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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一卷 第七章 未来に灯りをともす-4

わたしたちがこの神殿しんでん目的もくてきは、わたしたちが不在ふざい期間きかん弗瑟勒斯フセレスひとおそわれるのをふせぐためであり、そのためには第八神殿だいはちしんでんからかくされた防御機関ぼうぎょきかん起動きどうしなければならなかった。

このあんかんがしたのは芙莉夏フリシャであった。

第八神殿だいはちしんでん数多かずおおくの仕掛しかけにちているのなら、最後さいご仕掛しかけは弗瑟勒斯フセレス全体ぜんたい防御機関ぼうぎょきかん一斉いっせい起動きどうさせるものとなる。

だが、それでも統合とうごうおこなうための指揮中心しきちゅうしん必要ひつようであり、ゆえにその中枢ちゅうすう第八神殿だいはちしんでんもうけられていた。


第八神殿だいはちしんでん外観がいかんは、神秘的しんぴてきでありながらも壮麗そうれい印象いんしょうあたえた。

周囲しゅういには様々(さまざま)な石像せきぞうならび、それぞれが威厳いげんただよわせながら、言葉ことばはつすることなく聖域せいいきまもっているかのようであった。

石像せきぞう形態けいたい多様たようで、ねこおおかみさそり蜘蛛くも蜜蜂みつばち章魚たこ麋鹿えぞじかなど、実在じつざいする生物せいぶつかたどっている。

それらの彫刻ちょうこくきわめて精巧せいこうで、いまにもいしなかからいのち宿やどり、ふたたうごすのではないかとおもわせるほどであった。

これまで数多かずおおくの仕掛しかけをくぐけてきたものであれば、この場所ばしょにも致命的ちめいてきわなひそまれているのではないかとうたがうだろう。

神殿しんでん内部ないぶ一歩いっぽあしれるたびに、警戒心けいかいしんゆるめることはできない。

あゆみをすすめるごとに、彫刻ちょうこくされた石像せきぞうたちは、まるで侵入者しんにゅうしゃしずかに見守みまもるかのように視線しせんそそぎ、その沈黙ちんもく背筋せすじややかにでていくような、不気味ぶきみ感覚かんかくおぼえさせた。


事実じじつとして、これらの石像せきぞうそのものには攻撃性こうげきせい存在そんざいしない。

それらはしずかに四方しほうたたずみ、まるで生命せいめいうしなったかのようにえ、侵入者しんにゅうしゃたいして自発的じはつてき攻撃こうげき仕掛しかけることはない。


もしこの場所ばしょ短時間たんじかん休息きゅうそくるなら、なに危険きけんこらない。石像せきぞうたちは依然いぜんとして沈黙ちんもくのまま、存在そんざいつづける。


しかし、一度いちど攻撃こうげきけると、それらの石像せきぞう瞬時しゅんじ起動きどうする。

これらの石像せきぞう単純たんじゅん装飾物そうしょくぶつではない。それぞれが反撃型はんげきがた仕掛しかけとして設計せっけいされており、一体いったいごとに多様たよう魔法まほうふうめられている。


もしそのなか一体いったい攻撃こうげきくわえれば、破壊はかいすることはできず、わりに活性化かっせいかし、はなたれたすべての攻撃こうげき石像せきぞうによって反射はんしゃされ、同時どうじきわめて強力きょうりょくなエネルギー反応はんのうともなってかえってくる。


石像せきぞう完全かんぜん起動きどうしたあとは、その攻撃こうげきパターンが異常いじょう複雑ふくざつになる。

姆姆魯ムムル納迦貝爾ナガベル内部ないぶ数多かずおおくの魔法陣まほうじんそそんでおり、たとえひとつの殲滅魔法せんめつまほうであっても、一隊いったい完全かんぜん消滅しょうめつさせるほどの威力いりょくゆうしていた。


唯一ゆいいつ方法ほうほうは、ただちにこの神殿しんでんはなれることだった。

神殿しんでん内部ないぶには、第九神殿だいきゅうしんでんへとつうじるとびら存在そんざいしており、それこそが唯一ゆいいつ脱出路だっしゅつろ、この危機ききからすためのみちであった。

もし石像せきぞう完全かんぜん起動きどうした時点じてん退避たいひできなければ、その大門だいもん石像せきぞうによって完全かんぜん封鎖ふうさされる。

そして一度いちどとびらざされれば、神殿しんでんないのすべての出口でぐち消失しょうしつする。

その瞬間しゅんかん、どれほど抵抗ていこうしようとも、運命うんめいわらず、かなら殲滅せんめつされる運命うんめいにあった。


——しかし、まだひとつだけ方法ほうほうのこされている。

それぞれの石像せきぞう背後はいごには、かくされたちいさなあな存在そんざいしている。

このあな普通ふつうのように目立めだつものではなく、きわめて精巧せいこうにつくられた鍵穴かぎあなであった。

これらの鍵穴かぎあな石像せきぞう魔法まほう機構きこう緊密きんみつ連動れんどうしており、専用せんようかぎ使つかえば、石像せきぞう魔法まほう起動きどう強制的きょうせいてき停止ていしし、その防御機構ぼうぎょきこう解除かいじょすることができる。

すべての石像せきぞうかぎまれた瞬間しゅんかん異空間いくうかんへの転送門てんそうもんしずかに出現しゅつげんする。

そここそが、すべての機関きかん統率とうそつする指揮中心しきちゅうしんであり、同時どうじ第八神殿だいはちしんでんなかでももっと神秘的しんぴてき場所ばしょなのだ。


指揮中心しきちゅうしん内部ないぶには、唯一ゆいいつ管理者かんりしゃまっている。

彼女かのじょこそが『櫻花盛典おうかせいてん』の第七席だいななしき藍櫻あおおう――雅妮ヤニーであった。

雅妮ヤニー具体的ぐたいてき存在そんざいではない。

彼女かのじょには実体じったいがなく、攻撃能力こうげきのうりょくたない。

その存在そんざいは、むしろ精神せいしん魂魄こんぱくそのものにちかい。

圧倒的あっとうてき感知能力かんちのうりょくとおじて、彼女かのじょ第九神殿だいきゅうしんでん以外いがいのすべての領域りょういき感知かんちすることができる。

藍櫻あおおう感知範囲かんちはんい限界げんかいらず、

弗瑟勒斯フセレスのどこかで異常いじょう発生はっせいすれば、

彼女かのじょ即座そくざにそれを察知さっちし、的確てきかく反応はんのうしめすことができるのだった。


通常つうじょう状況じょうきょうでは、雅妮ヤニーほか神殿しんでん姿すがたあらわすことはない。

特別とくべつ魔法まほうによってびかけられたときのみ、彼女かのじょ霊体化れいたいかというかたち出現しゅつげんする。

その本体ほんたいつね第八神殿だいはちしんでんとどまりつづけている。

雅妮ヤニー本体ほんたいつね第八神殿だいはちしんでんまもり、彼女かのじょ職務しょくむ弗瑟勒斯フセレス全体ぜんたいにおけるすべての機関きかん管理かんりであった。

神殿しんでん存在そんざいするあらゆる機構きこう――攻撃型こうげきがたであれ防御型ぼうぎょがたであれ――は、すべて彼女かのじょ掌握しょうあくかれている。

彼女かのじょはこの神殿しんでん核心かくしんそのものであり、そのちから神殿しんでん運行うんこう密接みっせつむすびついている。

設計せっけい段階だんかいからかく機関きかん起動きどういたるまで、

すべての工程こうてい雅妮ヤニー承認しょうにん監視かんし実行じっこうされる。

それゆえ、彼女かのじょ神殿しんでん全体ぜんたい運作うんさつかさど中枢ちゅうすうでもあった。

雅妮ヤニー許可きょかなくしては、これらの機関きかんけっして勝手かって作動さどうすることはない。

――うなれば、雅妮ヤニーとは弗瑟勒斯フセレスそのものとっても過言かごんではなかった。


いわゆる秘術魔法ひじゅつまほうとは、雅妮ヤニー直接ちょくせつあやつり、機関きかん干渉かんしょうくわえる術式じゅつしきのことである。

もしだれかが神殿しんでん機関きかん起動きどうし、それを突破とっぱしようとこころみたとしても、雅妮ヤニー容易ようい干渉かんしょうしてめようとはしない。

たんなる「停止ていししろ」というさけびでは、雅妮ヤニーけっして反応はんのうしない。

彼女かのじょ理解りかいしている――もしだれかが一言ひとこと機関きかんめられるのなら、その設計せっけいそのものが無意味むいみになり、神殿しんでん本来ほんらいつべき防御機能ぼうぎょきのううしなってしまうことを。

ましてや、もしだれかが変身魔法へんしんまほう使つかってわたしたちの姿すがたけたり、あるいは不正ふせい手段しゅだん機関きかん干渉かんしょうしようとしたなら、

そのときこそ、わたしたちのかれた状況じょうきょう一層いっそう危険きけんなものとなるだろう。


凝里ギョウリさま緹雅ティアさま第八神殿だいはちしんでん指揮中心しきちゅうしんへようこそ。」

雅妮ヤニー本体ほんたいにはかたちがなく、

わたしたちのまえには、あおかがや光球こうきゅうしずかにただよっていた。

雅妮ヤニーひさしぶりだね。元気げんきそうでなによりだ。」

「はい。前回ぜんかい芙莉夏フリシャさまがいらしたさいに、

魔力瓶まりょくびん在庫ざいこをすべ(全)て補充ほじゅうしてくださいましたので、

いまの私はとても元気げんきでございます。」

雅妮ヤニー神殿しんでん存在そんざいするあらゆる機関きかん掌握しょうあくしているが、

同時どうじにそれは膨大ぼうだい魔力まりょく消費しょうひする防御系統ぼうぎょけいとうでもあった。

彼女かのじょ魔力量まりょくりょうきわめてたかく、

ぜん弗瑟勒斯フセレスなかでもわたしぐほどの規模きぼほこっていた。

しかし、機関きかん維持いじにはない魔力まりょく供給きょうきゅう必要ひつようであり、

消耗しょうもう速度そくど回復かいふく上回うわまわる。

ゆえに、魔力瓶まりょくびんによる補助ほじょ不可欠ふかけつであった。


今日きょううかがいしたのは、すこしお願い(ねがい)したいことがあるからだ。」と、わたし雅妮ヤニーかってった。

大人たいじんおおせがたかがたにございます。弗瑟勒斯フセレスはもともと皆様みなさま大人たいじんがたのすべてにほかならず、臣下しんかである私は、ただ大人たいじんがたにわずかなちからささげるのみ。とてもお手数てすうなどとはもうせません。」

雅妮ヤニーうやうやしくいていた。姿すがたはよくえなかったが、そのこえいろから、わたしたちにたいする敬意けいいがはっきりとつたわってきた。

私はつづけてった。

今後こんご弗瑟勒斯フセレスかく大神殿だいしんでんでは、すべての守護者しゅごしゃたちがそと行動こうどうすることになる。だからこそ、そなたの任務にんむはきわめて重要じゅうようだ。」

臣下しんかはすでに晋見廳しんけんちょうにて、大人たいじんがたのご計画けいかく拝聴はいちょういたしました。おそれながら、臣下しんか具体的ぐたいてきなにをすればよろしいでしょうか?」

雅妮ヤニー第八だいはち神殿しんでん指揮しきセンターにいながらも、霊体化れいたいかした分身ぶんしんによって、ひそかにほか場所ばしょ見守みまもることができる。

私は雅妮ヤニー彼女かのじょ任務にんむかした。

「まず第一だいいちに、第一だいいちから第七だいしち神殿しんでんには召喚魔法しょうかんまほう攻撃魔法こうげきまほうもうける予定よていだ。だが、それらの魔法まほうには、そなたから魔力まりょく供給きょうきゅうしてもらう必要ひつようがある。

第二だいにに、のちほどわたしたちはそなたの霊体化れいたいかした分身ぶんしんともなって六島之國ろくとうのくにかう。そのでは、そなたのちから必要ひつようとすることになるだろう。」


「おちください、凝里ギョウリさま。」

「どうしたのだ?」

「もし六島之國ろくとうのくにかわれるのであれば、臣下しんか本体ほんたい同行どうこうさせていただけませんでしょうか?」

「ほう? なぜだ? もしおまえになにかあったら、復活ふっかつできなくなるかもしれないぞ。」

凝里ギョウリさま臣下しんか霊体化れいたいかしたのち弗瑟勒斯フセレスないではちからそこなわれることはございません。しかし、霊体れいたい弗瑟勒斯フセレスはなれると、おおくの能力のうりょく制約せいやくけ、本来ほんらいちから発揮はっきできなくなってしまうのです。そうなれば、臣下しんか大人たいじんがたのおそばにいても、しんにおやくてなくなってしまいます。」

雅妮ヤニー言葉ことばいて、私ははっとさとった。

これまで姆姆魯ムムル雅妮ヤニー同行どうこうさせていたとき、そこまでくわしい説明せつめいけていなかった。そのため、私はただ霊体化れいたいかした雅妮ヤニーともなうだけで十分じゅうぶんだとおもんでいたのだ。


「まったく、こまったものだ。」

雅妮ヤニー本体ほんたいれてくべきかどうか――私はしばしまよいをいだいた。

心配しんぱいしないで!」

そのとき、緹雅ティア両手りょうてひろげて雅妮ヤニーせ、にっこりとわらいながらった。

「もしなにかあっても、わたしがちゃんとまもってあげるから。」

緹雅ティアのその言葉ことばいて、私はそれ以上いじょうなにわなかった。


大丈夫だいじょうぶなにかんがえているのか、ちゃんとわかってるよ。安心あんしんして。」

そうささやくように、緹雅ティアはそっと雅妮ヤニー耳元みみもとでそうった。


「ですが、魔力まりょく供給きょうきゅうかんしては、霊体化れいたいかした雅妮ヤニーからしか抽出ちゅうしゅつできません。もしてき遭遇そうぐうした場合ばあい魔法まほう発動はつどう速度そくどすこおそくなるでしょう。」

「ちょっとって、それなら“あれ”を使つかえばいいんじゃない?」

「“あれ”?」

凝里ギョウリわすれちゃったの? 耶夢加得イェモンガドたおしたあと、わたしたちがあたらしいギルド武器ぶきれたじゃない。」

その言葉ことばいて、私はようやくおもした。

――あのときれた公会こうかい武器ぶき全自動追撃手ぜんじどうついげきしゅ」のことを。

「そ、それを……どう使つかえばいい?」

魔力まりょく継続けいぞくてき供給きょうきゅうすれば、さまざまな機構きこう自動じどうてき反応はんのうするの。しかも、味方みかたあやまってきずつける心配しんぱいもない。まったく、すばらしい武器ぶきよ。」

「だが、あれはいま宝蔵庫ほうぞうこ保管ほかんしてある。雅妮ヤニーでは取りにけないぞ。」

「それなら、あとでわたしってくるわ。これさえあれば、雅妮ヤニー霊体れいたいとおして魔力まりょくおくるだけで、簡単かんたん防御ぼうぎょできるもの。」

緹雅ティアはそうって、自信じしんありげに微笑ほほえんだ。



「でも、そういう自動じどう操作そうさ仕組しくみって、本当ほんとう大丈夫だいじょうぶなのか? 攻撃こうげき効果こうかおもったほどないかもしれないと心配しんぱいなんだ。」

私はまだどこか不安ふあんいきれずにいた。

すると緹雅ティアは、まるでにもめないようにかる口調こうちょうこたえた。

「だいじょうぶだって~! どうせあんなの、時間じかんぐためのものでしょ? それに、てき本当ほんとう侵入しんにゅうしてくるとはかぎらないし、たとたって――おねえちゃんがいるじゃない!」

「そ、そうだな……。」

おもわず苦笑くしょうしながら、私はかえすしかなかった。

たぶん私は、むかしからひとたよることにれていないのだろう。

なにごとも自分じぶんだけでげようとするくせがあり、それがときにはほかひとわる影響えいきょうあたえてしまう。――だめだ、こんなかんがかたなおさなければ。

こうして弗瑟勒斯フセレス防御ぼうぎょけん片付かたづけたあと、わたし緹雅ティア第八だいはち神殿しんでんあとにした。



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