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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一卷 第四章 陰謀の第一幕が開かれる-3

翌日よくじつ

屋外おくがい陽光ようこうはとてもあかるくかがやいていた。異国いこくいてはいるが、ねむりはわるくなかった。結界けっかいられている以上いじょうだれかに突然とつぜんおそわれる心配しんぱいもなかったからだ。

わたしはソファにこしろして思考しこうふけっていた。どうしても心配性しんぱいしょうで、あれこれとかんがんでしまうのだ。

それにくらべて、緹雅ティアはまるでなやみなど一切いっさいたないかのように無憂無慮むゆうむりょで、彼女かのじょ警戒心けいかいしんはもうすこたかくあるべきだとかんじてしまう。

今日きょう本当ほんとう天気てんきだね、緹雅ティア。」

「ふぁ~……まだからだつかれているがするよ。それより、ねえ、今日きょうそとがいつもよりさわがしくない?」

緹雅ティア欠伸あくびをしながら、だるそうに二階にかいから階段かいだんりてきた。

「だって、おれたちはもう弗瑟勒斯フセレスにいるわけじゃないからな。」


わたしたちは家屋かおくて、とおりのかいにあるちいさな食堂しょくどうはいり、朝食ちょうしょくることにした。ここでされる朝食ちょうしょくはすべて現地げんち特色とくしょくある小吃しょうきつで、蘿蔔糕ルオボーガオ蔥抓餅ツォンジュアビン鉄板麺てっぱんめん小籠包しょうろんぽう四物湯しもつとう清粥小菜せいしゅくしょうさいなどがあり、しかも非常ひじょうやすかった。

朝食店ちょうしょくてん店主てんしゅ年配ねんぱい老婦人ろうふじんで、とても親切しんせつわたしたちへこえをかけてきた。

「よう~イケメンと美人びじんのおじょうさん、なにがりますか?」

炒麺ちゃおめんふたつ、それぞれ半熟卵はんじゅくたまごふたつずつえてください。それから小籠包しょうろんぽう一籠ひとろう、それと蘿蔔糕ルオボーガオひとつ。」

私はまるでれた様子ようす注文ちゅうもんげた。まさかこの世界せかいで、ふたたびこんなもの出会であえるとはおもってもいなかったからだ。

おもかえせば、以前いぜんはたらいていたころあさによくかよった中華風ちゅうかふう朝食店ちょうしょくてんがあった。そこにはわたしきな朝食ちょうしょくがたくさんならんでいたのだ。


凝里ギョウリ、そんなにたのんでおおすぎないか?」

大丈夫だいじょうぶ大丈夫だいじょうぶ、これくらいならわたし全部ぜんぶべられるよ。」

からだ健康けんこう影響えいきょうあたえないようにけてね!」

普段ふだんから運動うんどうしてるから!」

わたし蛋餅たんぴんひとつでいいよ~」

緹雅ティアわたし言葉ことば返事へんじをせず、そのまま店主てんしゅ注文ちゅうもんげた。

「はいよ~、そしたら丁度ちょうどさんまい銅貨どうかだね。飲料いんりょうよこ自分じぶんってね~」

さいわい、わたしたちはここにまえ尤加爾村ユガールむらでこの世界せかい通貨つうかをいくらかれていたので、この程度ていど出費しゅっぴならなんとか支払しはらうことができた。

わたし緹雅ティア米漿べいしょうふたり、人目ひとめかないせきえらんでこしろし、そのあと目標もくひょうについてはないをはじめた。


今回こんかい行動こうどう情報じょうほう収集しゅうしゅう前提ぜんていにして、できるだけろくかい以上いじょう魔法まほう使つかわないようにする。いま利波リポ草原そうげん管制かんせいされているため直接ちょくせつ調査ちょうさできない。だからこそ、名目めいもくつくって現場げんばかう必要ひつようがある。現場げんばにいられさえすれば、わたし対処たいしょできるから。」

よるにこっそりうごけばいいんじゃない?」緹雅ティアいた。

「ちがう。わたし心配しんぱいしているのは、もし探知たんち魔法まほう感知かんちされたら、わたしたちの行動こうどう簡単かんたん暴露ばくろされてしまうことだ。潜伏せんぷくけたものたのむか、きみ技能ぎのう使つかうことはできるが、現段階げんだんかいでは余計よけい手段しゅだんおおもちいるつもりはない。できるだけ一番いちばん普通ふつう方法ほうほうおこないたいのだ。」

私はそと自分じぶん情報じょうほうをあまりらしたくない。とくおおくの魔法使まほうつかいは探知たんち魔法まほう使つかえるため、探知たんちされる可能性かのうせいたかい。探知たんちされない魔法まほう使つかうことも理論上りろんじょう可能かのうだが、それでも魔法まほう使用しよう痕跡こんせきのこる。したがって、魔法まほう使つか機会きかいはできるだけらさなければならない。


「お二人ふたり料理りょうり出来できましたよ!」

わたしかんがごとをしていると、店主てんしゅ親切しんせつ料理りょうりはこんでくれた。

「わあ! 本当ほんとう美味おいしそう!」

緹雅ティア興奮こうふんした様子ようすわたしった。

美味おいしいものをべられることは緹雅ティアにとってしあわせなことだし、わたしにとってもおなじだ。


ここの 炒麵チャオメンわたし脳海のうかいえがいていた想像そうぞうとほとんどいっしょだった。はこばれてきた瞬間しゅんかんかおりが鼻腔びくうせ、よだれがそうになった。

炒麵チャオメン油麵ユーメン使つかい、簡単かんたんいためられていて、めんからげたかおばしさががっていた。金黃こんこうかがやめんと、ほのかに湿しめった**滷肉ルーロー**のからいが、完璧かんぺきわせをかたちつくっていた。

滷肉ルーローあじ濃郁のういくでありながらあぶらっこくなく、一口ひとくちごとに滷汁ルージュー醇厚じゅんこうさがひろがり、油麵ユーメン清香せいこうにく鮮美せんびたがいにっている。

辣醬ラージャンからさとかおりがゆっくりとのぼり、料理りょうりあじにより一層いっそう層次そうじあたえていた。

そしてなにより重要じゅうようなのはふたつの半熟はんじゅくたまごだ。はし黄身きみをそっといた瞬間しゅんかん金黃こんこう卵液らんえきける黄金おうごんのごとくながて、めん滷肉ルーローざりって、あじあらたなこうみにがらせる。

その一口ひとくちみしめると、めん滷肉ルーロー辣醬ラージャン、そして黄身きみ旨味うまみざり、食感しょっかんゆたかで、一口一口ひとくちひとくちりた幸福こうふくかんちている。


蘿蔔糕ルオボーガオ外側がいがわかおばしくカリッとかれ、べやすいおおきさのかたまりられている。かるむと、清脆せいすいおとり、内部ないぶやわらかくて綿密めんみつだ。

蘿蔔ルオボーあざやかなあまさと糯米もちごめ弾力だんりょくからい、まるで口中こうちゅうおどるような美味おいしさをしている。

一口ひとくちごとにそとはカリッとなかはふんわりとした完璧かんぺき食感しょっかん陶酔とうすいさせられる。これはたんなる味覚みかく愉悦ゆえつだけでなく、舌先したさきのこ至福しふく瞬間しゅんかんでもある。


小籠包しょうろんぽう外皮がいひうすく、ほとんどけて中身なかみえるほどで、その精緻せいちさにはおもわず感嘆かんたんしてしまう。ちいさくてあいらしく、まるでしょく世界せかい芸術品げいじゅつひんのようだ。

わたしはそれを慎重しんちょうくちはこび、スープやしるそとれないように注意ちゅういした。外皮がいひをそっとやぶった瞬間しゅんかん、熱々(あつあつ)の肉汁にくじるあふて、くちいっぱいにひろがった。あざやかなにく旨味うまみびたそのしるは、肉餡にくあんやわらかさとざりい、まるで味覚みかく饗宴きょうえん演出えんしゅつするかのようだった。

それぞれの一口ひとくちは、小籠包しょうろんぽうならではの濃厚のうこう湯汁とうじゅううす外皮がいひ、そして肉餡にくあん繊細せんさい食感しょっかんざり、むたびに至福しふくくちひろがっていった。


わたし美味おいしそうに夢中むちゅうべていると、緹雅ティア目尻めじり時折ときおりわたしのほうをちらりとうかがっているのに、わたしはもちろんづいていた。

一緒いっしょべよう!」

「うん〜!」


緹雅ティアたのんだ蛋餅たんぴんもまた、わたし驚嘆きょうたんさせた。これはわたしたちが普段ふだんかけるような一般的いっぱんてき蛋餅たんぴんではない。伝統的でんとうてきかわたえがつよいが、ここのかわ特製とくせい粉漿ふんしょうえてつくられているのだ。

粉漿ふんしょうつくられたこの生地きじは、いている最中さいちゅう外側そとがわをカリッとたもちつつ、内側うちがわやわらかさをのこ一方いっぽうで、わずかにみごたえもあるという絶妙ぜつみょう食感しょっかんしていた。

一口ひとくちかじると、外層がいそうのサクサクかん内層ないそうのふんわりかんい、蛋餅たんぴん全体ぜんたい食感しょっかんゆたかで変化へんかんでいる。

表面ひょうめんうす金黃こんこういろづき、つややかな光沢こうたくはなっている。一口ひとくちべれば、かおりが口腔こうくういっぱいにひろがり、あらががた魅力みりょくはなつ。

そしてこの蛋餅たんぴんえられた特製とくせいけダレは、蒜蓉醬(サンロンジャン/にんにくダレ)に風味ふうみち、ほのかなにんにくかおりがありながらも過度かどからくはなく、蛋餅たんぴんかおばしさと見事みごと調和ちょうわしていた。

緹雅ティアべながら満足まんぞくげな笑顔えがおかべており、明白めいはくにこの料理りょうりっている様子ようすだった。


家屋かおくもどったあと

わたしたちが不在ふざいあいだ、このいえだれかが潜入せんにゅうするのはけなければならないよね?」緹雅ティアいかけた。

「そうだ。ただし、普通ふつういえにあまりにも強力きょうりょく結界けっかい魔法まほうくと、かえってひとうたがわれる(註:中国語ちゅうごくご原文げんぶん意味いみは、『此地無銀三百兩(このことばの意味を直訳的に表現すると不自然ふしぜんになる)』)。偽装ぎそうめんでもなに特別とくべつ方法ほうほう使つか必要ひつようがありそうだ。」



「どうするつもり?」

わたし聖甲蟲せいこうちゅう使つかって弗瑟勒斯フセレス伝言でんごんおくった。

德斯デス莫特モット下弦月かげんげつさん姉妹しまいをここへさせてくれ。そし て紫櫻しおうんでくれ。ここにはすで転送門てんそうもん設置せっちしてあるから、直接ちょくせつ転送てんそうできる。」


もなく、下弦月かげんげつ三姉妹さんしまい――琪蕾雅キレア朵莉ドリ米奧娜ミオナ――と、『櫻花盛典おうかせいてん』の第三席だいさんせきである紫櫻しおう妲己ダッキがこのいえた。

数人すうにんわたし緹雅ティアると、ただちに片膝かたひざをついて拝礼はいれいし、こえを合わせてった。

参見さんけんいたします、大人たいじん。」

「申しもうしわけありません、このような時期じき貴方あなたがたをここへ派遣はけんしてしまいまして。」わたしあたまげてあやまった。

属下ぞっかおよばないことでございます。大人たいじんさまがたにおつかえし、すべてをささげることができるのが、属下ぞっかにとってなんよりの光栄こうえいでございます。」妲己ダッキ非常ひじょう畢恭畢敬ひっきょうひっけい口調くちょうこたえた。


「そ、そうか? それはたすかる。で、いま必要ひつようなのは、臨時りんじ拠点きょてん警備けいび手伝てつだってもらうことだ。潜入せんにゅうされる可能性かのうせいまった排除はいじょするために、いくつか措置そちらなければならない。だから、妲己ダッキ、あなたの断罪之息だんざいのいきいえ全体ぜんたい偽装ぎそうしてほしい。ただし、門前もんぜん客間きゃくまだけは除外じょがいしておいてくれ。できるか?」わたし依頼いらいげかけた。


「はい、問題もんだいありません。」

妲己ダッキ命令めいれいけると、ただちにみずからの神器しんき展開てんかいした。

神器しんき――斷罪之息だんざいのいきは、外観がいかんすずがった幣帛へいはくのような形状けいじょうをしている。

妲己ダッキみずからの魔力まりょく解放かいほうすると、えない結界けっかい展開てんかいされた。

斷罪之息だんざいのいき展開てんかいする領域りょういきは、あらゆる探知たんち魔法まほうによってもその位置いち正確せいかく情報じょうほう感知かんちできなくし、わりににせ情報じょうほうあたえる効果こうかつ。

さらに、使用者しようしゃぞくするものがその領域りょういきないにいるあいだ使用者しようしゃ感知かんち能力のうりょく向上こうじょうさせ、領域りょういきがいからのほか魔法まほうとの連絡れんらくるというはたらきもある。

ただし、使用しようさいしての制約せいやくきびしい。使用者しようしゃ自身じしん展開てんかいした領域りょういきはなれることはゆるされず、この神器しんき起動きどうするには500(ごひゃく)てん魔法使(まほうつか)い値が必要ひつようで、等級とうきゅうも9(きゅう)きゅう以上いじょうでなければならない。

こうしたきびしい条件じょうけんのため、実戦じっせんでの有用性ゆうようせいかぎられており、一般いっぱんてきにはあまり重視じゅうしされない神器しんきとなっている。

だが、ほとんどのものは知らないが、この神器しんきにはまだいくつかのかくれた能力のうりょくそなわっているのだ。


琪蕾雅キレア朵莉ドリ米奧娜ミオナきみたちは紫櫻しおう補助ほじょとこのいえの取り(と)りいをまかされてくれ。」

「はい!」

「これで安心あんしんできるだろう?」

「そうだね! でも油断ゆだんしないで。わたしたちの能力のうりょく無効化むこうかするようなちからがあるかもしれないから。」

「もし本当ほんとうにそうなら、わたし武器ぶきっていくべきかな?」

「ええと…そこまでしなくても大丈夫だいじょうぶだ。いざというときは、わたしきみまもるよ。」

「お〜、やっぱりあなたが一番いちばんわたしやさしいってかってたよ。」

「よし、わたしたちも出発しゅっぱつしよう。」

用事ようじつたえたあとわたし緹雅ティア魔法使まほうつかい姿すがた変身へんしんし、冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかいかった。


聖王國せいおうこくない冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかいは、光龍こうりゅう騎士団きしだん管轄かんかつする区域くいきにあり、ひときわ目立めだ位置いちめている。

この建物たてもの外観がいかん非常ひじょう特徴的とくちょうてきで、中式ちゅうしき古代こだい官府かんふ威勢いせいあますところなく表現ひょうげんしている。協会きょうかい大門おおもんてば、濃厚のうこう文化ぶんか雰囲気ふんいきじかに感じかんじとることができる。

大門おおもん両側りょうがわには二頭にとう威厳いげんある石獅子せきししがそびえっている。これらの石獅子せきしし彫刻ちょうこくきわめてたくみで、獅子ししまなこするどかがやき、威武いぶさと雅致がちとをうしなわない風格ふうかくはなっている。


それらはまるで守護神しゅごしんのように、協会きょうかいを出入り(でいり)するすべての冒険者ぼうけんしゃ来賓らいひん見守みまもり、この建物たてものに目にえない威圧力いあつりょくあたえている。

協会きょうかい玄関げんかんはいると、両側りょうがわには龍形りゅうけい石柱せきちゅう赫然かくぜんとそびえち、その彫刻ちょうこく複雑ふくざつかつ精巧せいこうで、こまやかな龍鱗りゅうりん一層いっそう一層いっそうかさなってひろがり、まるでいのち宿やどしているかのように生気せいきちている。

これらの石柱せきちゅうたんなる建築けんちくえではなく、この機構きこう神秘しんぴてき気配けはいまとわせているのだ。

協会きょうかい大門おおもんれる冒険者ぼうけんしゃは、出自しゅつじがどこであれ、知らず知らずのうちに心中しんちゅう畏敬いけいねんこる。

大門おおもん真上まうえには金色きんいろ匾額へんがくかり、その匾額へんがくには「**聖王國せいおうこく**冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかい」ときざまれている。文字もじかたち整然せいぜんとして雄大ゆうだいであり、せん流麗りゅうれいかつ力強ちからづよく、きわめて威厳いげんはなっている。

匾額へんがく意匠いしょう建築けんちく全体ぜんたい様式ようしき見事みごと融和ゆうわしており、古代こだいてき文化ぶんかおもむきそなえつつ、わずかに現代げんだいてき気配けはいただよわせている。まるで来訪者らいほうしゃすべてに、ここが冒険者ぼうけんしゃ聖地せいちであり、勇者ゆうしゃ挑戦者ちょうせんしゃあつまるばしょであることをげているかのようだ。


協会きょうかい大広間だいこうまはいると、わたしたちをむかえたのはひろ々(ひろびろ)とした空間くうかんだった。中央ちゅうおうにはたかくそびえる円形えんけい大卓だいたくかれ、そのうえには各式各様かくしきかくよう冒険任務ぼうけんにんむ公告こうこく委託書いたくしょならんでいた。これらの委託書いたくしょには様々(さまざま)な任務にんむないようがびっしりとしるされており、簡単かんたんにこなせるものもあれば、きわめて困難こんなんなものもあり、冒険者ぼうけんしゃ限界げんかいためすような挑戦ちょうせんかかげている。

この大広間だいこうまでは、冒険者ぼうけんしゃたちがいそがしげにあるまわっており、任務にんむ巻軸まきじくにしているものや、他人ひと会話かいわわしているものなどでにぎわっている。雰囲気ふんいきあつ活気かっきちている。

各国かっこく冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかいはそれぞれのくに文化ぶんか芸術げいじゅつ特色とくしょく内包ないほうしている。建築様式けんちくようしきくにごとにことなるが、本質ほんしつ共通きょうつうしている。どのくにからものであれ、冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかい核心かくしんてき使命しめいわらない。それは様々(さまざま)な問題もんだい解決かいけつすることと、冒険者ぼうけんしゃ自身じしんしめし、限界げんかいいど提供ていきょうすることである。

人道じんどうはんする要求ようきゅうでないかぎり、ほとんどの委託いたくはここで掲示けいじされる。失踪者しっそうしゃ捜索そうさくや、魔物まもの一掃いっそう紛争ふんそう解決かいけついたるまで、冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかい適任てきにんちからつけしてそれらを処理しょりする役割やくわりたしている。


冒険者ぼうけんしゃとしては、冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかい規定きていしたがうことが必須ひっすである。例えば、私的してき依頼いらいけてはならない、格上かくじょう依頼いらいえてけてはならない、くに政治せいじてきあらそいに関与かんよしてはならない、などがげられる。

これらの規定きていおも目的もくてきは、じつさい冒険者ぼうけんしゃ保護ほごすることにある。もし冒険者ぼうけんしゃ規定きてい違反いはんして損害そんがいしょうじさせた場合ばあい協会きょうかい一切いっさいその責任せきにんわない。こうした規則きそくがなければ、協会きょうかいくに指導層しどうそう何度なんど衝突しょうとつすることになるかからない。

しかしながら、これらの規定きてい最終的さいしゅうてき国法こくほう凌駕りょうがするものではない。たとえば、ある依頼いらいぬすまれたもの捜索そうさくもとめる場合ばあいでも、冒険者ぼうけんしゃ私刑しけいてき窃盗者せっとうしゃはげしくきずつけてはならず、原則げんそくとして官府かんふわたして審問しんもんすべきである。相手あいて明確めいかく危害きがいくわえてきた場合ばあいかぎり、正当防衛せいとうぼうえいとして反撃はんげき合理的ごうりてきみとめられる。そうでない場合ばあいは、冒険者ぼうけんしゃみずからが「故意こい傷害しょうがい」のつみ審問しんもんされることがありうる。

分類ぶんるいてきれば、冒険者ぼうけんしゃ一種いっしゅのフリーランス(フリーランス)の労働者ろうどうしゃのような存在そんざいである。ただし、いつでも仕事しごと提供ていきょうできる組織そしき――すなわち協会きょうかい――が常時じょうじ支援しえんしてくれるてんことなる。


ここでは、冒険者ぼうけんしゃ実力じつりょく等級とうきゅうによって区分くぶんされる。

最初さいしょ一般いっぱんてき公会こうかいくわわったばかりの新人しんじん冒険者ぼうけんしゃ通常つうじょう綠芽級みどりめきゅう分類ぶんるいされる。この等級とうきゅう冒険者ぼうけんしゃ職業しょくぎょうれたばかりで経験けいけん相対そうたいてき不足ふそくしており、かれらはたいてい比較的ひかくてき簡単かんたん任務にんむ――護送ごそう商隊しょうたい護衛ごえい小規模しょうきぼ洞窟どうくつ探索たんさくなど――に配属はいぞくされる。これらの任務にんむかれらが経験けいけんみ、戦闘せんとう技術ぎじゅつれ、冒険ぼうけん基礎きそてき規則きそく理解りかいするたすけとなる。

経験けいけん蓄積ちくせき遂行すいこうした任務にんむ増加ぞうかともない、冒険者ぼうけんしゃは徐々(じょじょ)に昇進しょうしんする。十分じゅうぶん基礎きそ任務にんむ完了かんりょうし、一定いってい実力じつりょくめたものは、青銅級せいどうきゅうへと昇格しょうかくすることができる。

この等級とうきゅうたっした冒険者ぼうけんしゃは、より一層いっそう挑戦的ちょうせんてき任務にんむ直面ちょくめんすることになる。これらの任務にんむは往々(おうおう)にして危険きけんたかく、場合ばあいによっては小隊しょうたいでの協力きょうりょくようすることもある。しかしながら、青銅級せいどうきゅう冒険者ぼうけんしゃ基本的きほんてきにして単独たんどく任務にんむ遂行すいこうできるだけの力量りきりょうち、よりつよ戦闘せんとうりょく生存せいぞん能力のうりょくそなえている。


冒険者ぼうけんしゃが徐々(じょじょ)に豊富ほうふ経験けいけんみ、高難度こうなんど任務にんむげると、さらに山銀級さんぎんきゅう金光級きんこうきゅう、あるいは黑鑽級こくさんきゅうへと昇進しょうしんすることができる。

山銀級さんぎんきゅう冒険者ぼうけんしゃすで並外なみはずれた実力じつりょくそなえていることがおおいが、なお一部いちぶ任務にんむたいして決定的けっていてきちからけている場合ばあいもある。

一方いっぽう金光級きんこうきゅう黑鑽級こくさんきゅう冒険者ぼうけんしゃは、冒険界ぼうけんかいにおいて相当そうとう名声めいせい獲得かくとくしており、数多あまた任務にんむ成果せいかげてきた成功者せいこうしゃである。かれらは極度きょくど危険きけんかつ手強てごわ状況じょうきょうにも対処たいしょできる力量りきりょうつ。

さらに特別とくべつ試験しけん考核こうかく達成たっせいすれば、いわゆる混沌級こんとんきゅうへと昇格しょうかくすることさえありる。

混沌級こんとんきゅう冒険者ぼうけんしゃきわめて希少きしょう存在そんざいであり、その実力じつりょく経験けいけんきわめてたか水準すいじゅんたっしている。こうした等級とうきゅう冒険者ぼうけんしゃは、ほかのすべての冒険者ぼうけんしゃ凌駕りょうがする存在そんざいであり、まさに実力じつりょく象徴しょうちょうといえる。


わたし緹雅ティア二人ふたりは、聖王國せいおうこく冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかい事務所じむしょかった。

ここの雰囲気ふんいきはまるで銀行ぎんこうたかのようで、窓口まどぐち一列いちれつならび、各種かくしゅ事務じむ処理しょりする冒険者ぼうけんしゃほかものたちがっている。

事務所内じむしょないには様々(さまざま)な文書ぶんしょ作業さぎょうまれており、まどうしろろの受付うけつけがかり女性じょせいいそがしげに山積やまづみの書類しょるい処理しょりしていた。

最近さいきん聖王國せいおうこくいくつかの重大じゅうだい事件じけんき、くに全体ぜんたい情勢じょうせい異常いじょう緊張きんちょうしている。そのため、冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかい人手ひとで深刻しんこく不足ふそくおちいっていた。

これにより、協会きょうかいはじめて外部がいぶ積極的せっきょくてきにさらなる冒険者ぼうけんしゃ募集ぼしゅうおこなわざるをなくなったのだ。


このような募集ぼしゅう多数たすうの人々(ひとびと)をきつけ、事務所じむしょ応募おうぼ用紙ようし記入きにゅうしにもの詳細しょうさいを問い合わせるもの混雑こんざつしていた。

みなっているように、今回こんかい募集ぼしゅう従来じゅうらいとはことなり、たんなる募集ぼしゅうというよりも、むしろ選抜せんばつ選考せんこうちかいものだった。冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかいは今回はよりたか基準きじゅん設定せっていしており、応募者おうぼしゃ協会きょうかい複数ふくすう考核こうかく完遂かんすいしなければならない。考核こうかく通過つうかしたもののみが、後続こうぞく評価試験ひょうかしけん参加さんかする資格しかくるのだ。

この制度せいど利点りてんは、考核こうかくとおった冒険者ぼうけんしゃ最低さいてい階級かいきゅうである緑芽級みどりめきゅうから経験けいけん必要ひつようがなく、すでにすぐれた実力じつりょくゆうするものきゅう評価ひょうかされる可能性かのうせいがあるてんにある。実力じつりょく抜群ばつぐんであれば、場合ばあいによっては混沌級こんとんきゅう格付かくづけされることさえありる。


協会きょうかい明確めいかく今回こんかい募集ぼしゅう重視じゅうしするのは黑鑽級こくさんきゅう以上いじょう実力じつりょくゆうする冒険者ぼうけんしゃだとしめした。これは間違まちがいなく挑戦ちょうせん難度なんどげるものだ。

ここから読みよみとれるように、直面ちょくめんする任務にんむ挑戦ちょうせん非常ひじょう厳峻げんくんであり、もとめられる実力じつりょく相当そうとうたかい。

私はまだ聖王國せいおうこく冒険者ぼうけんしゃたちの総合そうごうてき力量りきりょう完全かんぜん把握はあくしているわけではないが、今回こんかいはこの世界せかい戦力せんりょくはか機会きかいであるとかんがえている。

他者たしゃ能力のうりょく把握はあくすることも、わたしたちが今後こんご直面ちょくめんするであろう挑戦ちょうせんそなえることも、いずれもわたしたちの今後こんご計画けいかくにとってかぎとなる。

事務所じむしょないでは、人々(ひとびと)が口々(くちぐち)に今回こんかい募集ぼしゅうへの期待きたいかたり、応募条件おうぼじょうけん難度なんどについて議論ぎろんしていた。おおくのもの選抜せんばつとおるかどうかにおおきな期待きたい緊張きんちょういだいている様子ようすうかがえた。

応募おうぼはチーム編成へんせいおこなうことも可能かのうだったので、わたし緹雅ティア一緒いっしょ参加さんかすることにした。


今回こんかい考核こうかく十二じゅうにめい騎士団長きしだんちょう協力きょうりょくし、主考官しゅこうかんつとめるのは混沌級こんとんきゅう冒険者ぼうけんしゃであり、同時どうじ騎士団きしだん栄誉騎士えいよきし兼任けんにんし、「光之翼ひかりのつばさ后羿こうげい」の称号しょうごう亞拉斯アラースである。

亞拉斯アラース聖王國せいおうこくもっとつよ聖騎士せいきしたたえられ、その実力じつりょく神明かみぐほどだ。普段ふだん滅多めった姿すがたあらわさず、公衆こうしゅうにも滅多めったない、まるで隠世いんせいごと存在そんざいである。

聖王國せいおうこく冒険者ぼうけんしゃたちはかれたい畏敬いけい崇拝すうはいねんいだいており、比類ひるいなき実力じつりょくおおくのものあこがれさせるが、同時どうじ接近せっきんすることは容易よういではない。

亞拉斯アラースたんなる伝説的でんせつてき人物じんぶつとどまらず、聖王國せいおうこく象徴しょうちょうする存在そんざいいちつでもあるのだ。


亞拉斯アラース背景はいけいもまた伝説的でんせつてき色彩しきさいちている。

かれ聖王國せいおうこく唯一ゆいいつ聖騎士せいきし冒険者ぼうけんしゃ同時どうじ兼任けんにんするものであり、その身分みぶん周囲しゅういものたちのなか格別かくべつ際立きわだっている。

かれ実力じつりょくぐんいているため、冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかい聖王國せいおうこく騎士団きしだん破例はれいてきかれ双方そうほう兼任けんにんすることを許可きょかしている。

通常つうじょう場合ばあい冒険者ぼうけんしゃ聖騎士せいきしになることはできない。というのも、かれらの行動こうどう聖王國せいおうこく厳格げんかく制限せいげんけるからだ。

しかし亞拉斯アラース両方りょうほう領域りょういき比類ひるいなき影響力えいきょうりょく発揮はっきしている。


冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかいだけでなく、聖王國せいおうこくそのものも人手ひとで不足ふそくという問題もんだい直面ちょくめんしている。最近さいきん事件じけん頻発ひんぱつし、事態じたい深刻性しんこくせい王国おうこくにより一層いっそう効果的こうかてき戦略せんりゃくえらばせるにいたらしめた。これが、亞拉斯アラースみずか主考官しゅこうかんつとめる理由りゆうひとつでもあるのだ。


主考官しゅこうかん亞拉斯アラースだとった瞬間しゅんかん会場かいじょうからはおもわず驚嘆きょうたんこえがった。

「わあ! まさか今回こんかい后羿こうげいさまみずかわたしたちを審査しんさするとは!」

「そうだよ! 后羿こうげいさまたいくわわれるってはなしだと、難度なんど非常ひじょうたかくて、考核こうかくきわめて厳格げんかくらしい。基本的きほんてきだれ合格ごうかくできないっていたよ。」

しんじられないよ。あのひとおな基準きじゅん評定ひょうていするんじゃないかな?」

「もし本当ほんとうにあの基準きじゅん採点さいてんするなら、だれとおるっていうんだ? あのひと神話しんわてくる人物じんぶつで、伝説でんせつてき存在そんざいなんだぞ!」

周囲しゅういからはそのようなこえなくこえ、亞拉斯アラースたいする畏敬いけいねんただよっていた。そのおもさはやまよりもおもいかのようだった。


わたし好奇心こうきしんから低声ていせいとなりものたずねた。

「あなたかたがたかれ実力じつりょくたことがありますか?」

たことはないよ。こういうはなし実際じっさいたしかめられるものまれなんだ。亞拉斯アラースうわさはほとんどだれ想像そうぞうをもえている。くところによれば、かれはかつて一人ひとり十二じゅうにだい騎士団きしだん団長だんちょうたちを軽々(かるがる)とたおしたことがあるらしいし、四神獸ししんじゅうあばれたさいには、たんおのれちからだけでそれらを鎮圧ちんあつしたともわれている。いたことがないのか?」

「いいえ、わたしもいくつかの風聞ふうぶんいただけで、実際じっさいにそのような場面ばめんたことはない。本当にすこ興味きょうみいてくるね。」と私はわらってかる口調くちょうこたえ、相手あいての問い(とい)をかわした。だが内心ないしんでは、すでに亞拉斯アラースたいして警戒けいかいねんいだいていた。


そのとき緹雅ティアわたし耳元みみもと小声こごえった。「づいた?」

「うん、あのやつ……まさか傀儡かいらいしてくるとはおもわなかった。こんなでそんな手段しゅだん使つかうなんて、本当ほんとうはらつね。」

わたし緹雅ティア視線しせんは、くろいマントにつつんだ亞拉斯アラースあつまった。

かれ姿すがたをマントでかくしているものの、周囲しゅういには強烈きょうれつ魔法まほう気配けはいただよっていた。その気配けはい凡人ぼんじんつようなものではなかった。

鑑定かんてい結果けっかから、わたしたちはそれが亞拉斯アラース本人ほんにんではなく、なんらかの魔法まほうてき幻影げんえい、あるいはかれあやつ傀儡かいらいであるとたしかめることができた。


「そうだよ、こういう能力のうりょく、きっとわたしすこてるんじゃない!」緹雅ティアかる口調くちょうでそうった。とはいえ、彼女かのじょはただなにとなくくちにしただけだった。

馬鹿ばかうな。もし本当ほんとうきみ能力のうりょくなら、それは面倒めんどうだ。」と私はくびってった。

緹雅ティア弗瑟勒斯(フセレス)もっとつよ戦力せんりょくであり、うたがいようのない実力じつりょくゆうしている。

彼女かのじょが「幻象げんしょう」という職業しょくぎょう以降いこう正面しょうめんからの対決たいけつ彼女かのじょやぶものはほとんどいない。さらには、姆姆魯ムムルでさえも、かろうじて互角ごかくわたえる程度ていどにすぎない。


もし緹雅ティアうとおり、彼女かのじょ能力のうりょくものあらわれたなら、それは我々(われわれ)にとってうたがいなくおおきな脅威きょういとなる。

「はは、わたしはただの推測すいそくよ! だって相手あいて具体的ぐたいてき能力のうりょくわたしも知らないんだから、どれだけちがうかなんてからないじゃない?」緹雅ティアはあまりにしていない様子ようすで、かるわらった。

わたし仕方しかたなくくびり、表情ひょうじょうきびしくしてった。「いずれにせよ、わたしたちはこの人物じんぶつ警戒けいかいしなければならない。こんな状況じょうきょうでは、いかなる油断ゆだん致命的ちめいてき結果けっかまね可能性かのうせいがあるのだ。」




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