兎人族の侍者に導かれ、私は長廊を進んだ。
壁には詩句が記された掛軸と水墨画が掛けられ、床は研磨された黒漆の松木で、私たちの倒影を静かに映し出している。
廊間には沈香がほのかに焚かれ、香りは濃くはないものの、持続的に鼻腔へと染み込み、精神を次第に鎮めていった。
奥へ進むほど、雰囲気はいっそう幽静さを増していく。
「鳴靜之間」と彫り込まれた銀灰色の月木の屏風の向こうには、両開きの彫花門があり、扉には六島之國を象徴する「六方結界圖」が施されていた。
中央には金色の日輪紋章が配され、その周囲には六輪の蓮花が外へ向かって咲き誇っている。
門はまだ開いていない。
それでも、すでに高貴な雰囲気に満ちていた。
「此処が会客間です。」
侍者は低声で告げ、すぐに門板を軽く叩き、扉を押して内へ入った。
門扉は静寂の中で開き、かすかな銅環の音とともに、内部から柔らかな光線が差し出され、私たちの目の前の空間を照らし出した。
此処は天方鳴の最深部にある会客廳であり、一歩足を踏み入れた瞬間、まるで別の世界に身を置いたかのようであった。
最初に目に入るのは、部屋一面に敷き詰められた鳳尾織地の畳である。
この織物は伝統的な龍鳳の図騰を基調とし、金銀の糸と天然の藍靛染料を交互に織り上げており、質感は厚く、なおかつ光沢に富み、その一寸一寸が温かく潤いのある光華を放っていた。
その上に軽く足を乗せると、歩みは柔らかく受け止められ、まるで柔軟な寝台を踏みしめているかのようであった。
天花板は、六島之國北方の寒地に特有な「青桑木」によって彫刻されており、その色澤は天然の淡青色である。
表面には精細な浮雕の図騰が刻まれ――雲、川、鶴、松、その一筆一筆が、まるで数百年の歳月によって磨き上げられたかのようであり、中央に吊り下げられた月耀琉璃燈と相互に輝映していた。
その琉璃燈の外縁には幾重にも重なる細糸が縁取られ、中央の吊飾りには、神明の共治を象徴する「日月交映」の宝飾が配されている。
燭火の光を受けて、それは微かに瞬き、まるで星海が逆さに懸かっているかのようであった。
会客室の壁面は紫檀木によって造られ、表面は漆絵師の手による描金が施されている。
細部の随所には精巧な意匠が潜み――銀鶴が蓮を銜え、金の螺紋が角へと巻き入り、さらには門框の隅角に至るまで、玉石の圧条が嵌め込まれ、いずれも隙なく整えられていた。
壁際には、高さが二人分に近い琉璃の花屏風が二基立てられており、粉藍と水緑の漸層ガラスによって天池と山景が嵌込まれている。
光線が透ると、それはまるで朝霧が流転するかのようで、一目で心を奪われる景であった。
室内の中心には、神木によって彫琢された巨大な円卓が置かれている。
それは全体が「天櫻木」によって製されており、この木材は至高天原島の高地にのみ生育し、一本ごとに成材まで百年以上を要する。
その木目は霞のようであり、水の流れにも似て、流動する櫻雲のごとき趣きを帯びている。
卓上には、黄昏之國から輸入された「赤黒絲綢」の卓布が敷かれており、その図騰には赤鳳と黒亀が双環となって交錯する意匠が描かれている。
それは陰陽の均衡を象徴し、紗面の光沢はほのかに瞬き、星河のきらめきを思わせた。
各座墊は雲絨で覆われ、金糸による「神主蓮印」が刺繍されている。
さらに、椅脚の下には吸音毯が敷設され、着座の際にも大きな音が立たぬよう配慮されていた。
室内にはまた、高級な茶器の展示架が備えられており、その上には多様な陶器が陳列されている。
「水雲釉瓷」、「鏡雪漆器」、「炎晶壼」、「夜紋黒陶」……いずれも当代を代表する名匠の作であった。
設えられた香炉でさえ、その由来は並みではなかった。
中央に置かれているのは、神社等級の「靈沉青銅爐」であり、内部で焚かれているのは、限定使用の「風蘭香」と「魂歸木」である。
その香気は馥郁として安定しており、心を鎮め、頭脳を覚醒させ、雑念を払う効果を持つ。
そして今、卓の向こう側には、すでに五人が先に着座していた。
彼らは一列に並び、服飾はそれぞれ異なり、表情は厳かでありながら静かであった。
明言こそされていないものの、その強大な気場と稲天寺の振る舞いから、私たちが推測するのは難しくなかった。
——この者たちこそが、六島之國の現任の神明である。
「神明大人、客人は到着いたしました。」
稲天寺は身を正し、恭しく礼を行い、その語調には従軍者らしい簡潔さと敬意が込められていた。
中央に座る神明は、わずかに頷き、重厚で清朗な声で告げた。
「彼らを着座させよ。」
私は緹雅と視線を交わし、一緒に前へ進み、中央に近い位置を選んで着座した。
椅背は柔らかく、手の届く範囲の至る所に上等な絹織りの布地の滑らかさがあり、腰を下ろした瞬間、自然と安定と落ち着きが生じた。
妲己はいつも通り雅妮を懐に抱き、私たちの背後に立ち、三姉妹は左右に分かれて位置を取り、警戒を保っている。
桃花晏矢は私の右手側の一席空けた位置を選び、外交使者として相応しい距離を保った。
「此処では礼に拘る必要はない。皆さまは貴客である。随従の者たちも、入座されよ。」
中央の神明が再び口を開き、その語調は実に柔らかであった。
妲己と三姉妹は互いに視線を交わし、やがて私たちの方を見やる。
その目には、わずかな逡巡が宿っていた。
「彼らがそう言うのなら、あなたたちも座りなさい。」
緹雅は静かに告げ、その声は穏やかであった。
「……承知しました。」
妲己は小さく頷き、三姉妹にも合図して、共に席へと着いた。
一同に皆が着座すると、数名の兎人族の侍者が会客間へと歩み入り、手にそれぞれ托盤を持ち、茶を捧げていた。
その動きは軽やかで、音ひとつ立てることなく、茶盞を一杯ずつ稲天寺の傍へと運んでいく。
いずれの杯も銀縁の白磁に注がれ、茶水の色澤は淡黄にして微かに碧みを帯び、水面には薄い香霧がほのかに漂っていた。
侍者が直に茶を供するものと思っていたが、意外にも稲天寺は自ら立ち上がり、托盤を受け取ると、極めて自然な所作で腰を折り、私たちのために一杯ずつ茶を注いだ。
私はその光景を目にした瞬間、反射的に背筋を伸ばして座り直し、心臓の鼓動が一気に速まった。
「あ……こ、これは、やはり私たちが自分でいたします!」
私は慌てて声を上げて制止し、掌には、すでにわずかな汗さえ滲んでいた。
六島之國の第一大将軍が、私たちのために茶を注ぐなど、どう考えても理に合わない。
次の瞬間には、軍法処に一筆記されるのではないか――そんな予感すら覚えてしまう。
だが、私が言い終える前に、隣に座り、鮮紅の和服を纏った神明が、くすりと笑い声を漏らした。
炎のような髪が肩後ろまで垂れ、整った顔立ちは端正で、その語調は朗らかに笑みを含み、戯れるようでありながら、どこか親しみを帯びている。
「布雷克殿、どうかお気遣いなく。
稲天寺は、こうしたことが好きなのです。誰も彼には敵いませんよ。」
稲天寺は表情を変えることなく、あたかも千百回も演練を重ねてきたかのような安定した動きで、茶盞を一杯ずつ差し出していく。
その所作には、一切の淀みもなく、実に落ち着き払っていた。
「この茶は天方鳴でもっとも貴重な蔵葉ではありませんが、我らが特に好んでいる品の一つです。」
紅衣の神明は、すぐにそう補足した。
私は視線を落とし、目の前の茶杯を見た。
茶湯は澄み渡り、淡い黄みの中にほのかな緑が差している。
水面には柔らかな花香と果香が立ち上り、桃李や春菊に近い清新な気が混ざっていた。
まだ口に含む前から、その香りが鼻間を巡り、心神が自然と緩んでいく。
彼らは私たちに茶を注いでくれたが、神明たち自身は白湯だけを飲んでいる。
それに気づき、私の胸中には、わずかな警戒が生じた。
「……とはいえ、念のため、だな。」
私はひそかに鑑定之眼を起動し、視線を茶湯へと向けた。
【鑑定結果:無毒、状態安定。
成分:山桃葉、花梨果、雲絲草、清明春芽】
よし――無毒無害だ。
私はわずかに安堵し、ようやく茶杯を取り上げ、そっと一口含んだ。
温もりは穏やかで熱すぎず、口当たりは甘く潤い、後韻はやさしく返ってくる。
まるで林間の朝霧が、静かに胸を撫でるかのようであった。
私とは対照的に、緹雅は最初から実に落ち着いている様子だった。
彼女は指先で軽く茶盞を支え、目を閉じたまま静かに一飲みする。
その口元には、ほのかな満足の微笑が浮かび、まるでこの一杯の茶が、すでに彼女の内側の律動と溶け合っているかのようであった。
「お二人の冒険者、まずは我らから自己紹介をいたしましょう――我らこそが、六島之國の最高神です。」
その言葉が落ちた瞬間、私は危うく茶を一息で噴き出しそうになった。
「ま、待って……いま、言ったのは……“あなたたち”?」
その人物は泰然とした様子で小さく頷いた。
「その通りです。厳密に言えば、私はその一人に過ぎません。五人の中で主な決定権を担う者として、私の名は月見里夙。
我が司る神位は――天之神です。
私の左手側にいるこの二人は、それぞれ生命之神・天羽澪と、大地之神・九十九宗真。
そして右側の二人が、活力之神・霧生由良と、時間之神・夜久千景です。」
「なるほど……最高神って、五人一組だったんだ……」
私は少し驚いた様子で、そう口にした。
天之神は微かに笑み、落ち着いた調子で語った。
「その通りです。おそらく、あなた方は我らの力の源をご存知でしょう。
最初の九位の大人たちが前代の神明大人に能力を授け、その後、前代神明大人はその力を五等分に分けられました。
我らは、前代神明大人による篩選を経て、それぞれこの五種の力を継承したのです。」
私が驚いたのは、力が分割されているにもかかわらず、この五人の能力が、聖王国の神明よりもなお強く見えたことだった。
では、元の力は、一体どれほど強大だったのだろうか。
「しかし……なぜ五つに分けたのですか?
そのようにする意味は何なのでしょうか。」
この時、緹雅が口を挟んで問いかけた。
天之神は淡々(たんたん)と答える。
「それは、その力があまりにも強大だったからです。
前代の神明大人でさえ、完全に制御することはできませんでした。
継承者が見つからない事態を避けるため、力を五等分に分割するという方法が選ばれたのです。
そうすれば、継承を保証できるだけでなく、それぞれの力に適した人材を選抜することも可能になります。」
「だが、もしまた先程のような強敵と相対した場合……
分けられた力で、果たして耐えられるのですか?」
私は眉を寄せて問うた。
「それこそが、我らの背負う使命です。」
天之神の声は低く、そして揺るぎなく響く。
「――次の継承者、すなわち五神の力を一身に統合できる真の存在を見つけ出すこと。」
「しかし、初代の神明大人は二千五百年にわたって探し続け……」
活力之神が続けて語り、その口調には無力感が滲んでいた。
「結局、相応しい人選を見つけることはできなかったのです。」
私たちは再び茶杯を取り上げ、軽く一口啜った。
その余韻は、まるで山間を渡る微風のように清雅であった。
あるいは場の雰囲気のせいか、時の流れさえも、ひときわ緩やかに感じられる。
ちょうどその時、青灰色の長袍を纏った一人の侍者が、精緻な銀輪の餐車を押して入ってきた。
車上には雪白の亜麻布が掛けられ、その下からは、かすかに蒸気が幾筋も立ち昇っている。
淡い酢香と海味が混じり合い、まるで一場の味覚の儀式が、これから始まろうとしているかのようであった。
「正午です。」
天之神は微かに笑み、言った。
「あなた方の旅路は、さぞお疲れだったことでしょう。
厨に命じ、六島之國の名物となる前菜をご用意いたしました。
ささやかではありますが、旅の疲れを癒す一助となれば幸いです。」
最初に登場したのは、色・香り・味ともに整った漬物三品の一組だった。
いずれも半月形の青磁の器に盛られ、器身には六島各地を象徴する図紋が描かれている。
まるで歴史と味覚を同時に卓上へ運んできたかのようであった。
第一の一品は、現地で「赤露珠」と親しみを込めて呼ばれている、塩漬けの蕃茄である。
小さく張りのある紅蕃茄は、長時間の低温熟成によって皮がわずかに引き締まり、表面には宝石のような透き通る光沢が宿っていた。
三粒の紅い小蕃茄が整然と並び、よく見ると、それぞれの表面には雪白の海塩と、細かく刻まれた氷薄荷葉が軽く散らされている。
淡緑と鮮紅が互いに映え、目にも楽しい趣きであった。
緹雅は慎重に一粒を箸で取り、そっと口へ運ぶ。
「カチッ」と微かな音が立ち、果実が唇歯の間で弾けたかのように感じられた。
果肉からは即座に、清冽な酸味と甘味を帯びた汁液が溢れ出す。
塩の香りは味を支配することなく、むしろ薄衣のように全体を包み込み、風味を一段高い次元へと導いていた。
さらに、果皮に由来するほのかな苦韻が後から立ち現れ、もともと素直な鮮味に、思いがけない奥行きを添えていた。
第二の一品は、芥末小章魚である。
この料理は、前の一品に比べ、香りがはるかに強い。
青黄で霧のような芥末醬が、小章魚の全体に均等に絡められ、細かく巻き込んだ触手は、まるで海草のように、磁器の皿の上で身を屈めている。
章魚そのものは、軽度な燻製と酢浸けを施されており、表面にはわずかな粘性があり、自然な油光がほのかに浮かんでいた。
淡紅色の小章魚の触手は、花のようにくるりと巻かれ、その上を青黄の芥末醬汁が覆っている。
緹雅は一瞬ためらったが、私が先に小さな一切れを箸で取り、口へ運んだ。
その瞬間、辛辣な刺激が鼻腔を突き抜け、一直線に頭頂まで駆け上がり、思わず目尻が熱くなる。
芥末の刺激は、電流のように舌先を走り抜け、そこから外へ向かって、じわりと痺れる感覚へと広がっていった。
次の瞬間、章魚の弾力のある肉質が応えるように立ち上がり、海の塩味と燻製の木香が混じり合う。
それはまるで、舌上で海底の嵐が巻き起こるかのようで、荒々(あらあら)しさの中に、いくつもの転調が秘められていた。
最後の一品は、燻製した黒海鮭に鯷魚醬を添えた料理である。
この一皿は、それまでとは趣きを異にし、まるで静かな深海の歌のような佇まいを見せていた。
薄く切られた鮭魚の身は、幾重にも重ねられて花弁の形に整えられ、氷石板の上に盛られている。
橘紅色の魚肉と、亮白の洋蔥が織りなす紋理は、まるで海面に差す霞光が流れ動くかのようで、繊細な漸層を描いていた。
この料理の美しさは、その節奏感にある。
燻香と魚油が溶け合い、香りは温度とともに、わずかに広がっていく。
皿の底部には、銀灰色の鯷魚醬がひとすじ添えられ、その気配は濃厚でありながら、決して鼻を突くものではなかった。
鮭魚が口中に入り、鯷魚醬がゆっくりと溶け広がれる。
鮭魚の身は柔らかく潤い、奶油のような脂肪感を帯び、舌の上でほどけるように溶けていく。
だが、完全に消え切る前に、鯷魚醬の塩香が静かに入り込み、暗湧のように舌根で弾け、全体の鮮味を極限まで引き上げる。
その余韻は長く揺れ続け、まるで海の魂を一瞬に凝縮したかのようであった。
前の二品と比べると、この一皿は驚きを強く求めるものではない。
それは潮の流れのように静かに押し寄せ、段階的に重なり合い、最終的に味覚の深部へと余響を残す。
緹雅は、この三品の前菜すべてに、実に満足している様子であった。
続いて、侍者は両手で恭しく、古雅な意匠の土瓶蒸し一壺を運んできた。
茶壺の外壁には、うっすらと霧気が漂い、瓶身には雲海と仙鶴の図紋が彫り込まれている。
まるで、この一壺の湯に宿るものが、天地の霊気から抽出された精であるかのような暗示であった。
とりわけ見事だったのは、その陶製の瓶蓋である。
巧みに小さな碗としても使える形に設計されており、趣味性と実用性を兼ね備え、思わず手に取って眺めたくなる。
私が瓶蓋を開けた瞬間、清雅な湯気が立ち上り、蒸気とともに広がった。
それは柔らかく頬を撫で、朝霧のように絡みつく。
同時に、鼻間へと、鮮明でありながら刺すことのない、海潮の塩香が一気に流れ込んできた。
私はゆっくりと湯を蓋碗へ注いだ。
その色澤は澄み切って透明で、かすかに淡金色の光沢が差し、まるで初曦が湖面に降り注ぐかのようであった。
湯を口に含むと、まず広がったのは、思わず息を呑むほどの清らかな甘みである。
春日の山泉が竹林を抜けて杯に注がれたかのように、最初は椎茸と出汁が溶け合った、素朴で淡雅な旨味が舌に広がる。
その直後――息を詰めるほど濃密な海味が、突如として押し寄せた。
それは荒波が岸を打つように、一瞬で味蕾を覆い尽くす。
干貝、蛤、蝦肉、魚骨、昆布を、弱火で丹念に煮出した精華の味。
その一滴一滴が、まるで大海の魂を凝縮したかのようであった。
「……これほどの湯底を仕上げるには、相当な時間がかかるのでしょうね。」
私は、思わず小声でそう感嘆した。
たとえ一盅の湯に過ぎなくとも、そこには主厨が層次と時序を掌握していることが、はっきりと示されていた。
急ぐことも、焦ることもなく、それでいて一歩一歩が、ことごとく驚嘆に値する。
土瓶蒸しの余韻が、まだ完全に消え去らぬうちに、視覚と香りを兼ね備えた一皿が続いて登場した――五味鮮魚盛合である。
それは精巧に彫琢された黒曜の長盤に盛られ、盤面には銀線で描かれた海浪と潮紋が嵌め込まれている。
まるで、この五品の料理が、海底から選り抜かれて引き上げられた珍宝であることを、静かに語っているかのようであった。
各の魚肉は整然と並べられ、互いの間には、枯山水を思わせる形に切られた蓮根片と、海藻の晶凍が配されている。
それは風味を分け隔てるためであると同時に、視覚の上でも、波が連なるような曲線を描き出していた。
これは、単なる五片の魚ではない。
むしろ、綿密に設計された一場の儀式のようであり、それぞれの魚が、一つの風土と歴史を背負い、独立した一編の物語を語っているかのようであった。
最左に置かれていたのは、初雪のように潔白な塩焗の青面魚で、「白石之靜」とも呼ばれている。
原塩で包んだのちに炙り焼きにされ、焼成の過程で魚体の水分はしっかりと閉じ込められる。
塩殻は火により脆く結晶化し、細かな裂け目を持つ晶壁となり、叩き割ると澄んだ音を立てる。
それは、静かな湖の氷面を打ち破るかのようであった。
魚肉は自然な乳白色を呈し、繊維は緻密で、脂肪は過不足なく含まれている。
口に入れた瞬間、塩焗の技法がもたらす簡素で奥行きのある味が広がる。
過度な調味はなく、あるのは魚そのものが持つ鮮甜と、わずかに焦げた魚皮の香りのみである。
それは、浄らかな雪が舌先をかすめるような味覚で、澄明でありながら落ち着きを備え、後味には淡い石地の鉱物香が残る。
まるで、北島の雪原を渡る風を思い起こさせるかのようであった。
この魚は、月が海平線に最も近づく時にのみ現れると伝えられている。
その時分、魚体の脂肪は最も均衡し、「静謐と純浄」の象徴と見なされているという。
第二の一品である醬烤きの鱸松魚は、先の料理とは趣きを一変させ、火色は鮮やかで、気配は濃烈であり、「焰影之舞」という別称を持つ。
魚肉は特製の焦糖醬を何度も塗り重ねて焼き上げられ、表皮は釉のように滑らかな琥珀色を帯びている。
縁はわずかに反り返り、随所に立つ焦香の焼痕が、強い火の気を物語っていた。
醬汁には甘蔗の黒糖、柚子皮、そして淡酒が合わされ、一口ごとに酸味と甘味が交錯する層次を生み出している。
魚肉を喉に通すと、柔らかさの中に張りを残した繊維が、ゆっくりと濃厚な脂と微かな焦げの風味を解き放つ。
それは、味蕾の上で火焔が舞うかのようで、急くことなく、しかし確かに、一本一本の感覚を燃やしていく。
その余韻には、さらに一縷の燻製された茶香が潜み、全体の味わいを、甘美から内省的な落ち着きへと導いていた。
この料理は大陸南岸に伝わる伝統の宴席魚であり、もとは一人の流亡した王子によって考案されたと伝承されている。
「過去の痛楚を力へと変える」という寓意を持ち、そのため、この一皿には、ほとんど物語のような熱度と記憶感が宿っていた。
正中央に置かれていたのは、外観は最も素朴でありながら、気質は最も静謐な清蒸の石頭魚である。
魚体は竹葉で包まれ、高湯、淡塩、蘭花酒を添えて低温で蒸し上げられ、仕上げに極めて細い葱絲と黄柚皮末が散らされている。
魚皮は本来の色を保ち、透明感のある一層の膠質を帯びている。
皿底には、鏡のように澄んだ清湯が滲み出ており、淡いながらも、確かな奥行きを秘めていた。
この魚の身は、きわめて柔滑で、触れればすぐにほぐれ、まるで口中で雲絮を含むかのようである。
風味は淡雅で、ほとんど魚そのものの清甜と、水の清涼感だけを残す。
後味には、柚皮に由来する、かすかな果香を捉えることができた。
それは、「有」と「無」の狭間にある味であり、皓月が深潭を照らす折、音なきものが音に勝る――そんな静けさを思わせる。
ゆえに、この一品は「幽潭之月」とも称されている。
石頭魚は、葦原島の林間を流れる小溪に棲む魚で、潮間帯の礁岩の裂け目に生育するため、肉質はとりわけ繊細である。
当地の人々(ひとびと)は、この料理を祖霊と月神に捧げ、「言は味に止め、心は静けさに止める」という象徴を託してきた。
第四の一品である味噌鳳仙魚は、大地の温もりと、人文の積み重ねられた醞釀感をはっきりと示していた。
魚肉は事前に、三年熟成させた赤味噌、蜂蜜、米麴により一昼夜漬け込まれ、その後、直火でゆっくりと焼き上げられている。
魚皮は、朝曦の下で光に染まった石壁のような、温潤な金紅色を帯びていた。
口に入れた瞬間、味噌の塩香が即座に舌根へと広がり、続いて発酵由来の甘味と深い香気が立ち上る。
それらは魚肉本来の鮮美と、わずかに焦糖化した外層と溶け合い、味わいは重厚でありながら決して重たくはない。
それは、長い冬夜の果てに訪れる朝の光の記憶が、火と時間によって封じ込められたかのようであった。
この魚は、黄泉之島東陸の山脈付近にある湖泊を源とし、冬祭の折に捧げられる献魚であると伝えられている。
当地の長老たちは、味噌には陽光の温度を蓄える力があると考え、それを生命と希望をつなぐ象徴としてきた。
そのため、この料理は「曦光之憶」とも呼ばれている。
最後の一品である酥炸白身魚は、盛合わせ全体の中でもっとも軽やかで、同時にもっとも人の心を引きつける味であった。
この料理は「波光之舞」とも呼ばれ、魚身は米粉と栗粉を合わせた薄い衣で包まれ、高温で瞬時に揚げられている。
その色澤は金黄にして清亮、表皮は絹のように細やかで、まるで陽光が海面に散らした金屑のようであった。
ひと噛みした瞬間、「カリ」と短く細い音が立ち、酥脆な感触が波紋のように広がっていく。
一方で、魚肉の内側は潔白で、きわめて繊細、鮮甜にして澄み切った味を保ち、衣との対比が鮮明であった。
皿底には紫蘇葉が敷かれ、その香りは淡く鼻をくすぐる。
揚げ魚と合わさることで、わずかに辛甘さを帯び、全体に東方の草本を思わせる後韻を添え、余韻は尽きることがなかった。
この一品は、諸島を行き交う漁民たちによって生み出された料理であり、「簡素の中にこそ極致がある」という意味を宿す。
それはまた、自然の食材そのものに対する敬意を表した一皿でもあった。
前菜だけでも、すでに琳瑯と並び、風味は交錯しており、私は思わず一抹の逡巡と好奇を覚えた。
このような待遇は、素性も知れぬ外地の冒険者二人に向けられるものとは、どうにも思えない。
そればかりか、これらの料理を味わっているのは私たちだけであり、神明たちの卓上には、簡素な漬物が置かれているのみであった。
私は箸を置き、主位に高く座る天之神へと視線を向けた。
「失礼ですが……」
私は言葉を選びながら口を開いた。
「一つ、お伺いしたいことがあります。」
「どうぞ。」
天之神は穏やかな調子で応じ、わずかに頷いた。
「本日は、私たちが六島之國に足を踏み入れた最初の日です。
この土地の風土や制度についても、正直なところ、何も知りません……
それにもかかわらず、なぜ私たちに、これほどの礼遇を与えてくださるのでしょうか。」
私は、胸中に抱いていた疑問を、ようやく口にした。
この饗宴の背後には、料理そのものよりも、さらに複雑な意図が潜んでいるように思えた。
天之神はその言葉を聞くと、視線を傍らの稻天寺へと移し、笑うでも責めるでもない調子で言った。
「なるほど……どうやら稻天寺は、まだ君たちに来龍去脈を説明していなかったようだ。」
「まことに申し訳ありません、神明大人。部下の不手際です。」
稻天寺は慌てて頭を垂れ、謝罪した。
「気にする必要はない。」
天之神は手を軽く振り、その態度は終始落ち着いたままだった。
「それならば――我らが直接、説明しよう。」
この時、左側に座る生命之神が、軽く喉を整え、話を引き継いだ。
「我らは聖王国と貿易の往来が比較的に密接な国です。
ゆえに、聖王国の動向についても、ある程度は把握しています。」
彼は一拍置き、さらに続けた。
「そして、より詳細な情報については、ここにおられる晏矢閣下ご本人より、密件として直接届けられた文書によって知ることとなりました。
その内容は重要な機密に関わるため、ここで詳しく述べることは控えさせていただきます……」
そこまで語られたところで、傍らに座る桃花晏矢の表情が、わずかに変わった。
どうやら彼自身も、私たちの行ってきた事績に対し、少なからず驚きを覚えているようだった。
聖王国に滞在した期間は、わずか二か月に過ぎない。
それでも、その間に、私たちはすでに少なからぬ成果を挙げていたのである。
これらの情報が厳重に封じられていなければ、新進の冒険者にとっては、間違いなく大きな騒動を引き起こしていたはずである。
それにもかかわらず、私たちが今なおこれほど低調でいられるのは、当初から強く、聖王国の神明に対し、事績の一部を秘匿するよう求めていたからにほかならない。
「ゆえに、我らは二人を最高級の形式でお迎えすることを選んだのです。」
天之神は温和な口調で付け加えた。
「聖王国の神明が敬う貴客であれば、我らとしても、無礼を働くわけにはいきませんから。」
私はゆっくりと頷いた。
胸中のわだかまりが完全に解けたわけではないが、それでもこの厚意には感謝せざるを得ない。
「なるほど……。
どこまで把握されているのかは分かりませんが……
どうか六島之國においても、私たちのことは公にしないでいただけますよう、お願いします。」
「それは当然です。」
天之神は静かに、そう応えた。
その時、私はふと、もう一つの未解決の疑問を思い出し、口調を引き締めた。
「もう一件……先ほどの、あの巨大な蛇についてですが、あれはいったい何なのですか。」
空気に、ただちに微かな緊張が走った。
天之神はしばらく沈黙し、それから静かに口を開いた。
「今回、お二人をお招きした本来の目的は、別の要務を協議するためでした……。
しかし、事がここまで及んだ以上、より差し迫った問題を、先に対処せねばなりません。」
「では……もともと、別の予定があった、ということですか。」
私は確かめるように問うた。
「その通りです。」
大地之神が言葉を継いだ。
「しかし今は情勢が変わりました。
より大きな災禍を招かぬためにも、あの巨大蛇の来歴と異動については、最優先で対処する必要があります。
詳細については――」
彼は外側の一角、窓欞の向こうに広がる遠山の天際を指し示した。
「――我らが『六玄閣』へ戻り次第、より相応しい場所で、お二人にご説明いたします。」
「お二人がご協力くださるのであれば、相応の報酬をお支払いします。」
時間之神もまた、他の神明に続いてそう述べた。