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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一卷 第七章 未来に灯りをともす-2

わたしたちは妲己(ダッキ)からの連絡れんらくると、すぐに聖王国せいおうこく拠点きょてんにある小屋こやもどった。

神明かみたちは亞拉斯(アラース)つかわし、一箱ひとはこ包裹ほうかくわたしたちにたくした。

今回こんかい亞拉斯(アラース)人形にんぎょう魔法まほう使つかわず、みずか姿すがたあらわした。

本来ほんらいなら、あなたたち自身じしん神殿しんでんかっていただく予定よていでした。ですが、神明かみさまがのちにいくつかの事情じじょう考慮こうりょされ、わたしわりにおとどけすることになりました。」

亞拉斯(アラース)こえおだやかで、表情ひょうじょうやわらかだった。

かつてのように高圧的こうあつてき態度たいどえ、そこには敬意けいい謙遜けんそんしずかににじんでいた。


わたし包裹ほうかくると、くるりとけ、小屋こやなかはいろうとした。

って!」

なにようでも?」

「……」

亞拉斯(アラース)一瞬いっしゅん言葉ことばうしない、まるでなにかに葛藤かっとうしているようだった。

わたしかれなにかんがえているのかを詮索せんさくするもなく、その沈黙ちんもくすこまずかった。

「あ……ありがとう……このくにすくってくれて、本当ほんとうにありがとう。」

いつもはどこか尊大そんだい傲慢ごうまん亞拉斯(アラース)が、このときばかりは礼儀正れいぎただしくあたまげていた。

なにっているのか、よくからないな。」

直接ちょくせつたわけじゃないけど、それでもかるんだ。」

そううと、亞拉斯(アラース)はゆっくりとし、わたし握手あくしゅわそうとした。

されたそのつめながら、わたしばし、しずかにった。

「いいや、このくにすくった本当ほんとう英雄えいゆうは、あなたたちだ。わたしたちは、ただのとおりすがりにすぎない。」

わたし視線しせんけながら、亞拉斯(アラース)はぽつりとつぶやいた。

「……やはり、神明かみさまたちのおっしゃっていたとおりだ。まるで――」


部屋へやもどると、わたし緹雅(ティア)はすぐに神明かみたちからとどいた包裹ほうかくひらいた。

包裹ほうかくつつみはおどろくほど簡素かんそで、特別とくべつしるしたらず、全体ぜんたいてきにとてもひかえめな印象いんしょうだった。

「これは……」

わたしなかから二枚にまい乗船券じょうせんけんし、じっとつめながら確認かくにんした。

六島之國ろくとうのくにへ、いつでもけるふね切符きっぷ二枚にまい……?」

おもわずひとごとのようにつぶやく。

まだ六島之國ろくとうのくにかう時期じきめていなかったため、このたぐいの乗船券じょうせんけんわたしたちにとって非常ひじょう都合つごうがよかった。

しかも、ふね出航時間しゅっこうじかんまで、わざわざわたしたち専用せんようとしてしるされていたのだ。



緹雅(ティア)包裹ほうかくなかはいっていたほかもの調しらべながらった。

「ここに、誓約せいやくかんする写本しゃほんもあるわ。」

彼女かのじょはその一冊いっさつひらき、丁寧ていねいとおした。

「この写本しゃほんたちは、以前いぜんあなたにはなしていたあの誓約せいやくのことじゃないかしら?」

その言葉ことばで、私はようやく神明かみたちが誓約せいやくについて言及げんきゅうし、抄本しょうほんわたすとはなしていたのをおもした。

緹雅(ティア)はさらに包裹ほうかくさがり、今度こんど一枚いちまい地図ちずした。

それはこの世界せかい全体ぜんたい地図ちずのようだったが、そのなかにはもう一枚いちまい聖王国せいおうこく国内こくない地図ちずはさまっていた。

その聖王国せいおうこく地図ちずには、あかふでしるされた場所ばしょひとつだけあった。

そのしるしなにかをしめしているようで、どこかなぞめいていた。

緹雅(ティア)はその地図ちずり、しばらくながめたあとわたしたずねた。

「これは……わたしたちにこの場所ばしょけという意味いみなのかしら?」

わたし地図ちずつめながらこたえた。

「よくからない。」

ほんのすこまよいがあったものの、むねおくでははっきりとした直感ちょっかんささやいていた。

――この場所ばしょは、きっとわたしたちがかわなければならない、重要じゅうようかぎになるのだと。


「この道具どうぐわたしためさせて!」

そうって、私はふとあるいていたいちまい巻物まきものおもし、異空間いくうかんからしてひろげた。

巻物まきものうえには精緻せいち魔法陣まほうじんえがかれており、よくるとそこには特別とくべつ文字もじきざまれていた。

この巻物まきものも、可可姆(ココム)製作せいさくしたものだ。

それはまさに超量級ちょうりょうきゅう道具どうぐ――「承載しょうさいまき」とばれるもので、魔力まりょく一切いっさい消費しょうひせずに、巻物まきものきざまれた魔法まほう発動はつどうできる。

ただし、あらゆる魔法まほう使つかえるわけではなく、元素系げんそけい魔法まほうはすべて対象外たいしょうがいであり、さらに使用しようできる魔法まほう位階いかい七階ななかいまでが限界げんかいとされている。


「その魔法陣まほうじんは……?」

緹雅(ティア)興味きょうみぶかそうに巻物まきもののぞんだ。

「これは蕾貝塔(レベッタ)白櫻しろおう)の魔法まほうなんだ。」

私は説明せつめいくわえた。

「その魔法まほうには種族制限しゅぞくせいげんがあって、わたし自身じしんでは使つかえない。けれど、あらかじめこの巻物まきもの封印ふういんしておけば、いつでも発動はつどうできる。ただし――この巻物まきもの魔法まほう一度いちどしか使つかえないんだ。」

私はゆび巻物まきもの中央ちゅうおうかるたたきながらつづけた。

「ここに封印ふういんされているのは、七階ななかいきゅう偵察魔法ていさつまほう――『靈蛇れいじゃ視界しかい』。この魔法まほう使つかえば、周囲しゅうい詳細しょうさい偵察ていさつができる。」

そしてもう一度いちど、私は緹雅(ティア)ほうながらった。

「まず白蛇はくじゃはなって初期しょき探索たんさくおこない、そのあとでこの魔法まほう使つかって視界しかい共有きょうゆうすれば――かくれた細部さいぶまでも簡単かんたんさがせるはずだ。」



すぐに、私はふところから蕾貝塔(レベッタ)古雷林德(グレリンデ)白蛇はくじゃし、その白蛇はくじゃさきあかしるしいた場所ばしょかわせた。

そののち、私は承載しょうさいまきちからはなち、『靈蛇れいじゃ視界しかい』を発動はつどうした。

魔法まほう発動はつどうとともに、白蛇はくじゃ視覚情報しかくじょうほうかべ投影とうえいされ、壁面へきめんには次々(つぎつぎ)と映像えいぞうわっていく。

それはまるで、白蛇はくじゃまなことおして世界せかいているかのようだった。

うつされた光景こうけいは――巨大きょだい岩石がんせきふさがれた洞窟どうくつ入口いりぐち

その場所ばしょあきらかに封印ふういんされたなにかであり、しずかに、しかしたしかにめられた気配けはいはなっていた。


白蛇はくじゃはその洞窟どうくつはいることができなかった。

まるでなにかの結界けっかい魔法まほうはばまれているかのようだった。

「この場所ばしょ白蛇はくじゃはそれ以上いじょうすすめないみたい。」

ふうじられた洞窟どうくつ入口いりぐち――そこには一体いったいなにかくされているのだろうか。

うえに、なに文字もじきざまれてない?」

緹雅(ティア)洞窟どうくつ上部じょうぶ見上みあげ、ゆびさした。

「『八仙洞はっせんどう』……?」

彼女かのじょはそのきざまれた文字もじちいさくげた。

「どうして、神明かみたちはわたしたちをこの場所ばしょかわせようとしているんだ?」

わたし疑問ぎもんいだいていると、緹雅(ティア)がふと包裹ほうかくなかから二通にとお手紙てがみした。

「どうやら、神明かみたちがいた手紙てがみみたい。」

わたしたちはいそいでふうり、中身なかみたしかめた。

緹雅(ティア)わたしならんで手紙てがみすすめる。

読みながら、緹雅(ティア)はそっとあたまわたしかたあずけていた。


異界いかいより二人ふたり

まずはじめに、あなたたちの助力じょりょくこころより感謝かんしゃいたします。

あなたたちの尽力じんりょくによって、わたしたちはこのたたかいに勝利しょうりすることができました。

聖王国せいおうこくのためにくしてくれたその献身けんしんに、どのようにむくいればよいのか、わたしたちにもかりません。

せめてものれいとして、いつでも六島之國ろくとうのくにわたることができるふね切符きっぷ二枚にまい用意よういしました。

また、以前いぜん約束やくそくしていた誓約せいやく写本しゃほんおな包裹ほうかくなかれてあります。

あなたたちの旅路たびじ順調じゅんちょうであるように、世界せかい地図ちず同封どうふうしました。

これがすこしでもやくつことをねがっています。

さらに、わたしたち各国かっこく神明かみとは友好ゆうこう関係かんけいたもっております。

そのため、あなたたちが今後こんごたび誤解ごかいけぬよう、紹介状しょうかいじょう用意よういしました。

どうか、安寧あんねい加護かごがあなたたちにあらんことを。

盤古バンコウ女媧ジョカ伏羲フクキ神農氏しんのうし けいしてしる



手紙てがみには、あの場所ばしょについて特別とくべつ説明せつめいかれていないみたいだね。」

「さっきの偵察ていさつ映像えいぞうからても、とくわったところはなさそうだったし。」

「じゃあ……ってみる?」

わなかもしれないだろ?」

いまさらなにってるのよ?」

「ただ、可能性かのうせい全部ぜんぶかんがえておくだけだ。きみ警戒心けいかいしんひくすぎるんだよ。」

「ふんっ~」

そんなかるいをわしながらも、私は結局けっきょく好奇心こうきしんけてしまった。

「……神明かみたちがくれた地図ちずなんだ、ってみようか。べつそんするわけでもないし。」


「もう一通いっつう紹介状しょうかいじょうだよね? これがあれば、各国かっこくまわるときにだいぶらくになるはずだ。」

たところ、へん情報じょうほうかれてないし、魔法まほう痕跡こんせきもないわね。」

ここまでて、こんなふうに慎重しんちょう確認かくにんするのは、すこ神経質しんけいしつすぎるかもしれない。

やっぱり、用心ようじんしておくほうがいいとおもう。


翌日よくじつ弗瑟勒斯(フセレス)晋見廳(しんけんちょう)

わたし緹雅(ティア)せきならんですわり、守護者しゅごしゃたちがあらわれるのをしずかにっていた。

このとき晋見廳(しんけんちょう)いきむほどしずかで、わたし緹雅(ティア)呼吸音こきゅうおんさえはっきりとこえるほどだった。

緹雅(ティア)はそっとばし、わたしこうれた。

彼女かのじょじ、なにかをかんがえているようにえた。

緹雅(ティア)つかれたなら部屋へやもどってやすむか?」

大丈夫だいじょうぶよ! ただね、あなたがそばにいてくれると安心あんしんするの。」

「でも……こんな人前ひとまえでそうされると、ちょっとずかしいんだけど。

 とくに、このあと守護者しゅごしゃたちのまえるのに。」

べつにいいじゃない。守護者しゅごしゃたちだって、わたしたちの関係かんけいってるんだから。」

緹雅(ティア)はぷくっとほおふくらませ、まるで風船ふうせんのようになっていた。


……ん? いま、なんかすごくまずいはなしいたがするんだけど?

私はおもわずかおよこけ、緹雅(ティア)ほうた。

彼女かのじょはまるで何事なにごともなかったかのように、のんびりとした笑顔えがおかべている。

緹雅(ティア)…まさかきみ、また――」

「そんなの関係かんけいないじゃない。凝里(ギョウリ)ってほんとさんね~、かわいいんだから!」

「ち、ちがう! おれにしてるのは、まさか今回こんかいもまた……?」

「あっ! ごめん、また全部ぜんぶっちゃった!」

緹雅(ティア)自分じぶんあたまかるくコツンとたたいた。

「まったく……」

私はおもわずてんあおぎ、

――今度こんどこそ、このあなってまりたくなった。


緹雅(ティア)わたしかるいをしているそのとき、、守護者しゅごしゃたちはすでに晋見廳(しんけんちょう)へとはいってきていた。

全員ぜんいん片膝かたひざをつき、あたまげてわたし緹雅(ティア)あおる。

凝里(ギョウリ)さま、緹雅(ティア)さま。守護者しゅごしゃ一同いちどう、すべてそろいました。

 我々(われわれ)はお二人ふたりくす覚悟かくごでございます。けっしてご期待きたい裏切うらぎることはいたしません。」

総指揮官そうしきかん莫特(モット)こえは堂々(どうどう)として力強ちからづよく、

その姿勢しせいには威厳いげん誠実せいじつさがただよっていた。

ああ――やはりかれ総指揮官そうしきかんにふさわしい。

私はおもわず、自分じぶん見習みならうべきだと感じた。

守護者しゅごしゃみなさん、弗瑟勒斯(フセレス)まもってくれてありがとう。」

「もったいないお言葉ことばでございます、凝里(ギョウリ)さま。」


私はまず、守護者しゅごしゃたちにたいして、聖王国せいおうこくわたしたちがてきた出来事できごと簡潔かんけつ説明せつめいした。

そののち芙莉夏(フリシャ)との協議きょうぎ結果けっかをもとに、守護者しゅごしゃたちへいくつか実行じっこうすべき計画けいかく提案ていあんした。

今回こんかい聖王国せいおうこくでの行動こうどうは、おもったような成果せいかげることはできなかった。

 だが、すくなくとも今後こんご方針ほうしん目標もくひょう明確めいかくになったはずだ。」

そう前置まえおきをしてから、私は本題ほんだいはいった。

提案ていあんすすめるまえに、まずいくつか確認かくにんしておくべき事柄ことがらがあった。

「まずは――佛瑞克(フレック)。」

「はいっ!」

尤加爾ユガールむらけんだ。

 現在げんざいきみ蕾貝塔(レベッタ)防衛ぼうえい偵察ていさつ担当たんとうしているが、なに異常いじょうられたか?」


報告ほうこくいたします、凝里(ギョウリ)さま。

 あのむらりゅう襲撃しゅうげきけたあと、現在げんざいはほぼ再建さいけんえております。

 凝里(ギョウリ)さま、そして緹雅(ティア)さまがはなれられたのちてき再襲来さいしゅうらい確認かくにんされておりません。」

「そうか。――では、あやしい人物じんぶつむらふたたあらわれたという報告ほうこくは?」

「いえ、そのようなもの確認かくにんされておりません。」

蕾貝塔(レベッタ)感知かんち偵察ていさつ能力のうりょくかんがえれば、ひとまずは安堵あんどしてよさそうだ。

「よし。――それなら、つづきそのむら守護しゅごたのむ。

 てきふたたびあのねら可能性かのうせいたかい。」

「はっ!」


尤加爾ユガールむらけん片付かたづいたあと、私は視線しせん迪路嘉(ディルジャ)けた。

つぎは――迪路嘉(ディルジャ)。」

「はい!」

見張みはりの任務にんむ、ご苦労くろうだった。」

「いえ、私はただ自分じぶんつとめをたしているだけです。」

以前いぜんわたしきみたずねた質問しつもんおぼえているか?」

「申しもうしわけありません。

 わたくし不明ふめいにより、凝里(ギョウリ)さまのお言葉ことばがどのけんしているのか……。」

すこかんがえてから、私はそのかた適切てきせつではなかったとづいた。

「いや、あやま必要ひつようはない。

 こちらのかたわるかった。

 ――龍霧山りゅうむさん偵察ていさつさいなに異常いじょうられなかったか?」

現在げんざいまでのところ、各階かくかい音魔おんま団長だんちょうたちからの報告ほうこくによれば、あやしい人物じんぶつ確認かくにんされておりません。

 ただ、時々(ときどき)冒険者ぼうけんしゃることがあり、つきに一、二人にんほどあらわれるようです。」

「その冒険者ぼうけんしゃたちは、きみ音魔おんまたちに攻撃こうげき仕掛しかけることは?」

「いいえ。音魔おんまたちは濃霧のうむ利用りようして姿すがたかくしておりますので、そう簡単かんたんには発見はっけんされません。」


「……おかしいな。」

はなしえても、私はどうしてもちなかった。

いや――むしろ、これがいまわたしにとってもっと不可解ふかかいてんだった。

聖王国せいおうこくあつめた情報じょうほうによれば、龍霧山りゅうむさん非常ひじょう危険きけん地域ちいきであるはずだ。

だが、迪路嘉(ディルジャ)報告ほうこくからは、その危険性きけんせい裏付うらづける要素ようそがまったくえてこない――。


そのとき、ふとひとつのかんがえがあたまをよぎった。

迪路嘉(ディルジャ)きみ見立みたてでは――その冒険者ぼうけんしゃたちの実力じつりょくはどうだ?」

「たいしたことありません。」

質問しつもんたいして、迪路嘉(ディルジャ)はこれまでにないほどの自信じしんせた。

なるほど……。もし相手あいてよわすぎるなら、彼女かのじょはそもそも危険きけんなさないのだろう。

迪路嘉(ディルジャ)誤解ごかいしないでほしい。きみ判断はんだんうたがっているわけじゃない。

 ただ――冒険者ぼうけんしゃをあまりあなどらないほうがいい。」

「つまり、つぎ侵入しんにゅうしてきた冒険者ぼうけんしゃは、全員ぜんいんころしてしまえばいいということですか?」

迪路嘉(ディルジャ)くびをかしげながら、まるで当然とうぜんのようにいかけてきた。

「ま、ってくれ! どうしてそういうこわ発想はっそうになるんだ!」

こころなかで私はおもわずさけんだ。

この世界せかいてから、殺生せっしょうたいしての感覚かんかくたしかににぶってしまった。

だが理性りせいいまもはっきりとげている――むやみにいのちうばうことは、絶対ぜったいにしてはいけない、と。


これまでのところ、音魔おんまおびやかすほどのてきあらわれていない。

ならば、当面とうめん増援ぞうえんおく必要ひつようはないだろう。

――緹雅(ティア)っていた。

守護者しゅごしゃたちには、必要ひつようなときに信頼しんらいしめすことが大切たいせつだと。

でなければ、かれらの負担ふたんえるばかりだ。

「いや……悪意あくいものでないかぎり、できるだけ冒険者ぼうけんしゃにはさないように。」

その一点いってんだけは、ねんのためにくぎしておく必要ひつようがあった。

凝里(ギョウリ)さま、おそれながらひとつおうかがいしてもよろしいでしょうか。」

「ん? どうした?」

悪意あくいとは……なんでしょうか?」

「えっ……」

私は一瞬いっしゅん言葉ことばうしなった。

――そうだ、わすれていた。

迪路嘉(ディルジャ)設定せっていじょう、あまりにも単純たんじゅん精霊せいれいだ。

感情かんじょうというものにたいしてきわめて鈍感どんかんで、冷静れいせいたもつことを最優先さいゆうせんつくられた精霊せいれいだ。

彼女かのじょはすでに三百十五歳さんびゃくじゅうごさいえているが、その内面ないめんいまもまだ子供こどものまま。

かつて奧斯蒙(オスモン)っていた――

遠距離攻撃手えんきょりこうげきしゅにとってもっと大事だいじなのは、つね冷静れいせいであること。余計よけい感情かんじょうつな。」と。

それは冷酷れいこくではなく、戦場せんじょう現実げんじつそのものだった。

たたかいとは、なさけではうごかない――そうおしえたのも、奧斯蒙(オスモン)らしい。

普段ふだん冗談じょうだんってわらわせるようなかれが、たたかいとなればまるで別人べつじんのようにわる。


迪路嘉(ディルジャ)の問いにたいして、私はすぐにはこたえられなかった。

どう説明せつめいすればいいのか、言葉ことばつからなかったのだ。

迪路嘉(ディルジャ)、その質問しつもんは……あとではなそう。」

そのとき、緹雅(ティア)がそっとたすぶねしてくれた。

「あり、ありがとう……緹雅(ティア)。」

「どういたしまして。」

緹雅(ティア)笑顔えがおは、まるで「ご褒美ほうびってるわ」とわんばかりだった。

仕方しかたなく、私はみなまえ彼女かのじょあたまかるでてやった。

その瞬間しゅんかん緹雅(ティア)かお両手りょうておおいながらも、かくしきれないみをかべている。

……そのうれしそうな表情ひょうじょうに、今度こんどわたしのほうがずかしくなってしまった。

ちらりと守護者しゅごしゃたちのほうをると、かれらはあわてて視線しせんらした。

――いや、ちょっとて。

わたしはいったいなにをやっているんだ……?

どうかんがえても、これじゃ威厳いげんなんてあったものじゃない。


現在げんざいふたつの最重要課題さいじゅうようかだい解決かいけつしたあと、私はあたらしい計画けいかく着手ちゃくしゅした。

「……コホン。これからはなすことは非常ひじょう重要じゅうようだ。

 各自かくじ十分じゅうぶん注意ちゅういしていてほしい。」

わたし言葉ことばに、守護者しゅごしゃたちは一斉いっせい姿勢しせいただし、真剣しんけん眼差まなざしをけてきた。

「これから、わたしたちは一部いちぶのメンバーをひきいて六島之國ろくとうのくにかう。

 おも目的もくてきは、さきつかんだ情報じょうほう事実じじつかどうかをたしかめることだ。」

私は一拍いっぱくおいて、言葉ことばつづけた。

わたしたちが六島之國ろくとうのくにかっているあいだ、

 みなにはそれぞれ行動こうどうってもらうつもりだ。

 聖王国せいおうこくでの活動かつどう基盤きばんとして、

 今後こんご各国かっこくおもむき、情報じょうほう収集しゅうしゅうすすめてほしい。」

「もっとも、我々(われわれ)は各国かっこく現状げんじょうをほとんど把握はあくしていない。

 だから、極力きょくりょくあらそいはけ、

 できることならやみなか情報網じょうほうもうきずいてほしい。」


計画けいかく全貌ぜんぼうについては、六島之國ろくとうのくに状況じょうきょう実際じっさい確認かくにんしてから、あらためてほかものたちに説明せつめいするつもりだ。

そもそも、のこいつつの大国たいこくのどこにかれらがいるのか、いま時点じてんではわたしにもからないのだから。

「では、人員じんいん配置はいちについてだが、

 安全あんぜん最優先さいゆうせんとし、かく行動こうどうにはかなら同行者どうこうしゃをつける。

 弦月団げんげつだんは『満月まんげつ』と『月蝕げっしょく』をのぞき、ほかのメンバー全員ぜんいん出動しゅつどうさせる。

 また、櫻花盛典おうかせいてんは『紅櫻あかおう』をのぞき、おなじく全員ぜんいん派遣はけんする。」

弗瑟勒斯(フセレス)防衛力ぼうえいりょく最低限さいていげんでも維持いじする必要ひつようがあるため、

私は各部隊かくぶたい戦力せんりょく配分はいぶん慎重しんちょう調整ちょうせいしていた。


佛瑞克(フレック)蕾貝塔(レベッタ)(“白櫻しろおう”)は、聖王国せいおうこくちかくのむらつづとどまる。

わたし緹雅(ティア)妲己(ダッキ)(“紫櫻しおう”)と雅妮(ヤニー)(“藍櫻あおおう”)をれて六島之國ろくとうのくにかう。

赫德斯特(ヘデスト)絲緹露(シトリュー)(“黄櫻きおう”)は荒漠之國こうばくのくにかう。

芙洛可(フロッコ)伊斯希爾(イスシール)、そして莉莉(リリ)(“粉櫻ピンクおう”)は遺跡之國いせきのくにかう。

德斯(デス)上弦月じょうげんげつ三兄弟さんきょうだい神話之國しんわのくにへ。

莫特(モット)菲瑞亞(フィレア)(“黒櫻ブラックくら”)は黄昏之國たそがれのくにかう。


正直しょうじきなところ、それぞれをどう配置はいちするかについて、私はかなりながいあいだなやんでいた。

それぞれの個人能力こじんのうりょく協調性きょうちょうせいくわえて、かうくに状況じょうきょう考慮こうりょしなければならなかったからだ。

最終的さいしゅうてきには緹雅(ティア)芙莉夏(フリシャ)助言じょげんによって決定けっていしたが、

まったく情報じょうほうがない状態じょうたいでの判断はんだんには、やはりすこ不安ふあんのこっていた。


全員ぜんいん安全あんぜん確保かくほするため、私はみな雅妮(ヤニー)(“藍櫻あおおう”)と定期的ていきてき連絡れんらくるよう指示しじした。

「これがわたしからみなへのゆいいつのお願いだ。

 けっして単独たんどく行動こうどうしないこと。

 そして、かなら自分じぶん安全あんぜん第一だいいちかんがえてほしい。」

自分じぶんでも、このかたはまるでどもがはじめてたびるときに心配しんぱいするおやのようだと感じた。

だが、緹雅(ティア)わたし背後はいごで、ただしずかに微笑ほほえんでいた。



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