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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一卷 第四章 陰謀の第一幕が開かれる-2

利波リポ 大草原だいそうげんにて)

翠緑すいりょく草原そうげん本来ほんらい平和へいわ静寂せいじゃく象徴しょうちょうであるはずだった。

しかしいま、この大地だいち無数むすう屍体したいおおわれ、まるで凄惨せいさん虐殺ぎゃくさつがつい先程さきほどわったかのようにえた。

空気くうきのこるのは、腐敗ふはいにおいだけである。

四方しほう死寂しじつつまれ、一片いっぺん生命せいめい気配けはいすらかんじられなかった。

かぜがそよぎ、くさ穂先ほさきうごく。

だが、そこにただようのは自然しぜん清新せいしんではなく、もよお腐臭ふしゅうだった。

この光景こうけいは、血腥ちなまぐさ戦場せんじょう見慣みなれている兵士へいしでさえ、むねおくが込みがるのをおさえられないほどであった。


この惨劇さんげき処理しょりまかされたのは、聖王国せいおうこく 黒狗騎士団こっくきしだん配下はいか調査部隊ちょうさぶたいであった。

この部隊ぶたいつね王国おうこくなか無畏むい果断かだんをもってせていた。かずおおくの危険きけん事態じたい処理しょりしてきたかれらであっても、まえ光景こうけいには冷静れいせいさをたもつことができなかった。

隊長たいちょう穆尼斯ムニスけわしい面持おももちで、双眼そうがん周囲しゅういはしらせながら、胸中きょうちゅうしずかに思考しこうめぐらせていた。

かれっていた。

この殺戮さつりく単純たんじゅん暴力ぼうりょく行為こういではなく、聖王国せいおうこく軍事力ぐんじりょく騎士団きしだんたいする明白めいはく挑戦ちょうせんであることを。

この事件じけん背後はいごには、かならきわめておそろしい陰謀いんぼうひそんでいる。

だが、そのちからしん目的もくてきについては、いまだだれものはいなかった。


穆尼斯ムニス屍体したいあいだみしめながらすすんだ。

一歩いっぽすすむごとに、血腥ちなまぐさにおいが地面じめんからのぼり、呼吸こきゅうすら困難こんなんになるほどだった。

戦場せんじょう魔物まもの死闘しとうひろげてきた 穆尼斯ムニス にとって、血腥ちなまぐささはすでにれたものだった。

しかし、それでもいままえひろがる光景こうけいには、おもわずまゆをひそめざるをなかった。

かれ胸中きょうちゅうには、かすかな不祥ふしょう予感よかん芽生めばえていた。

今回こんかい事件じけんは、過去かこだれらぬ暗黒あんこくと、何重なんじゅうにもから因縁いんねんはらんでいるかのようにおもえた。



かれ歩調ほちょうわせ、隊伍たいご兵士へいしたちは黙々(もくもく)としたがった。

心中しんちゅうには否応いやおうなく、この不祥ふしょう光景こうけい圧迫感あっぱくかんがのしかかっていた。

一人ひとり年長ねんちょう兵士へいし低声ていせいった。

穆尼斯ムニス 隊長たいちょう今回こんかいけん本当ほんとう尋常じんじょうではありませんな。」

穆尼斯ムニス はしばし沈黙ちんもくし、その双眼そうがんはなおもやいばのようにするどく、はる彼方かなた草原そうげん見据みすえた。そしてひくこたえた。

「おまえ懸念けねん理解りかいしている。この殺戮さつりくが、もし二十五年前にじゅうごねんまえ事件じけんかかわっているのだとしたら……これは容易よういなことではまない。」

その声音こわねにはわずかなおもみが宿やどり、かれ安易あんいれたくない、ほとんど忘却ぼうきゃくされかけた歴史れきしであることをしめしていた。

年長ねんちょう兵士へいしは「二十五年前にじゅうごねんまえ事件じけん」という言葉ことばみみにした瞬間しゅんかんおもわず身震みぶるいした。

隊長たいちょう……まさか、二十五年前にじゅうごねんまえの、あの……」

言葉ことばさき途切とぎれたが、そのひとみ宿やどった恐怖きょうふかくしきれなかった。

この歴史れきしは、わか兵士へいしにとってはせいぜい口伝くでんとしてかたがれる民間みんかん伝承でんしょうにすぎなかった。

だが、年長ねんちょう兵士へいしにとっては、二度にどくちにしたくない悪夢あくむそのものだった。


穆尼斯ムニス眼差まなざしはしずみ込み、かれこたえをかえすことなく、ただしずかにうなずいた。

幾多いくた戦闘せんとうてきたかれでさえ、その歴史れきしおもすたびに、胸中きょうちゅうに深々(ふかぶか)とした寒気さむけはしるのをおさえきれなかった。

年老としおいた兵士へいしたちも、あの襲撃しゅうげきがもたらした恐慌きょうこうと、無数むすう無辜むこいのちうしなわれたことを、いまなお鮮明せんめい記憶きおくしていた。

そして今日こんにち草原そうげんよこたわる屍体したいは、まるで歴史れきしかげけっしてっていないことをふたたしめすかのようであった。

そのとき一人ひとり兵士へいしってきた。ひたいにはあせにじみ、顔色かおいろ蒼白そうはくまっていた。

だが、この時節じせつ気候きこうけっしてあつくはなく、そのあせおびえによる冷汗ひやあせであることはあきらかだった。

「ム……穆尼斯ムニス 隊長たいちょうもうげねばならぬ重大事じゅうだいじがあります!」

もうせ。」

現場げんば調査ちょうさからるに、今回こんかい事件じけん利波リポ 大草原だいそうげん野獣やじゅう仕業しわざではありません。」

遺骸いがい状況じょうきょうから判断はんだんすると、これは犯人はんにん意図的いとてきおこなったものでしょう。……ならば、犠牲者ぎせいしゃたちの正体しょうたいは?」

「はっ……。かれらは本来ほんらい、ユガルむら守備しゅびするために派遣はけんされていた第四階位だいよんかいい兵士団へいしだんおもわれます。」

「ほう……どうやって確認かくにんした?」

兵士へいし一瞬いっしゅん沈黙ちんもくし、からだをわずかにふるわせながらこたえた。

兵団長へいだんちょう 凡米勒ファンミラー首級しゅきゅうが、そののこされておりました。……ただし、身体しんたいはすでに跡形あとかたもなくえておりました。」



穆尼斯ムニス はその報告ほうこくみみにした瞬間しゅんかん背筋せすじ冷気れいきはしった。

かれはすでに 凡米勒ファンミラー数多あまた武勲ぶくんおよんでいたからだ。

凡米勒ファンミラー はかつて 聖王国せいおうこく 五階兵団ごかいへいだん最強さいきょう兵団へいだんぞくし、第三席次だいさんせきじ百臂守衛ひゃくひしゅえい」のにあった。

そののち年齢ねんれいかさねたことを理由りゆうに、みずか階位かいいげて四階兵団長よんかいへいだんちょうへといた。

しかし、その実力じつりょく依然いぜんとして王国おうこく兵団へいだんたてひとつとしてかぞえられるほどであった。

その 凡米勒ファンミラー が、あまりにも容易よういくにたれたというのか――。

穆尼斯ムニス は重々(おもおも)しくった。

かれ首級しゅきゅう聖王国せいおうこくかえり、手厚てあつほうむってやれ。このけんいそぎ、ほか騎士団長きしだんちょうたちに報告ほうこくせねばならん。」



王家神殿おうけしんでん晋見廳しんけんちょう にて)

迪路嘉ディルジャ佛瑞克フレック二人ふたりは、うやうやしくひざまずき、重苦おもくるしい空気くうきなかあるじっていた。

わたし緹雅ティア は、凡米勒ファンミラーたれたとるやいなや、ただちに 迪路嘉ディルジャし、くわしい情報じょうほう追跡ついせきめいじた。

迪路嘉ディルジャとおじて、我々(われわれ)は遠方えんぽうにありながらも情報じょうほう収集しゅうしゅうできたのである。

迪路嘉ディルジャなにつかんだ情報じょうほうはあるか?」

「はい、凝里ギョウリ さま人間にんげん兵士へいしたちの証言しょうげんによれば、くなった兵士へいしはまさしくさき大人おとながた言及げんきゅうされた 凡米勒ファンミラー でございました。

かれ首級しゅきゅうのみがのこされ、そのほかの兵士へいしについては、のこっていたのはよろい衣服いふくといった随身物ずいしんぶつばかりで、屍体したいはほとんど白骨はっこつしておりました。」


ここまでいて、わたし内心ないしんはげしいいきどおりにつつまれた。

「ほかにはなにかあるか?」とさらにただした。

迪路嘉ディルジャつづけてった。

「もう一点いってん骨骸こつがいには一切いっさい損傷そんしょう痕跡こんせきがございませんでした。明白めいはくに、これはなにらかの技能ぎのうによって致死ちしさせたのちにくだけを吸収きゅうしゅうした結果けっかかとぞんじます。おそれながら、屬下しょっかにはそれがいかなる能力のうりょくであるか、判然はんぜんといたしません。」

緹雅ティア、おまえはどうおもう?」

緹雅ティアかたをすくめてこたえた。

からないわね。こんなちからわたしいたことがない。……もし 狄莫娜ディモナ がいれば、きっとっているんじゃない?」

「そ、そうだな……。彼女かのじょならかるかもしれん。」

「これ、聖王国せいおうこく内部ないぶもの仕業しわざじゃないわよね?」

「いや、まだ軽率けいそつだんずることはできない。結局けっきょく、どこのにも我々(われわれ)の予測よそくえるちからひそんでいる可能性かのうせいはあるのだ。」


「そうだ! 凡米勒ファンミラーわたした水晶球すいしょうきゅうはどうなった?」

私はふとおもし、こえげた。凡米勒ファンミラー があの水晶球すいしょうきゅうちから使つかったのかどうか、になったのだ。

凝里ギョウリ さま現場げんばには水晶球すいしょうきゅう破片はへんのこされておりました。そこから判断はんだんするに、てき凝里ギョウリ さま元素使げんそしたおしたのち撤退てったいしたものとおもわれます。」

迪路嘉ディルジャ水晶球すいしょうきゅう細部さいぶをも見逃みのがさなかった。

この情報じょうほうからても、てき九階きゅうかい元素使げんそしをもやぶれる存在そんざいであることがあきらかだった。

わたしおもわず奥歯おくばめる。

自分じぶん一時いっとき油断ゆだんで、てきちからあやまって見積みつもった結果けっか唯一ゆいいつ資源しげんうしなってしまったのだ。


「すべてわたしのせいだ……。もし最初さいしょ時点じてん追跡ついせきしていれば、なに手掛てがかりを発見はっけんできたかもしれない。」

佛瑞克フレックふか悔恨かいこんねんられてった。

「そんなことはうな、佛瑞克フレック問題もんだいはおまえではない。かれらが襲撃しゅうげきされた時刻じこく逆算ぎゃくさんすれば、わたし命令めいれいくだまえのことだ。つまり、責任せきにんわたしにある。」

「いえ……それでも 凝里ギョウリ さま責任せきにんではありません! 屬下しょっか無能むのうで、大人おとながた邪魔者じゃまものめられなかったのです!」

「もうよせ! 佛瑞克フレック!」

その瞬間しゅんかん緹雅ティア滅多めったせぬつよ気配きはいはなち、佛瑞克フレック一瞬いっしゅん沈黙ちんもくさせた。

「これ以上いじょうこのけんとらわれても、なに解決かいけつできないわ。我々(われわれ)がすべきは、解決かいけつ方針ほうしんつけること。ほかのことは、問題もんだい片付かたづいてからでいいの。」

そのとき緹雅ティア気迫きはくすさまじく、わたしでさえこえはっすることができなかった。



「よし、計画けいかくつくなおそう。迪路嘉ディルジャきみ元来がんらい見守みまも任務にんむをそのままつづけてくれ。

それから 佛瑞克フレックきみ同様どうよう尤加爾村ユガールむら村落そんらくつづ守護しゅごしてくれ。ただ現段階げんだんかいでは増派ぞうはするつもりだから、白櫻しらざくら・レベッタ をそちらへかせて手伝てつだわせよう!」

おおくの不明ふめい問題もんだい対処たいしょするため、わたし本来ほんらいこうした手段しゅだんを取り(と)りたくはなかったが、やむをず 『櫻花盛典おうかせいてん』 を派遣はけんすることにめた。


櫻花盛典おうかせいてん』とは、弗瑟勒斯フセレス秘密部隊ひみつぶたいである。

彼女かのじょたちは最初さいしょから 弗瑟勒斯フセレス存在そんざいしていた NPC であり、すべての役割やくわり設計せっけい当初とうしょ納迦貝爾ナガベルにない、芙莉夏フリシャ もそこに協力きょうりょくしていた。

その主任務しゅにんむは、王家神殿おうけしんでん安全あんぜんまもることにある。

この部隊ぶたい成員せいんは、それぞれことなる背景はいけい種族しゅぞくち、神殿しんでん守護しゅごするのみならず、隠密おんみつかつ強大きょうだいちから象徴しょうちょうでもあった。

櫻花盛典おうかせいてん』の成員せいんは、ほぼ全員ぜんいん守護者しゅごしゃ凌駕りょうがする実力じつりょくゆうしており、現状げんじょう彼女かのじょたちとわたえるのは、莫特モット德斯デス、そして 迪路嘉ディルジャ くらいであろう。

当初とうしょ彼女かのじょたちをかく神殿しんでん守護者しゅごしゃまかせなかったのは、成員せいん運用うんようをより柔軟じゅうなんにするためであり、また強力きょうりょくな BOSS 攻略こうりゃくさいには、『櫻花盛典おうかせいてん』の成員せいんおおいに役立やくだつからである。

しかし、公会戦こうかいせんにおいては、彼女かのじょたちが真価しんか発揮はっきする機会きかい一度いちどおとずれなかった。

理由りゆうはただひとつ――それは 第九神殿だいきゅうしんでんちからがあまりにも強大きょうだいであり、『櫻花盛典おうかせいてん』の成員せいんですら、そのちからしめ余地よちあたえられなかったからである。


もともと『櫻花盛典おうかせいてん』は 姆姆魯ムムル納迦貝爾ナガベル指揮しきっていた。

しかしいまは、彼女かのじょたちは 緹雅ティア管理下かんりかかれている。

この決定けっていくだされたおも理由りゆうは、やはり『櫻花盛典おうかせいてん』の成員せいん全員ぜんいん女性じょせいだからだ。

緹雅ティアほう対応たいおうけているはずであり、わたしのようにただ指揮官しきかんとしての頭脳ずのうだけをものには、そこまでてきしていないだろう。

私は『櫻花盛典おうかせいてん』について、緹雅ティア ほどふかっているわけではない。

だからこそ、人員じんいん調整ちょうせい必要ひつようになったときは、彼女かのじょとおじて 德斯デス莫特モット伝達でんたつ依頼いらいするつもりだ。


そのとき、私はふとおもした。

自分じぶんはまだ『櫻花盛典おうかせいてん』の実力じつりょく全貌ぜんぼうたことがないのだと。

彼女かのじょたちが能力のうりょくについては大筋おおすじ把握はあくしているにすぎず、この世界せかいわたってきてからは、いまだそのちから検証けんしょうしたことがなかった。

緹雅ティア は「彼女かのじょたちの能力のうりょくなにわっていない」とっていたが、もしかすると元素使げんそしのように、わたしらぬあらたな技能ぎのう突如とつじょくわわっている可能性かのうせいもあるのではないか。


櫻花盛典おうかせいてん』の成員せいん

第一席だいいっせき黒櫻ブラックおう菲瑞亞フィレア羅倫斯ローランス 種族しゅぞく暗黒精霊ダークせいれい

菲瑞亞フィレア姿すがたは、つね神秘しんぴ陰鬱いんうつびていた。

彼女かのじょ種族しゅぞく暗黒精霊ダークエルフ――やみあやつり、人心じんしん影響えいきょうおよぼすちからっている。

彼女かのじょはだ蒼白そうはくで、双眸そうぼう夜空よぞらのごとく深淵しんえん宿やどし、すべてのひかりむかのようであった。

菲瑞亞フィレア冷酷れいこくさと高慢こうまんさは、その外見がいけんにとどまらず、行動こうどう言葉ことばの端々(はしばし)にもあらわれている。彼女かのじょ他者たしゃ距離きょりある態度たいどあつかうが、それは 弗瑟勒斯フセレス 以外いがいものかぎられていた。

さらに、櫻花盛典おうかせいてん 第一席だいいっせきとしての 菲瑞亞フィレア戦闘力せんとうりょく随一ずいいつであった。

かつて 納迦貝爾ナガベルおこなった模擬戦もぎせんでは、彼女かのじょ一人ひとり七人ななにん守護者しゅごしゃ相手あいてにしながら、きずひとわずにすべてをたおしたとつたえられている。

個人こじん戦力せんりょくにおいて、彼女かのじょ間違まちがいなく 第九神殿だいきゅうしんでん匹敵ひってきする存在そんざいである。

その戦闘せんとうスタイルは 緹雅ティアおなじくとらえどころがなく、てきづかぬうちにやみへとまれていった。


第二席だいにせき粉櫻ピンクおう莉莉リリ貝魯埃ベールエ 種族しゅぞく神鷹しんよう

莉莉リリ設定せっていは、古代こだい神鷹族しんようぞく由来ゆらいする。

彼女かのじょ金色きんいろ瞳孔どうこうはすべてを見透みすかすかのようで、まれながらに冷厳れいげん気高けだかさをたたえていた。

そのつばさあわ桃色ももいろがかったしろで、ばたきたかがるときも、遠方えんぽう見据みすえるときも、だれおよばぬ優雅ゆうがさをただよわせていた。

莉莉リリ性格せいかく狄莫娜ディモナ によくて、あいらしくひときつける。

しかし一旦いったん戦闘せんとうはいれば、彼女かのじょ冷静沈着れいせいちんちゃくかつ果断かだんとなり、戦士職せんししょく主軸しゅじくとするその実力じつりょくで、『櫻花盛典おうかせいてん』に比類ひるいなき堅実けんじつ後盾こうじゅんあたえている。

とき高慢こうまんさをせることもあるが、彼女かのじょ仲間なかまけっして軽視けいしせず、つね他者たしゃのために最前線さいぜんせんへとつづけるのであった。


第三席だいさんせき紫櫻しおう妲己ダッキ 種族しゅぞく九尾狐きゅうびこ

妲己ダッキ というは、その外見がいけんおなじく誘惑ゆうわく魅力みりょくちている。

彼女かのじょ強大きょうだい魅惑みわくちからゆうする妖狐ようこであった。

そのひとみ琥珀こはくのようにかがやき、つね優雅ゆうがみをかべ、つぎ一手いってだれにも予測よそくさせなかった。

妲己ダッキ体躯たいくはしなやかで柔美じゅうび、そのきゅうつのはまるでうつくしい光輪こうりんのごとくあるみにれ、あらががた魅力みりょくただよわせていた。

だが 妲己ダッキ は、けっして魅惑みわくだけにたよものではない。

きゅうつの彼女かのじょちから象徴しょうちょうであり、それぞれがことなる能力のうりょくしめしていた。

妲己ダッキ菲瑞亞フィレア のようにわざかくすことはしない。

しかし、たとえそのじゅつ看破かんぱされようとも、彼女かのじょ容易よういやぶれるわけではなかった。

実力じつりょくにおいては、妲己ダッキ菲瑞亞フィレア互角ごかくといえよう。

ただし戦闘せんとう様式ようしきにおいては、菲瑞亞フィレア妲己ダッキしたがえてしまう――そういう関係かんけいであった。


第四席だいよんせき紅櫻あかおう艾兒エル 種族しゅぞく火焰史萊姆かえんスライム

艾兒エル外見がいけんほか一線いっせんかくしていた。

その身躯しんく液体えきたいのようにとおり、内側うちがわには鮮烈せんれつ紅蓮ぐれんほのおらめいている。

彼女かのじょ存在そんざいは、まさしくきたほのおかたまりであり、瞬時しゅんじにして強大きょうだい破壊力はかいりょく発揮はっきできるのだった。

艾兒エル心根こころね純真じゅんしんかつ率直そっちょくであり、その感情かんじょうかくすことなく表出ひょうしゅつする。

仲間なかまたいしてはだれよりも誠実せいじつだが、てきたいしては一切いっさい容赦ようしゃせなかった。

彼女かのじょほのおてき防御ぼうぎょくすのみならず、その魂魄こんぱくまでも灰燼かいじんす。

わたしの「原初げんしょ水牢すいろう」ですら、艾兒エルちからまえにはされてしまう。

つたくところによれば、艾兒エル体内たいないには「いま完全かんぜんには制御せいぎょされざるちから」がねむっており、納迦貝爾ナガベル はそれを秘密兵器ひみつへいきとしてあつかい、詳細しょうさいかたろうとはしなかった。

わたしもまた、あえて深入しんにゅうしてうことはしなかった。

しかし 艾兒エル には環境かんきょう制約せいやくがあった。

彼女かのじょ寒冷かんれい極端きょくたんきらい、そのため彼女かのじょ居場所いばしょ第三神殿だいさんしんでんの「炙炎焦土しゃえんしょうど」にさだめられた。

この神殿しんでんは、本質的ほんしつてき艾兒エル のためにきずかれた特別とくべつ場所ばしょだったのである。


第五席だいごせき白櫻しろおう蕾貝塔レベッタ古雷林德グレリンデ 種族しゅぞく靈蛇れいじゃ

蕾貝塔レベッタ体躯たいく修長しゅうちょうにしてしなやか、双眸そうぼう鋭利えいりひかり、知恵ちえ警戒心けいかいしんたたえていた。

彼女かのじょ強大きょうだいさは肉体的にくたいてき資質ししつのみにとどまらず、靈蛇れいじゃとしての天賦てんぷによってさらにみがげられていた。

その妲己ダッキ菲瑞亞フィレア比肩ひけんする武技ぶぎと、強力きょうりょく魔法まほうそなえていた。

それだけでなく、彼女かのじょ赫德斯特ヘデスト匹敵ひってきする叡智えいちほこり、戦術せんじゅつにおいては 姆姆魯ムムルかたならべるほどであった。

彼女かのじょ視線しせん他者たしゃ看破かんぱできぬ領域りょういきにまでおよび、その魔法まほう次元じげんかべすらえてれることができた。

蕾貝塔レベッタかおにはつね冷静れいせい慎重しんちょうさが宿やどっていたが、その内奥ないおうには仲間なかままもらんとするはげしいおもいがひそんでいた。

とくに、彼女かのじょ大切たいせつおもものたいしては――。


第六席だいろくせき黃櫻きおう絲緹露シトリュー 種族しゅぞく象人ぞうじん

絲緹露シトリュー体格たいかくは堂々(どうどう)として高大こうだい四肢ししたくましく、はだ褐色かっしょくまっていた。

彼女かのじょちからは、その偉大いだい体躯たいくと、不屈ふくつ意志いしからまれる。

外見がいけんこそ荒々(あらあら)しくえるが、性格せいかくおどろくほど温厚おんこうで、ときじらいをのぞかせるほど内気うちきであった。

それでも彼女かのじょは、つね柔和にゅうわ笑顔えがおかべ、人々(ひとびと)とまじわっていた。

その天賦てんぷは、もっと困難こんなん状況じょうきょうにあっても屹立きつりつし、仲間なかまえず支援しえんあたえるちからそなえていた。

絲緹露シトリューたおれぬかぎり、『櫻花盛典おうかせいてん』のだれひとりとしてたおれることはない――そうしんじられていた。

その体躯たいくおおきさにはんして、彼女かのじょうごきはけっして鈍重どんじゅうではなかった。

むしろ、意外いがいなほど軽快けいかいかつ俊敏しゅんびんであった。


第七席だいななせき藍櫻あおおう雅妮ヤニー 種族しゅぞく不明ふめいいま実体じったいたず)

雅妮ヤニー は、『櫻花盛典おうかせいてん』のなかでももっと神秘的しんぴてき成員せいんであった。

その設定せっていじょう彼女かのじょ種族しゅぞく不明ふめいであり、また実体じったいたぬ。

ただ空気くうきなか存在そんざいするかのように、無形無象むけいむぞう姿すがたであった。

そのからはつね異様いよう気配けはいただよい、人々(ひとびと)はだれひとりとして、彼女かのじょしんかお見極みきわめることができなかった。

第七席だいななせきとしての彼女かのじょは、直接ちょくせつ戦闘力せんとうりょくゆうしてはいない。

その莫大ばくだい魔力量まりょくりょくは、最終的さいしゅうてきほか用途ようとかれた。

それはすこしいことにもおもえるが、納迦貝爾ナガベル芙莉夏フリシャくだした決定けっていには、かならずやふか意味いみがあったにちがいないと私はしんじている。

わたしかぎり、彼女かのじょ姿すがたせるのは、大抵たいてい場合ばあい強力きょうりょく感知魔法かんちまほう必要ひつようとなったときであり、そのさいには 姆姆魯ムムル雅妮ヤニーともなっていた。

彼女かのじょがどのような戦闘せんとう魔法まほうつのか、私は一切いっさいらない。

しかし、つたくところによれば、彼女かのじょ菲瑞亞フィリアもっとおさえるちからゆうするものだという――。


「『櫻花盛典おうかせいてん』がいるのだから、こんなこと簡単かんたん片付かたづけられるでしょう?」

緹雅ティア楽観的らっかんてきにそうった。

そのとき佛瑞克フレックかおげ、いかけてきた。

凝里ギョウリ さまおそれながらひとつおうかがいしてもよろしいでしょうか?」

ってみよ!」

「なぜ、凝里ギョウリ さまはあのちいさな村落そんらくをそれほどまでににかけられるのですか?

わたしかられば、るにらぬ場所ばしょにすぎません。

それなのに、凝里ギョウリ さまはあれほどの苦心くしんはらって、あのむらまもろうとなさっているのです。」


佛瑞克フレック、それはあまりにも 凝里ギョウリ さまたいして無礼ぶれいではありませんか!

大人たいじんがたにはかならずや深遠しんえんなおかんがえがあられるのです。

我々(われわれ)はただしたがえばよいのです。」

迪路嘉ディルジャ は、佛瑞克フレック言葉ことばあきらかに不満ふまんしめした。

迪路嘉ディルジャ、そのかんがえはあやまっている。」

私は彼女かのじょことただした。

もうわけございません、凝里ギョウリ さま。」

佛瑞克フレック、むしろこれはい問いだ。

まえたちが理解りかいできぬのも無理むりはない。

だがおぼえておけ、いずこであろうと我々(われわれ)のらぬちからひそんでいる可能性かのうせいつねにある。

もしそなえをおこたれば、それはやがて我々(われわれ)がふたた敗北はいぼくする原因げんいんとなろう。」


「なるほど! さすがは至尊しそんさま!」

佛瑞克フレック迪路嘉ディルジャ は、このときそろって感嘆かんたんこえげた。

ようするに、我々(われわれ)が外界がいかいまじわる唯一ゆいいつ拠点きょてんは、あの 尤加爾村ユガルむら にほかならぬ。

ゆえに、我々(われわれ)は可能かのうかぎ善意ぜんいしめし、よりおおくの情報じょうほう必要ひつようがある。

だからこそ――佛瑞克フレック、あのむらかならまもいてほしい。」

「はっ、かならずや御期待ごきたいそむきませぬ、凝里ギョウリ さま!」


迪路嘉ディルジャ佛瑞克フレック晋見廳しんけんちょうったのち緹雅ティアいかけた。

いまきみなにをするつもり? もう『櫻花盛典おうかせいてん』を出動しゅつどうさせるとめたんでしょう?」

「さっきはじつわたし自分じぶん感情かんじょう発散はっさんしたくなったんだが、守護者しゅごしゃ面前めんぜん面目めんぼくうしなうような振舞ふるまいをせるわけにはいかない。

相手あいてだれなのかはからないが、まずあの野蛮やばん連中れんちゅうめるべきだとおもう。

なんしろ、聖王国せいおうこく に正々堂々(せいせいどうどう)とおもむいて神明かみ方法ほうほうはもう使つかえない。調査ちょうさ表向おもてむきにすすめるのは困難こんなんだ。現状げんじょうかんがみるに、これが最善さいぜん処置しょちだと私は判断はんだんした。」

蕾貝塔レベッタえらんだのは、そのあとのことも見越みこしてのことだよね?」

「そのとおりだ。多少たしょう歩調ほちょうはやいかもしれないが、おおむねこの計画けいかくをまず実行じっこうすることにした。」

なにおもいついたのか?」


さきほど(さきほど)、わたしたち(たち)は聖王国せいおうこくない冒険者ぼうけんしゃギルドの組織そしきがあるってかなかった?王国おうこく拘束こうそくされず、実力じつりょくがあれば加入かにゅうできる組織そしきで、冒険者ぼうけんしゃ冒険者ぼうけんしゃギルドの法規ほうきだけにしたがっているようだ。そこ(そこ)を利用りようして調査ちょうさすすめられるかもしれない。」

「ああ〜、なるほど、きみ冒険者ぼうけんしゃ利用りようして依頼いらいをさせるつもりなのか!」

「いいえ、わたし冒険者ぼうけんしゃになるつもりだ。」

「それをする利点りてんなんだ?」

おおまかに四点してんある。

第一だいいちは、冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかい実情じじょう実力じつりょく調しらべられること。

第二だいには、凡米勒ファンミラーころした黒幕くろまく正体しょうたいを堂々(どうどう)と調査ちょうさできること。

第三だいさんは、王国おうこくない行動こうどうするときでもうたがわれずにむこと。」

「なるほど、そんなに計画けいかくてていたとは!では第四だいよんは?」

第四だいよんは……わたしたち(たち)はこの世界せかいにおおかねがない!」



聖王国せいおうこくない大広間おおひろま

王殿おうでんない第二十八代だいにじゅうはちだいおう自身じしん王位おういしており、そのしたには王国おうこくない精鋭せいえい六名ろくめい――十二大じゅうにだい騎士団きしだん団長だんちょうのうち六人ろくにんひかえていた。人々(ひとびと)は穆尼斯ムニス報告ほうこくいていた。

穆尼斯ムニス報告ほうこくわると、全員ぜんいん顔色かおいろいちじるしくおもくなった。とりわけ、この事件このじけん聖王国せいおうこくからとおくない郊外こうがいきたというてんが、みな一層いっそう緊張きんちょうさせていた。

光龍こうりゅう騎士団きしだん団長だんちょう傑洛艾德ジェロエイド率先そっせんしてった。「くにでかつて強力きょうりょくであった五階ごかい兵団へいだん暗殺あんさつされるなどということが外部がいぶられれば、士気しきふたた打撃だげきけるだけでなく、陛下へいかと我々(われわれ)騎士団きしだん面目めんぼくをもそこなうことになる。」

新任しんにん炎虎えんこ騎士団きしだん団長だんちょう迪亞ディアは、「この事件このじけん二十五年前にじゅうごねんまえ惨劇さんげきおもこさせるな!」とべた。


葉鼠ヨウショ騎士団きしだん団長だんちょう達拉克ダラク同意どういしてった:「そのとおりだ。この事件このじけん二十五年前にじゅうごねんまえ出来事できごと寸分すんぶちがわず、あきらかに同一人物どういつじんぶつ仕業しわざだ、あのおそろしい悪魔あくまによるものだ。」

闇蛇アンジャ騎士団きしだん団長だんちょう桃花トウカ晏矢アンヤいかけた:「皆様みなさまおなかんがえですか?私は事態じたいはそれほど単純たんじゅんではないとおもいます。手口てぐちているが、証拠しょうこ十分じゅうぶんでなければ人々(ひとびと)を説得せっとくするのはむずかしいでしょう?」

達拉克ダラク憤怒ふんぬしてたずねた:「きみはあの悪魔あくまかばおうというのか?」

桃花トウカ晏矢アンヤこたえた:「ちがう、ちがう、ちがう。わたしいたいのは、もしべつ人間にんげん仕業しわざであった場合ばあい事態じたいはそれほど簡単かんたんではなくなるかもしれない、ということです。」

水羊スイヨウ騎士団きしだん団長だんちょう迪里米歐ディリミオ緋海フェイハイった:「私は晏矢アンヤ閣下かっか見解けんかい賛同さんどうします。ほかのものによる可能性かのうせい排除はいじょすることはできません。」


雷雞らいけい騎士団きしだん団長だんちょう霏亞フェイアうた。「いっそ、ふたた冒険者協会ぼうけんしゃきょうかい依頼いらいしてはどうか。なにしろくにいまおおくの問題もんだいかかえており、二十五年前にじゅうごねんまえこのじけんだけでもすでおおくの兵団へいだん派遣はけんしている。そうして王都おうと守備しゅびえずけずられているのだ。」

岩猴ガンコウ騎士団きしだん団長だんちょう艾洛斯洛エイロスロ徳漢克斯ドゥハンクスった。「この事件このじけんすくなくとも黒鑽級ブラックダイヤきゅう以上いじょう派遣はけん必要ひつようだ。可能かのうなら、今回はかれらを王国おうこく協力きょうりょくさせたい。」

傑洛艾德ジェロエイドこたえた。「では、配下はいかかわせよう。なんせあの冒険者ぼうけんしゃどもは経験けいけんとぼしい。」

諸君しょくん、この事件このじけんなみ事態じたいではない。神々(かみがみ)からの指示しじくだされる。しかも今回は最高神さいこうしんより直接ちょくせつ下達かたつされるのだ。」その発言者はつげんしゃ正式せいしき第二十八代だいにじゅうはちだいおうしょうされる人物じんぶつ――「皇帝こうてい」の称号しょうごうゆうするものであった。

今回こんかい事件このじけん一般いっぱんもの対処たいしょできるものではない。犯人はんにん長年ながねん潜伏せんぷくしていまふたたした。前回ぜんかいよりも大規模だいきぼいくさ発展はってんすることは必至ひっしだ。各位かくい騎士団きしだん団長だんちょう諸君しょくんちかくのあいだ外出がいしゅつひかえ、王国おうこくないでのそなえをおこたらぬように。」

「はい。」


聖王国せいおうこく西方せいほう城門じょうもん

わたし緹雅ティア変身へんしん魔法まほう使つかい、自分じぶんたちを普通ふつう市民しみん姿すがた変装へんそうして、おとてずに聖王国せいおうこくはいんだ。

今回こんかい行動こうどう従来じゅうらいことなり、利波リポ草原そうげんでの惨案さんあんのために、聖王国せいおうこく出入しゅつにゅう管制かんせい異常いじょうきびしくなり、わたしの元々(もともと)の計画けいかく完全かんぜんくるってしまった。

余計よけいうたがいや不必要ふひつよう面倒めんどうけるため、私はあらかじめ聖王国せいおうこく居留証きょりゅうしょう数枚すうまい偽造ぎぞうしておいた。

こうすることで、すくなくとも聖王国せいおうこくはいさい目立めだたず、衛兵えいへいうたがわれることはないだろう。

ライド(ライド)のはなしによれば、かれ聖王国せいおうこく秘密ひみつ避難所ひなんじょひとっており、そのいえ長年ながねん凡米勒ファンミラーによって管理かんりされてきたという。

本来ほんらいは、私は契約けいやくとおしてライド(ライド)からそのひそやどるつもりだったが、ライド(ライド)は意外いがいにもそのいえわたし無償むしょうゆずってもかまわないとった。代償だいしょうとしてもとめたのは、犯人はんにんめる手助てだすけだった。

その言葉ことばいて、私は躊躇ちゅうちょすることなく応諾おうだくした。なにしろそれは目下もっか我々(われわれ)が解決かいけつすべき最重要さいじゅうよう問題もんだいひとつでもあったからだ。


聖王国せいおうこく王城おうじょうは、このふる大地だいち東側ひがしがわ位置いちしている。六大国ろくだいこくそれぞれの領土りょうど地勢ちせいもとづいて区分くぶんされているのだ。

聖王国せいおうこく東側ひがしがわうみめんしており、ほか方位ほういは山々(やまやま)にかこまれていて、地勢ちせい相対的そうたいてき閉鎖的へいさてきである。しかしながら、その涵蓋かんがいする領域りょういき範囲はんいきわめて広大こうだいで、六大国ろくだいこくなかでは最大さいだいほこり、人口じんこうもっとおおい。

王国おうこく首都しゅとである聖王都せいおうと二重にじゅう環状かんじょう構造こうぞうをなしており、ふたつの環状かんじょうてき区域くいきかれている。もっとも内側うちがわにある部分ぶぶん王城おうじょう核心かくしんで、そびえ城塞じょうさい堅固けんご城壁じょうへきかこまれ、蜿蜒えんえんながれる河川かせん自然しぜんなる防線ぼうせんして外郭がいかく厳密げんみつ区別くべつされている。

王城おうじょう中央ちゅうおうには神々(かみがみ)、王族おうぞく高官こうかんらの居所きょしょがあり、特別とくべつ許可きょかけたものだけがこの神聖しんせい神秘しんぴちた区域くいきることをゆるされる。

外側そとがわ区域くいき、すなわち王都おうと外環がいかん巨大きょだい円環えんかんし、王城おうじょう城壁じょうへきを取りいている。その規模きぼ構造こうぞう見張みはるものがあり、騎馬きば疾駆しっくしたとしても一周いっしゅうするのにすくなくとも二日ふつかようするほどである。


管理かんり容易よういにするため、王都おうとはこの大地だいち十二じゅうに区域くいき区分くぶんした。これらの区域くいき外観がいかんじょうでは多少たしょうちがいがられるが、たがいにおおきな差異さいはなく、おも騎士団きしだん管轄かんかつ便くするための分割ぶんかつぎない。かく区域くいきには専属せんぞく守衛しゅえい配備はいびされ、現地げんち秩序ちつじょ監視かんし管理かんりになっている。

わたし緹雅ティア目的地もくてきち王都おうと西側にしがわにあたり、この区域くいき比較ひかくてき辺鄙へんぴであり、王城おうじょうからの距離きょりもかなりはなれている。萊德ライド住居じゅうきょはちょうどこの区域くいきないにあり、炎虎えんこ騎士団きしだん管轄かんかつぞくしている。

ここは商人しょうにん旅人たびびと出入でいり唯一ゆいいつみとめられている区域くいきである。だが、最近さいきん頻繁ひんぱん発生はっせいしているこの事件このじけんのせいで、守衛しゅえいたちの警戒けいかい一層いっそう厳重げんじゅうになり、検査けんさもこれまで以上いじょう厳密げんみつになっている。


わたしたち(たち)は聖王國せいおうこく居留証きょりゅうしょう所持しょじしていたため、大多数だいたすう検問けんもん回避かいひし、この区域くいき無事ぶじはいることができた。

西側にしがわ区域くいきは、商人しょうにん旅人たびびとがこのとおさい休息きゅうそくあしやすめる場所ばしょである。

ここの街道かいどう両側りょうがわ大多数だいたすう旅館りょかん宿屋やどや小商店しょうしょうてんめられ、かつてはつねひと往来おうらいにぎわっていた。


しかしここ数年ここすうねん一連いちれん不明ふめい事件じけん王國おうこく内部ないぶ動盪どうとうのために、この区域くいき繁栄はんえい次第しだいおとろい、以前いぜんのような喧騒けんそううしなわれた。みせわりがえず、一部いちぶ外国商人がいこくしょうにんすでひそかにったが、街道かいどうはなお営業えいぎょうつづけている。

この区域くいき地勢ちせいけわしく、起伏きふくのある地形ちけい街道かいどう複雑ふくざつにし、曲折きょくせつしているため、地形ちけい不慣ふなれなもの容易ようい方向ほうこう見失みうしないやすい。

ただし、かく主要しゅよう路口ろこうには明確めいかく道標どうひょうもうけられ、行先ゆきさきしめされている。わたしたち(たち)はそれらの指示しじしたがって、容易ようい萊德ライド住居じゅうきょつうじる小巷ここうつけた。




この住居じゅうきょ面積めんせきやく三十坪さんじゅっつぼほどのちいさな木造もくぞう家屋かおくで、三階建さんかいだてである。

外観がいかん素朴そぼくで、過度かど装飾そうしょくはなく、一般的いっぱんてき住宅じゅうたくなにわりはない。

そとから見ると、この小屋こや茂密もみつ樹林じゅりんなかにひっそりとかくれており、四周ししゅう小径こみちかこまれている。ちかづくと、かぜあいだをそっとでるようなおとしかこえず、繁華はんか都市とし喧騒けんそうはまったく感じられない。まるでへだてた避世ひせいのようなしずけさだった。


屋内おくないはいると、まずうつったのは、広々(ひろびろ)として簡潔かんけつ居間いまだった。

ゆかふる木材もくざいつくられており、長時間ちょうじかんみがきによって質感しつかんから天然てんねんかおりがただよっていた。そのかおりはまるで自然しぜん息吹いぶきのようで、知らず知らずのうちに安堵あんどおぼえさせた。

周囲しゅうい壁面へきめんにはすうてん簡素かんそ絵画かいがけられており、どうやら凡米勒ファンミラー自身じしんえがいたものらしい。どれもいにしえ伝承でんしょう物語ものがた場面ばめんえがいていて、例えば――あるだい皇帝こうてい襲来しゅうらいする大洪水だいこうずいたいして抵抗ていこうする場面ばめん一羽いちわ小鳥ことりすないしをくわえて大海たいかいえる場面ばめん、あるいは巨人きょじん太陽たいようかってくるおしくける場面ばめんなどがられた。


居間いま中央ちゅうおうにはひとつの砂場すなばがあり、砂場すなばえられた暖炉だんろすでしてひさしくえていなかった。くろ暖炉だんろ表面ひょうめんにはうすはい一層いっそうもり、そのことが長年ながねん使つかわれてこなかったことをしめしていた。


居間いま左側ひだりがわにはちいさなとびらがあり、台所だいどころつづいていた。台所だいどころはそれほどひろくはないが、必要ひつようにして十分じゅうぶんひろさがあった。

かまどうえあつほこりおおわれており、私はそっといきひときすると、たちまちはいほこりちゅうがった。私はあわててそでってそれらをはららした。

調理器具ちょうりきぐ整然せいぜんならべられ、ふる陶器とうきわんさらたな大切たいせつおさめられていた。

まどごしそとながめると、ちいさなにわひろがり、近隣きんりんぜんそだった野花のはながのびのびといているのがはいった。


二階にかい書斎しょさいで、窓辺まどべ本棚ほんだなには草薬学そうやくがく占卜学せんぼくがく魔法史書まほうししょ古代拳法こだいけんぽう陰陽術おんみょうじゅつなど、様々(さまざま)な書籍しょせきがぎっしりとならんでいた。

書斎しょさいかべにはふる地図ちず何枚なんまいけられており、そこにははるとお未知みち領土りょうどしるされていて、それらがいったいどのような物語ものがたりいだいているのか、自然しぜん興味きょうみをそそられた。

机上きじょうには銅製どうせいふるともしびかれており、その光源こうげん魔光石まこうせきばれる特殊とくしゅ結晶石けっしょうせき依存いぞんしている。このいし少量しょうりょう魔力まりょくそそぐだけで長時間ちょうじかん発光はっこうするため、生活せいかつなかひろもちいられている。


微弱びじゃくあかりからはなが使用しようされてきたことがうかがえた。

しかし、そのかすかなひかりはなおも書斎しょさい机上きじょうかさなる一束いっさく筆記帳ひっきちょう未完成みかんせい原稿げんこうらしており、まるでだれかがここで黙々(もくもく)と執筆しっぴつし、数多かずおおくのかたりくされぬ物語ものがたりのこしていったかのようだった。

書斎しょさいそばには浴室よくしつがあり、そこは非常ひじょうあたらしくえ、改修かいしゅうあとうかがえた。浴室よくしつ瓷磚しせんはきらきらとひかり、白色はくしょく浴槽よくそうすみかれており、そのかたわらには数種すうしゅ瓶罐へいかんならんで、各種かくしゅ入浴用品にゅうよくようひんおさめられていた。



三階さんがいにはふたつの寝室しんしつがあり、階段かいだん両側りょうがわにそれぞれはいされている。かく寝室しんしつにはおおきなベッドがひとつずつかれており、寝具しんぐととのえられて清潔せいけつだ。まくらけられたぬの手触てざわりがやわらかく、わたしがそっとさわれば、よるここでねむるのがどれほど快適かいてきかすぐにかるだろう。

かくベッドのわきにはちいさなサイドテーブルがかれ、そのうえにはぶりな枕元まくらもとのランプがともされている。

ふたつの寝室しんしつにはそれぞれ浴室よくしつそなけられており、これでわたし緹雅ティアとのプライバシー(プライバシー)を心配しんぱいする必要ひつようがなくなった。ただし、緹雅ティア部屋へや設計せっけいたいしてあまり満足まんぞくしていない様子ようすであった。


三階さんがいにはさな陽台ベランダひとつあり、かざりはなにもなく、簡素かんそ木製もくせい欄干らんかんだけがそなえられていた。陽台ベランダてば、遠方えんぽう景色けしき俯瞰ふかんすることができる。

微風びふうほおをそっとで、ひんやりとしたひとすじのすずしさをはこんできた。こうした簡素かんそさがかえって格別かくべつ心地ここちよく、まるで世界せかい全体ぜんたいがこのしずかな夜色やしきなかねむっているかのようで、かぜだけがらずしずかにうたっているようだった。


わたし緹雅ティア三階さんがいからりて居間いまもどったとき、ふとまったかげ箇所かしょがあり、そこに通路つうろかくされているのをつけた。その通路つうろ地下室ちかしつへとつづいている。

地下室ちかしつ入口いりぐち人目ひとめにつきにくく巧妙こうみょうかくされており、ほとんどづかれることはないほどだった。地下室ちかしつあしれると、んできたのはただひろからっぽの空間くうかんだけで、什器じゅうき調度ちょうど一切いっさいなく、どこかさびれた荒涼こうりょうとした雰囲気ふんいきがただよっていた。ひょうよりもさらにひんやかでんやりとした空気くうきが、そこにはちていた。


本来ほんらいわたし地下室ちかしつなに秘密ひみつかくされたたから発見はっけんできることを期待きたいしていた。しかし(しかし)、現実げんじつわたしたち(たち)が想像そうぞうしていたよりもはるかに単純たんじゅんだった。

一日中いちにちじゅう奔走ほんそうわたしいちじるしく疲労ひろうしていた。余計よけい混乱こんらん不必要ふひつよう喧騒けんそうがないこの場所ばしょは、まさにわたしたち(たち)が必要ひつようとしていた環境かんきょうだった。

わたしたち(たち)は部屋へやもどり、すこ休憩きゅうけいって思考しこう整理せいりすることにめた。


緹雅ティア部屋へやはいるとすぐに文句もんくした。「あぁ〜、つかれた。わたしはここでゆっくりなに面白おもしろところたかったのに。」

「そんなことわないでよ〜、わたしたちはあそびにたわけじゃない。なにしろ処理しょりしなければならないことおおすぎるんだから。」

台所だいどころのぞけば、ほかはかなり清潔せいけつだね。あの中年ちゅうねん男性だんせい、ちゃんと定期ていきてき掃除そうじしてるみたい。」

「そうだね。拠点きょてんとしてこの位置いちじつわるくないし、しかも冒険者ぼうけんしゃ協会きょうかいからもちかいから、行動こうどうがずいぶんらくになる。」

わたしたちは魔力まりょく魔光石まこうせき注入ちゅうにゅうした。あかるいあかりが部屋へや陰影いんえい瞬時しゅんじはらい、この小屋こや一縷いちるぬくもりと活気かっきをもたらした。

ひとやすみしたのちわたし弗瑟勒斯フセレスから必要ひつよう物品ぶっぴんをいくつかうつし、この住居じゅうきょいた。


わたしあやつ魔法まほうもちいれば、いつでも転送門てんそうもんひらいて弗瑟勒斯フセレス即時そくじつながることができる。わたしにとっては、物品ぶっぴん転送てんそうすることも、べつ空間くうかんうつることもむずかしくない。

しかしながら、この魔法まほう便利べんりである一方いっぽう制限せいげんもある。わたし最大さいだいひとつの転送門てんそうもんしかひらけず、毎回まいかい使用しようするたびにかなりの魔力まりょく消費しょうひする。

わたしにとってその消耗しょうもう許容きょようできる範囲はんいではあるが、過度かど依存いそんすると肝心かんじんとき使つかえなくなるおそれがあるため、慎重しんちょうあつか必要ひつようがある。



わたしたち(たち)は管理かんり容易よういにするため、この住居じゅうきょ簡単かんたん改造かいぞうし、我々(われわれ)の必要ひつようおうじていくつか調整ちょうせいおこなった。

元々(もともと)簡素かんそだったたけ椅子いす簡易かんい改造かいぞうて、快適かいてきなソファーにわった。これにより、すわってもよこになっても、よりくつろげるようになった。

台所だいどころそばにはちいさな食卓しょくたくき、空間くうかんおおきくはないが、こうした配置はいちでここで食事しょくじを楽し(たの)しむには十分じゅうぶんだった。


さいわいにもわたしたち(たち)は魔法まほうもちいて容易ようい改造かいぞうすることができた。もし単純たんじゅん人力じんりょくたよっていたら、相当そうとう時間じかん労力ろうりょくかっただろう。

わたしはこれらの作業さぎょうをこなすだけの体力たいりょくがあることは否定ひていしないが、魔法まほう改造かいぞうすることはうたがいなくより効率的こうりつてき方法ほうほうであった。

およそ一時間いちじかんほどで、わたしたち(たち)は一階いっかい空間くうかん一通ひととお再配置さいはいちし、全体ぜんたい雰囲気ふんいき以前いぜんよりいっそうあたたかくなった。

居間いま空間くうかんつくなおされ、ソファーの配置はいちわたしたち(たち)の要望ようぼうによりうようになった。そして、そのさな食卓しょくたくひさしく感じ(かん)でいなかった家庭的かていてきぬくもりをわたしおもこさせた。



「ぐぅ〜ぐぅ〜。」

緹雅ティアかおあからめてソファーによこたわり、わたしけてった。「凝里ギョウリ、おなかすいた〜」

「そうだね、丸一日まるいちにちいそがしくてまだなにべてないし、緹雅ティアなにべたいものはある?」

いま状況じょうきょうだと食材しょくざいれるのもむずかしいよね?」

「じゃあ、っ取りばやくて都合つごうがいい方法ほうほうとして、今日きょう火鍋ひなべにしない?」

火鍋ひなべ!」

火鍋ひなべという言葉ことばいて、緹雅ティア瞬時しゅんじかがやいた。火鍋ひなべ魅力みりょくはやはり非常ひじょうつよいようだった。


ここ(こ)には食材しょくざいがなかったため、わたし食堂しょくどうから食物しょくもつ転送てんそうしてもらうしかなかった。

火鍋ひなべ最大さいだい利点りてん手軽てがる迅速じんそくなことだ。まずはしるもと用意よういしておけば、食材しょくざいあとからゆっくりそろえればよい。

今日きょうはチーズミルクチーズミルクなべ麻辣鍋マーラーナベ組合くみあわせはどう?」

「いいね!鴛鴦鍋えんおうなべ!」

おいしいもの用意よういできれば、緹雅ティア機嫌きげん途端とたんによくなるようだ。これからはしょく準備じゅんびにもっとちかられねばならない。

おおくの食材しょくざいはもともと食堂しょくどうにあったものだったので、私は莫特モット連絡れんらくして食堂しょくどうものすみやかに準備じゅんびして転送てんそうしてもらうようたのんだ。そうしてあまり時間じかんをかけずに、すべてがととのった。

この世界せかいには電磁調理器でんじちょうりきIHアイエイチのような機器きき存在そんざいしないため、こして加熱かねつするしかない。それはまたべつ風情ふぜいかもしているとえるだろう。


火鍋ひなべ本当ほんとう非常ひじょう万能ばんのう美食びしょくだ。

それはたん手軽てがる迅速じんそくなだけでなく、様々(さまざま)なひとしょくたいする欲求よっきゅうたすことができる。濃厚のうこうなスープ(すーぷ)でも新鮮しんせん食材しょくざいでも、一口ひとくちまた一口ひとくちひときつけ、めどなくはしすすんでしまう。

いそがしい日々(ひび)には、火鍋ひなべわたしのもっとも頻繁ひんぱん選択肢せんたくしひとつだった。適当てきとう野菜やさい肉類にくるい海鮮類かいせんるいれば、手早てばやいっしょくを楽し(たのし)める。

ただし、注意ちゅういすべきてん塩分えんぶん摂取せっしゅである。火鍋ひなべのスープ(すーぷ)はしばしばしおけがつよくなりがちで、とくにスープ(すーぷ)にえるタレや各種かくしゅ薬味やくみ併用へいようするとさらに塩分えんぶんす。塩分えんぶんを取りぎないために、私はあまりスープ(すーぷ)をまず、またタレの使つかぎも極力きょくりょくひかえるようにしている。そうすることであじわいをそこなわずに美食びしょく堪能たんのうしつつ、からだ健康けんこうにも配慮はいりょすることができる。


ひとによって火鍋ひなべかたことなるが、私はいつもまず野菜やさいるのがきだ。野菜やさい火鍋ひなべると、スープ(すーぷ)のあじはいっそう濃厚のうこうになり、野菜やさいあざやかなあまみがスープ(すーぷ)にして、全体ぜんたいあじそうがよりゆたかになる。

わたしがこれらの野菜やさいていると、スープ(すーぷ)からのぼかおりが瞬時しゅんじひろがり、おもわず期待きたいたかまる。

肉類にくるい海鮮かいせん火鍋ひなべかせない食材しょくざいだ。海鮮かいせんについて、今日きょう使つかったものは龍霧山りゅうむさん中央ちゅうおうみずうみれたもので、そこの魚類ぎょるい貝類かいるい水質すいしつきよ汚染おせんがなく、魚肉ぎょにくやわらかくジューシーで、貝類かいるい天然てんねんあまみをおびている。

これらの海鮮かいせんわたし迪路嘉ディルジャたのんで召喚しょうかんしてもらった音魔おんまらせたものである。音魔おんま敏捷びんしょうさとちからにより、龍霧山りゅうむさんみずうみ自在じざいして、最新鮮しんせん魚類ぎょるい貝類かいるい容易ようい捕獲ほかくすることができるのだ。


肉類にくるい部分ぶぶんについて、今日きょうわたし龍霧山りゅうむさん山脊さんせきじょう野牛肉やぎゅうにくえらんだ。これらの野牛やぎゅう山脊さんせき原始林げんしりん生息せいそくしており、肉質にくしつまりがあって弾力だんりょくみ、養殖牛ようしょくぎゅうにくくらべるとより天然てんねんてき風味ふうみびている。

モット(モット)がまるごと解体かいたいされたうし転送てんそうしてくるとはおもわなかったが、結局けっきょく二人ふたりしかいないのだから大量たいりょうべるわけにはいかない。そこで私は最終的さいしゅうてき肋眼リブアイ牛小排ショートリブ中心ちゅうしんることにした。

火鍋ひなべさいは私はすこしこだわりがある。処理しょりした牛肉ぎゅうにくさらならべると、見事みごと霜降しもふりが食欲しょくよくをそそった。緹雅ティアちきれない様子ようすわたしかした。

はやく!はやく!がもういた、べたい〜」

さきべてて!私はまだいくつか食材しょくざい下準備したじゅんびをしなきゃ。」

「ダメ!こっちへよこして!」緹雅ティアきゅうこえげてさけび、私はおもわずおどろいた。

火鍋ひなべっていうのは一緒いっしょべてこそ美味おいしいんだ。はやすわって、一緒いっしょべよう!」

「はいはい〜おこったかおはやめて〜」

緹雅ティア命令めいれいには、私はしたがうほかえらみちはなかった。


緹雅ティアおもいやりふかわたしのごごはんってくれた。

この世界せかい白米はくまいがあるということは、本当ほんとうおおきな福音ふくいんだ。私は当初とうしょ、それをくちれることができないのではないかと心配しんぱいしていたが、幸運こううんにも食堂しょくどうそばにある栽培さいばいシステムがまだ稼働かどうしており、わたしたちはそれでこれらの食材しょくざいることができたのだ。

凝里ギョウリがいてくれて本当ほんとうたすかった。さもなければ、私はもうながいことこんなに美味おいしいものをべていなかったよ。」

「そんなことわないでよ。私はすぐに調子ちょうしるタイプなんだから。」

緹雅ティアわらいながら牛肉ぎゅうにくはしでつまみげた。しかし、緹雅ティアいきおいよく一気いっき牛肉ぎゅうにくなべれようとした瞬間しゅんかん、私は素早すばやめた。

って!緹雅ティア、そんなことしちゃダメ!」

「どうしたの?」

「そうすると牛肉ぎゅうにくが台無し(だいなし)になるよ。わたしまかせて!」

そううと私は牛肉ぎゅうにくうばい取り、一枚いちまいずつ丁寧ていねいにスープ(すーぷ)にれていった。



わたし牛肉ぎゅうにくなべれると、即座そくざにくつつみ、牛肉ぎゅうにく霜降しもふりにふくまれたあぶら熱湯ねっとうで徐々(じょじょ)にし、濃厚のうこうにくかおりをはなした。

肋眼リブアイ部位ぶいにくとくやわらかくなめらかで、脂肪しぼう均等きんとう分布ぶんぷしている。くと、これらの肋眼リブアイ肉片にくへんなべ五分ごぶから七分しちぶ程度ていどとおり、表面ひょうめんはわずかにがしてかおばしく、内側うちがわはなおあざやかでやわらかな食感しょっかんたもっている。

一口ひとくちかじると、にく弾力だんりょくが感じられ、肉汁にくじゅうくちなかあふし、スープ(すーぷ)とからってきわめてゆたかなあじそうした。


牛肉ぎゅうにくいちまいずつれないと、まとめてなべほうむと加熱かねつ不均一ふきんいつになるし、うっかりするとが入りぎてかたくなってしまうよ。一枚いちまいずつがいいんだ。」

「そしたら、お願いね、ちゃんとわたしをサーブしてね!」と緹雅ティアあごささえ、ななめにほそめてわらいかけ、わたし一瞬いっしゅんかおまっになった。

「からかわないでよ!」

「ははは!」

青菜あおなすこべるのをわすれないでね〜」

「ちぇー、本当ほんとう雰囲気ふんいきこわすんだから。」

緹雅ティアふたたくちびるとがらせ、その表情ひょうじょうがかえってわたしにはとても可愛かわいえた。


食事しょくじえたあと二人ふたり客間きゃくまのソファにこしろして休憩きゅうけいしていた。

緹雅ティアは、わたしつくったちゃゼリーをべながら、さきほどの話題わだいつづけた。

「ところで、どうすれば冒険者ぼうけんしゃになれるの? なに試験しけんみたいなのがあったはずだよね。」

いたはなしだと、評価試験ひょうかしけんのようなものらしい。ただし、実力じつりょくがどうであれ、かなら最下層さいかそうからすこしずつ経験けいけんんでいかなきゃならないんだ。」

「じゃあ、わたしとあなたならすぐに最高さいこうランクになれそうだね? だって、あのオジサンでさえ金光級きんこうきゅう実力じつりょくがあるっていたし。でも、そんなに目立めだったらぎゃくあぶないんじゃない?」

「さっきもそのてんになっていたんだ。こういうときこそ德斯デスたちにたのめればいいのにな。」

「それって弦月団げんげつだんのこと?」

「そうさ! かれらの実力じつりょくくわえて幻影変化げんえいへんか能力のうりょくは、おれたちの変身魔法へんしんまほうよりもずっと使つか勝手がってがいいんだ。」

「だめだよ! たしかにかれらの戦闘能力せんとうのうりょくはすごいけど、情報収集じょうほうしゅうしゅうとかはとても苦手にがてなんだ。だからこそ**德斯デス**が指揮しきまかされているんだよ。」

「ふぅ~、たしかにそのとおりだね。今日きょうはやめにやすもうか。明日あした冒険者ぼうけんしゃギルドにってみよう。」



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