろう。どうだ?」

この提案ていあんはたちまち場内ばないおおきな反響はんきょうび、騎士団長きしだんちょうたちでさえ驚愕きょうがくした様子ようすたがいにわした。

明白めいはくに、このような提案ていあんはやや異例いれいすぎるものであった。


亞拉斯アラースさま、その条件じょうけん新人しんじんたいしてあまりにもきびしすぎやしませんか?」と率先そっせんして異議いぎとなえたのは、鐵馬てつば騎士團きしだん団長だんちょう艾瑞達エリダだった。

雲兔うんうさぎ騎士團きしだん団長だんちょう康妮カンニ同様どうよう懸念けねんしめした。「そうだよ! この二人ふたり、まだとてもわかえる。わたしかれらが十二じゅうにだい騎士團きしだんてるとはおもえないわ。」と彼女かのじょった。

だが、光龍こうりゅう騎士團きしだん団長だんちょう傑洛艾德ジェロエイドはそれに賛同さんどうせず、むしろわらってこうった。「きみたち二人ふたり、もう亞拉斯アラース大人たいじん判断はんだんうたがうのはやめたまえ。こんな機会きかい滅多めったにないんだ。能力のうりょくのあるものおおければおおいほどいだろう?」

「ははは〜、そういうことだ。いたいことがあれば試合しあいわってからにしよう!」と亞拉斯アラースかるわらった。

亞拉斯アラース一言ひとこといて、かく騎士團長きしだんちょうたちは反論はんろんする余地よちうしない、沈黙ちんもくえらんだ。

明白めいはくに、この考核こうかくかれらにとってもおおくの未知数みちすうふくんでいるようだった。


亞拉斯アラースかえり、するどわたしたちをくようにつめてった。「それでは、きみたち二人ふたりはどうする?」

私はふかいきい込み、この挑発ちょうはつをこれ以上いじょうつづけさせはしないとめ、くちひらいた。

「それは不可能ふかのうだ。」と私は断固だんこ口調くちょうひとことかえした。

亞拉斯アラースわたし返答へんとう意外いがいそうな表情ひょうじょうかべ、こえげて問い(と)いかえした。「おや? こわがったのか?」

私は躊躇ちゅうちょすることなく反論はんろんした。「ちがう。わたしいたいのはこうだ。狄蓮娜ディリエナ永遠えいえんわたしたい一員いちいんだ。彼女かのじょがあなたの小隊しょうたいくことはない。」

それをいた亞拉斯アラース大笑だいしょういし、あざけるようにった。

「ははは、やはりこわがっていたか。きみのようなよわものこわがるのは当然とうぜんだよ。」かれ軽蔑けいべつてき口調くちょう空気くうき一層いっそう緊張きんちょうさせた。


「……」

そのとき、緹雅ティアこえ突然とつぜんひびわたった。「わたしがあなたたちの挑戦ちょうせんける!」と、そのこえきよるようでかたかった。

緹雅ティアぐにち、まなこにははげしいひかりまたたき、あきらかに完全かんぜん準備じゅんびととのっている様子ようすだった。


亞拉斯アラースふたたまゆかるげ、その反応はんのう満足まんぞくしているかのようにわらった。

「おや? やはりわたしかなおんなだ。となにいるあのものよりも、よほど気骨きこつがあるよ。」

かれい、無意識むいしき視線しせんわたしけ、口調くちょう相変あいかわらず挑発的ちょうはつてきだった。

緹雅ティアすこしもうごじることなく、冷冽れいれつ口調くちょうつづけた。「もしきみたちがけたら、きちんとかれあやまりなさい。」彼女かのじょ視線しせん亞拉斯アラース見据みすめ、微塵みじんおそれもなくそこにっていた。

緹雅ティア言葉ことばいて、わたしむねあたたかさでたされたが、それと同時どうじ亞拉斯アラースへのいかりが一層いっそう込みこみあがってきた。

このおとこは、こんなやり方でわたしたちを挑発ちょうはつするとは、本当ほんとうゆるせない。

どうしてあいつは、こんなにかる々(がるがる)しくわたしたちを見下みくだすことができるのか?


緹雅ティアすでして表態ひょうたいしたのをて、わたしは元々(もともと)おうとした言葉ことばをそれ以上いじょうつづけなかった。

わたしふかひといきい、亞拉斯アラースに問い(と)いかけた。

「では、この試合しあいなに規則きそくはありますか?」

亞拉斯アラースかたをすくめてらくこたえた。

規則きそくか……制限せいげんはない。さき降参こうさんしたものけとする。使つか能力のうりょくなにでもかまわない。」

問題もんだいないよ。」と緹雅ティア躊躇ちゅうちょせずにこたえた。

亞拉斯アラースわずかにわらみをかべ、さらにくわえてった。

「よし、それじゃ準備じゅんび二十にじゅっぷんやろう。準備じゅんびととのったら、そのまま出場しゅつじょうしろ。」

かれあわると、視線しせん周囲しゅうい騎士團きしだん構成員こうせいいんうつし、もはやわたしたちにそれ以上いじょう注目ちゅうもくはらうつもりはなさそうだった。


二人ふたりすこはなれた場所ばしょあるき、緹雅ティアわたしうでをそっとつかみ、ひくこえあやまった。

「ごめんなさい、勝手かってけちゃって……心配しんぱいさせたわね。」

そのこえは、さっきまでのつよ口調くちょうとはまるでちがい、ひとみにはすこしの不安ふあん宿やどっていた。

私はくびよこり、おだやかにわらってった。

心配しんぱいなんてしてないよ。あいつらの節穴ふしあなだ。おれたちの本当ほんとう実力じつりょくなんて、見抜みぬけるわけがない。すこちからおさえれば、この試合しあい問題もんだいないさ。」

すこ言葉ことばって、私は視線しせん亞拉斯アラースほうけた。

「それに、あの亞拉斯アラースやつは、どうてもおまえ自分じぶんたいれようとしている。そんな要求ようきゅうおれ絶対ぜったいれない。」

そうったとき、知らず知らずのうちにこえおもみがこもっていた。

緹雅ティアはその言葉ことばいて、ほおをわずかにあからめた。

うつむいたその仕草しぐさはどこかれくさそうで、すぐにやさしいみをかべる。

「もう~そんなふうにわれたら、こっちがずかしくなるじゃない。じつはね、さっきかれらがあなたのことをわるったとき、わたしはらって……本当ほんとうおこりそうだったの。」

「ありがと、緹雅ティア。」

その一言ひとことくちにした瞬間しゅんかんむねおくたしかなちから宿やどった。

緹雅ティアちいさくわらい、ほおめながらすこれたようにった。

「もう~またそうやって……れちゃうじゃない。じゃあ、これからどうする?」


みじか思考しこうのち、私は素早すばや全体ぜんたい戦略せんりゃく整理せいりし、異空間いくうかんから一本いっぽん金色きんいろかがや蜿蜒えんえんとした長刃ながやいばし、緹雅ティアわたした。

「この程度ていど相手あいてなら、これで十分じゅうぶんだ。

十二じゅうにだい騎士団きしだん団長だんちょうたちの能力値のうりょくちはすでに確認かくにんした。たしかにかれらの戦力せんりょくたかいが、純粋じゅんすい実力じつりょく勝負しょうぶとなれば、おれたちにとって脅威きょういとはえない。」

緹雅ティアにした長刃ながやいばつめ、まだすこ疑問ぎもんいだいたようにくびかしげた。

超量級ちょうりょうきゅう武器ぶき一本いっぽん使つかうだけでいいの?」

私はかるうなずき、いたこえこたえた。

「そうだ。それに、超量級ちょうりょうきゅう武器ぶきはあまりせたくない。無駄むだうたがわれるのはけたいからな。」


この試合しあいは、わたしにとってたんなる挑戦ちょうせんではなく、亞拉斯アラースへの明確めいかく反撃はんげきでもあった。

みじかわせをて、わたしたち計画けいかくはすでにかたまった。

私はかえり、亞拉斯アラースほうて、自信じしんちた足取あしどりでまえすすし、った。

亞拉斯アラースさん、準備じゅんびはできています。」

亞拉斯アラースはその言葉ことばいて、わずかにわらみをかべ、しずかにうなずいた。

そしてすぐに騎士団きしだん団員だんいんたちへと視線しせんけ、いたこえ命令めいれいくだした。

「では――すべての騎士団きしだんメンバー、配置はいちにつけ。」

そのこえ終始しゅうしおだやかで、まるでこれからはじまる試合しあいたいして、なにひとつ不安ふあんいだいていないかのようだった。

亞拉斯アラース命令めいれいひびくと同時どうじに、十二じゅうにだい騎士団きしだん団員だんいんたちは即座そくざ整然せいぜんならび、空気くうき一気いっきめた。

だれもが予想よそうしていなかった――まさかこので、かれ全員ぜんいん出場しゅつじょうすることになるとは。


十二じゅうにだい騎士団きしだん団長だんちょうたちは、即座そくざ自分じぶん団員だんいんたちへ指示しじばしはじめた。

その瞬間しゅんかんこんとんとしていた空気くうき一変いっぺんし、全体ぜんたい整然せいぜんうごす。

かく騎士団きしだんにはいつにん幹部かんぶ存在そんざいし、これほどの規模きぼ全員ぜんいんうごくのはひさしぶりのことだった。

ほとんどの戦力せんりょくがこの試験しけん集結しゅうけつしているとっても過言かごんではない。

それぞれの団員だんいんたちはいきわせ、団長だんちょう命令めいれいしたがって、緊張感きんちょうかんただよなかで着々(ちゃくちゃく)と攻撃こうげき準備じゅんびととのえていった。


するど鼓音こおんひびわたると同時どうじに、たたかいのまく正式せいしきがった。

最初さいしょ攻撃こうげき仕掛しかけてきたのは、炎虎騎士団えんこきしだんだった。

その全土ぜんどに知られるほど、強力きょうりょく火炎かえん魔法まほう有名ゆうめいだんだ。

かれらは後方こうほうすべての騎士きしあつめ、素早すばやく「連合三階れんごうさんかい戦技せんぎ」――《火炎箭かえんせん》をはなった。

無数むすう閃光せんこうのように空気くうきき、瞬間しゅんかんにして火花ひばな四方しほうった。

私は反射的はんしゃてき魔力まりょくげ、すぐさま第三だいさんかい魔法まほう水流波すいりゅうは》を発動はつどうした。

魔力まりょくかたちし、奔流ほんりゅうとなって前方ぜんぽうせる。

それは圧倒的あっとうてきみずほとばしりで、炎虎騎士団えんこきしだん火炎かえん完全かんぜんみ、がるねつ一瞬いっしゅんしずめた。

おなさんかい魔法まほうとはいえ、わたし魔力まりょくしつ攻撃こうげき強度きょうどは、かれらのそれをはるかに上回うわまわっている。

結果けっか、その攻撃こうげき拍子抜ひょうしぬけするほど容易ようい相殺そうさいされた。

炎虎騎士団えんこきしだん攻勢こうせいを軽々(かるがる)と退しりぞけたものの、わたしむねおくにはひとつの疑念ぎねんまれはじめていた。

――これほどあさ攻撃こうげきで、本気ほんきわたしたちちからためそうとしているのか?

それとも、このうらに、べつねらいがかくされているのか……。


わたしつぎかんがえていたその瞬間しゅんかん雷鶏騎士団らいけいきしだんうごきをせた。

かれらの戦術せんじゅつ炎虎騎士団えんこきしだんとはことなり、今回こんかい団員だんいん一人ひとりひとりがいっ雷公鶏らいこうけいあやつり、全員ぜんいんいかずち元素げんそまとった攻撃こうげき仕掛しかけてきた。

いつ雷公鶏らいこうけいは、雷光らいこうはげしくはなちながらそらけ、稲妻いなずまのような速度そくどわたしたちんでくる。

そのわざは――《五重雷啼ごじゅうらいてい》。

しかし、そんな攻勢こうせいまえにしても、緹雅ティア微動びどうだにしなかった。

そのひとみには戦意せんいべるものがほとんどえず、ただしずかに様子ようす見守みまもっている。

その態度たいどに私はまったくおどろかなかった。

なにせ、たかが第三だいさんかい魔法まほう――わざわざ反応はんのうするほどの価値かちはない。

そして、緹雅ティアわたしがどううごくかをよくっている。

彼女かのじょうごかないのをて、私は一歩いっぽまえ主導しゅどうつことにした。

ふたた第三だいさんかい魔法まほう――《岩掌がんしょう》を発動はつどうする。

地面じめんがうねり、すうまい巨大きょだいいわてのひら地中ちちゅうからいきおいよくがった。

それらはまるでたたくかのようにかるやかに、いつ雷公鶏らいこうけいを次々(つぎつぎ)と粉砕ふんさいしていく。

雷公鶏らいこうけいたちは抵抗ていこうするもなくくだり、のこされたのは雷光らいこう余韻よいんだけだった。

――やはり、この程度ていど攻撃こうげきでは、わたしたちまえではあまりにももろい。


私は亞拉斯アラースが、わたしたち魔力まりょく消耗しょうもう技能ぎのう使用状況しようじょうきょう監視かんししていることを理解りかいしていた。

だからこそ、私はあらかじめ《虚偽情報魔法きょぎじょうほうまほう》を併用へいようし、わたしたちしん状態じょうたい巧妙こうみょうかくしていた。

これにより、亞拉斯アラースわたしたち実力じつりょく正確せいかくはかることができず、今後こんご戦闘せんとうでも優位ゆういたもつことができる。

ふたたびみじか交戦こうせんのあと、騎士団きしだん団員だんいんたちはあきらかにづきはじめていた――

わたしたちけっして容易よういたおせる相手あいてではないということを。

かれらの表情ひょうじょうには緊張きんちょうはしり、うごきには先程さきほどまでになかった真剣しんけんさが宿やどっていく。

そのには、もはや余裕よゆうはなく、全力ぜんりょくでこの試合しあいいど覚悟かくごがはっきりとれた。


まえふたたび攻勢こうせいわたし一人ひとりなんなく退しりぞけたことで、騎士団きしだん攻撃こうげきパターンが変化へんかはじめた。

つぎ前線ぜんせんへとうごしたのは――岩猴騎士団ガンコウきしだんと水羊騎士団(スイヨウ-きしだん)。

ふたつのだん連携れんけいし、圧倒的あっとうてきいきおいで攻撃こうげき仕掛しかけてくる。

水羊騎士団(スイヨウ-きしだん)の団員だんいんたちは、それぞれの水流すいりゅうからかたちづくられたやいばにぎっていた。

やいばからはつめたい気配けはいただよい、まるでれるものすべてをくかのようなするどさをはなっている。

一方いっぽう岩猴騎士団ガンコウきしだんはそのとおり、圧倒的あっとうてき膂力りょりょくほこ集団しゅうだんだ。

かれらは重厚じゅうこう岩石がんせき巨斧きょふ巨槌きょついかまえ、らすような足取あしどりでせまってくる。

一撃いちげきごとに空気くうきふるえ、ろされるたびに大地だいちにひびがはしるほどの破壊力はかいりょくだった。


だが、そんなふたつの騎士団きしだんによる連携れんけい攻撃こうげきまえにしても、緹雅ティア微塵みじんひるむことはなかった。

彼女かのじょかぜのようにかるやかにうごき、まるでおど精霊せいれいのようだった。

てきがどんな角度かくどから攻撃こうげきはなとうと、彼女かのじょ一瞬いっしゅん距離きょりをずらし、するどやいばいわ巨斧きょふ紙一重かみひとえけていく。

その姿すがたは、まるで時間じかんそのものが彼女かのじょ周囲しゅういだけゆるやかになったかのようだった。

一歩いっぽごとの足運あしうごびにはたしかな計算けいさんうつくしさが宿やどり、舞踏ぶとうのような軌跡きせきえがいていく。

鋭利えいりみずやいばも、おもいわおのも、緹雅ティアとどくことはなかった。

ふたつの騎士団きしだんほこ連携れんけい猛攻もうこうも、彼女かのじょまえではまるで意味いみさなかった。


同時に、闇蛇アンジャ騎士団きしだん戦局せんきょくくわわった。

かれらは暗影あんえい魔法まほう使つかとして知られ、このとき四階よんかい魔法まほう暗影束縛あんえいそくばく」を発動はつどうし、地中ちちゅうからの奇襲きしゅう仕掛しかけようとしていた。

かれらのねらいは、この魔法まほうわたしたちのかげあやつり、うごきをふうじることにあった。

もしそのさく成功せいこうすれば、わたしたちの反応はんのうおおきくにぶり、完全かんぜん主導権しゅどうけんうばわれることになるだろう。

だが、わたし緹雅ティアはすでにかれらの意図いと見抜みぬいていた。

緹雅ティアひとみするどひかった瞬間しゅんかんわたし即座そくざ反応はんのうする。

私はすぐさま二階にかい魔法まほう強光きょうこう」を発動はつどうした。

まばゆひかり奔流ほんりゅうわたし全身ぜんしんから炸裂さくれつし、そのひかり瞬時しゅんじわたしたちのかげおおいつくした。

その結果けっか暗影あんえい触手しょくしゅかげつかむことができず、わたしたちにたいして一切いっさい脅威きょういあたえることはできなかった。


わたし補助ほじょにより、**緹雅ティア**のうごきはまるで流雲流水りゅううんりゅうすいのようになめらかで、一切いっさい影響えいきょうけることはなかった。

かげ触手しょくしゅによる執拗しつよう妨害ぼうがい完全かんぜんるため、私は四階よんかい補助ほじょ魔法まほう――「影縫斷えいほうだん」を発動はつどうした。

この魔法まほうにより、緹雅ティアにぎやいばかげ触手しょくしゅれた瞬間しゅんかん、まるで薄紙うすがみくかのように容易よういることができた。

緹雅ティア一撃いちげきごとは、鋭利えいりやいば空気くうきくようにするどく、無駄むだのない完璧かんぺき軌跡きせきえがく。

かげ触手しょくしゅたちはその攻撃こうげきけて瞬時しゅんじ霧散むさんしたが、なくつづくその攻防こうぼうはさすがに煩雑はんざつであった。

そのころわたしたちが応戦おうせんしているあいだに、葉鼠ヨウショ騎士団きしだん後方こうほうからほか騎士団きしだんいんたちへ回復かいふく魔法まほうほどこしていた。

その支援しえんのおかげで、前線ぜんせん騎士きしたちはつね最良さいりょう状態じょうたい維持いじし、どれほど消耗しょうもうしても即座そくざなおり、ふたた戦場せんじょうへとじていった。


泥豬でいちょ騎士団きしだん玉牛ぎょくぎゅう騎士団きしだんは、わたしたちがこれまでの攻撃こうげきをいとも容易たやす退しりぞけたのをて、ついに強力きょうりょく連携れんけい奥義おうぎ――「熔岩海ようがんかい」の発動はつどう決断けつだんした。

瞬間しゅんかんふたつのだんからはなたれた膨大ぼうだい魔力まりょくからい、地面じめんから轟音ごうおんとともにがる。

巨大きょだい熔岩流ようがんりゅう戦場せんじょう一帯いったいおおくし、その赤黒あかぐろ奔流ほんりゅうはまるでうみのようにてしなくひろがり、れるものすべてをんでいった。

灼熱しゃくねつ気流きりゅうあたりをつつみ、空気くうきさえもつような熱気ねっきわる。

舞台ぶたい一瞬いっしゅんにして、ほのおいわ交錯こうさくする終焉しゅうえん景色けしきした。

だが、その壮絶そうぜつ光景こうけいにも、わたし緹雅ティア微動びどうだにしなかった。

せま熔岩流ようがんりゅうつめながら、私は即座そくざ二階にかい魔法まほう――漂浮岩ひょうふがん

ぎの瞬間しゅんかんあわひかりびた岩塊がんかいわたし緹雅ティア足元あしもとかびがり、やわらかくわたしたちの身体からだげた。

熔岩ようがん奔流ほんりゅう足下あしもととどろかせながらながれていったが、その熱波ねっぱすらとどかぬたかさで、わたしたちはしずかにその災禍さいか見下みおろしていた。


そのとき鐵馬てつば騎士団きしだん一瞬いっしゅんすきのがさずとらえ、即座そくざ五階ごかい魔法まほう――「龍巻漩渦りゅうけんせんか」。

かれらの魔法まほう先程さきほど熔岩流ようがんりゅう呼応こおうし、やがて巨大きょだい火焔かえん竜巻たつまき形成けいせいする。

熔岩ようがん奔流ほんりゅうがり、轟音ごうおんとともに紅蓮ぐれん旋風せんぷうとなってわたしたちにおそかってきた。

せまほのお竜巻たつまきまえにしても、わたしたちの表情ひょうじょう終始しゅうししずかであった。

なにしろ、わたしたちほどの実力じつりょくであれば、なにもせずともこの程度ていど攻撃こうげきなどとおじないのだ。

だが、緹雅ティアはあえて無防備むぼうびえらばず、四階よんかい魔法まほう――「流水之靈りゅうすいのれい」。

彼女かのじょてのひらあおんだ水流すいりゅうまれ、ゆるやかにひろがっていく。

ぎの瞬間しゅんかん緹雅ティアがその水流すいりゅうおおきくるうと、それははしほのお竜巻たつまき激突げきとつした。

とどろ爆音ばくおんとともに、ふたつのちから拮抗きっこうし、やがて火焔かえんさえまれ、ぜるようなひかり衝撃しょうげき戦場せんじょう全体ぜんたいつつんだ。

その衝突しょうとつ余波よはしろきりとなって一瞬いっしゅんあたりにひろがり、場内じょうない視界しかいうしなうほどの濃霧のうむおおわれた。

その白霧はくむは人々(ひとびと)の視線しせんさえぎり、同時どうじに――わたしたちの姿すがたをも完全かんぜんかくった。


そのとき黒狗こっく騎士団きしだん四階よんかい魔法まほう――「黒暗籠罩こくあんろうしょう」。

かれらのねらいは、わたし緹雅ティア視界しかいうばい、行動範囲こうどうはんい完全かんぜんふうめることにあった。

黒暗こくあんしおのようにせ、またたひろがっていく。

戦場せんじょうはたちまち漆黒しっこくやみまれ、空気くうきまでもがこごるような静寂せいじゃくつつまれた。

ひかりえ、視界しかい一瞬いっしゅんおぼろかすむ。

同時どうじに、雲兔うんうさぎ騎士団きしだん泥豬でいちょ騎士団きしだん合体がったいわざ――急流手きゅうりゅうしゅした。

地面じめんやぶってはし激流げきりゅうどろなかから、無数むすう触手しょくしゅうごめきながら姿すがたあらわす。

それらはまるで意志いし生物せいぶつのようにのたうち、すさまじい速度そくどわたしたちにおそかってきた。

そのうごきは狡猾こうかつで、まるでやみそのものがいのち宿やどしたかのようだった。


黒狗こっく騎士団きしだんの「黒暗籠罩こくあんろうしょう」によって、かれらはわたしたちの視界しかいうばうだけでなく、この魔法まほうとおじてわたしたちの位置いち感知かんちすることも容易よういになっていた。

黒狗こくけん騎士団きしだん成員せいんたちはやみなかわたしたちの所在しょざい把握はあくし、雲兔うんうさぎ騎士団きしだん泥豬でいちょ騎士団きしだん正確せいかく攻撃こうげき指示しじおくる。

それをけた両団りょうだんは、躊躇ためらうことなく一斉いっせい攻撃こうげきはなった。

轟音ごうおんとともにどろ衝撃波しょうげきは戦場せんじょうつらぬく。

かれらは確信かくしんしていた――「これでのがれるすべはない」と。

だが、ぎの瞬間しゅんかん触手しょくしゅからられたのは、わたし事前じぜんつくした岩石人偶がんせきにんぎょうにすぎなかった。

かたいわ破片はへんくずちるおと静寂せいじゃくやみなかひびわたり、そのにいた全員ぜんいんこおく。

実際じっさいには、「黒暗籠罩こくあんろうしょう」が発動はつどうしたその刹那せつなに、わたし緹雅ティアはすでにおと気配けはいもなくべつ位置いちへと転移てんいしていたのだ。

ゆえに、かれらの渾身こんしん一撃いちげきは、ただのからりにわり、暗闇くらやみなかにはむなしい風音かぜおとだけがのこった。


この状況じょうきょうたりにした光龍こうりゅう騎士団きしだん鉄馬てつば騎士団きしだんも、ついに反撃はんげきてんじた。

かれらは、わたしたちがまだ本気ほんきしていないことをさとると、もはや躊躇ちゅうちょすることなくほかだん足並あしなみをそろえ、後方こうほうから一斉いっせい攻勢こうせい仕掛しかけてきた。

光龍こうりゅう騎士団きしだん瞬時しゅんじ四階よんかい戦技せんぎ――「光箭こうせん」を展開てんかい

同時どうじに、鉄馬てつば騎士団きしだん雲兔うんうさぎ騎士団きしだんはそれぞれ補助ほじょ技能ぎのう硬質化こうしつか」および「超加速ちょうかそく」を発動はつどうし、攻撃力こうげきりょく速度そくど一気いっきげた。

ぎの瞬間しゅんかん光龍こうりゅう騎士団きしだんはなった光箭こうせん稲妻いなずまのように空間くうかんき、閃光せんこうきながらわたしたちにかって一直線いっちょくせんんでくる。

それぞれの光箭こうせん太陽たいよう欠片かけらのようにまばゆかがやき、内部ないぶには圧縮あっしゅくされた破壊はかいちから渦巻うずまいていた。

その軌跡きせきうつくしくも凶烈きょうれつで、まるでひかりそのものが意思いしってわたしたちをつらぬこうとしているかのようだった。


光箭こうせん」の効果こうかにより、戦場せんじょう一層いっそうまぶしくなった。

強烈きょうれつひかり四方しほう放射ほうしゃされ、おおくの騎士団きしだん成員せいん光線こうせんがあまりにもつよいため、けることができず、めまいをかんじた。

このような光線こうせん長時間ちょうじかんさらされれば、戦闘力せんとうりょく深刻しんこく影響えいきょうおよぼすだけでなく、てき一時的いちじてき麻痺まひさせる可能性かのうせいさえある。


この状況じょうきょうて、私はすぐに四階よんかい補助ほじょ魔法まほう――「光風こうふう」を発動はつどうした。

光箭こうせんわたしたちにかってはなたれた瞬間しゅんかん緹雅ティアもまたにしたけんるう。

彼女かのじょうごきは稲妻いなずまのようにはやく、剣刃けんじん宿やど光風こうふうちから共鳴きょうめいし、すべての光箭こうせんわたしたちのまえ反転はんてんさせた。

光箭こうせんはまるでかえのように軌跡きせきえがき、瞬時しゅんじてきがた騎士団きしだん成員せいんたちをつらぬいた。

つづいて轟音ごうおん戦場せんじょうひびわたり、反射はんしゃした光箭こうせん爆発ばくはつによって周囲しゅうい騎士きしたちは次々(つぎつぎ)とばされた。

ひかり衝撃しょうげき交錯こうさくするなか全員ぜんいんし、身動みうごきひとつれない。

濃煙のうえんちこめる混乱こんらん戦場せんじょうで、ただわたし緹雅ティアだけがしずかにくし、表情ひょうじょうくずすこともなく平然へいぜんとしていた。

ほか騎士団きしだん成員せいんたちはみなたおし、もはや反撃はんげき余地よちすらのこされていなかった。





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