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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一巻 第三章 誓約と襲撃-3

むら先程さきほど戦闘せんとうによって甚大じんだい被害ひがいけていた。おおくの家屋かおく倒壊とうかいし、田畑たはた黒焦くろこげとなり、村人むらびとたちのこころもまだ動揺どうようからなおれずにいた。

しかし、悲嘆ひたんれていても現実げんじつわらない。さらなる危険きけん当面とうめんないことをたしかめると、むら再建さいけん作業さぎょうはすぐさまはじまった。

兵士へいし村人むらびと区別くべつなくうごし、瓦礫がれき撤去てっきょ仮設かせつ小屋こや建設けんせつわれていた。


私は書棚しょだなまえあるり、ならべられた数多かずおおくの書物しょもつ視線しせんうばわれた。

「これは……すべて薬剤学やくざいがく草薬学そうやくがくかんするほんか。」

私はページりながら、ちいさくつぶやいた。

わたしがかつておこなっていた研究けんきゅうなかにも、草薬学そうやくがくあつかうものがあった。可可姆ココムわたしから知識ちしき伝達でんたつけ、この分野ぶんやでもすでに専門家せんもんかべるほどになっている。

「ふむ? ではかれらは医者いしゃなのか? それとも……魔法まほう研究者けんきゅうしゃか?」

書物しょもつ内容ないようはしらせながら、私は理解りかいした。この世界せかいにもすぐれた技術ぎじゅつ数多かずおお存在そんざいしていることを。高精密度こうせいみつど科学機器かがくききたよらずとも、専用せんよう魔法術式まほうじゅつしき魔法器具まほうきぐによって、さまざまな実験じっけんおこなえるのだ。

私はほん最後さいごページめた。そこには「草薬学そうやくがく権威けんい艾伊維斯家族アイイヴィスけぞく編纂へんさん」としるされていた。

私はすでにかんがはじめていた。――今後こんご可可姆ココムのために「あたらしい玩具がんぐ」をいくつかあたえてやるべきかもしれない、と。

「これらは十五年前じゅうごねんまえのこされたほんなのか?」

私は凡米勒ファンミラーに問いかけた。

「はい。かれらは医療いりょうつうじ、おおくの村人むらびとやまいなおしたこともあります。」

凡米勒ファンミラーはうなずいた。


わたしたちが地下室ちかしつかおうとしたとき、緹雅ティアあきらかにすすまない様子ようす入口いりぐちち、まゆをひそめていた。

「うう……っとくけど、あんたたちがりるのに反対はんたいはしないわよ! でも、こんな陰気いんきでじめじめした地下室ちかしつなんて……ほんっと大嫌だいきらい……」

「じゃあ、ここにのこるのか?」

わたしわらいながらたずねた。

「わ、わたし……とりあえず二階にかいって、トイレがどこにあるかてくる!」

まるでくら地下ちかから口実こうじつつけたかのように、緹雅ティア一気いっき元気げんきもどし、階段かいだんがっていった。

「たしか二階にかい右側みぎがわに――」

凡米勒ファンミラーえるまえに、緹雅ティア姿すがたはすでに階段かいだんおどからえていた。

私は苦笑くしょうし、ふたた意識いしき探索たんさくへともどし、このなぞめいた古宅こたく調査ちょうさつづけた。


地下室ちかしつあしれると、重厚じゅうこう円形えんけい石蓋いしぶたんできた。

「これは……井戸いどか?」

私はふちれながらつぶやいた。

「はい。むかし、人々(ひとびと)はこの井戸いどからみずんでいたのです。」

凡米勒ファンミラーはうなずいてこたえた。

「どうかしたのですか? なに異常いじょうでもつけましたか?」


私はかがめ、井戸いどこまかく観察かんさつしながらまゆふかせた。

「もし本当ほんとうみずむためだけの井戸いどなら……周囲しゅういがあまりにもからっぽすぎるな。吊桶つるべも、なわも、水跡みずあとすらのこっていない。」

凡米勒ファンミラーもその異様いようさにづき、表情ひょうじょうめた。

「まさか……この井戸いどみずむためのものではないと?」

断言だんげんはできない。だが、この井戸いどには……べつ用途ようとかくされているがする。」



すこまえ

らめき、よるしずかにしずんでいた。微風そよかぜがそっとけ、木々(きぎ)のがかすかにる。わたしたちは篝火かがりびのそばにすわり、空気くうきにはあつえるまき草薬そうやくじったにおいがただよっていた。

凡米勒ファンミラーはじっとほのおつめ、ながおもあんしたすえ、ついにくちひらいた。

布雷克(ブレイク)さん……あなたは一体いったい何者なにものなのですか?」

私はしばし沈黙ちんもくし、視線しせんおどほのおへととした。ひかり瞳孔どうこううつり、そこに一瞬いっしゅん過去かこ残影ざんえいがよぎったかのようだった。

おれか……ただの世間せけんかかわらぬ凡人ぼんじんさ。」

私は微笑ほほえみ、淡々(たんたん)とこたえた。

「もっとも、最近さいきんんでいる場所ばしょすこ厄介やっかいごとにまれてな。仕方しかたなく出歩であるいて、いろいろさぐりをれているところだ。」



凡米勒ファンミラーまゆをひそめ、なにかをおもしたようだった。

「まさか……二十五年前にじゅうごねんまえけんかかわりが?」

私はあわててり、早口はやくち否定ひていした。

「いやいや、あのけんについてはなにらないし、れる資格しかくすらない。

結局けっきょくのところ……おれさがしているのは仲間なかまたちなんだ。

ともあゆんでいたかれらは、いま消息しょうそく不明ふめい。だから自分じぶんあしさがすしかない。どこにいるのか確信かくしんてないが……これはきっと、とてもながたびになるだろう。」


私はからわらった。そのひびきは、自嘲じちょうのようでもあり、なにかからげているようでもあった。

「はは……いま言葉ことばわすれてくれ……」

だが、凡米勒ファンミラーわらわなかった。数秒すうびょうあいだじっとわたしつめ、やがておごそかにくちひらいた。

布雷克(ブレイク)さん……もしわたしにできることがあれば、かならってください。全力ぜんりょくでおたすけします!」

おもいがけないほどの真剣しんけんさに、私はわずかに見開みひらいた。

「……ありがとう。」


私はすこ思案しあんした、先程さきほど戦闘せんとう德蒙デモンくちからおもし、問いかけた。

「ところで……おじさん、『黒棺神こくかんしん』というなまえ、あの竜僕りゅうぼくくちにしていたが、一体いったいどんな来歴らいれきなんだ?」

かれくびよこり、困惑こんわくしたような表情ひょうじょうかべた。

もうわけない……その一度いちどみみにしたことがない。ただひとたしかなのは、それが六大国ろくだいこくのいずれかに信奉しんぽうされている神祇しんぎではないということだ。」

かれはしばしせ、思案しあんしたのち、さらにつづけた。

「だが……『竜使りゅうし』についてならみみにしたことがある。


わたしかぎり、竜族りゅうぞくはかつてこの世界せかいにおいてきわめて強大きょうだい種族しゅぞくだった。はる古代こだいかれらの勢力せいりょく大陸たいりく全土ぜんどひろがり、歴史れきし随所ずいしょかずれぬいくさ痕跡こんせきのこしている。

そののち各地かくち文明ぶんめいおこり、やく三千年前さんぜんねんまえ――六大国ろくだいこく安定あんてい平和へいわもとめて正式せいしき同盟どうめいむすんだころ竜族りゅうぞく二派には分裂ぶんれつしたのだ。」


二派にはに?」

一派いっぱ諸族しょぞく和睦わぼくし、とりわけ人間にんげんやエルフらと同盟どうめいきずげていった。

だが、もう一派いっぱ――すなわち七大竜使しちだいりゅうしひきいられた戦闘派せんとうはは、旧時代きゅうじだい征服せいふく掠奪りゃくだつ継続けいぞく主張しゅちょうした。

かれらは新秩序しんちつじょれず、辺境へんきょう彼方かなたへと姿すがたかくし、いまではほとんど伝説でんせつ存在そんざいとなっている。」

私はうなずきながら問いといかえした。

「では……先程さきほどおまえがっていたあの災厄さいやくかれらがかかわっていたのか?」

「いや。二十五年前にじゅうごねんまえのあの災厄さいやくは……けっしてかれらにこせるものではなかった。」

凡米勒ファンミラーこえあきらかにおもくなった。

「そのけんは……神明様かみさまですらかれたとつたいている。

想像そうぞうできるか? 神明様かみさまをして『棘手とげて』とかんじさせる存在そんざい……それがいかなる次元じげん災厄さいやくかを。」


私はしばし沈黙ちんもくした。

「つまり……今回こんかい襲撃しゅうげきは、あの災厄さいやくとは無関係むかんけいだとうのか?」

正確せいかくえば……今回こんかい規模きぼたしかにおどろくべきものだ。だが、あの災厄さいやく次元じげんにはとおおよばない。

――だが、それゆえにこそ、私は違和感いわかんおぼえるのだ。」

凡米勒ファンミラーまゆをひそめた。

「ここは辺境へんきょうひとつの小村しょうそんにすぎない。要衝ようしょうでもなければ、戦略的価値せんりゃくてきかち皆無かいむだ。

なのに、なぜ七大竜使しちだいりゅうし直轄戦力ちょっかつせんりょくせることになったのか……?」


「もしかすると、かれらはなに重要じゅうようものさがしているのかもしれない。」

私はそうつぶやき、思案しあんするようにった。

凡米勒ファンミラーはその言葉ことば見開みひらき、こえ調子ちょうし一段いちだんたかめた。

重要じゅうようもの……つまりかれらの目標もくひょうひとではなく、なにかの……物品ぶっぴんだと?」

私はかたをすくめた。

おれもただの推測すいそくだよ。だが、このむら一番いちばんっているのは大叔おじさん、あなただろう? 可能性かのうせいはあるとおもうか?」

かれなが沈黙ちんもくし、やがてひくこえこたえた。

「……それが重要じゅうようかどうか断言だんげんはできない。だが、このむらにはたしかに、いにしえからまもられてきたなにかが存在そんざいする。」


私はかれつめて問いかけた。

だれまもっているんだ?」

わたしむかしからの友人ゆうじんたち――その祖先そせんが代々(だいだい)このむらひそめ、まもつづけてきた。

かれらはくわしいことはけっしてかさなかったが、ただそとものれさせてはならぬ、とだけつたえてきたのだ。」

凡米勒ファンミラーはそこまでうと、こえをいっそうきびしくした。

「それをいま、こうしてわたしはなしてしまって……わたしなにかをたくらんでいるとはおもわないのか?」

凡米勒ファンミラー爽快そうかいみをせた。

「おまえな、むらたばかりのころは本当ほんとうあやしかったぞ。ここにはいってきたやりかたけっしてめられたものじゃない。」

私はまずそうに後頭部こうとうぶをかきながら苦笑くしょうした。

「だが、おまえは村人むらびと危害きがいくわえるどころか、わたしたちがもっと危機ききおちいったときにていしてたすけてくれた……

こんなときまでおまえをうたがうほうが、よほどおろかだろう。」

私はしばし言葉ことばうしない、むねおくあらわせぬ感情かんじょうが込みこみあがってくるのをかんじた。


しんじてくれてありがとう……そのまもられているものは、いまどこにあるんだ?」

凡米勒ファンミラーくびよこり、ふかいためいきをついた。

正直しょうじきえば、わたしにもくわしい場所ばしょからない。だが、もしかすると彼女かのじょたちがかつてんでいた屋敷やしきなかかくされているのかもしれん……。もっとも、その屋敷やしきにはもうながいことあしれてはいないがな。」

私はうなずき、篝火かがりびつめながらしずかにつぶやいた。

「なら……そこからはじめよう!」


現在げんざいもどる)

井戸いど古宅こたく地下室ちかしつにあり、空気くうきにはほのかな湿しめかびにおいがただよっていた。かべにはこけがびっしりとい、木製もくせい階段かいだんむたびにかすかなきしみをげる。

上階じょうかい整然せいぜんとした様子ようすくらべれば、ここはずっと陰鬱いんうつであった。

湿気しっけ木材もくざい腐食臭ふしょくしゅうはこんでいたが、それでいて不思議ふしぎなほど整然せいぜんとしている。まるでだれかが意図的いとてき一定いってい清潔せいけつさと完全性かんぜんせいたもっているかのようだった。

私はそのち、しずかにじていきき、感知かんち魔法まほう発動はつどうした。足元あしもとにはあわあお魔法陣まほうじんひろがり、水波すいはのように一気いっき周囲しゅういへと拡散かくさんしていった。


大叔おじさん、あなたのご友人ゆうじんたち……いま連絡れんらくれているのですか?」

私はかるいかけるような口調くちょうたずねたが、そのじつにはさぐ意図いとめられていた。

凡米勒ファンミラーはその言葉ことば一瞬いっしゅん表情ひょうじょうかため、やがてかげとした。

「……もうわけないが、いまとなってはからない。十五年前じゅうごねんまえ、私はむらはなれた。かれらとは時折ときおりふみでやり取り(とり)もしていたが……わたしふたたもどったときには、すでに姿すがたはなかった。数日前すうじつまえ兵士へいしたちがここを捜索そうさくしたが、なにつからなかった。

おそらく、なに異変いへん察知さっちして、はやめにり、とおくにかくしたのだろう。」

「なぜかれらはげる必要ひつようがあったのですか?」

私はいぶかしげにう。

「それは……わたしまえふみつうじてかれらにつたえていたからだ。どうやら未知みち災厄さいやくが、聖王国せいおうこくねらっているようだとな。」


「あるいは……かれらは一度いちどっていなかったのかもしれない。」

「……なにだと?」

凡米勒ファンミラーかおけ、わたしやった。

私は周囲しゅういはしらせ、指先ゆびさきかべをそっとなぞった。そこにはちりひとつなかった。さらにゆかたしかめると、雑然ざつぜんとした足跡あしあとすら見当みあたらない。この異様いようなほどの整然せいぜんさに、私はほぼ確信かくしんいだいた。

「この地下室ちかしつ――清潔せいけつすぎて、不自然ふしぜんだ。」

私はしずかにった。

無人むじん古宅こたくで、どうして蜘蛛くもほこりひとつのこらない? ましてや、このざされた地下ちか空間くうかんで……。

かれらはずっとここにひそみ、ひそかにらしてきたのだ。ただ、人目ひとめれぬよう、巧妙こうみょうかくれていただけなのだ。」


その言葉ことばいた凡米勒ファンミラー表情ひょうじょうは、まるで突然とつぜんなにかにづかされたかのようにわった。

「……そういえば、この数日すうじつたしかに地下ちかからこえのようなものがこえてきたことがあった……だれかがはなしているような……私はとしのせいで幻聴げんちょうだとおもっていたが……。いや、一度いちどだけ、かげらしきものをたことも……」

かれつぶやいた。

「それは錯覚さっかくじゃない。」

私は中央ちゅうおうえられた古井戸ふるいどゆびさした。

「この井戸いどには三階さんかい封印魔法ふういんまほうほどこされている。通路つうろ異空間いくうかんかくすためによく使つかわれる術式じゅつしきだ……ここは位置いち絶妙ぜつみょうだな。地中深ちちゅうふかくにあるせいで、魔力波動まりょくはどうそとれにくい。みの感知魔法かんちまほうではづけず、容易ようい見落みおとされる。だが――」

私はちいさくわらい、こしげた宝珠ほうじゅ魔法書まほうしょした。呪文じゅもんとなえると書頁しょページ自動じどうでめくれ、てのひらには魔力まりょくうずいてあつまっていく。

「――おれまえでは、この程度ていど封印ふういん、お遊びみたいなものだ。」

私は宝珠ほうじゅ井戸いどくちうえしずかにかせた。

中階ちゅうかい魔法まほう無効化むこうか。」


井戸口いどぐちおくかすかにあおひかりはな魔法結界まほうけっかい解除かいじょされるやいなや、それまで死水しすいのようにしずまりかえっていた空間くうかんが、わずかにふるえた。

しばしののち井戸いどそこからほそおも機械音きかいおんひびきはじめる。なにかの機構きこうがゆっくりとうごしたかのようだった。

やがて、ふる頑丈がんじょう金属扉きんぞくとびら井戸いどなかから姿すがたあらわした。表面ひょうめんには複雑ふくざつ魔法符文まほうふもん奇異きい族語ぞくごきざまれており、なにかを封印ふういんしているようにえる。

私はためらうことなく井戸いどなかり、たくみに門前もんぜん着地ちゃくちすると、ばしてそのおもとびらひらいた。


「カチャン。」

とびらおとててひらく。

しかし、わたしがわずかに隙間すきまつくった瞬間しゅんかんするど殺気さっき奔流ほんりゅうのようにせてきた。

鋭利えいりやいば数条すうじょう突如とつじょとしてとびらこうからされる。

そのはやさはうばうほどで、角度かくど常軌じょうきしており、はほとんど存在そんざいしなかった。

だが、その瞬間しゅんかん――

やいばわたし周囲しゅういおお魔力障壁まりょくしょうへきれた途端とたん烈火れっかちる雪片せっぺんのごとく一瞬いっしゅんり、おとすらのこさずに空気くうきなかへと消散しょうさんしていった。

直後ちょくご四方しほうから幾条いくじょうもの黒影くろかげのようにんでくる。

そのうごきは俊敏しゅんびんにしてげられ、わたし周囲しゅういかこんで戦闘陣形せんとうじんけいえがいた。

無駄むだ所作しょさ一切いっさいなく、一手いってごとの角度かくど殺戮さつりく舞踏ぶとうのようにからい、完璧かんぺき連結れんけつしていた。



それでも、私は微動びどうだにしなかった。

あし一歩いっぽうごかさず、ただしずかにそのち、かれらの気配けはい四方しほうからせるのをれた。

黒影くろかげたちはすぐに異変いへんづいた。

――攻撃こうげきとおじない。

やいばわたしれるまえに、反制はんせい魔力まりょくまれてえていく。

黒影くろかげ一人ひとりひくうめいた。

「ど、どういうことだ……? こいつのには高階こうかい反制結界はんせいけっかいが……?」

かれらがふたた陣形じんけいなおし、さらにはげしい攻勢こうせいようとしたそのとき――

背後はいごから、重々(おもおも)しくもいたこえひびいてきた。


「……まさか、そのこえは――萊德(ライド)か?」

おおきくはないこえだった。

だが、それはまるで驟雨しゅううしずかな湖面こめんくようにひびわたり、黒影くろかげたちのどうきを一瞬いっしゅんこおりつかせた。

かれらは一斉いっせいかえり、こえみなもとさがす。

そのときわたし視線しせんけた。

燭火しょくかがゆらめき、黒影くろかげたちの姿すがたかびげる。

あたたかな黄金色こがねいろひかりやみ退け、空間くうかん全体ぜんたいらししていった。

ひかりそそぐにつれ、黒影くろかげたちの外貌がいぼうすこしずつあきらかになっていった。


かれらはたんなる戦士せんしではなかった。

なかにはりゅう特徴とくちょうゆうするものじっていたのだ。

突出とっしゅつした鱗片りんぺんするどひか瞳孔どうこう、そして外套がいとうしたからがる竜尾りゅうびが、かすかにその存在そんざいのぞかせていた。

そのなか一人ひとりが、ゆっくりとあゆる。

らめくひかりらされるひとみかすかにふるえ、やがてもんかたわらになつかしい姿すがたをはっきりとみとめた。

「……凡米勒ファンミラー……?」

かれひくつぶやいた。

まだ自分じぶんうたがっているかのようだった。

だがぎの瞬間しゅんかん、そのまよいはじょう奔流ほんりゅうながされ、かれると凡米勒ファンミラーつよめた。


凡米勒ファンミラー!! おまえ……やっぱりおまえだったか!」

それはながころされてきたさけびだった。

胸腔きょうこうおくからほとばし真実しんじつ感情かんじょう

竜族りゅうぞく戦士せんしであるかれですら、そのこえにはかすかなふるえがじっていた。

その背後はいごから、さらに数人すうにんが次々(つぎつぎ)とってくる。

痩身そうしん青年せいねん短髪たんぱついた気配けはいまと中年ちゅうねんおとこ、そして白衣はくいまとった小柄こがら女性じょせい

小吉ショウキチ! 瑞克レウク! チン!――凡米勒ファンミラーだ!」

三人さんにんゆめからめたようにかれさけび、またた熱涙ねつるいにじませながら、かれめてはなさなかった。

ふるえるは、まるですこしでもちからゆるめれば、まえ存在そんざいふたたうしなわれてしまうかのようだった。

その抱擁ほうようは、十五年じゅうごねん空白くうはく一度いちどくそうとするかのように、切実せつじつであった。


感情かんじょうがようやくきをもどしたとき、かれらはわれかえり、先程さきほど自分じぶんたちがわたしやいばけていたことにづいた。

「す、すみません! 本当に申しもうしわけありません!」

竜族りゅうぞく戦士せんしである瑞克レウクあわててひるがえし、だれよりもはやわたしへ深々(ふかぶか)とあたまげた。

先程さきほど侵入者しんにゅうしゃだと勘違かんちがいして……あまりにも軽率けいそつでした……! どうか、我々(われわれ)の無礼ぶれいをおゆるしください!」

ほかものたちも次々(つぎつぎ)とあたまれ、誠意せいいめた表情ひょうじょうせた。

私はかれらの真剣しんけんで、しかもあわてふためいた様子ようすて、おもわず苦笑くしょうかべた。

「そんなにるな。おれべつきずってもいない。

それに正直しょうじきなところ……おまえたちの警戒けいかい見事みごとなものだ。もし相手あいておれ以外いがいだったら、きっと今頃いまごろたおれていただろう。」

わたし言葉ことばに、数人すうにん表情ひょうじょうはわずかにやわらいだ。

だが、それでも気恥きはずかしさをかくしきれない面持おももちであった。


萊德ライドふかいきい込み、あらためて誠実せいじつかつおごそかにわたしった。

「おきしました……あなたは先程さきほど竜僕りゅうぼく襲撃しゅうげき退しりぞけ、このむらわれらのともである凡米勒ファンミラーすくってくださったと……。感謝かんしゃ言葉ことばきません。」

「だが、なぜおれたちが最初さいしょたずねたとき、いえにはだれもいないふりをしていたんだ? ずっととびらたたいても返事へんじがなくて、てっきりなに不測ふそく事態じたいまれたのかとうたがったぞ。普通ふつうむかえていれば、聖王国せいおうこく兵士へいしだっておまえたちをがいすることはないだろう。」

凡米勒ファンミラー不満ふまんげにライドへうったえた。

「いいえ……聖王国せいおうこくなかには――てきがいるのです。」

チンしずかにことばつむいだ。

かつて凡米勒ファンミラーからの手紙てがみったとき、チン自身じしんうらないによって、くにうちてきひそんでいることを予見よけんし、仲間なかまつたえていたのだ。

もっとも、チンちからはまだ十分じゅうぶんではなく、その予兆よちょう正確せいかくつかむことはできなかった。

だが彼女かのじょ確信かくしんしていた――やみ奥底おくそこひそつめが、しずかに自分じぶんたちへせまっているのだと。

そして事実じじつチン予感よかん的中てきちゅうした。

竜僕りゅうぼくはこのむら襲撃しゅうげきしたのだ。


この襲撃しゅうげきが、聖王国せいおうこくひそ間者かんじゃ直結ちょっけつしているかどうか断言だんげんはできない。

だが、すくなくとも無関係むかんけいとはおもえなかった。

「なるほど……。このけん早急さっきゅう騎士団きしだん団長だんちょう皇帝陛下こうていへいかにご報告ほうこくせねばなりません。」

凡米勒ファンミラー事態じたい異常いじょうさをさとり、すぐに決断けつだんくだした。

つづけて萊德ライドくちひらいた。

「我々(われわれ)がこの地底ちていひそめることをえらんだのは……ここに、絶対ぜったいけぬものがあるからだ。」

じつは……そのことを、あなたにつたえるべきかどうか、わたしたちもなやんでいました。」

小吉ショウキチちいさなこえ告白こくはくした。

瑞克レウクこたえた。

「ですが、あのときは……てきかげかんじていたせいで決断けつだんできませんでした。

凡米勒ファンミラーわたしたちはあなたをしんじています。

けれども……あなた以外いがいものしんじる勇気ゆうきがなかった。本当にすみません。」

萊德ライドおぎなうようにった。

時間じかんがあまりに切迫せっぱくしていたのだ。結局けっきょくチン提案ていあんで――秘密ひみつ露見ろけんするくらいなら、しかるべき時機じきったほうがいい、と。

だからこそ、わたしたちはこうして地下ちかかくれるみちえらんだのだ。」


おれ今回こんかいここへりてきたのは……じつは、この古宅こたく地底ちてい奥深おくふかくに、なに異常いじょうちからかんったからだ。」

そうげると、かれらの表情ひょうじょう一気いっきあわただしくなった。

私はつづけた。

「そのちからは、生物せいぶつのように感情かんじょう波動はどうつわけでもなく、魔物まもののように魔力まりょくながれをつわけでもない。

しずかで、つめたく……まるでいしかたまりのようだ。だが同時どうじに、どこかなつかしい魔力まりょく気配けはいはなっている。

凡米勒ファンミラーはなしいて確信かくしんした――おまえたちが長年ながねんここをはなれずにいたのは、そのちからみなもと……すなわち、おまえたちが代々(だいだい)まもつづけてきたもののためではないのか?」

その言葉ことばに、萊德ライドたちは瞠目どうもくし、たがいにかお合わせた。

驚愕きょうがくかれらのひとみ支配しはいし、ふるえるいきれる。

まえ布雷克ブレイクというおとこは――

かれらのかくてただけでなく、そのもっとふか使命しめい秘密ひみつまでも見透みすかしているかのようだった。


すこしおちください。」

萊德ライドはそうってわたしなおした。

かれはほかの三人さんにん小声こごえ言葉ことばわしったのち、ふたたわたしまえあゆる。

「……あなたのおっしゃるとおりです、布雷克ブレイクさん。」


「では――おまえたちは一体いったいなにまもっているんだ?」

わたしいかけた。

萊德ライドはじっとわたしつめ、ふかいきくとけて通路つうろおくへとあるした。

「……てください。すでにここをつけられた以上いじょう、もはやかく理由りゆうはありません。

我々(われわれ)はけっめました――あなたに、直接ちょくせつてもらうと。」

そううと、かれ先頭せんとうって井戸口いどぐちしたへとつづ階段かいだん通路つうろりた。

仲間なかまたちも次々(つぎつぎ)とあとつづく。

わたしたちもあしし、やがて人知じんちれぬ深層しんそうへとりていった。


地底ちてい空間くうかんあしれた瞬間しゅんかんわたし最初さいしょかんったのは――圧迫感あっぱくかんくらさではなく、意外いがいなほどのあかるさと安定あんていであった。

頭上ずじょう自然しぜん光源こうげん存在そんざいせず、わりに魔力石まりょくせきつくられた灯具とうぐやわらかなひかりはなち、地底ちてい領域りょういき全体ぜんたいを明々(あかあか)とらしている。

古宅こたくしたりるまえ、我々(われわれ)がおもえがいていた湿しめっぽく陰鬱いんうつ光景こうけいとはまるでちがい、ここは長年ながねんにわたりととのえられ、調整ちょうせいされてきた場所ばしょであることがあきらかだった。

わずかに湿気しっけのこるものの、清潔せいけつ整然せいぜんとし、秩序ちつじょちていた。

かべ二重にじゅう魔導煉瓦まどうれんがきずかれており、年月としつきたせいでわずかに斑駁はんぱくとし、こけ痕跡こんせきえるが、それでもなお堅牢けんろうで、かすかに魔力まりょく構造こうぞう安定あんていたもっているのがかんれた。

ここはたんなる居住きょじゅうのためにきずかれた地下空間ちかくうかんではない――

むしろ防御ぼうぎょ隠蔽いんぺい機能きのうそなえた、長期ちょうき避難施設ひなんしせつのようであった。


わたしたちは、さほどひろくはない通路つうろすすみ、やがて中心区画ちゅうしんくかくへと辿たどいた。

そこでは、壁面へきめん五枚いつまいとびら等間隔とうかんかくならんでいた。

そのつくりは簡素かんそでありながらあつみをそなえ、各扉かくとびらにはそれぞれことなる刻印こくいんまれている。

それはかぜみずつちひかりかたどった防御ぼうぎょ符文ふもんのようにえた。

「このうち四枚よんまいとびらは、それぞれ別々(べつべつ)の方向ほうこうへとつうじる避難経路ひなんけいろだ。

突発とっぱつ事態じたいこれば、だれでも即座そくざ退避たいひできるようになっている。」

あるきながら萊德ライド説明せつめいくわえる。

「そして――」かれもっと右端みぎはしとびらしめした。

「そこが、我々(われわれ)の居住区画きょじゅうくかくだ。」

私はもくってうなずき、こころなかひそかに感嘆かんたんする。

――この設計せっけい慎重しんちょうかつ緻密ちみつ

居住性きょじゅうせい戦略性せんりゃくせい両方りょうほうそなえていることはあきらかで、徹底てっていした熟慮じゅくりょすえきずかれたものだと感じられた。


右側みぎがわとびらとおけると、わたしたちはぬくもりと素朴そぼくさをそなえた居住区画きょじゅうくかくへと辿たどいた。

そこはいつつのちいさな区画くかくかれており、それぞれが相対的そうたいてき独立どくりつしたつくりをたもっていた。

つくえ寝台しんだい、さらには簡素かんそながら生活用品せいかつようひんまでもそろっていて、どうても場当ばあたたりてきととのえられた仮住かりずまいではなかった。

そのおくもっと内側うちがわ寝室しんしつで、萊德ライドあゆみをめた。

かれ仲間なかまたちと視線しせんわすと、やがて協力きょうりょくして部屋へや中央ちゅうおうかれた家具かぐを一つひとつうごかしはじめる。

一見いっけんするとなん変哲へんてつもないひく卓子たくし収納棚しゅうのうだな

だが、それらが正確せいかく移動いどうされると、そのしたからはながらくおおかくされていた土層どそう姿すがたあらわした。


「ここは……」

私はほそめ、かれらがれた手際てぎわ土層どそうこす様子ようす見守みまもった。

数分後すうふんご符文ふもんきざまれ、わずかに年季ねんきはいった石門せきもんが、ゆっくりと地表ちひょう姿すがたあらわす。

「……おれのような探知能力たんちのうりょくがなければ、普通ふつうものには、このしたかくされたもんなどづけるはずもないだろうな。」

私はひくつぶやき、感嘆かんたんいきらした。


もんきわめてせまく、ひとよこにしてようやくとおれるほどであった。

わたしたちは薄暗うすぐら窮屈きゅうくつ通路つうろをゆっくりとすすむ。

足音あしおと壁面へきめん反響はんきょうし、まるで歴史れきしわすられためられたみちあるんでいるかのようだった。

通路つうろせまいながらも、両側りょうがわかべかわいていて堅牢けんろうであり、現代げんだい建築けんちくにはられぬ技術ぎじゅつ痕跡こんせきしめしていた。


わたしたちが、てしなくつづくかにおもわれた細道ほそみちをようやくけたとき、眼前がんぜん円形えんけいのアーチをえが大門だいもんあらわれ、そのさきにはいき光景こうけいひろがっていた。

そこはおどろくほど広大こうだい地底空間ちていくうかんであり、周囲しゅうい壁面へきめんには魔力灯石まりょくとうせきまれ、室内しつない真昼まひるのようにらししていた。

空気くうきにはかすかな芳香ほうこう魔力まりょく波動はどうただよい、れた瞬間しゅんかんおもわずいきめてしまうほどであった。



わたし周囲しゅうい見渡みわたした。

足元あしもとには円形えんけい石板せきばん祭壇さいだんひろがり、その中央ちゅうおうには古代こだいのトーテムと呪文紋様じゅもんもんようきざまれ、まるで儀式用ぎしきよう魔法陣まほうじんのようで、厳粛げんしゅくかつ神秘しんぴてき雰囲気ふんいきただよわせていた。

周囲しゅういには数本すうほん巨大きょだい石柱せきちゅう林立りんりつしており、それぞれに正体不明しょうたいふめい族語ぞくご呪文じゅもんきざまれていた。

その風化ふうか痕跡こんせきは、すくなくとも数百年すうひゃくねん以上いじょう歴史れきし物語ものがたっていた。

そして、みな視線しせん祭壇さいだん中央ちゅうおう一点いってんそそがれていた――。

そこにあったのは、青緑色あおみどりいろひかりまたたかせる一枚いちまい石板せきばん

その石板せきばん周囲しゅういには、祭壇さいだん魔法陣まほうじん封印ふういん呪文じゅもんからめるようにはしり、その存在そんざい厳重げんじゅうしばけていた。


「これは、我々(われわれ)の祖先そせんが代々(だいだい)いできた石板せきばんです。」

瑞克レウク一歩いっぽまえすすしずかにその石板せきばんいた。

「ですが、もとはいまのような完全かんぜん姿すがたではありませんでした……。

数千年すうせんねんまえ石板せきばん意図的いとてきよっつの破片はへんへとけられ、それぞれがことなるよっつの家族かぞくによって代々(だいだい)まもられてきたのです。

その四家族しかぞくこそ、我々(われわれ)の祖先そせんでした。」

かれかおげてわたし見据みすえ、言葉ことばつづけた。

最初さいしょわたしたちが再会さいかいたしたときには、それぞれがまもってきた石板せきばんたがいにかんわりっているとはりませんでした。

ですが、ある偶然ぐうぜん機会きかいに――四枚よんまい破片はへん一緒いっしょならべられたのです。

その瞬間しゅんかんわたしたちはみないきんでくしました。」



小吉ショウキチつづけてかたった。

石板せきばん同士どうしは、まるではじめからたがいのためにったかのように、隙間すきまなくむすわさりました――。

接合部せつごうぶおどろくほど緊密きんみつで、ひびれなど最初さいしょから存在そんざいしなかったかのように、自動的じどうてき癒合ゆごうしたのです。」

「それだけではありません……。」

かれ一歩いっぽすすあわひかりはな石板せきばん下部かぶゆびさした。

石板せきばん結合けつごうしたあと、その底部ていぶに我々(われわれ)がいままで一度いちどたことのない文字もじかびがったのです。

それはまれたものではなく、まるで魔力まりょく起動きどうしたことで顕現けんげんした幻光文字げんこうもじのようでした。

ですが……残念ざんねんながら、その文字もじわたしたちはどうしても解読かいどくできなかったのです。」

「ただ、もともと上部じょうぶしるされていた記載きさい手掛てがかりにすると――この石板せきばんは、いにしえ封印ふういんかすかぎである可能性かのうせいたかい……そう推測すいそくしているのです。」


その発見に、私は思わず胸が震えた。

視線を石板の下方にある文字に固定し、石板から流れ出す魔力の波動を感じ取る。

「これは……悪魔族あくまぞく古代文字こだいもじだ。」

私が呟くと、周囲の者たちは驚愕の表情でこちらを見た。

「この手の文字には、ある特性がある。」

私はゆっくりと立ち上がり、他の者たちに説明した。

「古代の七大悪魔こだいのしちだいあくまの血筋を持っていなければ、たとえ一生いっしょう見続けても、その意味を読み取ることはできないんだ。」

昔、私はゲーム内の図書館で各種族の文字に関する書物を読んだことがある。

ゲーム内では種族固有の文字はAI認識システムでは翻訳できず、あるクエストはその文字の意味が分からなければ先へ進めないことがあった。

文字を解読する方法は二つある――特殊種族向けの翻訳道具「言霊晶核イェンリンしょうかく」を使うか、あるいはゲーム内に用意された各種族の文字と我々の母語との対照表を参照することである。


しかし、すべての文字(もじ)(なか)でも、悪魔族(あくまぞく)古代文字(こだいもじ)(きわ)めて特別(とくべつ)文字(もじ)であった。

ゲーム(ない)(かた)られているように、この文字(もじ)解読(かいどく)するには古代七(こだいなな)大悪魔(だいあくま)血液(けつえき)採取(さいしゅ)しなければならず、そのため関連(かんれん)する任務(にんむ)非常(ひじょう)稀少(きしょう)である。

そして、弗瑟勒斯(フセレス)において古代七(こだいなな)大悪魔(だいあくま)血統(けっとう)唯一(ゆいいつ)()()(もの)こそ、可可姆(ココム)であった。

まさか、この場所(ばしょ)でさえその文字(もじ)()にすることになるとは(おも)いもよらず、私は(ふか)衝撃(しょうげき)()けた。


そして、(わたし)言葉(ことば)(ほか)(もの)たちにとっても、間違(まちが)いなく衝撃的(しょうげきてき)な知らせであった。

萊德(ライド)をはじめ全員(ぜんいん)(しん)じられない表情(ひょうじょう)()かべ、(とく)瑞克(レウク)(チン)は、まるで予想(よそう)もしていなかったかのように(おどろ)きに(かた)まっていた。

龍族(りゅうぞく)和平派(わへいは)四大家族(よんだいかぞく)()められた事実(じじつ)が、まさか悪魔族(あくまぞく)古代文字(こだいもじ)(しる)されていたとは。

「でも、(わたし)には理解(りかい)できない……」

私は(かれ)らを()つめ、(うたが)わしげに問いかけた。

(あき)らかに(きみ)たちはこの石板(せきばん)内容(ないよう)解読(かいどく)できないし、それがどんな結果(けっか)(まね)くかも(わか)らない。

それなのに、どうして危険(きけん)(おか)してまで、こんなにも(なが)(あいだ)(まも)(つづ)けてきたの? なぜ?」


萊德(ライド)はしばらく沈黙(ちんもく)した(のち)、やがて(しず)かに(くち)(ひら)いた。

(われ)らの祖先(そせん)(みな)(おな)じような言葉(ことば)(のこ)していたからだ……。

この石板(せきばん)()められた(なぞ)は、『あの御方(おんかた)』に(かん)わっている。

石板(せきばん)(もち)いられる(とき)こそ、試練(しれん)選択(せんたく)(とき)となる。

そして我々(われわれ)に()せられた(つと)めは、ただ(まも)ることだけではない。」

その(とき)萊德(ライド)脳裏(のうり)に、かつて(ちち)石板(せきばん)(たく)(さい)()げた言葉(ことば)(よみがえ)った。

――「いつか(かなら)ず、『あの御方(おんかた)』は石板(せきばん)(みちび)きと(とも)(ふたた)(あらわ)れる。

我々(われわれ)が()たすべきことは、ただその御方(おんかた)帰還(きかん)()つことだ。」

だが、その言葉(ことば)(かれ)(こえ)()すことはなかった。


「『あの御方(おんかた)』……?」

(かれ)らの言葉(ことば)(みみ)にして、(わたし)疑念(ぎねん)はいっそう(ふか)まった。

(もう)(わけ)ない。(じつ)()うと、我々(われわれ)も『あの御方(おんかた)』が(だれ)なのか、正確(せいかく)には()らないんだ。

祖先(そせん)たちは(けっ)して(くわ)しく(かた)らなかったからな。

我々(われわれ)が()っているのは、ただ(ひと)つ――石板(せきばん)(みちび)かれし(もの)にしか(たく)されない、ということだけだ。」

そう瑞克(レウク)(こた)えた。


()かりました。では萊德(ライド)さん、この石板(せきばん)(わたし)()(かえ)ってもよろしいでしょうか?」

この石板(せきばん)一体(いったい)どんな意味(いみ)()つのか、(わたし)にも()からない。

最初(さいしょ)にこの魔力(まりょく)感知(かんち)したのも偶然(ぐうぜん)()ぎなかった。

地下(ちか)からの奇襲(きしゅう)(そな)えるため、(わたし)感知範囲(かんちはんい)(ひろ)げていた。

その(とき)(かす)かな魔力(まりょく)波動(はどう)(とら)えたのだ。

ほんのわずかな()らぎに()ぎなかったが、(わたし)感知魔法(かんちまほう)はその(ちから)正確(せいかく)(とら)えることができた。

この石板(せきばん)解読(かいどく)(わたし)にどんな(たす)けとなるのかは()からない。

しかし、それでもなお、(わたし)(うち)には未知(みち)事物(じぶつ)解明(かいめい)したいという衝動(しょうどう)()()がっていた。

だからこそ、この石板(せきばん)弗瑟勒斯(フセレス)()(かえ)り、解読(かいどく)(こころ)みたいと(ねが)うのだ。


「我々(われわれ)がまさにそのためにあなたをここへお()れしたのです。

ですが……石板(せきばん)直接(ちょくせつ)()()ることはできません。」

萊德(ライド)言葉(ことば)に、私は(おも)わず疑念(ぎねん)(いだ)いた。

「この祭壇(さいだん)は、(わたし)祖先(そせん)によって(きず)かれたものです。

そして、この石板(せきばん)は、それに(みと)められた(もの)にしか(たく)されません。

あなたは、この(なが)年月(ねんげつ)(なか)(はじ)めて、この封印(ふういん)()れた(かた)なのです。」

萊德(ライド)祖先(そせん)は、石板(せきばん)をより確実(かくじつ)(まも)るため、代々(だいだい)(ひそ)かにこの(むら)地底(ちてい)祭壇(さいだん)(きず)いてきたのだった。

「ですから……石板(せきばん)()()れるかどうかは、我々(われわれ)の()(ゆだ)されているわけではありません。

布雷克(ブレイク)さん……(ため)してみますか?」


もし無理(むり)やり石板(せきばん)()()ろうとするなら、祭壇(さいだん)破壊(はかい)して石板(せきばん)強奪(ごうだつ)することは可能(かのう)だ。

だが、この祭壇(さいだん)には石板(せきばん)そのものを破壊(はかい)する魔法(まほう)(ほどこ)されている。

強行(きょうこう)破壊(はかい)すれば、その魔法(まほう)自動的(じどうてき)発動(はつどう)し、石板(せきばん)粉砕(ふんさい)してしまうのだ。

ゆえに、完全(かんぜん)(かたち)石板(せきばん)()()りたいのなら、封印(ふういん)構造(こうぞう)解析(かいせき)し、自身(じしん)魔力(まりょく)石板(せきばん)(むす)()けなければならない。

もしその連結(れんけつ)成功(せいこう)すれば、石板(せきばん)(かこ)封印(ふういん)()(はな)たれるだろう。


鑑定(かんてい)()(とお)して、私はこの魔法(まほう)非常(ひじょう)強力(きょうりょく)であることを理解(りかい)した。

この(たぐ)いの封印魔法(ふういんまほう)は、(ただ)しい解除方法(かいじょほうほう)()てのみ()(はな)つことができ、(わたし)でさえも()()ちようがなかった。

「なるほど……。これはなかなか厄介(やっかい)そうだな。――よし、(ため)してみるか!」

強力(きょうりょく)封印魔法(ふういんまほう)解除(かいじょ)通常(つうじょう)(きわ)めて困難(こんなん)であり、わずかな(あやま)ちが石板(せきばん)粉砕(ふんさい)しかねない。

だからこそ、私は細心(さいしん)注意(ちゅうい)(はら)って()石板(せきばん)(うえ)()いた。

その瞬間(しゅんかん)石板(せきばん)から(はな)たれる魔力(まりょく)をより鮮明(せんめい)(かん)()ることができた。

(はじ)めて()れる(ちから)であるにもかかわらず、不思議(ふしぎ)(あたた)かさを(ともな)っていた。

やがて、ぼんやりと()かび()がる古代文字(こだいもじ)微光(びこう)となって(わたし)指先(ゆびさき)(おど)り、祭壇(さいだん)(あわ)金色(こんじき)(かがや)きを(はな)(はじ)めた。

まるで萊德(ライド)予見(よけん)したとおりに、祭壇(さいだん)(きざ)まれていた符文(ふもん)が徐々(じょじょ)に()えてゆき――私はついに、石板(せきばん)魔力(まりょく)連結(れんけつ)することに成功(せいこう)したのだった。


「まさか……本当(ほんとう)にこの封印(ふういん)()いてしまうなんて。」

(チン)()(おお)きく見開(みひら)き、言葉(ことば)にならない感動(かんどう)(にじ)ませながら(わたし)()つめた。

(じつ)()えば、(わたし)自身(じしん)にも(なに)()こったのか()からない。

ただ、自分(じぶん)魔力(まりょく)石板(せきばん)魔力(まりょく)()れさせただけで、この封印(ふういん)()けてしまったのだ。

私は(なに)特別(とくべつ)なことをした(おぼ)えはない。

(たし)かにこの封印魔法(ふういんまほう)(きわ)めて強力(きょうりょく)だったはずなのに、まさか自分(じぶん)がこんなにも容易(ようい)()いてしまうとは(ゆめ)にも(おも)わなかった。

――この解除方法(かいじょほうほう)、あまりにも簡単(かんたん)すぎるのではないか?


石板(せきばん)()にした(とき)、まるで(すべ)てを見通(みとお)したかのようでした。

おそらく……これこそ石板(せきばん)(みちび)きなのでしょう、布雷克(ブレイク) さん。」

瑞克(レウク)称賛(しょうさん)(いろ)()かべながらそう()った。

その口調(くちょう)からは、(かれ)らが完全(かんぜん)(わたし)を『あの御方(おんかた)』と見做(みな)しているのが(つた)わってくる。

……いやいや、これ、どう(かんが)えても誤解(ごかい)(おお)きく(ふく)らんでいるだろう!?

「我々(われわれ)の(ねが)いはただ(ひと)つ。

もし石板(せきばん)()められた真実(しんじつ)()ることができたなら、どうか(かなら)ず我々(われわれ)にお(つた)えください。」

萊德(ライド)もまた、誠実(せいじつ)眼差(まなざ)しで(わたし)言葉(ことば)(たく)した。

――()わった……。これはもう完全(かんぜん)説明(せつめい)のしようがない誤解(ごかい)じゃないか。

(おい! 『あの御方(おんかた)』って、(わたし)のことをどう説明(せつめい)しろっていうんだよ!?)


「え、ええ……()かりました。問題(もんだい)ありません。

(いま)(わたし)にもこの石板(せきばん)解読(かいどく)することはできませんが、(わたし)仲間(なかま)(なか)には、(かなら)方法(ほうほう)()っている(もの)がいるはずです。」

そう()いながら、私はどうにか無理(むり)(わら)みを()かべるしかなかった。


――だが、この(とき)(わたし)()(よし)もなかった。

この石板(せきばん)こそが、未来(みらい)左右(さゆう)する重要(じゅうよう)一片(いっぺん)拼図(パズル)であることを。

まさにその瞬間(しゅんかん)運命(うんめい)歯車(はぐるま)(しず)かに回転(かいてん)(はじ)めたかのようであった。

――この世界(せかい)真実(しんじつ)

それはついに、その一角(いっかく)(のぞ)かせようとしていた。


私は石板(せきばん)丁寧(ていねい)(おさ)めた(のち)()(かか)げて転送魔法(てんそうまほう)発動(はつどう)した。

(かす)かな光陣(こうじん)(またた)き、(わたし)たち一行(いっこう)地底(ちてい)から一瞬(いっしゅん)にして古宅(こたく)一階(いっかい)玄関口(げんかんぐち)へと(もど)っていた。

その(とき)(そら)はまだ完全(かんぜん)には()けきっておらず、(ふか)藍色(あいいろ)(あわ)灰色(はいいろ)(まじ)()薄霧(うすぎり)(おお)われていた。

(とお)地平線(ちへいせん)にはわずかに(しろ)みが()し込み、黎明(れいめい)夜幕(やまく)()()こうともがいているようであった。

小屋(こや)周囲(しゅうい)には(つゆ)()ややかさが(ただよ)い、地面(じめん)はまだ湿(しめ)()()びている。

空気(くうき)には、(あさ)だけの静寂(せいじゃく)()ちていた。

その朝霧(あさぎり)(なか)緹雅(ティア)(あつ)草地(くさち)(よこ)たわり、()にまとった外套(がいとう)()布団(ぶとん)のようにして、(ねこ)のように()ままに()(まる)めていた。

長髪(ちょうはつ)微風(びふう)()らめき、呼吸(こきゅう)安定(あんてい)し、つい先程(さきほど)(みじか)なうたた()をしたばかりのようであった。


転送(てんそう)(おと)(みみ)にして、緹雅(ティア)(あたま)をもたげ、()をこすりながら(すこ)気怠(けだる)げな表情(ひょうじょう)()せた。

「えぇ~、やっと(かえ)ってきたのね……」

(おお)きな欠伸(あくび)をしながら、ゆっくりと()()こし、ぐっと()びをして、

「こんな(つめ)たい(なか)、ずっと()たされるなんて……あなた、本当(ほんとう)()()かないんだから~」と、気怠(けだる)そうに文句(もんく)()らした。

私は苦笑(くしょう)しながら彼女(かのじょ)(ある)()り、(あたま)をかきつつ()った。

「そう()うなよ。今回はちゃんと(おお)きな成果(せいか)があったんだ。」

「ふぅん?」

緹雅(ティア)はぱちぱちと(またた)きをし、()()なく(こた)えた。

興味(きょうみ)なさげに()えたが、そっと()()がって(わたし)(かた)()いた(どろ)(はら)仕草(しぐさ)からは、彼女(かのじょ)(ひそ)かに心配(しんぱい)していたことがありありと(つた)わってきた。


今回(こんかい)事件(じけん)終結(しゅうけつ)した(あと)、我々(われわれ)は村全体(むらぜんたい)(まも)()いただけでなく、この村落(そんらく)との(あいだ)堅固(けんご)信頼関係(しんらいかんけい)(きず)くことができた。

それは同時(どうじ)に、聖王国(せいおうこく)友好(ゆうこう)意思(いし)(しめ)信号(しんごう)ともなった。

一方(いっぽう)聖王国(せいおうこく)兵士(へいし)たちは凡米勒(ファンミラー)指揮(しき)(もと)、すでに整列(せいれつ)()え、王都(おうと)(もど)今回(こんかい)突発的(とっぱつてき)襲撃(しゅうげき)報告(ほうこく)する準備(じゅんび)(すす)めていた。

出立(しゅったつ)直前(ちょくぜん)凡米勒(ファンミラー)(わたし)のもとへ(あゆ)()り、誠実(せいじつ)口調(くちょう)()げた。

布雷克(ブレイク)殿(どの)、もしご希望(きぼう)であれば、(わたし)王都(おうと)へご引見(いんけん)できるよう()()くしましょう。

騎士団(きしだん)(とお)じても、あるいは(ほか)手段(しゅだん)であっても、(かなら)(てき)した方法(ほうほう)()つけてみせます。」

「それは本当(ほんとう)にありがたい。(わたし)にとっては(なに)よりの朗報(ろうほう)です。」

私は(ふか)(うなず)き、(れい)()べた。

凡米勒(ファンミラー)聖王国(せいおうこく)との架橋(かきょう)となってくれること――それは(うたが)いようもなく最良(さいりょう)の知らせだった。


しかし、(わたし)にはまだ処理(しょり)すべき事務(じむ)(のこ)されていたため、王都(おうと)()かうのは(あと)にし、すべての準備(じゅんび)(ととの)ってからと()めた。

万一(まんいち)(そな)え、私は金色(こんじき)(ひかり)(はな)(ちい)さな水晶球(すいしょうきゅう)()()し、凡米勒(ファンミラー)手渡(てわた)した。

「この(なか)には一時的(いちじてき)防御術式(ぼうぎょじゅつしき)()められています。

もし対処(たいしょ)できない危機(きき)直面(ちょくめん)したなら、この水晶(すいしょう)(くだ)いてください。」

凡米勒(ファンミラー)細心(さいしん)注意(ちゅうい)(はら)って水晶球(すいしょうきゅう)()()り、その表情(ひょうじょう)はどこか柔和(にゅうわ)であった。

感謝(かんしゃ)いたします、布雷克(ブレイク)殿(どの)。」

(わたし)たちは(たが)いに(しず)かに(うなず)()い、その(のち)(かれ)(きびす)(かえ)()っていった。

陽光(ようこう)(もと)、その()(なが)(かげ)()としていた。

(かれ)姿(すがた)(とお)ざかっていくのを見送(みおく)りながら、私は(ちい)さく(つぶや)いた。

「どうか……本当(ほんとう)使(つか)()()ないことを(いの)る。」


龍族(りゅうぞく)聖域(せいいき)大殿(だいでん)

黒雲(こくうん)(おお)われた聖域(せいいき)(なか)(なな)(にん)龍使(りゅうし)漆黒(しっこく)大殿(だいでん)にある円形(えんけい)石壇(せきだん)(かこ)むように(しず)かに()()くしていた。

ここは(つね)陽光(ようこう)(とど)かぬ場所(ばしょ)であり、石壁(せきへき)(いた)(ところ)(とも)された(ゆう)藍色(あいいろ)魔焔(まえん)松明(たいまつ)が、空間(くうかん)全体(ぜんたい)不気味(ぶきみ)陰鬱(いんうつ)色合(いろあ)いに()めていた。


重苦(おもくる)しい沈黙(ちんもく)空間(くうかん)支配(しはい)していたが、烈風龍(れっぷうりゅう)薩克瑞(サクリ)”が(くち)(ひら)き、その静寂(せいじゃく)(やぶ)った。

「……つまり、(かれ)本当(ほんとう)(やぶ)れたということか。」

その声色(こわいろ)(ひく)く、(しん)じられぬ(おも)いと(おさ)()れぬ(いか)りが(にじ)んでいた。

「しかも、燃燼龍(えんばーどらごん)でさえ一切(いっさい)実質的(じっしつてき)損傷(そんしょう)(あた)えられなかった……。」

「それだけではない。」

銀角龍(ぎんかくりゅう)艾斯瑞爾(エセリエル)”が冷然(れいぜん)補足(ほそく)した。

(なか)(ほそ)められた双眸(そうぼう)には憂慮(ゆうりょ)(いろ)一瞬(いっしゅん)(ひらめ)いた。


残存(ざんぞん)する空間波動(くうかんはどう)魔力痕跡(まりょくこんせき)から判断(はんだん)するに、(てき)は我々(われわれ)の(だれ)()らぬ魔法(まほう)(あやつ)っているようだ……あれは聖王国(せいおうこく)(もの)たちが使(つか)える魔法(まほう)ではない。」

一人(ひとり)龍僕(りゅうぼく)()(たお)したのみならず、八階(はちかい)召喚獣(しょうかんじゅう)すら無力化(むりょくか)させた……。

その戦力(せんりょく)、我々(われわれ)の予測(よそく)(はる)かに()えている。」

金瞳龍(きんどうりゅう)奧瑞斯(アウレウス)”がゆっくりと(くち)(ひら)いた。

警戒心(けいかいしん)(はら)んだ声音(こわね)(かた)りながら、椅子(いす)側面(そくめん)(きざ)まれた符紋(ふもん)指先(ゆびさき)(かる)(たた)き、その規則的(きそくてき)(ひび)きと(とも)に、突如(とつじょ)(あらわ)れた脅威(きょうい)への対応策(たいおうさく)思案(しあん)しているようであった。


石板(せきばん)奪取(だっしゅ)失敗(しっぱい)した……これこそが(もっと)厄介(やっかい)だ。」

玄鱗龍(げんりんりゅう)奧利克斯(オリックス)”が(こえ)(しず)め、眉間(みけん)(ふか)(しわ)()せた。

長老(ちょうろう)たちが()っていたはずだ。あの石板(せきばん)儀式(ぎしき)中核(ちゅうかく)(ひと)つ。

もし外部(がいぶ)(もの)(わた)れば、儀式(ぎしき)進行(しんこう)(みだ)すばかりか、予測不能(よそくふのう)結果(けっか)(まね)くだろう。」

(くわ)えて、龍僕(りゅうぼく)戦力(せんりょく)はもはや往時(おうじ)のごとくはない。

この敗北(はいぼく)(ほか)潜伏勢力(せんぷくせいりょく)()(わた)れば、(かなら)覬覦(きゆ)挑戦(ちょうせん)()()む。」

()せた体躯(たいく)龍使(りゅうし)冷然(れいぜん)補足(ほそく)する。

七人(しちにん)(なか)(もっと)策略(さくりゃく)()けた毒刃龍(どくじんりゅう)薩斯圖(サストゥ)”である。

その(こえ)には陰鬱(いんうつ)予断(よだん)(にじ)んでいた。

「だからこそ、私は(まえ)から()っていたのだ。

これほど重要(じゅうよう)任務(にんむ)を、ただの龍僕(りゅうぼく)(まか)せるべきではなかったと。」

「では、これからどうする?」

金瞳龍(きんどうりゅう)奧瑞斯(アウレウス)”が()いかけ、(するど)視線(しせん)()全員(ぜんいん)(はし)らせた。


「まさか我々(われわれ)が(じか)(うご)くのか? 現状(げんじょう)情報(じょうほう)では、相手(あいて)人間(にんげん)なのか、あるいは別種族(べつしゅぞく)なのかすら(さだ)かでない。」

軽挙妄動(けいきょもうどう)(ゆる)されぬ。」

高座(こうざ)腰掛(こしか)け、重厚(じゅうこう)甲冑(かっちゅう)(まと)った首席龍使(しゅせきりゅうし)閃光龍(せんこうりゅう)盧米斯(ルミス)”がついに(くち)(ひら)いた。

その(こえ)()もる雷鳴(らいめい)のように場内(じょうない)(ふる)わせる。

(やつ)正体(しょうたい)はいまだ不明(ふめい)、しかもその戦力(せんりょく)(あなど)れぬ。

もし我々(われわれ)が()れば、行動(こうどう)焦点(しょうてん)(みずか)(さら)すことになり、三大長老(さんだいちょうろう)儀式(ぎしき)危険(きけん)(さら)すだけだ。」

「……では、第八龍使(だいはちりゅうし)は?」

暗鎧龍(あんがいりゅう)諾克塔(ノクター)”が(ひく)(こえ)()う。

(かれ)はいまだ(なに)態度(たいど)(しめ)していない。」

「では、我々(われわれ)は(いま)……ただ()つしかないのか?」

銀角龍(ぎんかくりゅう)艾斯瑞爾(エセリエル)”がなおも忌々(いまいま)しげに()(かえ)した。

三大長老(さんだいちょうろう)(ふたた)指示(しじ)(くだ)すだろう。

我々(われわれ)がすべきは、戦力(せんりょく)をこれ以上(いじょう)(けず)らせぬことだ。」

盧米斯(ルミス)はゆるやかに()()がった。

その披風(ひふう)(うご)きに合わせて(ゆか)をかすめ、(ひく)(おと)(ひび)かせる。



今週は仕事の都合で、この段落を完成させるのが難しいかもしれないと思っていました。最初は延期しようと思っていましたが、計画が変更されたおかげで時間ができ、急いで完成させることができたので、とてもラッキーだと感じています。

ストーリーの進行については、大体決まっており、素材探しから構想、執筆に至るまで、3年の時間をかけてきました。ストーリーの構成については常に新しいアイデアが出てきて、そのたびに前後の内容や構造を修正していますが、まだ自分が求める答えにたどり着けていません。

ただ、最近ストーリーの内容が決まってからは、執筆が比較的スムーズになり、インスピレーションを保てることを願っています。

来週は研究業務がさらに忙しく、実は予定通りにアップロードできるか少し心配していますが、順調に毎週の進捗を終えられることを願っています。

第三章はすでに終了し、第四章の主な内容はすでに完成していますが、詳細部分はまだ手を加えているところです。大体5週間をかけて完成し、アップロードする予定です。

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