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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一卷 第四章 陰謀の第一幕が開かれる-1

王家神殿(おうけしんでん)晋見廳(しんけんちょう)にて、私は緹雅(ティア)(とも)自席(じせき)(すわ)っていた)

その(とき)王家神殿(おうけしんでん)晋見廳(しんけんちょう)は、まるで時間(じかん)(こお)()いたかのように厳粛(げんしゅく)空気(くうき)(つつ)まれていた。

守護者(しゅごしゃ)たちはすでにここで待機(たいき)しており、我々(われわれ)に報告(ほうこく)(おこな)(とき)()っていた。

晋見廳(しんけんちょう)においては、いかなる(もの)上位者(じょういしゃ)敬意(けいい)(しめ)さねばならない。』

――これは晋見廳(しんけんちょう)設定(せってい)されたNPC全員(ぜんいん)への規律(きりつ)である。

そのため、守護者(しゅごしゃ)たちの態度(たいど)はきわめて(うやうや)しく、その一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)(いた)るまで忠誠心(ちゅうせいしん)(あらわ)れていた。

正直(しょうじき)なところ、あまりに形式張(けいしきば)ったこの()雰囲気(ふんいき)は、(いま)(すこ)()()かない気分(きぶん)にさせる。

……一体(いったい)最初(さいしょ)(だれ)がこんな設定(せってい)(つく)ったんだろうか?


凝里(ギョウリ)(さま)緹雅(ティア)(さま)、我々(われわれ)は(おの)忠誠(ちゅうせい)をもって、御身(おんみ)らの御期待(ごきたい)にお(こた)えいたします。」

(かれ)らの(うやうや)しい態度(たいど)(たい)し、私はできる(かぎ)自然(しぜん)()みを(かえ)した。

だが(むね)(うち)には、(いま)なお緊張感(きんちょうかん)()えず、この()相応(ふさわ)しい振舞(ふるま)いができているのか不安(ふあん)仕方(しかた)なかった。

「うむ……では、さっそく報告(ほうこく)(はじ)めてくれ。

まず、先日(せんじつ)捕獲(ほかく)したあの龍僕(りゅうぼく)素性(すじょう)についてだ。

芙洛可(フロッコ)尋問(じんもん)(にん)はお(まえ)(まか)せていたな。

(なに)有用(ゆうよう)情報(じょうほう)()られたか?」

(みずか)らの緊張感(きんちょうかん)(すこ)しでも(やわ)らげるため、私は意識(いしき)をこれから分析(ぶんせき)すべき情報(じょうほう)へと集中(しゅうちゅう)させた。

率直(そっちょく)に問いかけることで、注意(ちゅうい)をそちらに(うつ)せば、この堅苦(けんくる)しい雰囲気(ふんいき)をそれほど()にせずに()むかもしれない――そう(かんが)えたのだ。


芙洛可(フロッコ)(かる)(うなず)き、思考(しこう)(ととの)えてから(くち)(ひら)いた。

稟告(りんこく)いたします、凝里(ギョウリ)(さま)

先日(せんじつ)()らえられたあの龍僕(りゅうぼく)についてですが、(かれ)(みずか)らを黒棺神(こくかんしん)特種部隊(とくしゅぶたい)、すなわち(なな)大龍使(だいりゅうし)(ひと)り――風龍使(ふうりゅうし)配下(はいか)であると名乗(なの)っております。

ただし、(おのおの)龍使(りゅうし)(もと)(ぞく)する龍僕(りゅうぼく)編成(へんせい)一様(いちよう)ではなく、この風龍僕(ふうりゅうぼく)(ぞく)する部隊(ぶたい)探索部隊(たんさくぶたい)()ぎません。

それほどの下級(かきゅう)龍族(りゅうぞく)ごときが、凝里(ギョウリ)(さま)(やいば)()けるなど……まさしく不遜(ふそん)(きわ)みでございます!」

芙洛可(フロッコ)報告(ほうこく)()き、私は(おも)わず(まゆ)をひそめた。

この情報(じょうほう)(あらた)めて(わたし)(おも)()こさせる。

――この世界(せかい)(てき)は、我々(われわれ)の想像(そうぞう)ほど単純(たんじゅん)ではないのだと。

探索部隊(たんさくぶたい)(ぞく)する龍僕(りゅうぼく)でさえ、これほどの実力(じつりょく)(ほこ)る。

ならばもし正規(せいき)主力部隊(しゅりょくぶたい)相対(あいたい)することになれば、一体(いったい)どれほど(おそ)ろしい(てき)となるのだろうか……。


探索部隊(たんさくぶたい)……?」

私はその言葉(ことば)()(かえ)し、胸中(きょうちゅう)思索(しさく)(めぐ)らせた。

――もしかすると、この背後(はいご)(ひそ)陰謀(いんぼう)は、我々(われわれ)の予想(よそう)(はる)かに()える(ふか)さを()つのではないか。

芙洛可(フロッコ)(ちい)さく(うなず)き、さらに説明(せつめい)(つづ)けた。

「はい。(かれ)七大龍使(しちだいりゅうし)第二席(だいにせき)烈風龍(れっぷうりゅう)配下(はいか)(ぞく)しており、龍僕(りゅうぼく)(なか)でも(もっと)探索能力(たんさくのうりょく)()けていると(つた)えられています。」

「この状況(じょうきょう)から()るに、今回(こんかい)襲撃事件(しゅうげきじけん)(ほか)(もの)(あん)指図(さしず)している可能性(かのうせい)(たか)い。」

緹雅(ティア)(ひく)(こえ)(わたし)()げ、その分析(ぶんせき)(わたし)(おお)きく同意(どうい)した。

私は(うなず)き、さらに問いかける。

「では……(ほか)()られた情報(じょうほう)は?」

芙洛可(フロッコ)一瞬(いっしゅん)言葉(ことば)()めたのち、(ふたた)(くち)(ひら)いた。

(くわ)えて、あの(いや)しき龍族(りゅうぞく)供述(きょうじゅつ)によれば……(かれ)らの(なか)最強(さいきょう)龍僕(りゅうぼく)第八龍使(だいはちりゅうし)直属(ちょくぞく)護衛隊(ごえいたい)、すなわち光龍僕(こうりゅうぼく)であると。

ただし、その実力(じつりょく)詳細(しょうさい)については依然(いぜん)として不明(ふめい)とのことでした。」

この証言(しょうげん)明確(めいかく)(しめ)していた。

――(てき)もまた、(みずか)らの(そこ)を易々(やすやす)と他者(たしゃ)(さら)すつもりはないのだ。


「なるほど……そう(かんが)えると、やはり背後(はいご)にはさらに狡猾(こうかつ)(てき)(ひそ)んでいるということか!」

(むね)(おく)に、不安(ふあん)感情(かんじょう)突如(とつじょ)として()()がった。

――第八龍使(だいはちりゅうし)? 光龍僕(こうりゅうぼく)? 一体(いったい)あの(もの)たちはどのような存在(そんざい)なのか。

(かれ)らの実力(じつりょく)間違(まちが)いなく(あなど)れない。

その(うえ)位置(いち)する存在(そんざい)があるとすれば……どれほど(おそ)ろしい(ちから)()めているのだろうか。

複雑(ふくざつ)思案(しあん)直面(ちょくめん)し、(つぎ)()つべき()見失(みうしな)いそうになったその(とき)――


「そうだ!」

ふいに私は(べつ)(けん)(おも)()した。

これこそが今回(こんかい)事件(じけん)における最重要(さいじゅうよう)焦点(しょうてん)だ。

「……あの黒棺神(こくかんしん)についてだ。

(なに)情報(じょうほう)()()せたか?」

そう、黒棺神(こくかんしん)こそが今回(こんかい)事件(じけん)核心(かくしん)であるはずだ。

黒棺神(こくかんしん)とは一体(いったい)何者(なにもの)なのか?

その背後(はいご)にはいかなる(ちから)(ひそ)んでいるのか?

もしそれを()ることができれば、我々(われわれ)はより正確(せいかく)対策(たいさく)(こう)じることができるだろう。

だが、(わたし)の問いを()いた瞬間(しゅんかん)芙洛可(フロッコ)顔色(かおいろ)はわずかに()わった。

彼女(かのじょ)()()がちになり、その眼差(まなざ)しはどこか(かげ)()びていた。

その一瞬(いっしゅん)()空気(くうき)異様(いよう)なほどに重苦(おもくる)しく変貌(へんぼう)した。

静寂(せいじゃく)(ひろ)がり、部屋全体(へやぜんたい)がさらに()(かた)まっていくかのようだった。

私は(こころ)(そこ)(ふか)疑念(ぎねん)(いだ)いた。

――なぜ、彼女(かのじょ)はここまで異常(いじょう)反応(はんのう)(しめ)すのか?


芙洛可(フロッコ)、どうしたの?」

緹雅(ティア)()空気(くうき)変化(へんか)敏感(びんかん)(さっ)し、(やさ)しい言葉(ことば)でその緊張(きんちょう)(やわ)らげようとした。

彼女(かのじょ)声音(こわね)(やわ)らかく、その(ひび)きによって、()()めた空気(くうき)はわずかに(ゆる)みを()せた。

しかし芙洛可(フロッコ)はなおも(うつむ)いたまま沈黙(ちんもく)(まも)り、(みじか)沈黙(ちんもく)(のち)、ようやく(かお)()げた。

そして、(ふか)謝意(しゃい)無念(むねん)をにじませる(こえ)(こた)えた。

「……(まこと)に申し(もうしわけ)ありません、凝里(ギョウリ)(さま)緹雅(ティア)(さま)

(てき)捕虜(ほりょ)は、(わたし)の問いかけに(こた)()える(まえ)に、突如(とつじょ)として心臓(しんぞう)自壊(じかい)し、体内(たいない)のエネルギーが完全(かんぜん)消滅(しょうめつ)いたしました。

……これは、おそらく伝説(でんせつ)(かた)られる十二至宝(じゅうにしほう)(ひと)つ――『契約(けいやく)(いん)』の呪詛(じゅそ)によるものでしょう。」

その(こえ)はかすかに(ふる)えており、この失策(しっさく)彼女(かのじょ)にとってどれほど(おお)きな衝撃(しょうげき)であったかを雄弁(ゆうべん)物語(ものがた)っていた。


「な、(なに)……?」

(わたし)緹雅(ティア)(おも)わず同時(どうじ)(こえ)()らした。

その言葉(ことば)は、(わたし)たちの予想(よそう)完全(かんぜん)裏切(うらぎ)るものだった。

「ま、()ってくれ……(いま)契約(けいやく)(いん)()ったのか?」

私は(いき)()み、芙洛可(フロッコ)言葉(ことば)(こころ)(おお)きく()さぶられた。

かつて “DARKNESSFLOW(ダークネスフロー)” において伝説(でんせつ)十二至宝(じゅうにしほう)(ひと)つとされた――契約(けいやく)(いん)

それが、この世界(せかい)実際(じっさい)存在(そんざい)しているというのか?

私はこの世界(せかい)を、(たん)にあのゲームの構造(こうぞう)()せて(きず)かれたものに()ぎないと(かんが)えていた。

だが、これは――(わたし)予想(よそう)(はる)かに()える事実(じじつ)であった。


かつて私は幾度(いくど)となく契約(けいやく)(いん)行方(ゆくえ)()(もと)めた。

しかし、ゲーム(ない)任務(にんむ)(とお)じても、各地(かくち)()らばる伝聞(でんぶん)辿(たど)っても、ついに具体的(ぐたいてき)手掛(てが)かりを()ることはできなかった。

それが(いま)、まさか現実(げんじつ)のこの世界(せかい)存在(そんざい)していたとは――。

思考(しこう)奔流(ほんりゅう)のごとく()(めぐ)り、(わたし)脳裏(のうり)にひとつの(かんが)えが(ひらめ)いた。

――もし契約(けいやく)(いん)実在(じつざい)するのなら、(ほか)未発見(みはっけん)神器(しんき)もまた、この世界(せかい)のどこかに()められているのではないか?

その可能性(かのうせい)に、私は戦慄(せんりつ)せざるを()なかった。

もしそれが事実(じじつ)ならば――この世界(せかい)へと転送(てんそう)された(わたし)たちは、より複雑(ふくざつ)未知(みち)()ちた陰謀(いんぼう)渦中(かちゅう)()()まれることになる。

(なに)より、この世界(せかい)(てき)は、我々(われわれ)の()(うつ)存在(そんざい)だけではないのは明白(めいはく)だった。



私は呼吸(こきゅう)(ととの)え、(ふか)(いき)()い込み、感情(かんじょう)平静(へいせい)(もど)そうと(つと)めた。

そして(あらた)めて芙洛可(フロッコ)確認(かくにん)する。

芙洛可(フロッコ)本当(ほんとう)にあれが契約(けいやく)(いん)(ちから)だと確信(かくしん)しているのか?」

(わたし)の問いを()け、芙洛可(フロッコ)表情(ひょうじょう)はわずかに(かた)さを()びた。

彼女(かのじょ)一瞬(いっしゅん)視線(しせん)()らし、それからゆっくりと(うなず)く。

「はい……その(けん)については、(わたし)佛瑞克(フレック)確認(かくにん)しました。

(くわ)しい状況(じょうきょう)佛瑞克(フレック)からご説明(せつめい)いただくのが適切(てきせつ)かと(ぞん)じます。」

その声色(こわいろ)には不安(ふあん)()じり、これ以上(いじょう)自分(じぶん)説明(せつめい)範疇(はんちゅう)()えていることを(しめ)していた。

彼女(かのじょ)話題(わだい)佛瑞克(フレック)へと(ゆだ)ねた。

佛瑞克(フレック)がその()()()がった。

(かれ)守護者(しゅごしゃ)(なか)でも武器(ぶき)防具(ぼうぐ)知識(ちしき)(もっと)通暁(つうぎょう)している人物(じんぶつ)であった。

かつて不破(フハ)()つあらゆる武具(ぶぐ)知識(ちしき)一切(いっさい)(かれ)(たく)したこともあり、佛瑞克(フレック)はその叡智(えいち)(あま)すところなく継承(けいしょう)していた。

ゆえに、佛瑞克(フレック)武器(ぶき)特性(とくせい)使用法(しようほう)技術(ぎじゅつ)、さらにはそれらへの対処法(たいしょほう)まで、(あま)さず明快(めいかい)(かた)ることができる。

我々(われわれ)の(なか)において、佛瑞克(フレック)こそが武具(ぶぐ)百科全書(ひゃっかぜんしょ)()っても過言(かごん)ではなかった。


「その(とお)りです。

過去(かこ)記録(きろく)によれば、契約(けいやく)(いん)呪詛(じゅそ)()けた(もの)は、施術者(しじゅつしゃ)との(あいだ)(きわ)めて(つよ)霊子連結(れいこれんけつ)(しょう)じます。」

佛瑞克(フレック)声音(こわね)()()いており、理路整然(りろせいぜん)とした調子(ちょうし)(かた)られていた。

(かれ)(つづ)ける。

「そして、もし()けた(もの)施術者(しじゅつしゃ)との契約(けいやく)(そむ)けば、呪詛(じゅそ)(ばつ)()ける――これこそが契約(けいやく)(いん)核心(かくしん)(てき)特質(とくしつ)です。

しかし、この呪詛(じゅそ)(かなら)ずしも一方通行(いっぽうつうこう)ではありません。

契約(けいやく)(やぶ)らぬ(かぎ)り、()けた(もの)施術者(しじゅつしゃ)(ちから)一部(いちぶ)行使(こうし)できるのです。

それが代償(だいしょう)として(あた)えられる――ゆえに契約(けいやく)(いん)は、まさしく両刃(もろは)(けん)()ぶべき存在(そんざい)でしょう。」

佛瑞克(フレック)()(するど)(ひか)る。

呪詛(じゅそ)形態(けいたい)自体(じたい)には多様(たよう)種類(しゅるい)存在(そんざい)しますが……契約(けいやく)(いん)呪詛(じゅそ)発動(はつどう)した場合(ばあい)(かなら)特別(とくべつ)紋章(もんしょう)(あらわ)れます。

その咒印(じゅいん)()けた(もの)肉体(にくたい)永遠(えいえん)(のこ)り、(けっ)して()えることはありません。」


佛瑞克(フレック)はひと呼吸(こきゅう)おいて、さらに言葉(ことば)(つづ)けた。

凝里(ギョウリ)(さま)、たとえあの風龍僕(ふうりゅうぼく)特別(とくべつ)異空間(いくうかん)(ふう)()めていたとしても、通常(つうじょう)呪詛(じゅそ)ならば遮断(しゃだん)できるはずです。

しかし――契約(けいやく)(いん)呪詛(じゅそ)は、時間(じかん)空間(くうかん)次元(じげん)をも超越(ちょうえつ)する。

つまり、どこにいようとも(のが)れることはできないのです。」

その言葉(ことば)()いた瞬間(しゅんかん)(わたし)(むね)(うず)()いていた不安(ふあん)(たし)かに裏付(うらづ)けられた。

――これは(たん)なる襲撃(しゅうげき)ではない。

(てき)老獪(ろうかい)にして深謀遠慮(しんぼうえんりょ)、もはや一瞬(いっしゅん)たりとも油断(ゆだん)してはならないのだ、と。


私は(しず)かに()()じ、(こころ)()()けた(のち)、ゆっくりと(まぶた)(ひら)き、(となり)(すわ)緹雅(ティア)視線(しせん)()けた。

「――つまり、今回(こんかい)襲撃(しゅうげき)背後(はいご)には、さらに強大(きょうだい)(ちから)(ひそ)んでいる可能性(かのうせい)(たか)い、ということだな?」

緹雅(ティア)もまた(ちい)さく(うなず)いたが、その顔立(かおだ)ちはそれほど緊張(きんちょう)()びてはいなかった。

私はこれまでの経緯(けいい)()まえ、簡潔(かんけつ)結論(けつろん)()べた。

第一(だいいち)、この世界(せかい)には “DARKNESSFLOW(ダークネスフロー)” と(おな)武器(ぶき)魔法(まほう)存在(そんざい)しており、その能力(のうりょく)大筋(おおすじ)では(おな)性質(せいしつ)()つ。

だが、それが(たん)なる偶然(ぐうぜん)である可能性(かのうせい)否定(ひてい)できない。

(わたし)たちは(たし)かに “DARKNESSFLOW(ダークネスフロー)” を(あそ)んでいた(とき)同様(どうよう)(ちから)(ゆう)している。

だが、それが(すなわ)安心(あんしん)保証(ほしょう)するものではない――この世界(せかい)には間違(まちが)いなく強大(きょうだい)存在(そんざい)(ひそ)んでいるのだ。

第二(だいに)今回(こんかい)事件(じけん)背後(はいご)にいる黒幕(くろまく)は、(きわ)めて用心深(ようじんぶか)く、狡猾(こうかつ)人物(じんぶつ)(ちが)いない。

他者(たしゃ)(あやつ)り、(みずか)らの目的(もくてき)()たす(すべ)()けている。

しかも、(かれ)()(あた)える(ちから)だけでも、あれほどの脅威(きょうい)発揮(はっき)するのだ。

――(さいわ)いにも、今回は守護者(しゅごしゃ)たちを同行(どうこう)させなかった。

そうでなければ、(かれ)らが危険(きけん)()()まれる可能性(かのうせい)もあったのだから。


(なに)手掛(てが)かりはある?」

緹雅(ティア)小声(こごえ)(わたし)()いかけてきた。

「いや、(とく)にはない。

だが……今回(こんかい)黒幕(くろまく)(けっ)して単純(たんじゅん)存在(そんざい)ではない()がする。

その背後(はいご)には、さらに(おお)きな陰謀(いんぼう)(ひそ)んでいるような……ただ、(いま)ははっきりと()()れない。」

現状(げんじょう)情報(じょうほう)はあまりに混沌(こんとん)としており、相手(あいて)徹底(てってい)して姿(すがた)(かく)(もの)だ。

この段階(だんかい)で我々(われわれ)が(みずか)らの正体(しょうたい)(あき)らかにすることなど、絶対(ぜったい)(ゆる)されない。

「……では、芙洛可(フロッコ)収集(しゅうしゅう)した情報(じょうほう)は、それで(すべ)てか?」

私は(かお)()け、芙洛可(フロッコ)に問い(ただ)した。

「いえ、もう一点(いってん)だけ。

あの龍僕(りゅうぼく)は、(かれ)らがあの(むら)(おそ)った理由(りゆう)について(かた)っていました。

――そこに、(かれ)らが()している“(なに)か”があると。

(いわ)く、それは石板(せきばん)だと。」

その言葉(ことば)に、(わたし)緹雅(ティア)(おも)わず(かお)見合(みあ)わせ、(しず)かに()みを()わした。

まさか、我々(われわれ)の推測(すいそく)がここまで的確(てきかく)であったとは。

幸運(こううん)にも、あの石板(せきばん)他人(たにん)()(わた)さずに()んだ――そうでなければ、将来(しょうらい)さらなる災厄(さいやく)(まね)いたに(ちが)いない。

「……コホン。

とにかく、今後(こんご)警戒(けいかい)一層(いっそう)(つよ)めるべきだ。

相手(あいて)十二至宝(じゅうにしほう)(ちから)()っていると()れただけでも脅威(きょうい)だ。

ならば、それを上回(うわまわ)(ちから)(ゆう)していても(なに)不思議(ふしぎ)ではない。

……だが、それすら(だれ)かが我々(われわれ)を誘導(ゆうどう)するための偽装(ぎそう)である可能性(かのうせい)もある。

ゆえに、(けっ)して油断(ゆだん)してはならない。」

「――はっ!」

守護者(しゅごしゃ)たちは(こえ)(そろ)え、力強(ちからづよ)応答(おうとう)した。


「では(つぎ)だ。徳斯(デス)、あの(りゅう)馴致(じゅんち)はどの程度(ていど)(すす)んでいる?」

「きわめて順調(じゅんちょう)でございます、凝里(ギョウリ)(さま)

あの(りゅう)第三神殿(だいさんしんでん)環境(かんきょう)非常(ひじょう)相性(あいしょう)()く、(くわ)えて紅櫻(あかおう)(さま)のお(ちから)もあり、(まった)心配(しんぱい)はございません。」

「そうか。それなら、今後(こんご)戦力(せんりょく)として活躍(かつやく)してくれるのを(たの)しみにしている。

(ちか)いうちに、(わたし)一度(いちど)()()ってみよう。」

私は()みを()かべながらそう()った。

「はっ、承知(しょうち)いたしました、凝里(ギョウリ)(さま)。」


最後(さいご)迪路嘉(ディルジャ)()まないな。

(まえ)任務(にんむ)(みな)(なか)でも(もっと)厄介(やっかい)なものだ。

もし人手(ひとで)必要(ひつよう)なら、モットに(もう)()てくれ。」

問題(もんだい)ございません、凝里(ギョウリ)(さま)

この()(かなら)ずや全力(ぜんりょく)()くし、弗瑟勒斯(フセレス)守護(しゅご)する職務(しょくむ)()たしてみせます。」

「では、周辺(しゅうへん)警戒(けいかい)についてはどうだ?

(なに)(あや)しい(もの)不審(ふしん)存在(そんざい)()つかったか?

この近辺(きんぺん)には(おそ)ろしい魔物(まもの)(ひそ)んでいるとの(うわさ)(みみ)にしたのだが。」

「その(けん)につきましては、凝里(ギョウリ)(さま)、すでに各階音魔(かくかいおんま)山脈(さんみゃく)全体(ぜんたい)巡回(じゅんかい)として配備(はいび)しております。

ですが、これまでのところ(あや)しい(もの)一切(いっさい)発見(はっけん)されておりません。」


「おかしいじゃないか。危険きけん怪物かいぶつがいないのなら、どうしてこんな場所ばしょ禁忌きんきにされているんだ?」

「それならちょうどいいじゃない。ここに出入しゅつにゅうするひとすくなければすくないほど、わたしたちはそとからの脅威きょうい心配しんぱいしなくてむわ。」と緹雅ティア楽観的らっかんてきった。

「そうわれればたしかにそうだが……それでも、わたしたちのらない脅威きょういひそんでいるんじゃないかと、やっぱりになってしまう。」わたし依然いぜんとしてすこ不安ふあんいだえていた。

「ええ~、そこは迪路嘉ディルジャしんじなさいよ~。彼女かのじょがいれば、わたしたちは絶対ぜったい一番いちばんはや危険きけん察知さっちできるんだから。」

緹雅ティアは、わたし心配しんぱいしすぎだとおもっていた。ほかの守護者しゅごしゃにも適度てきど信頼しんらいあずけるべきで、そうしないとかれらにとってはらずらずのうちにおおきな重圧じゅうあつになってしまう。

「それでは、今後こんご弗瑟勒斯フセレス強化方針きょうかほうしんについてはあらためてはなおう。みんなは自分じぶんもどってくれ。これからの任務にんむはさらに困難こんなんになるだろうから、こころ準備じゅんびをしておいてほしい。」

「はい!」


王家神殿おうけしんでん會議廳かいぎちょうなか

わたし芙莉夏フリシャ連絡れんらくを取り(とり)、これまでに発見はっけんした手掛てがかりをすべてつたえ、今後こんご方針ほうしん一緒いっしょはなおうとした。

しかし 芙莉夏フリシャ用事ようじがあるとって「すこって」とかえしてきたため、いまここにはわたし緹雅ティア二人ふたりだけだった。

緹雅ティアきみはどうおもう? 正直しょうじきところ、こんなに大量たいりょう情報じょうほうっただけで、もうすこ負担ふたんかんじてしまっているんだ。」

そのとき緹雅ティア はゆっくりとわたしうしろにあゆり、一杯いっぱいれたての麦茶むぎちゃまえいた。

緹雅ティア のおちゃは、やはりいつもどおかおりがする~。

「そんなにかんがまないでさ~。物事ものごと複雑ふくざつかんがえすぎると、本来ほんらい核心かくしん見失みうしないやすくなるんだよ。わたしたちにとって一番いちばん大事だいじ目標もくひょうは、みんなをつけすこと。のこりの問題もんだいは、全員ぜんいん再会さいかいしてからはなえばおそくはないでしょ!」

「でも……」

「ほらね~、きみってすぐ責任せきにん全部ぜんぶ背負せおもうとするでしょ。ときには他人たにんたよることも大切たいせつなんだよ。ひとひとりのちからには限界げんかいがあるんだから。」

「それって……あのオジサンの言葉ことばをそのまましたんじゃないの?」

わたしはおちゃをひとくちみ、みをかべながらそうった。

「ふん~、さあね?」

緹雅ティアせきこしろすと、かおよこけてくちとがらせた。


緹雅ティアうとおりだ。なんじむかしからつね責任せきにん自分じぶん背負せおんで、そのせいでおおくの意外いがいきてきた。緹雅ティア も、もうこれ以上いじょうなんじがそうしつづける姿すがたたくないだけなのだ。」

芙莉夏フリシャわたしうしろからゆっくりとあるてきた。どうやら、さっきの会話かいわかれてしまったようだ。

老身ろうしんった言葉ことばをどうしてわすれられるのか? 緹雅ティアなんじのことを心配しんぱいさせてはならぬ。」

「ごめんなさい。」

芙莉夏フリシャ のこの方面ほうめんでの気勢きせい完全かんぜんわたし圧倒あっとうし、私はあたまげてあやまるしかなかった。

なんじ老身ろうしんつたえた情報じょうほう老身ろうしん大体だいたい把握はあくしておる。まずなんじ既定きてい計画けいかくがあるのかどうかいておきたい。」

さすがは 芙莉夏フリシャ だ。まるでわたしこころうちまでも見透みすかしているかのように的確てきかくだった。


わたし現時点げんじてんでは、依然いぜんとして情報じょうほう捜査そうさおも目的もくてきとすべきだとかんがえる。迪路嘉ディルジャ にはつづ龍霧山りゅうむさん 周辺しゅうへん状況じょうきょう監視かんしさせたい。なに突発的とっぱつてき事態じたいこれば、我々(われわれ)が第一だいいち時間じかん弗瑟勒斯フセレスもどれるように確保かくほする。そして 莫特モット にはつづ弗瑟勒斯フセレス管理かんり業務ぎょうむまかせる。

それから、あの 聖王国せいおうこくむらについては、佛瑞克フレックひそかに守護しゅごたのみたい。ちかいうちにふたた襲撃しゅうげきける可能性かのうせいたかいと予測よそくしているからだ。」

結局けっきょくかれらは石板せきばん奪取だっしゅ失敗しっぱいしたわけだけど、もしその石板せきばんきわめて重要じゅうようならば、かならふたたおそってくるはずだ。」と 緹雅ティア補足ほそくした。


非常ひじょう可能性かのうせいたかいが、老身ろうしんべつかんがえをっておる。」

「え?」とわたし緹雅ティアかおをひそめて疑問ぎもんかべた。

「まず、その龍僕りゅうぼくやつらもおそらくっているであろう。戦闘せんとうくなったのであればことらくだが、もしあの龍僕りゅうぼく契約けいやくしるしまじないでんだとやつらがれば、はなしべつだ。というのも、やつらは汝等なんじらかれらの一部いちぶ情報じょうほうすで収集しゅうしゅうしている可能性かのうせいさっし、軽率けいそつうごかない選択せんたくをするかもしれぬからだ。」

「もしふたた襲来しゅうらいしてまた失敗しっぱいすれば、かえってさらおおくの情報じょうほうれるおそれがある。もっと重要じゅうようなのは、石板せきばんすでに我々(われわれ)によってさきうばわれている可能性かのうせいだということだ。」

「まさにそのとおりだ。」

「なるほど、そのかんがえも道理どうりがある。」

「それでも老身ろうしんは、だれかがそのむら守護しゅごすべきだと支持しじする。なにせ、そこは我等われら現時点げんじてん対外たいがい連絡れんらく唯一ゆいいつ窓口まどぐちだからだ。」

「そうなると、佛瑞克フレック一人ひとりまかせるのは負担ふたんおおぎる。やはりほか戦力せんりょく動員どういんすべきだ。」

むらかんする話題わだいはここでひとまず区切くぎることにした。


芙莉夏フリシャ はおちゃをひとくちんだあとつづけてった。

老身ろうしんいまもっと心配しんぱいしておるのは、むしろ 聖王国せいおうこくもどったあの部隊ぶたいのことだ。万一まんいち情報じょうほう確実かくじつつたわっていなければ、そのあとはたらきにおおきな支障ししょうきたすであろう。」

「そのために老身ろうしんかれらに召喚しょうかん元素使げんそし水晶球すいしょうきゅうあたえた。いままで遭遇そうぐうしたてき戦力せんりょく勘案かんあんして、必要ひつようだと判断はんだんしたからだ。」

「それでも、やはり注意ちゅういしたほういだろう。」

心配しんぱいしすぎる必要ひつようはない。すでに 佛瑞克フレックさき派遣はけんして、その部隊ぶたい行方ゆくえ追跡ついせきさせてある。現状げんじょう人員じんいん配分はいぶんでは、これ以上いじょう護衛ごえいひそかにやすのはむずかしい。いざというときは、『櫻花盛典おうかせいてん』 を出動しゅつどうさせるしかあるまい!」

「もし老身ろうしん第九神殿だいきゅうしんでんうごかす必要ひつようたならば、かなら老身ろうしん連絡れんらくれるのだ。」

現状げんじょう情報じょうほうもとづけば、我々(われわれ)がてる対策たいさくはせいぜいこの程度ていどである。あとはさらに情報じょうほうあつめて、追加ついか手段しゅだんこうじるしかなかった。


王家神殿おうけしんでん巻軸製造所けんじくせいぞうしょ

わたし緹雅ティア一緒いっしょ巻軸製造所けんじくせいぞうしょ門口もんこう到着とうちゃくし、わたし異次元いじげん結界帽けっかいぼうして 緹雅ティアわたした。

「この帽子ぼうし設計せっけい本当ほんとうにつまらないね。当初とうしょ姆姆魯ムムル改良かいりょうたのんでおけばよかった。」

緹雅ティア は、この古風こふうすぎる帽子ぼうし設計せっけい不満ふまんらした。

もともと巻軸製造所けんじくせいぞうしょ亞米アミ管理かんりしており、次元じげん結界帽けっかいぼうつくったのもかれだった。しかし 亞米アミ美術びじゅつ設計せっけい才能さいのうとぼしく、出来上できあがった帽子ぼうしはどこかざつで、普通ふつうのキャップのようだった。そののち可可姆ココムわりに管理かんりすることになったが、私はとく変更へんこうくわえなかった。

美術びじゅつ分野ぶんやでは、姆姆魯ムムル納迦貝爾ナガベル非常ひじょうすぐれた才能さいのうっており、弗瑟勒斯フセレス 全体ぜんたい室内しつない設計せっけいかれらが一手いってけていた。


わたしたち二人ふたりともなが廊下ろうかとおけ、前方ぜんぽうとびらけると、んできたのは……。

「ドン!」

やはり、またおなじか?

わたしふかいためいきをつき、った宝珠ほうじゅげた。

吸収きゅうしゅう。」

濃厚のうこう煙霧えんむ黒色こくしょくうずに徐々(じょじょ)にまれていく。まえには、さまざまなめずらしい物品ぶっぴん整然せいぜんならべられていた。翡翠石ひすいいししろ蠕虫ぜんちゅう譚柳木たんりゅうぼくあかはな岩嶺鱷がんれいがくかわ雷電蛇らいでんへび風鈴草ふうりんそう根芽こんが……。

様々(さまざま)なものつくえうえ秩序ちつじょよくならべられていた。

そのつくえしたから 可可姆ココム がよろめきながらてきた。全身ぜんしんぼろぼろで、その姿すがたわたしにとって非常ひじょうまずいものだった。


凝里ギョウリ さま緹雅ティア さま巻軸製造所けんじくせいぞうしょへようこそ。また後始末あとしまつをお手伝てつだいいただくことになってしまいました。」

可可姆ココムについた煙灰えんばいはらいながら、あわててわたしたちにれいをした。

可可姆ココム ちゃん、またなに研究けんきゅうしていたの?」と 緹雅ティア笑顔えがおたずねた。

弗瑟勒斯フセレス首席しゅせき医療長いりょうちょうとして、赫德斯特ヘデスト匹敵ひってきするほどの知恵ちえちながら、どういうわけかもっと怪我けがおお人物じんぶつでもある。

「はい、ただただいま凝里ギョウリ さまがおっしゃっていた、ほか属性ぞくせい耐性たいせい呪文じゅもん巻軸まきじく開発かいはつしているところです。しかし、実験じっけんにはまだすこ困難こんなんともなっておりまして……。」

「それで、わたしまえたのんでいたけんは?」

「ええ~、石板せきばん文字もじ解読かいどくのことですね? すでに翻訳ほんやくえて、巻軸まきじくうつしておきました。」

そういながら、可可姆ココム巻軸まきじくわたしたちに手渡てわたした。

「さすが 可可姆ココム ちゃんだね。」

緹雅ティア可可姆ココムあたまでてめた。その光景こうけいは、まるで母親ははおや五歳ごさいむすめめているようだった。

緹雅ティア さまにおめいただけるとは、あま光栄こうえいでございます。」


わたし可可姆ココム報告書ほうこくしょらした。これは、あの神秘的しんぴてき石板せきばんから翻訳ほんやくされた内容ないようだった。

石板せきばんきざまれた文字もじは、古代こだい竜族りゅうぞく文字もじだけでなく、人族じんぞく文字もじ悪魔族あくまぞく古語こごまでもふくんでいた。それぞれの言語げんごが、まるで深淵しんえん秘密ひみつつたえようとしているかのようだった。

翻訳ほんやくされた文言もんごすすめるうちに、わたしむねおくには、あらわせない感情かんじょうが込みこみあげてきた。

人族じんぞく部分ぶぶんには、簡潔明瞭かんけつめいりょうにこうしるされていた。

九全者きゅうぜんしゃいんけ。」

この一文いちぶんはただ単純たんじゅん事実じじつべているにぎず、それ以上いじょうくわしい説明せつめいはなかった。そのため、前後ぜんごぶんから推測すいそくするしかなかった。


きゅうほん完全かんぜんかぎ――その表現ひょうげんは、かつて “DARKNESSFLOWダークネスフロー” でにした伝説でんせつおもこさせた。

ゲームの背景はいけいストーリーには、きゅうほんかぎそろえなければられないちから存在そんざいするとかたられていた。

だが、まさかこの世界せかいで、そのようなかたちあらわれるとはおもってもみなかった。おそらくこの世界せかいのどこかに、本当ほんとうにそれらのかぎかくされているのだろう。


そしてつぎあらわれた竜族りゅうぞく文字もじは、さらに神秘的しんぴてきであった。

時空じくう対立たいりつちからあい交織こうしょくし、封印ふういんろうしたがいてかれる。しかれども、解封かいふうのち、あるいは滅世めっせわざわい、あるいは再生さいせいちぎり、ついには掌控者しょうこうしゃり、その運命うんめいさだむ。」

その文言もんごのように晦渋かいじゅう理解りかいがたかったが、そのなかには封印ふういんかぎかくされているようにおもわれた。

字面上じめんじょうかられば、この言葉ことば封印ふういんくには時間じかん空間くうかん、そして相反そうはんするふたつのちから必要ひつようであると示唆しさしているようだった。封印ふういんかれれば、破滅はめつまねくこともあれば、世界せかい救済きゅうさいする契機けいきとなることもある。その分岐点ぶんきてんは、結局けっきょく、そのちからあやつものゆだねられるのだ。

それはわたし胸中きょうちゅうひとつの疑問ぎもんんだ。もしこれらのちから実在じつざいするのならば、だれ背後はいごあやつっているのか。もし封印ふういんちから世界せかいすくえるのであれば、なぜだれかがそれをふうじたのか。この封印ふういんには、きっと世界せかいをもほろぼしかねない巨大きょだい危険きけんひそんでいるにちがいなかった。


そして最後さいご悪魔族あくまぞく古文字こもじには、こうしるされていた。

九鑰きゅうやくすなわち九力きゅうりょく至高しこうにして至天してん寂滅じゃくめつちから侵擾しんじょうすべからず、かみちからもまたしかり。」

この文言もんごは、きゅうほんかぎ宿やどちから強大きょうだいさをしめしていた。それぞれのかぎ一種いっしゅ絶対的ぜったいてきちから象徴しょうちょうし、そのちから物質的ぶっしつてき領域りょういきにとどまらず、精神せいしん魂魄こんぱく深部しんぶにまでおよんでいる可能性かのうせいがあった。

もしだれかがこの封印ふういんちからおかそうとすれば、たとえかみであろうとも、破滅的はめつてきばつけることになるのだ。

「つまり、このきゅうほんかぎ自体じたいが、しんがたいほどのちからゆうしているということか……。」

私はひとごとのようにつぶやいた。

しばし沈黙ちんもくしたあと、私はかおげて 緹雅ティアほうた。

緹雅ティアきみはこれをどういう意味いみだとおもう?」


緹雅ティアしずかに巻軸まきじくつめ、そのまゆをわずかにせた。まるで文字もじ意義いぎ丁寧ていねい分析ぶんせきしているかのようだった。

「ここにしるされているきゅうほんかぎと、封印ふういん過程かていについては、たしかにいくつかの大雑把おおざっぱ示唆しさあたえられているわ。でも、もっと肝心かんじんふたつのてん――封印ふういんかぎ具体的ぐたいてき手掛てがかり――にはまったれられていないの。」

その声色こわいろにはわずかな困惑こんわくがにじんでいた。

「ここでわれているきゅうほんかぎが、いったいどのような存在そんざいなのか、それすらはっきり説明せつめいされていないのよ。」

わたししずかにうなずき、胸中きょうちゅう疑念ぎねんはさらにふかまった。これらの文字もじたしかに大筋おおすじ方向性ほうこうせいしめしてはいたが、かぎ封印ふういんをどうさがすのかという具体的ぐたいてき手掛てがかりはけていた。


「もしあのむら襲撃しゅうげきしたものたちがこれをねらってたのだとしたら、それは一体いったいなぜなのだろう?」

てき本当ほんとう封印ふういんくためにうごいているのだとすれば、かれらの目的もくてきなになのか。そして捕虜ほりょとなった竜僕りゅうぼくんでしまい、そこからさらに情報じょうほうすべうしなわれた。それが状況じょうきょう一層いっそう複雑ふくざつにしていた。

緹雅ティア はそっとちいさなこえった。

かれらは、これが神明かみ秘密ひみつかんわっているとくちにしていたけれど、わたしには両者りょうしゃあいだにどんなつながりがあるのか、全然ぜんぜんえてこないの。」

「もしかすると、神明かみちからとこのきゅうほんかぎには、なにらかのつながりがあるのかもしれないな。」

緹雅ティア のその言葉ことばは、まるでわたしあたま雷鳴らいめいとどろいたかのように鮮烈せんれつだった。

そうだ、なぜ我々(われわれ)は神明かみちから見過みすごしていたのだろう?

もしこのきゅうほんかぎ封印ふういんちから核心かくしんであるのなら、神明かみはその解放かいほう直接ちょくせつかんわっている可能性かのうせいたかい。神明かみちからこそ、封印ふういんかぎなのではないか。


そのとき可可姆ココムわたしたちの沈思ちんしやぶり、慎重しんちょう声音こわねくちひらいた。

凝里ギョウリ さま緹雅ティア さまおそれながらひとうかがいたくぞんじます。」

なにおもいついたのか、可可姆ココム ちゃん?」

私はうたがわしげに彼女かのじょ視線しせんけつつ、内心ないしんではあたらたな手掛てがかりを期待きたいしていた。

「はい、これはあくまで推測すいそくぎませんが……もし石板せきばん最初さいしょからかぎしめさなかったのだとしたら、それはかぎがどこかにかくされているのではなく、べつ形態けいたいとして、この世界せかいのいずれかに存在そんざいしているという意味いみなのではないでしょうか?」

可可姆ココム推測すいそくびた言葉ことばは、わたしあたらたな発想はっそう芽生めばえさせた。たしかに一理いちりはある。かぎ場所ばしょ明確めいかくしるされていないのなら、それはたんなる象徴しょうちょうであるか、あるいはなにべつ姿すがたで、この世界せかいのどこかにひそんでいるのかもしれない。

「その可能性かのうせいたかいな。」


わたしはうなずき、すぐに思索しさくしずんだ。

やつらのうところによれば、石板せきばんはもともと一枚いちまいだったが、のちつにけられたらしい。もしそうなら、かぎ誕生たんじょうとは、じつはそれをふたたつぎはぎすることでされるのではないか?」

私はすこ突飛とっぴ発想はっそうとらわれていた。

「そのかんがえ、飛躍ひやくしすぎじゃない?」

緹雅ティア即座そくざつっ込みをれてきた。

「かもしれないな!」

私はわらいながらこたえた。胸中きょうちゅうには数多あまた疑問ぎもん渦巻うずまいていたが、同時どうじにこのおもいつきにも、どこか説明せつめいしがたい合理性ごうりせい宿やどっているようにかんじられた。


わたしかんがえていたの。封印ふういん場所ばしょ、それはあの 黒棺神こくかんしんちからかんわっているのかもしれない。」

緹雅ティアすこ言葉ことばった。

黒棺神こくかんしんいま、おそらく封印ふういんされていて、そのちからべつかたちふうじられている可能性かのうせいがある。そうかんがえると、きゅうほんかぎ役割やくわり封印ふういんくことにほかならない。だが、あの連中れんちゅう封印ふういんかたらず、かぎ形態けいたい理解りかいしていない。かれらに必要ひつようなのは、まさにこの石板せきばんなんだ。」

しかし私はつづけていかけた。

「だが、それならあらたな疑問ぎもんのこる。もし前半ぜんはん文字もじ解読かいどくできるのなら、どうして後半こうはん悪魔族あくまぞく古文字こもじがそこまで重要じゅうよう意味いみつのだ? 前半ぜんはん文字もじだけで封印ふういんけるなら、なぜわざわざ悪魔族あくまぞく古文字こもじ補足ほそくする必要ひつようがある?」

その問いはわたしふか思索しさくへとしずめた。

私は机上きじょう凝視ぎょうしし、沈黙ちんもくちる。次第しだいかんはじめたのは、このなぞかぎは、たんきゅうほんかぎさがすことにとどまらず、そのおくひそむよりふかちから意図いと理解りかいすることにあるのではないか、ということだった。

わたしは、悪魔族あくまぞく古文字こもじかぎ形態けいたい暗示あんじしているとおもう。」と 緹雅ティアった。

「たとえ封印ふういんかたっていても、かぎがなければ成功せいこうしない。つまり、かぎ入手にゅうしゅ容易よういではなく、おそらくあの連中れんちゅう自身じしんも、封印ふういんかたらなければ、かぎ具体的ぐたいてき形態けいたい理解りかいできていないのだろう。」


しかし、目下もっか手掛てがかりはあまりにもすくなく、正確せいかく推測すいそくてることは到底とうていできなかった。しかも、これらの手掛てがかりは仲間なかまさがうえ実質的じっしつてきたすけにはならず、放置ほうちしてもかまわないのではないかとおもえた。

結局けっきょくのところ、わたしがこの石板せきばん興味きょうみったのも、ただ単純たんじゅんに「なにきざまれているのかりたい」という好奇心こうきしんからにぎなかったのだ。

実際じっさいわたしなにひとつ有用ゆうよう情報じょうほうてはいない。これは、ある封印ふういん示唆しさする石板せきばんにすぎず、わたしにとっていま注目ちゅうもくすべき事柄ことがらではなかった。

ただし、もし 聖王国せいおうこくおそったものたちがこれをきわめて重要じゅうようだとかんがえているのなら、かならふたた襲撃しゅうげき仕掛しかけてくるだろう。

そうなると、あのむらきわめて重要じゅうよう存在そんざいになる。


もしひとつの大国たいこく助力じょりょくられるなら、それこそ我々(われわれ)にとって最良さいりょう方法ほうほうかもしれない。

だが、私は 六大国ろくだいこく のことをまったくらない。だからこそ、神明かみ直接ちょくせつうことができれば、我々(われわれ)のかかえる問題もんだい一挙いっきょ解決かいけつするのではないかとおもった。


わたしがまだなやんでいるとき伝信用でんしんよう聖甲蟲せいこうちゅう突然とつぜんおとはっした。佛瑞克フレック からのしらせだった。

凝里ギョウリ さま、あの人間にんげん凡米勒ファンミラー とその兵士へいしたちが 聖王国せいおうこくかう途中とちゅう殺害さつがいされました。」






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