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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第二卷 第一章 帰還-6

わたしたちは、六島之國ろくとうのくに到着とうちゃくしたばかりだというのに、いきなり厄介やっかい事態じたいまれることになった。

八歧大蛇やまたのおろち襲撃しゅうげきにより、本来ほんらいなら円滑えんかつ通過つうかできるはずだった入国審査にゅうこくしんさは、異常いじょうなほど煩雑はんざつなものへとわってしまった。

うんわるすぎるだろう……よりによって、こんなときに。」

わたしあたまきながら、おもわず無奈むないきいた。胸中きょうちゅうには、ぬぐいきれない苛立いらだちが渦巻うずまいている。

わたしたちは事件じけんそのものに直接ちょくせつ関与かんよしたわけではない。

それでも、目前もくぜんひろがるこの混乱こんらんした状況じょうきょうは、否応いやおうなく精神せいしん重圧じゅうあつあたえてきた。

突発とっぱつてき襲撃しゅうげきけ、六島之國ろくとうのくに即座そくざに「緊急動乱応変計画きんきゅうどうらんおうへんけいかく」へ移行いこうした。

その結果けっか従来じゅうらい接待せったい審査しんさながれは大幅おおはば変更へんこうされ、手続てつづきは格段かくだんわずらわしいものとなった。

貿易船ぼうえきせんだけは依然いぜんとして接岸せつがんゆるされている――航海貿易こうかいぼうえき六島ろくとう経済けいざいささえる命脈めいみゃくひとつである以上いじょう、それをめるわけにはいかないからだ。

しかし、それ以外いがい活動かつどうは、観光かんこう外交がいこう、さらには各種かくしゅ外来者がいらいしゃ自由じゆう出入でいりにいたるまで、ほぼ全面的ぜんめんてき停止ていしされた。

その影響えいきょうで、わたしたちの入境手続にゅうきょうてつづきは、異様いようなまでに面倒めんどうなものとなっている。

申請しんせい検査けんさ確認かくにん認可にんか……

あらゆる工程こうていが、何度なんど何度なんどかえ精査せいさされ、さきがまったくえない状況じょうきょうつづいていた。



わたしたちが通行証つうこうしょう申請しんせいするための臨時りんじ事務所じむしょまえち、この制度せいどそのものに疑問ぎもんいだはじめていた、そのとき――

予想外よそうがい人物じんぶつ姿すがたあらわした。

「おや? まさかお二人ふたり冒険者ぼうけんしゃ閣下かっかも、六島之國ろくとうのくにられていたとは!」

すこはなれた場所ばしょから、そんなこえこえてくる。

「ただ……この時機じきは、正直しょうじきあまりくないですね!」

わたしいた。

そこには、軽装けいそう礼装れいそうつつみ、黒色こくしょく外套がいとうかたけた青年せいねんが、こちらへあるってきていた。

そのかおには、どこか見覚みおぼえのある笑顔えがおかんでいる。

だが――

わたし記憶きおくなかには、この人物じんぶつ名前なまえが、どうしても見当みあたらなかった。

「えっと……すみません、あなたは……?」

わたし困惑こんわくした視線しせんけながら、そうたずねた。

「うぅぅ……わたしですよ、わたし!」

青年せいねんはすぐさま、ひどくきずついたような表情ひょうじょうつくる。

冒険者ぼうけんしゃ選抜せんばつとき、ご一緒いっしょたたかったじゃないですか! あの勝負しょうぶ、なかなか見応みごたえがありましたよね……」

そうわれて、わたしはようやく、脳裏のうりおくから、かすかな記憶きおく断片だんぺんすことができた。

「え……えっと……うーん……」

わたし必死ひっし記憶きおくさがったが、どうしてもかれ名前なまえだけがくちをついててこない。

そのとき

緹雅ティアやわらかな笑顔えがおかべ、わたしをさりげなくたすぶねせてくれた。

闇蛇騎士團やみへびきしだん団長だんちょう晏矢アンシ閣下かっかでいらっしゃいますよね?」

「ありがとう……本当ほんとうたすかったよ、緹雅ティア……」

わたし胸中きょうちゅうで、しずかにそう安堵あんどした。



「いやあ、本当ほんとうにありがたいですね、狄蓮娜ディリエナ小姐じょうおぼえていただいているとは!」

桃花晏矢とうか・アンシ笑顔えがおうなずき、つづけてわたしほう視線しせんけた。

「どうやら、布雷克ブレイクさんは、ひとかおおぼえるのが、あまり得意とくいではないようですね?」

わたしかわいたわらいを二度にどほどかべ、そのまま否定ひてい肯定こうていもせず、黙認もくにんすることにした。

「それより……どうして、あなたがここに?」

わたしあわてて話題わだいえる。

べつたいした機密きみつでもありませんよ~」

桃花晏矢とうか・アンシかたをすくめてった。

わたしは、聖王國せいおうこく交流使者こうりゅうししゃという立場たちばで、六島之國ろくとうのくにているんです。今回こんかいおも物資ぶっし取引とりひき書簡しょかんわたしが目的もくてきでして、ついでに故郷こきょうにもかおそうかと。」

「え? じゃあ、あなたは六島之國ろくとうのくに出身しゅっしんなんですか?」

「うーん、そうともれませんね」

桃花晏矢とうか・アンシすこかんがえるようにこたえた。

ちち六島之國ろくとうのくに人間にんげんで、はは聖王國せいおうこく出身しゅっしんです。二人ふたり聖王國せいおうこく定住ていじゅうしてから、わたしまれました。ですから、血筋ちすじえば、六島之國ろくとうのくに半分はんぶんいているだけ、ということになります。」

「なるほど」

わたし納得なっとくしたようにうなずいた。


簡単かんたん挨拶あいさつわしたあと雰囲気ふんいき多少たしょうなりともやわらいだ。

しかし、それでも――この一連いちれん混乱こんらんは、わたし胸中きょうちゅうおも居座いすわつづけている。

わたしたちは、まだこの国土こくどあしれたばかりだというのに、

これほどまでの規模きぼ災厄さいやくを、すでにたりにしてしまったのだ。

「……まさか、これもあの黒棺神こくかんしん仕業しわざなのか?」

わたしこえとしてつぶやいた。

脳裏のうりかんだのは、いまだ一度いちど姿すがたあらわしたことのない存在そんざい

それでいて、たび道中どうちゅう各国かっこく情勢じょうせいしずかに、しかし確実かくじつ影響えいきょうおよぼしつづけてきた、

あの――得体えたいれないかみである。


冗長じょうちょう入国手続にゅうこくてつづきにあたまなやませていた、その最中さなか――

埠頭ふとう突如とつじょいきめたかのような重苦おもくるしい静寂せいじゃくつつまれた。

遠方えんぽうから、沈着ちんちゃく重厚じゅうこう足音あしおとひびいてくる。

やがて、一人ひとり高身こうしんおとこが、ゆっくりと人々(ひとびと)の視野しやへとあゆってきた。

その人物じんぶつは、紫黒色しこくしょく鎧甲がいこうまとい、肩甲けんこうには雲紋うんもん神徽しんききざまれている。

には長刃ちょうじんい、そのはな気配けはいは、否応いやおうなく周囲しゅうい圧倒あっとうしていた。

周囲しゅうい兵士へいし官員かんいんたちは、ほとんど反射的はんしゃてき背筋せすじばし、

空気くうき一瞬いっしゅんにしてめる。

あちこちからひくささやごえがり、

このおとこけっして只者ただものではないことは、だれにもあきらかだった。

その光景こうけいまえに、

わたし即座そくざげ、同行どうこうするものたちへ、冷静れいせいでいるよう合図あいずおくる。

――不用意ふようい行動こうどうは、厳禁げんきんだ。


かれ安定あんていした歩調ほちょうわたしたちのまえすすると、まり、うやうやしくも渾厚こんこうこえくちひらいた。

失礼しつれいながら――お二人ふたりが、聖王國せいおうこくにおいて混沌級こんとんきゅうひょうされた冒険者ぼうけんしゃ

布雷克ブレイク殿どの狄蓮娜ディリエナ殿どの相違そういありませんか?」

わたし緹雅ティア視線しせんわした。

多少たしょうおどろきはあったものの、れいしっするわけにもいかず、わたし丁寧ていねいこたえる。

おそります。ですが……失礼しつれいながら、あなたさまは……?

わたしたちは、以前いぜんにおいしたおぼえはないはずですが。」

おとこしずかに一礼いちれいし、名乗なのりをげた。

「これは失礼しつれいをいたしました。

わたしは、六島之國ろくとうのくに直属ちょくぞく最高神さいこうしん御前ごぜんつかえる親衛軍しんえいぐんべるもの――

大将軍だいしょうぐん稲天寺いなてんじもうします。」

稲天寺いなてんじ名乗なのったそのおとここえひく力強ちからづよく、

その語調ごちょうには、るぎない威厳いげんと、相手あいててるふか敬意けいいめられていた。



「堂々(どうどう)たる大将軍だいしょうぐんが、直々(じきじき)にわたしたちをたずねてられるとは……なにきゅうようする御用ごようでも?」

わたしはそう問いいかけた。

晏矢アンシ閣下かっかもご同席どうせきですし、なにより皆様みなさま遠路えんろはるばるおしの貴客ききゃく

ここでばなしをするより、ちかくの茶舍ちゃしゃ場所ばしょうつし、そこであらためてくわしい事情じじょう説明せつめいさせていただければとぞんじます。」

緹雅ティア周囲しゅうい見渡みわたし、さらに、まだ完了かんりょうしていない入国手続にゅうこくてつづきへと視線しせんけ、やや躊躇ちゅうちょするようにくちひらいた。

「でも……わたしたち、入境にゅうきょう手続てつづきが、まだわっていませんよね……?」

「ご心配しんぱいにはおよびません。」

稲天寺いなてんじおだやかに微笑ほほえみ、その視線しせんかたわらの晏矢アンシへとけた。

さきほど、晏矢アンシ閣下かっかより、すでに皆様みなさま身元みもとについて証言しょうげんいただいております。

さらに、こちらでも特別とくべつ通路つうろ使用しよう許可きょかし、核発かくはつ――いえ、認可にんか手続てつづきを即時そくじ処理しょりするよう、すでに指示しじしております。」


たして――三分さんぷんたないうちに、

審査しんさ担当たんとうしていた衛兵えいへい小走こばしりでもどってきた。

その両手りょうてには、通行証つうこうしょう正式せいしき印章いんしょうが、うやうやしくささげられている。

「どうぞおりください。六島之國ろくとうのくには、皆様みなさまのご来訪らいほう歓迎かんげいいたします。」

衛兵えいへい口調くちょう丁重ていちょうで、その眼差まなざしには、さきほどよりもあきらかに一段いちだんふか畏敬いけいいろ宿やどっていた。

「……手際てぎわがいいな。」

わたしおもわず苦笑くしょうかべた。

正直しょうじき、まだしばらく海風うみかぜさらされながら、半日はんにちちかたされる覚悟かくごをしていたのだが、まさかここまで一気いっき事態じたい好転こうてんするとはおもってもみなかった。

こうして――

わたしたちの入境にゅうきょうめぐ厄介やっかい問題もんだいは、拍子抜ひょうしぬけするほど、あっけなく解決かいけつしたのである。


「そこです。」

稲天寺いなてんじは、ひろ石板せきばんかどち、山腰さんよう彼方かなたひろがる青竹林あおたけばやししめした。

そのしめ方向ほうこうへとすすみ、わたしたちは羽生島はぶじまでももっと名高なだか高級こうきゅう茶舍ちゃしゃ――

天方鳴てんほうめいへと辿たどく。

そこは山腰さんようきずかれた、ひときわはなやかな建築けんちくだった。

白玉石はくぎょくせきめた階段かいだんが、がる軒先のきさき二階建にかいだての木亭もくていへとつづき、

遠目とおめにも、外壁がいへきかかげられた書法しょほう木牌もくはいはいる。

その筆跡ひっせきは、遒勁りゅうけいかつ力強ちからづよく、ただならぬかく物語ものがたっていた。

「……あれが、茶舍ちゃしゃなのか?」

わたしはその光景こうけい見上みあげ、おもわずくちにした。

「ここはですね、事前じぜん予約よやくしていなければ、まずせきれない場所ばしょですよ!」

桃花晏矢とうか・アンシが、おどろきをかくさずこえげる。

わたしたちは稲天寺いなてんじみちびかれ、石道いしみち辿たどってあるはじめた。

すすむにつれて、周囲しゅうい景色けしき港区こうく喧騒けんそうから、山林さんりん静謐せいひつへと、徐々(じょじょ)に姿すがたえていく。

足元あしもと石板せきばん丁寧ていねいみがかれ、

数十歩すうじゅっぽごとに、神獣しんじゅう紋様もんようんだ立灯りっとうならぶ。

その合間あいまうようにほそ水路すいろはしり、

みみには、かすかな潺潺せんせんとした水音みずおと心地ここちよくひびいていた。


わたしは、さきほど災変さいへん見舞みまわれた方角ほうがくとお見遣みやりながら、おもわずひくこえ稲天寺いなてんじたずねた。

「さっきのような事態じたいきた直後ちょくごなのに……ここは、まだ普通ふつう営業えいぎょうできるんですか?」

稲天寺いなてんじしずかにうなずき、いた口調くちょうこたえる。

危機ききったあと神明かみさまがたは、全国ぜんこく警戒けいかい等級とうきゅう十級じっきゅうから五級ごきゅうへとげられました。

今回こんかい災害さいがいは、至高天原島しこうあまはらじま中央ちゅうおう区域くいき限定げんていされており、ほか大半たいはんの島々(しまじま)は影響えいきょうけておりません。

そのため、既定きてい応変おうへん手順てじゅんしたがい、すみやかに通常つうじょう秩序ちつじょ復帰ふっきすることが可能かのうなのです。」

「……なんだか、こういう事態じたいにはれっこみたいですね。」

わたしは、なか冗談じょうだんめかした調子ちょうしで、おもわずそうつぶやいた。

それをいた稲天寺いなてんじは、わずかに微笑ほほえみ、両手りょうて背後はいごんでつ。

その姿すがたは、まるで講義こうぎ説明せつめいおこなうかのように、じつ真剣しんけんだった。

布雷克ブレイク殿どの、おたわむれを。

これこそが、平素へいそよりおこなっている訓練くんれん成果せいかなのです。

六島之國ろくとうのくにでは、定期的ていきてき防災ぼうさいおよび災害さいがい対応たいおう演練えんれん実施じっししております。

その目的もくてきは、いざ危機きき発生はっせいしたさいにも、国家こっか統治とうち機構きこう全面的ぜんめんてき麻痺まひすることのないよう、万全ばんぜんすためなのです。」


晏矢アンヤはここまでくと、おもわずくちはさんだ。

「はぁ~、そのてん聖王國せいおうこくじゃ真似まねできませんよ。

あちらでは、災害さいがい模擬もぎ訓練くんれんどころか、ときには雷雨らいうひとつでみっつの区域くいきあらそいをはじめて、最後さいご全部ぜんぶまとめて中央ちゅうおう報告ほうこくして、だれかに責任せきにんける始末しまつですから。」

稻天寺いなてんじはそれをいて、かるわらった。

「それも、聖王國せいおうこくばかりをめるわけにはいきません。

聖王國せいおうこく領土りょうどがあまりにも広大こうだいですから、行政ぎょうせい効率こうりつを隅々(すみずみ)までとどかせるのは、元来がんらい容易よういなことではありません。

もし頻繁ひんぱん演練えんれんおこなおうものなら、それだけで莫大ばくだい時間じかんついやすことになるでしょう。」

そう前置まえおきしたうえで、稻天寺いなてんじつづけた。

「とはいえ、六島之國ろくとうのくにがここまで整備せいびされた体制たいせいきずけているのは、左右大臣さゆうだいじん調度ちょうど監理かんり賜物たまものです。

神座しんざもとつかえた歴代れきだい大國主おおくにぬしは、つね左右大臣さゆうだいじん補佐ほさけてきました。

かれらは朝政ちょうせいべ、法令ほうれいさだめ、人員じんいん管理かんりし、このくに実際じっさいうごかしている中枢ちゅうすうなのです。

その叡智えいちは、我々(われわれ)が到底とうていおよぶものではありません。」

「……なんか、本当ほんとう報告書ほうこくしょんでるみたいなはなしかただな。」

わたし小声こごえで、おもわずんだ。

すると稻天寺いなてんじは、微塵みじん動揺どうようせず、至極しごく真面目まじめかおこたえた。

「それが、我々(われわれ)親衛隊しんえいたい基礎訓練きそくんれんです。

質問しつもんおうじるさいは、つね要点ようてんさえ、筋道すじみちてて簡潔かんけつ説明せつめいする――それがもとめられております。」


「え? では、六島之國ろくとうのくに統治とうちしているのは、神明かみ本人ほんにんではないのですか?」

わたしあるきながら、純粋じゅんすい疑問ぎもんくちにした。

さきほど稲天寺いなてんじからいた「左右大臣さゆうだいじん」や「大國主おおくにぬし」という言葉ことばが、わたしなかかっていたのだ。

正直しょうじきなところ、

この世界せかいでは、すべてが神権しんけんによって直接ちょくせつ支配しはいされているものだと、わたしおもんでいた。

「そのてんかんしては、六島之國ろくとうのくに聖王國せいおうこくも、じつはとてもよくています。」

稲天寺いなてんじいた口調くちょうこたえた。

まるで、こうした質問しつもんけることに、すでにっているかのようだった。

神明かみさまがたは、平時へいじにおいては国政こくせい直接ちょくせつ介入かいにゅうなさいません。

実際じっさい統治とうちになっているのは、大國主おおくにぬし左右大臣さゆうだいじんによって構成こうせいされた政務中枢せいむちゅうすうです。

かれらが政策せいさく立案りつあんし、行政ぎょうせい管理かんりし、人事じんじ調度ちょうど配分はいぶん処理しょりする――

このくに実務じつむめんうごかしているのは、まさにかれらなのです。」


「じゃあ、神明かみさまたちはなにをしているんです? 閉関修行へいかんしゅぎょうとか?」

緹雅ティアは、からかうような調子ちょうしで、何気なにげなくたずねた。

神明かみさまがたになっておられるのは、我々(われわれ)では容易よういれることのできない、より高位こうい事象じしょうです。」

稲天寺いなてんじはそうこたえ、語調ごちょうをややおごそかなものへとえた。

「たとえば、大結界だいけっかい維持いじ災厄さいやく封印ふういん災変さいへん兆候ちょうこう推移すいい監視かんしなどが、それにたります。

もっとも……最近さいきん重大じゅうだい出来事できごと相次あいついでいるため、神明かみさまがた一時的いちじてき緊急きんきゅう調度ちょうど介入かいにゅうされ、神域会議しんいきかいぎ主宰しゅさいし、戦略せんりゃく配置はいち指揮しきなさっています。」

わたしちいさくうなずき、その内容ないよう胸中きょうちゅうめた。

――どうやら、この災変さいへんは、当初とうしょ想像そうぞうしていた以上いじょうに、異常いじょう深刻しんこくなものらしい。

そうして会話かいわわしているうちに、足元あしもと石階せきかいき、

わたしたちは「天方鳴てんほうめい」の門前もんぜんへと辿たどいた。

もんまえでは、一本いっぽんこうしずかにかれており、

かすかにただよ檀木だんぼく梅花ばいかじりった香気こうきが、周囲しゅうい空気くうきまでも清澄せいちょうげているかのようだった。

さすがは、だたる高級こうきゅう茶舍ちゃしゃである。

まだもんくぐまえだというのに、すでに専任せんにんものひかえ、しずかにわたしたちをむかえる準備じゅんびととのえていた。


「ご来店らいてんまことにありがとうございます。天方鳴てんほうめいは、すでに皆様みなさまをおちしておりました。」

出迎でむかえたのは、藍白らんぱく基調きちょうとした高級こうきゅう和服わふくつつんだ女性じょせい給仕きゅうじであった。

所作しょさ優雅ゆうがで、こえやわらかく、外見がいけんからは、ひと兎人族とじんぞくであるとかる、特徴的とくちょうてき兎耳うさみみのぞいている。

皆様みなさまがご予約よやくなさっている茶間ちゃまは、すでにご用意よういととのっております。

また、ほか貴賓きひんの方々(かたがた)も、すでにおそろいでございます。どうぞ、わたしつづいてお入り(はいり)ください。」

ほか貴賓きひん」という言葉ことばみみにした瞬間しゅんかん

わたしはわずかにまゆをひそめ、稲天寺いなてんじへと視線しせんげた。

――どうやら、この茶会ちゃかいは、わたしたち一行いっこうだけのものではないらしい。

それどころか……

この招待しょうたいそのものが、最初さいしょから綿密めんみつげられていた可能性かのうせいすら、脳裏のうりをよぎった。



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