第二卷 第一章 帰還-1
(六島之國 のひとつである 妖幻島)
妖幻島 は 六島之國 を構成する島々のひとつであり、「幻 の 中 に 実 があり、夢 より 国 が 成 る」と 讃 えられる 神秘 の 地 で、至高天原島 に 次 ぐ 第二 の 大 きさを 誇 る 島嶼 である。
この 地 は 広大 な 面積 を 有 するだけでなく、妖怪 たちが 暮 らす 場所 でもある。
ほかの、習性 が 凶暴 で 各地 を 徘徊 する 魔物 とは 異 なり、妖幻島 に 棲 む 妖怪 の 多 くは 自我意識 を 持 ち、さらに 高度 な 知性 と 文化 までも 備 えている。
彼らは 人間 と 対話 を 交 わすことができ、記憶 や 感情 を 有 し、詩 を 吟 じて 句 を 詠 み、歴史 を 伝承 し、さらには 自 ら 市 や 学堂 を 開 く 者 までおり、独自 で 安定 した 社会構造 を 形 づくっている。
このような 文明 は 古代 から 存在 していたわけではなく、伝説 のような 存在 である 初代妖王 が、極端 に 動揺 した 暗黒時代 において 築 きあげたものである。
過去 の 暗黒 の 時期、初代妖王 は 立 ち 上 がり、妖怪 たちを 率 いて 抗戦 に 身 を 投 じた。
彼女は 非凡 な 知恵 と 威信 を もって、もともと 各地 に 散 り 散 りに 存在 し、互 いに 敵視 していた 妖怪 たちを まとめ上 げ、伝説 の 九人 と 共 に 外界 の 魔神 に 対抗 した。これは、戦後 に 六島之國 の 秩序 を 再建 する 基盤 ともなった。
この 歴史 があったからこそ、妖怪 はもはや 人々(ひとびと) の 口 に 上 る 災禍 の 源 ではなくなったのである。
彼らは 正式 に「国民」としての 身分 を 獲得 し、ほかの 種族 と 並 び、六島之國 の 国民 として 認 められることとなり、そして 妖幻島 は、彼らが 暮 す 故郷 となった。
島 に 住 む 妖怪 たちは 今 もなお、初代妖王 が 遺 した 信条 を 厳守 し、みだりに 戦端 を 開 かず、力 を 妄 りに 振 るうこともなく、伝承 と 守護 を 己 の 務 めとしている。
妖幻島 の 真上 には、まるで 夢境 のような 空中島嶼──雲閣 が 漂浮 している。
この 雲層 の 上 に 浮 かぶ 島嶼 もまた、六島之國 を 構成 する 一島 に 属 し、あたかも 俗世 と 隔絶 されたかのように、天際 の 中 に 独立 して 存在 している。
雲閣 は 一年中、淡白 で 軽柔 な 雲気 に 包 まれており、空気 には 雅 やかな 花香 と 妖気 が 融 け 合 った 気配 が 漂 い、島全体 が 伝説 の 仙境 のような 不可思議 さを 放 っている。
ここはまた、天狐神社 の 所在 する 場所 でもあり、庇護 と 精神信仰 を 象徴 する 聖域 となっている。
六島之國 の 国民 にとって、天狐神社 は 希望 と 祈願 を 託 す 聖地 である。
妖族 であれ、ほかの 種族 であれ、すべての 者 がそれを 六島之國 の 命運 が 交会 する 場所 として 崇 めている。
雲閣 へ 参拝 しようとするなら、妖幻島 に 設 けられた 一 つの 伝送口 を 経由 しなければならない。それは 妖族 の 符文 によって 構築 された 伝送門 であり、天狐神社 が 直 に 与 える 伝送符 を 所持 している 者 のみが 伝送陣 を 起動 し、雲海 を 越 えて、聖域 へと 続 く 階梯 に 足 を 踏 み 入 れることができる。
毎月 の 満月 の 夜、月色 が 水 のように 澄 み、銀輝 が 大地 に 降 りそそぐ 時、妖幻島 の 中央 にある 湖泊──鏡湖 では、静謐 にして 荘厳 な 儀式 が 一度 執 り 行 われる。
湖 の 中央 には 水面 に 浮 かぶ 古代 の 祭壇 があり、白玉石 と 妖晶 によって 築 かれ、その 表面 にはつねに 淡 い 光芒 が 漂 っている。
その 時、天狐神社 の 現任 の 宮司 にして、第二代 の 妖王──七葉真が 自 ら 此地 に 臨 み、妖族 と 天地 のために 祈願 を 捧 げ、さらに 初代妖王 が 伝 えた 神舞 を 奉納 する。
七葉真 は 初代妖王 の 唯一 の 血脈 であり、銀白色 の 長髪 は 月光 の 下 で 軽紗 のごとく 靡 き、双瞳 は 晨曦 の 青藍色 を 映 し、その 気質 は 幽蘭 のように 清雅 で 俗 を 離 れている。
彼女 の 舞姿 は 極 めて 霊性 に 富 み、歩 みは 風 のように 軽 く、身 の 転 じ 方 は 水 のように 流 れ、まるで 天地 と 共 に 舞 っているかのようである。その 姿 は 妖怪 たちを 魅了 するだけでなく、観礼 に 訪 れる 賢者 や 術者 にも 深 い 敬意 を 抱 かせる。
妖幻島 の 多 くの 妖 にとって、彼女 は単なる 領袖 ではなく、信仰 の 象徴 にして、過去 と 未来 を 結 び 合 わせる 希望 そのものである。
しかし、この 夜 にはどこか 異様 な 気配 があった。
それは、わたしたちが 六島之國 へ 旅程 に 向 かう 前夜 のことであり、満月 の 時 であるにもかかわらず、湖面 には 濃厚 な 霧 が 立 ち 込 め、周囲 はあまりにも 静寂 で、あまりの 静 けさに 胸 が 締 めつけられるほどだった。
七葉真 は いつも(何時) と 変 わらず、神紗 を 纏 い、馴染 んだ 足取 りで 鏡湖 の 祭壇 へと 向 かった。
彼女は 銀白 の 狐尾草 を 一束、壇前 に 置 き、静 かに 念誦 した。
しかし、まだ 咒語 を 唱 えている 最中、祭壇 の 底部 に 黒色 の 紋路 が 微 かに 浮 かび、蛇影 のように 静 かに 彼女 の 足首 へと 這 い 上 っていった。
その 瞬間、彼女は 異変 を 鋭 く 察 した。
感知 に 満溢 するのは 濃 い 悪意。まるで 無形 の 手 が 空気 に 暗波 を 走 らせたかのようだった。
彼女は 反射的 に 退 こうとしたが、足 は 動 かない。
無形 の 咒印 が 驚異 の 速度 で 地面 から 噴 き 上 がり、彼女 の 全身 をその 場 に 縫 い 付 けるように 拘束 した。
そして彼女には、自 ら の 力 が 確 かに 呑 み 込 まれていくのが 分 かった。
これは 普通 の 魔法 ではなかった。
七葉真 は 魔法 を 発動 しようと 必死 に 抗 ったが、掌 はまるで 束縛 されたかのように 動 かず、魔力 は 流転 を 拒 むように 滞 った。
眼前 の 月色 すら 歪 み 始 め、天 と 地、光 と 影 の 狭間 に、深淵 のような 黒暗 の 裂縫 が 現 れた。
七葉真 の 意識 は 徐々(じょじょ) に 霞 んでいく。
黒暗 に 呑 み 込 まれる 直前、彼女 の 脳裏 に 浮 かんだのは、朧 げな 一 つの 面影──
それは 朧げに思い続けてきた人影でありながら、名 も 容貌 も 思 い 出 せない 誰 かの 姿 だった。
双唇 は 微 かに 震 え、涙 を 含 んだ 声 が 零 れる。
「対不起……母……母親大人……」
最期 の 微 かな 声 が 散 る と同時 に、濃霧 は 消 え、祭壇 は 再 び 静寂 に 沈 み、湖面 には 風 も 波 も 立 たなかった。
そして 遠方、暗影 に 潜 む 何者 かが、ゆがんだ 低音 の 囁 きを 漏 らし、まるで 訪 れつつある 嵐 を 愉悦 に 浸 るかのようだった。
こうして 妖幻島、そして 六島之國 そのものが、再 び 命運 の 試練 に 晒 されようとしていた──
しかし、その 兆 しを 感 じ 取 る 者 は 未 だ 居 なかった。
聖王国 の 大戦 を 歴 て、わたしたちは 滅亡 の 瀬戸際 にあったこの 国家 を 守 り 抜 くことに 成功 した。
あの 戦争 は、ただの 血 と 火 の 洗礼 ではなく、この 世界 の 現実 と 残酷 が、遊戯 の 中 の コード(コード) などでは 到底 比 べものにならないということを、わたしに 深刻 に 悟 らせるものだった。
敵 が 潜 ませていた「悪意」は、わたしの 想像 をはるかに 超 えていた。
たしかに、わたしたちは 八仙洞 で 過去 からの 予言 の 一片 を 見出 したが、その 内容 はあまりにも 朧 で、これからの 行動 を 定 める 明確 な 指針 とは 成 りえなかった。
解読 の 難 しい 断片 に 囚 われるより、わたしたちは 目前 に 開 かれようとしている 新 たな 旅程──
すなわち 六島之國 へ 向 かうことに 集中 すべきだった。
(弗瑟勒斯 の 會議廳 の 内)
六島之國 へ 向 かうには 海路 しかなく、たとえ 飛行魔法 であろうと、これほど 遥遠 の 海洋 を 越 えることはできなかった。
「今回 の 六島之國 行き は 想像 以上 に 危険 かもしれない。芙莉夏、正直 に言えば、わたし は 随時 戻 って 支援 できないかもしれないことが 不安 なんだ。」
「汝 は 案 じる 必要 はない。老身 には 頼 もしい 助力 がある。むしろ老身 が 案 じておるのは、汝 と 緹雅 の 此度 の 安全性 よ。」
芙莉夏 はまるで 睿智 の 長者 のようで、眼差 しには 年月 の積み重なった 経験 と、後輩 への 無言 の 気懸 かり が 滲 んでいた。
「姉 さま は心配しすぎだよ~。雅妮(藍櫻) も 一緒 だし! それに 妲己(紫櫻) と 下弦月 も同行するし。」
「そうじゃな。すでに 完全 な 聯繫網 は 構築 されておるし、雅妮 も必ずしも 弗瑟勒斯 に 留 まる必要 はあるまい。たまには 外 に出て 気分転換 するのもよかろう。」
聖王国 での 経験 を 経 て、わたし はこの 世界 にも 遊戯 と 類似 した 武器 や 道具 が 存在 することを 理解 した。
そのため、わたし はそれに 応 じた 準備 も 整 えており、未知 の 敵 に 対 する 要 は 情報 の 収集 にあるのだ。
「未知 の 敵 に 対峙 する 時、戦力 はあくまで 目前 の 危機 を 凌 ぐ 手段 にすぎない──」
わたし は 胸中 でそう 思索 する。
「だが、情報 が 欠如 していれば、わたしたちは 永遠 に 状況 に 振 り 回 されるだけだ。」
六島之國 へ 向 かう 唯一 の 方法 は、あの 遼闊無辺 の 海域 を 越 えることだけであった。
さいわい、わたしたちが 聖王国 を 発 つ 前 に、聖王国 の 神明 たちは、わたしたちのために 通行 が 許 された 船票 と、聖徽 が 刻印 された 引薦函 を 用意 してくれていた。
この 書状 は、わたしたちが 六島之國 に 入国 する 際 の 重要 な 通行証 となり、わたしたちの 身分 を 証明 するだけでなく、公式 または 地方勢力 からの 大半 の 詮索 や 妨害 をも 退 けるだけの 効力 を 備 えていた。
啓程前、わたし と 緹雅 は 聖王国 王城 の 北部 にある 郊区 を 訪 れた。
そこには、銀白石材 で 彫 られた 墓碑 が 松林 の 間 に 静 かに 佇 んでいた。
ここは 聖王国 の 英雄 たちが 長眠 する 場所 である。
わたしたちは 一束 の 花 を 携 え、凡米勒 の 墓碑 の 前 に 歩 み 寄 った。
これは 萊德 たちから 聞 いていた 話 で、彼が 生前 に 自宅 の 庭 に 植 えていた 花種──紫霞 である。
花弁 は 滑 らかで 瑞々(みずみず) しく、まるで 細緻 な 絹糸 に 包 まれたようで、その 中心 には 淡 い 紫光 が 漂 っていた。
紫霞 の 花語 は 追憶。
凡米勒 は、亡くなった 妻 を 偲 ぶため、この 花 を 選 んで 育 てていたのだ。
「ありがとう、凡米勒。
おかげで、わたしたちの 旅路 はここまで 順調 に 進 んだ。
仇 はすでに 討 った。
どうか、安 らかに……。」
わたし は 両手 を 合 わせ、
凡米勒 に 祈 りを 捧 げながら、
彼 がわたしたちに 残 してくれた 助力 に 静 かに 感謝 した。
わたしたち 一行 は 港口 へ 向 けて 出発 する 準備 をしていた。
わたし と 緹雅 のほかに、妲己、雅妮、そして 弦月團 の 三姉妹 という、かなり 手 の 掛 かる 面々(めんめん) も同行することになっていた。
本来、最初 の 計画 はこうだった──
わたし と 緹雅 が 藍櫻 を 連 れて 先行 し、
六島之國 に 到着 してから 伝送門 を使って 他 の 仲間 を 呼 び 寄 せる。
そうすれば 手間 も 省 けるし、旅路 における 危険 や 混乱 も 最小限 に 抑 えられる。
このような「分批前進」という 戦略 は、わたし にとっては 極 めて 合理的 に思えた。
なにしろ 騒 がしく 落 ち 着 きのない 小娘 たちを 船 に 乗 せるということは……
まるで 幼稚園 を 丸 ごと 甲板 に 搬 び 込 むようなもので、
その 光景 を 想像 しただけで、わたし の 頭皮 は 軽 く 痺 れてきたのだ。
しかし、前日 の 夜、わたし が 會議室 で 物品 の 清單 を 確認 していた 最中、
入口 から 突然、ガラガラとした 騒音 が 響 いてきた。
そして 次 の 瞬間、
妲己 が 三姉妹 を 引 き 連 れて 突入 し、
その 顔 にはまるで、わたし が 彼女 たちを 極寒地獄 に 流放 するとでも 宣言 したかのような、
悲壯 と 涙光 がいっぱいに 浮 かんでいた。
「凝里 大人!!」
彼女 たちは 声 を 揃 えて 叫 び、
その 迫力 に、わたし は 手 にしていた 魔導筆 を 壁 に 投 げ 付 けそうになったほどだ。
「どうか、どうか 老身 たちを 同行 させてくだされ!!」
「ま、まって、まってっ!」
わたし は 驚愕 の 表情 で 固 まり、
彼女 たちが 見事 に 横 一列 に 跪 き、
しかも 涙 まで 妙 に 揃 って 目元 に 溜 まっているのを 見 て、思わず叫んだ。
「ちょっと!?
これ 悲劇 の 舞台 か何かなの!?
画風 が完全に 違 うんだけど!!」
「わたしたちを 一緒 に 連 れていかないなんて、ひどすぎるよっ!」
最年幼 の 朵莉 は、まるでわたし が 救命浮木 であるかのように 地面 に 倒 れこみながらわたし の 脚 に 抱 き 付 いてきた。
「雅妮 お姉 さんだけ 一緒 に行けるなんて、
わたしたちはここに 置 いていかれて、
まるで 捨 てられた 小動物 みたいじゃんかぁ!」
「わたし がいつ 君 たちを 捨 てたって言ったの!? 」
わたし は必死 に彼女 を 脚 から 引 き 剝が そうとしたが、
抱脚 スキルが 何時 の 間 にか 満等 に 達 していたらしく、びくともしない。
「ちゃんと言ったでしょ?
あとでわたし が 伝送門 を開いて 呼 び 寄 せるから、それでいいじゃないの!」
「それじゃ 駄目 なのだ〜!」
妲己 は 口 を 尖 らせ、腰 に 手 を 当 て、ぷんすかと 怒 りながら言った。
「雅妮 だけ 冒険 に 同行 できて、
船 では 美味 しいものを食べて、
海景艙 で眠れて、
しかも 緹雅 大人 と 喋 り放題なのに、
わたしたちは何 もなし……
こんなの 不公平 すぎるのだ!!」
「いや、あのね——」
わたし は 藉 りにでも 助 けを求めようと、
一旁 で 静 かにお茶を 飲 んでいる 緹雅 の 方 を 向 いた。
「これ、どう考えても 理由 として 成立 してないよね!?
わたしたちは 情報調査 に行くのであって、
豪華郵輪 のバカンスツアーじゃないんだよ!?」
しかし 緹雅 はただ 優 しく 微笑 んだだけで、
わたし を 助 ける 気配 をこれっぽっちも 見 せてくれなかった。
「もう 知 らない! 知 らない! わたしたちも 一緒 に 行 きたいの!
緹雅 大人、わたしたちの 味方 になってよ!」
三姉妹 はついに 緹雅 を 自分 たちの 陣営 に 引 き 込 んでしまった……
まったく、この 子 たち は本当に 手 の 掛 かる 面々(めんめん) だ。
「凝里、いいじゃないの。
たまには外に出るのも悪くないわ。
いつも 弗瑟勒斯 に 籠 もっていたら、そりゃあ 退屈 にもなるでしょう?」
「まさか……
緹雅 まで彼女 たち の 味方 するの?」
わたし は 目 を 見開 き、思わず 凝視 した。
「わあーーっ!! 緹雅 大人 、最高!!」
三姉妹 は一斉 に 跳 び 上 がり、
そのまま 緹雅 に 抱 き 付 いて、
「えへへ〜」と 嬉 しそうに 笑 い 声 を 上 げた。
さっきまで 泣 いていたのが 嘘 のような、
まるで 瞬間切替 の 表情集 だ。
「君 たち……
本当 に 狡猾 すぎるでしょ……。」
わたし は 額 を 押 さえながら 溜息 を 吐 き、
この 航程 のあいだに 静 かに 隠 れられる 場所 が
まだどこかに残っているのだろうかと、心 の 中 で 必死 に 計算 を始めていた。
「じゃあ、わたし、三套 の 換洗衣服 を 持 っていってもいい?
それから、わたしの 魔法泡泡浴劑 も!」
朵莉 はすでに 興奮 しながら 行李 の 点検 を始めていた。
「船 の上 で新しく 作 った 藍莓蛋糕 を試してみてもいい?
今度 は絶対 に 厨房 を爆 さないって約束するから!」
米奧娜 はわたし を 期待 たっぷりの 眼差 しで見つめ、
まるでわたし が 頷 けば 移動厨房 を即座 に召喚できるかのようだった。
「わたし は 百變戲服 と 面具 を用意してきたのよ!
もしかしたら 六島之國 で 巡迴舞台劇 を開けるかもしれないじゃない!」
琪蕾雅 は楽しそうに 語 り、
かつて 爆炸裝 を着て 王家神殿 を 徘徊 し、
爆弾魔 と 誤解 された黒歴史 を完全 に忘れていた。
「……これ、完全 に 鬧劇 が始まる 前兆 だよね?」
「凝里 大人 、そんなこと言わないでくだされ。」
妲己 は相変わらず 笑顔 で、
その 声音 は柔らかく上品 だが、
わたし にはその奥 に
「どうせ 反対 しても無駄 だよ」
という 自信 がしっかり聞こえていた。
わたし は深く 息 を吸 い、遠くを 見 やった。
「……わかった、わかったよ。
全員 一緒 に行こう。
でも言っておくけど、船 の上 で 騒 いだり 問題 を起こしたりしたら……
絶対 にわたし が 伝送 で戻 して、ついでに
『満月』と『月蝕』 に 指導 してもらうからね。」
弦月團 の 副団長 の名前 を出して少しは 脅 しになると思ったが……
「了解っ!!」
数名 は即座 に 立正 し、
訓練 された 小兵 のように大声 で返事 した。
……どうやら、わたし の言葉 は一滴 も耳 に入っていないらしい。
おそらく三時間 もすれば、彼女 たちはこの約束 を
きれいさっぱり忘れているのだろう……。




