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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第二卷 第一章 帰還-5

「つまり……昨夜さくや、あの海之王うみのおう突然とつぜんあらわれ、しかも理由りゆうからないまま姿すがたしたらしい。こうした事態じたいは、歴史上れきしじょうでも、ほとんど前例ぜんれいがないといた。」

わたし朝食ちょうしょくべながら、今朝けさみみにしたうわさ簡単かんたん説明せつめいした。その口調くちょうには、どこかぬぐいきれない無奈むなにじんでいた。

こうした異常いじょう変化へんかは、どうかんがえても違和感いわかんおぼえずにはいられない。

「そうなの~?」

緹雅ティアほおづえをつきながら、のんびりと返事へんじをした。その口元くちもとには、かくしきれない微笑ほほえみがかび、まるで最初さいしょから結末けつまつっていたかのようだった。

彼女かのじょ視線しせんあきらかにわたしにはけられていなかったが、その「計画通けいかくどおり」とでもいたげな空気くうきが、事態じたいけっして単純たんじゅんではないことを、わたしつよかんじさせた。



今回こんかいは……たぶん、わたしたちのうんかっただけだろう?」

わたし牛乳ぎゅうにゅう一口ひとくちみ、口元くちもとについたよごれをぬぐいながらった。

「だからっただろう、昨夜さくや感知かんち結界けっかい使つかうべきじゃなかった。本当ほんとう危険きけんすぎた。」

「やだ~、こえなーい、こえなーい~」

緹雅ティア即座そくざ両耳りょうみみふさぎ、まるでたこのように身体からだをソファへして、そのまま居座いすわるつもりらしかった。

わたし牛乳瓶ぎゅうにゅうびん彼女かのじょひたいたた衝動しょうどう必死ひっしこらえた。

すこしは真面目まじめになってくれないか! なにきていたら、わたしたちはねむっているあいだに、うみかぶ死体したいになっていたかもしれないんだぞ?」

べつにいいじゃない~。どうせ本当ほんとう危険きけんだったら、妲己ダッキ雅妮ヤニー連絡れんらくしてくれるんだから~」

彼女かのじょは、まるで当然とうぜんのことのようにった。


きみとおりだ。では、なぜ昨日さくや妲己ダッキ雅妮ヤニーわたしたちに連絡れんらくしてこなかったんだ?」

緹雅ティアはへへっとわらい、視線しせんをきらりとらした。

「だって、まえもって彼女かのじょたちにっておいたんだも~ん。宇宙うちゅう爆発ばくはつするレベルの危機ききでもきないかぎり、わたしたちを邪魔じゃましちゃダメって~」

わたしおもわずいきをついた。なるほど、やはり緹雅ティア仕業しわざだったのか……。

「……つまり、きみ意図的いとてきに、彼女かのじょたちにわたしたちへの連絡れんらくめさせていた、ということか?」

「そのとおり!」

彼女かのじょほこらしげにうなずき、その行為こういがどれほどおそろしいものか、まるで理解りかいしていない様子ようすだった。

「だって、せっかくの貴重きちょうよる中断ちゅうだんされちゃうでしょ~」


「つまり、昨夜さくやあの海之王うみのおう退しりぞけたのは、妲己ダッキだったのか?」

「たぶんね~」

緹雅ティア自分じぶんかみさきもてあそびながら、いかにも不機嫌ふきげんそうな表情ひょうじょうかべた。

かんじ、たいした相手あいてでもなかったし~。たぶん、だれかをまえに、うみかえされたんじゃない?」

……この言葉ことばを、甲板かんぱん恐怖きょうふふるえ、ひざをついていた騎士団きしだんいたら、きっときながらこうたずねるだろう。

きみたちは昨夜さくや部屋へや一体いったいどんな神薬しんやくくちにしたんだ。どうして、そんなに平然へいぜんとしていられるんだ?」と。

わたしはそれ以上いじょうなにわなかった。

そのままきびすかえして入口いりぐちかい、ひとごとのようにつぶやいた。

「どうやら、彼女かのじょたちにきちんとはなし必要ひつようがありそうだな。」



わたし即座そくざみなあつめた。

すると、妲己ダッキ雅妮ヤニー琪蕾雅キレア米奧娜ミオナ朵莉ドリたちが、行儀ぎょうぎよく一列いちれつならびながら部屋へやはいってきて、そして――

「ドン!」

五人ごにんいきわせたかのようにそろってひざまずき、ひたいゆかけた。その動作どうさはあまりにも流暢りゅうちょうで、わたしおもわず、彼女かのじょたちは事前じぜん練習れんしゅうしていたのではないかとうたがってしまった。

「も、申しもうしわけございません! 緹雅ティアさま凝里ギョウリさま!」

わたしおもわず、にしていた牛乳ぎゅうにゅうこぼしかけ、あわてて両手りょうてった。

「ま、って、って! いったいなにをしてるんだ! どうしてきゅうひざまずくんだよ?」

琪蕾雅キレアかおげ、その口調くちょうはひどく真摯しんしで、まるで天地てんちるがす大罪たいざい告白こくはくするかのようだった。

「もしや、昨夜さくやわたしたちの対応たいおう不十分ふじゅうぶんだったために、緹雅ティアさま凝里ギョウリさまが……よるたのしみをうしなってしまい……そのけんで、本日ほんじつ処罰しょばつをおけになるのでは……」

その言葉ことばはなたれた瞬間しゅんかん部屋へや全体ぜんたいは、がたいほどのまずい沈黙ちんもくつつまれた。


ちがうから!!!」

わたし緹雅ティア同時どうじさけび、二人ふたりとも耳元みみもとまでになった。

「えっ? ちがうの?」

米奧娜ミオナはきょとんとした表情ひょうじょうたずねた。

わたしたち、これからどうやって悔過書かいかしょくかまでかんがえていたんだけど……」

そういながら、彼女かのじょ本当ほんとうふところから一枚いちまいの「悔過書かいかしょ」をした。しかも、そのうえには、きちんといんまでされている。

「ち、ちがうんだってば! わたしはただ、昨夜さくやなに情報じょうほうつかめたかどうか、それをりたかっただけなんだよ!」

わたしあわてて弁解べんかいした。

しかし、彼女かのじょたちのかおには、なおも疑問ぎもんかんだままだった。

その視線しせんさらされ、わたしかおはますますあつくなり、たまらず話題わだいえることにした。

「……昨夜さくやきみたちは、あの海之王うみのおう交戦こうせんしたんだよな?」


妲己ダッキはゆっくりとかおげ、口元くちもとにかすかなみをかべた。

「はい。ですが……わたしにとっては……あれは、ただ気性きしょうあら海獣かいじゅうぎません。まるで子供こどものようなものです。」

……子供こども

かぜび、あめあやつり、触手しょくしゅ一振ひとふりすればふね一隻いっせき転覆てんぷくさせかねない、あの存在そんざいが「子供こども」だと?

それは、騎士団きしだん全体ぜんたいふるがらせ、呼吸こきゅうすらおおきくできなくさせた、深海しんかい災厄さいやくだったはずだ……。

「だからったじゃない~。あれ、べつたいしたことなかったでしょ~」

緹雅ティアかたをすくめ、三明治サンドイッチくわえたままはなした。口端くちばしには、美乃滋マヨネーズすこいている。

「……」



わたし太陽穴たいようけつみ、あたま爆発ばくはつしそうだとかんじた。

このひとたちは、根本的こんぽんてきかみレベルの基準きじゅんで、この世界せかいている。

「もういい、今回こんかい不問ふもんにしよう。」

正直しょうじきなところ、このけん本気ほんき追及ついきゅうしようとしても、理由りゆうらしい理由りゆう見当みあたらない。

よくかんがえてみれば、彼女かのじょたちはわたしがまったく気付きづかないうちに、災難さいなんそのものを解決かいけつしてしまっていたのだ。

しかも、その行動こうどうはやさと確実かくじつさは……正直しょうじき文句もんくけようがなかった。



情報じょうほうあつめられなかったという理由りゆうだけでてるのは、あまりにも強引ごういんすぎる。

それに、そもそもこの一連いちれん出来事できごと根本原因こんぽんげんいんは、すべて、ある金髪きんぱつ碧眼へきがん女性じょせいうら指示しじしていたことにあるのだから。

「は~い、ありがとうございま~す、凝里ギョウリさま~」

五人ごにん異口同声いくどうおんせいこえそろえた。その口調くちょうあますぎて、いているこちらの頭皮とうひがぞわりとするほどで、あまりにもいきっていたため、わたしおもわず、最初さいしょからわせでもしていたのではないかとうたがってしまった。

そして緹雅ティアはというと、すこはなれたところでくちさえてしのわらいをしており、まるで悪戯いたずら成功せいこうしたちいさなきつねのようだった。


そのとき東方とうほうそらひろがる雲層うんそうは、すでに太陽たいようによってあたたかな金色きんいろげられていた。

ふねすすつづけるにつれ、遠方えんぽうにはりくかげ次第しだい視界しかいへとかびがってくる。

それこそが、六島之國ろくとうのくに構成こうせいする島々(しまじま)のひとつ――羽生島はぶじまであった。

六島之國ろくとうのくにおとずれるすべての外来者がいらいしゃは、身分みぶん高低こうていわず、かなら最初さいしょ羽生島はぶじま入国審査にゅうこくしんさけなければならない。

ここは、六島之國ろくとうのくに対外たいがい開放かいほうしている唯一ゆいいつ正規せいき入口いりぐちであり、同時どうじ六島之國ろくとうのくに航路こうろささえる中核ちゅうかく拠点きょてんでもあった。

羽生島はぶじまは、ほかの五島ごとうとはことなり、唯一ゆいいつ大結界だいけっかいおおいをけていない地域ちいきである。

そのため、このしま六島之國ろくとうのくに他勢力たせいりょくとのあいだ外交がいこう商貿しょうぼう情報じょうほうおこなわれる要衝ようしょうとなっており、往来おうらいもっとおおく、またもっと繁栄はんえいした商業拠点しょうぎょうきょてんとして機能きのうしていた。

つたくところによれば、六島ろくとう全体ぜんたいおおう「大結界だいけっかい」は、外来がいらい危険因子きけんいんし正確せいかく探知たんちするきわめて強力きょうりょく能力のうりょくそなえており、許可きょかなきちから侵入しんにゅうこころみた瞬間しゅんかん即座そくざ感知かんちされるという。

そのため、外来船がいらいせんほかの島々(しまじま)へかうには、かなら羽生島はぶじま審査しんさ通過つうかし、幕府官員ばくふかんいんから特製とくせい通行証つうこうしょう発給はっきゅうされなければならない。

それをはじめて、接送船せっそうせんえ、各島かくとうへとかうことがゆるされるのである。



しかし、わたしたちのふねがゆっくりと羽生島はぶじまちかづき、入境審査にゅうきょうしんさける準備じゅんびはいろうとした、そのとき――

遠方えんぽうそらに、突如とつじょとして異変いへんあらわれた。

「……あれは?」

はる彼方かなた天際てんさいで、すような橘紅色きっこうしょく火光かこう雲層うんそうやぶり、空中くうちゅうらめきながらあらくるっているのがえた。

わたし即座そくざひるがえして視線しせんけた。

そこには、六島之國ろくとうのくに大結界だいけっかいおおわれた最大さいだいしま――至高天原島しこうあまはらじま――の中央ちゅうおうが、しんじがたいことに、はげしいほのおつつまれている光景こうけいうつっていた。

そのほのおは、ありふれた火災かさいなどではない。

まるで地獄じごく深淵しんえんからがった怒焔どえんのように、濃厚のうこう気配けはい元素げんそ乱流らんりゅうともない、上空じょうくうにおいておそるべき火焔かえんうず形作かたちづくっていた。

まだしま全体ぜんたいへとひろがってはいないものの、烈焔れつえんまれた区域くいきでは、建築物けんちくぶつ崩壊ほうかいし、石柱せきちゅうたおれ、地表ちひょう一面いちめんげ、ひびれていた。

それはまるで、神罰しんばつによってたたつぶされた焦土しょうど――まさしく人間界にんげんかい煉獄れんごくのような有様ありさまである。

すうキロメートルもはなれているにもかかわらず、この災厄さいやくはな圧迫感あっぱくかんは、はっきりとはだかんることができた。

――そこは、六島之國ろくとうのくに神明かみたちが居住きょじゅうするである。



六島之國ろくとうのくに神明かみたちの居所いどころである「六玄閣ろくげんかく」は、いまだ堂々(どうどう)とそびえち、損傷そんしょうけた様子ようすはなかった。

建築けんちく外周がいしゅうには、なおも幾重いくえにも結界けっかいめぐらされ、烈火れっか侵食しんしょく完全かんぜん遮断しゃだんしている。

だが、その六玄閣ろくげんかく正面しょうめんひろがる広場ひろばは、すでに一面いちめん火海かかいしていた。

雅妮ヤニーなに感知かんちできるか?」

わたしかえり、雅妮ヤニーに問いいかけた。

雅妮ヤニーまゆつよせ、しずかにじたまま、数秒間すうびょうかんだけ意識いしき集中しゅうちゅうさせる。

やがて、彼女かのじょはゆっくりとくびよこった。

「……いいえ。結界けっかい干渉かんしょうつよすぎて、なに感知かんちできません。」

雅妮ヤニー感知能力かんちのうりょく完全かんぜん遮断しゃだんできるとは……」

妲己ダッキしずかにくちひらいた。その声音こわねには、めずらしく、わずかな敬意けいいにじんでいる。

相当そうとう強力きょうりょく結界けっかいだ。……さすがは――」



妲己ダッキ言葉ことばえるまえに、緹雅ティア突然とつぜんさけんだ。

て! あれはなに怪物かいぶつ!?」

わたしたちは即座そくざに、彼女かのじょしめした方向ほうこうへと視線しせんけた。

さか廃墟はいきょ只中ただなかから、一本いっぽん黒影こくえいてんくようにがるのがえた。

それは単一たんいつ形体けいたいではなかった。

断垣だんがい残壁ざんぺきあいだから、やっつの蛇首じゃしゅ巨大きょだい怪物かいぶつが、ゆがみながら姿すがたあらわしたのだ。

その怪物かいぶつは、からうように身躯しんく中央ちゅうおうにそびえたせ、

はっつの頭部とうぶすべてから、ひくおもうなごえ同時どうじひびかせていた。



あれは……けっして「一般的いっぱんてき魔物まもの」などではありない。

それは、禁忌きんき深淵しんえんからてきた災厄さいやくそのもののようで、まるでなに明確めいかく目的もくてきってあらわれたかのようにかんじられた。

……これが、今回こんかい災難さいなんみなもとなのだろうか?



さん月前げつまえからすでに出現しゅつげんしていた異象いしょう対処たいしょするため、六島之國ろくとうのくに神明かみたちは、はやくから警戒状態けいかいじょうたいはいっていた。

かれらは毎週まいしゅうまって神域会議しんいきかいぎひらき、六島ろくとうめぐって交代こうたい巡視じゅんし情報収集じょうほうしゅうしゅうおこなうと同時どうじに、各地かくち神職しんしょく結界師けっかいし、あるいは魔法使まほうつかいともつね連絡れんらくたもっていた。

そのため、六島之國ろくとうのくに住民じゅうみんにとって、これらの神明かみたちはけっして馴染なじみのない存在そんざいではない。

しま神社じんじゃみなとで、ふとした瞬間しゅんかんかれらとすれちがうことすら、めずらしいことではなかったのである。



あるあるひ聖王國せいおうこく派遣はけんされていた密探みったんきゅうもどり、極秘ごくひ情報じょうほう一条いちじょうもたらした――

聖王國せいおうこくにおいて、大規模だいきぼ災変さいへん発生はっせいし、国家こっかがほとんど壊滅かいめつしかけた、というのである。

さらに重要じゅうようなのは、その災厄さいやく退しりぞけた英雄えいゆうたちが、まもなく六島之國ろくとうのくに到着とうちゃくする予定よていだというてんだった。

このしらせをけ、神明かみたちは当初とうしょ歓迎かんげいしめしていた。

何故なぜなら、その二人ふたりは、たる未来みらい災厄さいやくかうための、重要じゅうよう助力じょりょくとなり存在そんざいかもしれなかったからである。



しかし――災難さいなんは、だれもが予想よそうしていたより、はるかにはやおとずれた。

予兆よちょうもなく、前触まえぶれもない。

激烈げきれつ空間くうかん歪曲わいきょく波動はどうとともに、巨大きょだいかつ不気味ぶきみ魔法陣まほうじんが、突如とつじょ天空てんくうからとされるようにあらわれた。

その魔法陣まほうじん空中くうちゅう静止せいしし、まるでさかさにげられたふる天鐘てんしょうのような姿すがたをしている。

そこからはなたれる気配けはいは、れるものたましいふるがらせるほど、底知そこしれぬ威圧いあつびていた。



神明かみたちは即座そくざ異常いじょう察知さっちした。

伊邪那岐いざなぎ伊美那岐いざなみ即断即決そくだんそっけつ行動こうどううつり、空間魔法くうかんまほう駆動くどうして、その魔法まほう発動はつどう阻止そししようとしたが――すでにおそかった。

つぎ瞬間しゅんかん魔法陣まほうじん中心ちゅうしんけ、

巨大きょだい白色はくしょく大蛇だいじゃが、隕星いんせいのように地上ちじょうへと墜落ついらくした。

轟音ごうおんとともに、濛々(もうもう)たる塵煙じんえんがり、爆発ばくはつ連続れんぞくして大地だいちるがす。

その大蛇だいじゃは、はっつのあたまゆうし、

それぞれのひたいにはことなる紋様もんようしるしきざまれていた。

双眸そうぼう猩紅しょうこうかがやき、蛇鱗じゃりんは禍々(まがまが)しい邪光じゃこうはなっている。

それ――こそが、

太古たいこより幾度いくどとなく六島之國ろくとうのくにおびやかしてきた存在そんざい

八歧大蛇やまたのおろち」であった。


至高天原島しこうあまはらじま中央広場ちゅうおうひろばは、一瞬いっしゅんにして火海かかい焦土しょうどへとわった。

八歧大蛇やまたのおろち咆哮ほうこうはなつのと同時どうじに、空気くうきそのものがはげしくふるえ、その振動しんどうは、まるで終末しゅうまつげるかねおとひびいたかのように、周囲しゅういへとひろがっていった。

神明かみたちは即座そくざに、あらかじめ用意よういされていた封印機構ふういんきこう展開てんかいする。

幾重いくえにもかさなる魔法陣まほうじん天際てんさいかびがり、八歧大蛇やまたのおろち行動領域こうどうりょういき封鎖ふうさした。

それにより、神明かみたちは、かろうじてその暴威ぼうい無差別むさべつるわれるのをめることに成功せいこうしたのである。


九階魔法きゅうかいまほう――萬輪天火ばんりんてんか!」

天照大神あまてらすおおみかみ火紅かこう鳳羽神袍ほううしんぽうまとい、ほのお金輪きんりんへとえて戦場せんじょう突入とつにゅうした。

その一撃いちげき蛇首じゃしゅ正確せいかくとらえ、億万おくまんにもおよ火輪かりん衝撃波しょうげきは爆発ばくはつさせ、八歧大蛇やまたのおろち半身はんしん炎海えんかいへとんだ。

だが、彼女かのじょ自身じしん、それがたんなる時間稼じかんかせぎにぎないことを、はっきりと理解りかいしていた。

精神魔法せいしんまほう――月神つきがみ牽引けんいん!」

月読つくよみ虚空こくうがるようにび、銀弓ぎんきゅう展開てんかいして満月まんげつえがく。

はなたれた月光げっこう銀鎖ぎんさのごとく八歧大蛇やまたのおろちからみつき、その動作どうさ急激きゅうげき停滞ていたいさせた。

八歧大蛇やまたのおろちは、しばしのあいだ身動みうごきがれなくなる。

しかし、この程度ていど精神魔法せいしんまほうが、八歧大蛇やまたのおろちなが通用つうようするはずもなかった。

つぎ瞬間しゅんかん八歧大蛇やまたのおろち体内たいないから濃密のうみつ黒暗こくあんちから噴出ふんしゅつし、

月読つくよみ拘束こうそくは、いとも容易たやすくだかれたのである。


いまだ!」

伊美那歧いざなみ伊邪那歧いざなぎ同時どうじじゅつ発動はつどうし、両手りょうて空中くうちゅうかさわせ、魔法まほう展開てんかいした。

空間魔法くうかんまほう――空間立場くうかんりつじょう

大地だいち空間くうかんかさなりいながら崩散ほうさんはじめ、八歧大蛇やまたのおろち動作どうさ強引ごういん減速げんそくさせる。

怒気どきちていた巨大きょだいへびは、まるで泥沼どろぬましずんだかのようにうごきをふうじられ、無理矢理むりやり数秒すうびょう足止あしどめされた。

その直後ちょくご天照大神あまてらすおおみかみ月読つくよみ連携れんけいし、圧制技あっせいぎ発動はつどうする。

――混元魔法こんげんまほう黒月鳳凰こくげつほうおう

無尽むじん火羽かう四方しほうより集結しゅうけつし、神鳥しんちょう姿形すがたす。

それは天空てんくうから急降下きゅうこうかし、雷電らいでん星火せいか轟音ごうおんともないながら、轟然ごうぜん八歧大蛇やまたのおろち全体ぜんたいんだ。

地表ちひょう爆砕ばくさいし、灼光しゃっこうてんおおい、しま中央部ちゅうおうぶふかたにへとかれる。

がった塵煙じんえんは、結界けっかい高空こうくうへと一直線いっちょくせんがっていった。


だが――

その煙霧えんむおくから、天地てんちるがすかのような怒吼どこうひびわたった。

つぎ瞬間しゅんかん血紅けっこうまった蛇首じゃしゅ火海かかいやぶり、

それにつづいて、ゆがんだ巨躯きょくと、咆哮ほうこうとともに渦巻うずま魔力まりょくした。

八歧大蛇やまたのおろちは、くずちた廃墟はいきょなかからおどる。

さきほどの猛攻もうこうは、どうやら致命的ちめいてき効果こうかをほとんどあたえられていなかったらしい。

そして――

八歧大蛇やまたのおろちは、ふたた攻撃こうげき仕掛しかけようとしていた。


八歧大蛇やまたのおろち烈火れっかした廃墟はいきょなかから、憤怒ふんぬまとっておどし、つぎなる壊滅的かいめつてき攻勢こうせいはなとうとした――その瞬間しゅんかん

それは、突如とつじょとして動作どうさめた。

巨大きょだい蛇身じゃしん硬直こうちょくし、はっつの頭顱とうろたかげられ、まるでなにかをさがもとめるかのように、周囲しゅうい見回みまわしている。

その瞳孔どうこうは、突如とつじょとしてするど収縮しゅうしゅくし、

そこには、これまで一度いちどとしてせたことのない、きわめてまれ驚愕きょうがく恐慌きょうこういろかんでいた。

それは、なに異様いよう気配けはいが、しずかに――だが確実かくじつに――降臨こうりんしたことをかんったのだ。

それは、戦場せんじょう神明かみたちからはなたれるものではない。

たましいそのものが本能的ほんのうてきふるがるほどの、圧倒的あっとうてき圧迫感あっぱくかん

――まるで、ふか密林みつりんおくで、

獲物えものしずかに見据みすえる、狩人かりゅうどが、すでにそこにっているかのように。



その「」――

それえてはいない。だが、その視線しせんやいばのように空間くうかんつらぬき、ぐに自分じぶんとらえていることだけは、はっきりとかんっていた。

――げなければならない。

いますぐに。

「――シィィッ!!」

はっつのあたま同時どうじいななくのと同時どうじに、

八歧大蛇やまたのおろち空中くうちゅう魔法陣まほうじん展開てんかいした。

それは空間魔法くうかんまほう一種いっしゅであり、

魔法陣まほうじん中心ちゅうしんには、三層さんそうかさなった法陣ほうじんと、黒月こくげつ図騰ずとう複雑ふくざつからっている。

しかし――

その魔法まほう完全かんぜん展開てんかいしきるまえに、

まるで玻璃がらすのように、かわいたおとてて、無残むざんくだった。



神明かみたちは、八歧大蛇やまたのおろちがもはや空間魔法くうかんまほうによって逃走とうそうすることが不可能ふかのうになったことをさとり、連携れんけいして一斉いっせい攻勢こうせい仕掛しかける決断けつだんくだした。

しかし――つぎ瞬間しゅんかん

八歧大蛇やまたのおろち存在そんざいしていた地点ちてん大地だいちが、突如とつじょとして紅色こうしょくひかりはなった。

その異変いへん察知さっちした神明かみたちは、反射的はんしゃてき後方こうほうへと退避たいひする。

やがて、

巨大きょだい火焔かえん蓮花れんげ模様もようが、おともなく空中くうちゅうほこった。

その姿すがたは、あまりにも精緻せいちで、そして絶美ぜつびだった。

蓮花れんげしずかに回転かいてんし、

瞬時しゅんじ構造こうぞう変化へんかさせ、完全かんぜんじた円環えんかん火焔牢獄かえんろうごく形成けいせいする。

それは、まるで時間じかんそといた裁決さいけつ紋様もんようのようであった。

その火焔かえん蓮花れんげは、八歧大蛇やまたのおろちあますところなく包囲ほういし、

いまにも――それ完全かんぜんほろぼそうとしていた。



しかし、そのとき八歧大蛇やまたのおろち周囲しゅういに、もうひとつの魔法陣まほうじん出現しゅつげんした。

それは、その魔法まほう補助ほじょけると同時どうじに、またたもと場所ばしょから姿すがたした。

そして、火焔かえん蓮花れんげによって形作かたちづくられていた牢籠ろうごもまた、

八歧大蛇やまたのおろち消失しょうしつ同時どうじに、その存在そんざいうしなっていく。

それは幻影げんえいのように一瞬いっしゅんらめき、

ほどなくして崩壊ほうかいし、しずかに霧散むさんした。

そののこされたのは、

大地だいちいた、焦黒しょうこく蓮形れんけい刻印こくいんだけであった。



神明かみたちは、次々(つぎつぎ)と言葉ことばうしない、沈黙ちんもくつつまれた。

「……いまのは……?」

伊美那歧いざなみまゆせ、地面じめんのこげた痕跡こんせきから、視線しせんはなそうとしなかった。

たところ、火焔かえん結界けっかいだ……」

月読つくよみひくつぶやき、その表情ひょうじょうは、戦闘中せんとうちゅうよりも、なお一層いっそう重苦おもくるしい。

「だが、あれはわたしたちの世代せだいでは、けっして行使こうしできない封印魔法ふういんまほうだ。」

天照大神あまてらすおおみかみもまた、しずかに言葉ことばいだ。

世代せだい問題もんだいだけではありません。あのちからの『階層かいそう』そのものが……完全かんぜんに、わたしたちを凌駕りょうがしています。」

――では、

この魔法まほう行使こうしした施法者しほうしゃは、

一体いったい何者なにものなのか。



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