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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一卷 第六章 約束を果たす-8

おなときかねおとわった直後ちょくご青龍せいりゅう回復速度かいふくそくどおどろくほどはやかった。

一時的いちじてき神明かみちからによって束縛そくばくされていたが、すぐにその影響えいきょうからなおり、瞬時しゅんじふたたがって、すべての制限せいげんはらった。

そのにはいかりのほのおがり、金色きんいろ瞳孔どうこうおくには、あらゆるものをほろぼす灼熱しゃくねつ火焔かえん宿やどっていた。

戦場せんじょう存在そんざいするすべてのいのちを、いつでも完全かんぜんくす準備じゅんびととのっているかのようだった。

亞拉斯アラースふかいきい込み、素早すばや視線しせん青龍せいりゅうどうきに集中しゅうちゅうさせた。

にぎゆみつよにぎりしめ、ふたた攻撃こうげきはなつべくかまえた。

はな一本いっぽん一本いっぽんに、亞拉斯アラース全力ぜんりょくめ、青龍せいりゅう注意ちゅういけようとした。

そのわずかな時間じかんが、仲間なかまたちに準備じゅんびととのえる機会きかいあたえるとしんじて。

弓弦ゆみづるふるえ、はなたれた空中くうちゅう銀色ぎんいろ光弧こうこえがきながらはしり、青龍せいりゅう鱗甲りんこうへとさった。

しかし命中めいちゅうたびに、青龍せいりゅうはわずかにふるわせるだけで、亞拉斯アラース攻撃こうげきによって深手ふかでうことはけっしてなかった。


亞拉斯アラースまゆふかせられ、こころうち焦燥しょうそうちていた。

かれははっきりと理解りかいしていた――自分じぶん攻撃こうげきでは青龍せいりゅうたおすことはできない。おそらく、時間じかんぐことさえかなわないだろうと。

これまで、かれつね后羿弓こうげきゅう強大きょうだいちからたより、自分じぶんよりよわ相手あいて容易よういたおしてきた。

だが、その過程かてい一度いちどかんがえたことはなかった――もし、いつか自分じぶんがこのような圧倒的あっとうてき強敵きょうてき対峙たいじしたなら、たしてどうかえばよいのかと。

かれ体内たいない魔力まりょくすでにほとんどのこっていなかった。

頻繁ひんぱん魔法まほう戦技せんぎ使用しようが、体内たいない魔力まりょくをほぼ枯渇こかつさせてしまったのである。

ゆみくたびに、かれ自分じぶんなかをかすかにながれる魔力まりょく気配けはいかんった。

その微弱びじゃくながれは、かれ不安ふあんをますますてる。

もしも青龍せいりゅう攻撃こうげきが、つぎはほんのすこしでもはやせまってきたなら――自分じぶん二度にどたたかつづけることはできないだろう。


青龍せいりゅうは、亞拉斯アラース窮地きゅうちをも察知さっちしたようだった。

そのがわずかにれ、耳障みみざわりな風切かざきおとひびかせる。

つぎ瞬間しゅんかんするど眼差まなざしが一気いっき亞拉斯アラースへとさった。

青龍せいりゅうくちがわずかにひらかれる。

そのおくに、ふたた漆黒しっこくひかり凝縮ぎょうしゅくはじめた。

今度こんどはなたれようとしている黒色こくしょく魔法光球まほうこうきゅうは、先程さきほどのものよりもさらに巨大きょだいであった。

くろのエネルギーは、あたかも万物ばんぶつ深淵しんえんのようにうずき、周囲しゅうい空気くうきはげしくゆがめていく。

まるで光明こうみょうでさえ、この暗黒あんこくちからからのがれることはけっしてできないかのようだった。


今度こんどこそ……」と亞拉斯アラースひくつぶやき、むねおくふか無力感むりょくかんが込みこみあがってきた。

かれは、せまほろびのちからをはっきりとかんっていた。

だが今回は、反撃はんげきするだけのちからも、回避かいひついやす魔力まりょくすらのこされていない。

ゆみくこともできず、もはやあの微弱びじゃく魔力まりょくたよってあらたな攻撃こうげきはなすべもない。

その瞬間しゅんかんかれなかのこっていた希望きぼう完全かんぜんついった。

青龍せいりゅう黒色こくしょく魔法光球まほうこうきゅう急速きゅうそく膨張ぼうちょうし、まるで空間くうかんそのものを黒洞こくどうのように変貌へんぼうしていく。

天地てんちおおいつくすほどの威勢いせいび、その圧倒的あっとうてき破滅はめつ奔流ほんりゅうは、猛然もうぜん亞拉斯アラースほか仲間なかまたちへとはなたれた。

その刹那せつな亞拉斯アラースはただだまって宣告せんこくつしかなかった。

かれさとっていた――この光球こうきゅうこそが、自分じぶんたち全員ぜんいんにとっての終焉しゅうえんであると。


ひとつのゆびはじおと空気くうきき、んだひびきが戦場せんじょう全体ぜんたいつらぬいた。


群衆ぐんしゅうへとはなたれた光球こうきゅうは、一瞬いっしゅんにしてえ、またた青龍せいりゅうあらわれた。

その変化へんか青龍せいりゅうはまったく反応はんのうできず、なにこったのか理解りかいするひまさえなかった。

轟音ごうおんとも大爆発だいばくはつこり、青龍せいりゅうみずからの強大きょうだい攻撃こうげきけた。

その破滅的はめつてきちから瞬時しゅんじ空中くうちゅうへと炸裂さくれつし、猛烈もうれつなエネルギーの波動はどう空気くうきいた。

爆発ばくはつ衝撃しょうげきは、青龍せいりゅうくびけられていた神器しんきただちにばし、その神器しんきちゅうただよちていった。

同時どうじに、青龍せいりゅう神器しんきとのつながりを瞬間しゅんかんてきうしなった。

神器しんき加護かごうしなったことで、青龍せいりゅう体内たいないのエネルギーは急速きゅうそくくずり、その身体しんたい均衡きんこううしなった。

そして、巨大きょだい爆発ばくはつ波動はどうはじばされ、大地だいちへとたたけられる。

青龍せいりゅう巨体きょたいはげしい衝撃音しょうげきおんともなって落下らっかし、そのちからうしなったまま地面じめんよこたわった。

周囲しゅうい大地だいち衝撃しょうげきによってくだり、塵土じんどがった。


爆発ばくはつ余波よははそのまま仲間なかまたちへとおそいかかってきた。

その衝撃しょうげきは、先程さきほど光球こうきゅうほど致命的ちめいてきではなかったが、それでも戦場せんじょう全員ぜんいん反応はんのううばうには十分じゅうぶんすぎるほど強大きょうだいであった。

はげしい振動しんどう全員ぜんいんえ、瞬間しゅんかんてきあたま眩暈めまいおそわれる。

身体からだはし不調ふちょうかれらから意識いしきうばり、衝撃しょうげきなみされるように、一人ひとり、また一人ひとりたおれ、昏倒こんとうしていった。

亞拉斯アラース意識いしきうしな瞬間しゅんかん、ほとんどちからのこらぬまま天空てんくう見上みあげた。

かれ視線しせんかすみ、おぼろげな世界せかいなかそらたかみにはひとつのかげただよっていた。

白袍はくほうまとった魔法使まほうつかいの姿すがたは、あたかも夜空よぞらまたたひとつのほしのようにかがやいていた。

距離きょりはるかにとおいはずなのに、そのちから波動はどうたしかにアラースのむねへととどいていた。

それがだれであるかはからない。

だが、アラースはさとっていた――このたたかいはすでに終止符しゅうしふったのだと。


処理しょり仕方しかたすこあらっぽかったけれど、『越位水晶えついすいしょう』をれるためには、この程度ていどならまだゆるされるだろう。」

そう私はこころなかつぶやき、この戦闘せんとうしずかにまくじたのだった。



神明かみ扶桑ふそう対峙たいじ場面ばめんにおいて、扶桑ふそう気勢きせいはすでに頂点ちょうてんたっしていた。

一気いっきにすべての神明かみほろぼそうと、かれ弓弦ゆづるふたた目一杯めいっぱいしぼり、強烈きょうれつはなった。

その破滅はめつ気配けはいまとい、まるで天地てんちそのものをくかのように神明かみたちへと殺到さっとうした。

しかし、神明かみたちへ命中めいちゅうする刹那せつな数人すうにん人影ひとかげ突如とつじょとして空中くうちゅうあらわれた。

かれらは疾風しっぷうのごとき速度そくどせまり、瞬間しゅんかんのうちに**扶桑ふそう**のはなったはじかえし、攻撃こうげきした。

「なに……?」

扶桑ふそう愕然がくぜんとしてその人影ひとかげ見上みあげ、驚愕きょうがく困惑こんわくかくせぬ表情ひょうじょうかべた。

まさか、この決定的けっていてき瞬間しゅんかん自分じぶん全攻撃ぜんこうげきはばものあらわれるとは、ゆめにもおもわなかったのだ。

その瞬間しゅんかん圧倒的あっとうてき気配けはい逆流ぎゃくりゅうするようにおそいかかってきた。

扶桑ふそう突如とつじょとしてされた反撃はんげきにより自分じぶん律動りつどうみだされるのをかんじ、その眼差まなざしには困惑こんわくいかりが交錯こうさくし、強烈きょうれつ感情かんじょうとなってがった。


人影ひとかげ輪郭りんかく空気くうきながれに合わせてらぎ、やがて突然とつぜん複数ふくすう人影ひとかげから一人ひとり姿すがたへと収束しゅうそくし、扶桑ふそう視線しせんさきあらわれた。

その瞬間しゅんかん扶桑ふそうさとった。

先程さきほどにした複数ふくすう人影ひとかげは、けっして別人べつじんではなく、すべてこの未知みちひとあやつった分身術ぶんしんじゅつにすぎなかったのだと。

扶桑ふそう眼差まなざしはするどつめたくひかり、こころおくでは理解りかいしていた。

――この自分じぶん全盛ぜんせい一撃いちげきふせぎきるほどの相手あいてけっしてあなどれる存在そんざいではない、と。

突如とつじょ妨害ぼうがいによって攻撃こうげきはじかえされた。

しかし、扶桑ふそうこころには一片いっぺん動揺どうようもなかった。

そのはさらにするどさをし、即座そくざ艾拉卡エラカちからげる。

そしてふたた攻撃こうげきし、この不速之客ふそくのきゃく完全かんぜんたたせるべくこぶしりかざした。

そのこぶしさきは、先程さきほど自分じぶんはじかえした宿敵しゅくてきへとけられる。

十階戦技じっかいせんぎ焚燒金剛拳ふんしょうこんごうけん終式しゅうしき火獄崩天かごくほうてん

それは扶桑ふそうみずからの血液けつえきやし、「」を双拳そうけんあつめてはな必殺ひっさつ一撃いちげきであった。

その拳撃けんげき火山かざん噴火ふんかにもひとしく、地面じめんでさえもかせるほどの灼熱しゃくねつともなっていた。


しかし、扶桑ふそう攻撃こうげき緹雅ティアへとせまったその瞬間しゅんかん突如とつじょとしてえぬ障壁しょうへきちはだかり、重苦おもくるしい衝突音しょうとつおんひびかせてその進撃しんげきはばんだ。

その障壁しょうへきは、まるで無形むけいへだたりとなって扶桑ふそうしばけ、のがれられぬおりのようであった。

扶桑ふそうおもわずうごきをめ、つぎ瞬間しゅんかんこぶしたたけて突破とっぱこころみた。

「これは……どんな障壁しょうへきだ?」

扶桑ふそう眼差まなざしにはつよ困惑こんわくかんでいた。

これほどのちからは、かれがこれまでにしたどの防御ぼうぎょともことなる。

あきらかに特別とくべつ術式じゅつしきによる防御障壁ぼうぎょしょうへきであり、扶桑ふそう攻撃こうげき一切いっさいとおじない。

何度なんども、何度なんど渾身こんしんちからめて拳撃けんげきはなったが、その透明とうめい障壁しょうへき微動びどうだにせず、まるでるがぬ存在そんざいそのもののようにたたずんでいた。


「いったいなにこっている!」

扶桑ふそうむねいかりでがっていた。

かれそそちから次第しだいしていったが、それでもなお、まえ障壁しょうへき突破とっぱすることはかなわなかった。

その無力むりょく攻撃こうげきかえしは、次第しだい扶桑ふそうこころ焦燥しょうそうげていく。

この障壁しょうへきは、かれ計画けいかくすべてをまりへといやるかのようにふさがり、未曽有みぞう危機感ききかん内心ないしん侵蝕しんしょくしていった。

まさか、自分じぶんがこれほど厄介やっかい状況じょうきょうまれるとは、かれ想像そうぞうすらしていなかったのだ。


そのとき不意ふいこえみみへととどいた。

冷静れいせいきわまりない口調くちょうで――

りゆう単純たんじゅんだ。おまえはその障壁しょうへきえられない。ただそれだけのことだ。」

扶桑ふそうおどろいてかえった。

かれ感知魔法かんちまほうこそ使つかえなかったが、戦闘せんとうなかつちかった鋭敏えいびん感覚かんかくがあれば、周囲しゅういてき存在そんざい見逃みのがすことなど本来ほんらいありない。

だが――その人物じんぶつこえはっするまで、かれ背後はいごだれかがっていることすら、まったづけなかったのである。

そこにかげは、平然へいぜんとした表情ひょうじょう確固かっこたる自信じしんたたえ、扶桑ふそうをまるで眼中がんちゅうれていないかのようであった。

そして、扶桑ふそうがまだ完全かんぜんには状況じょうきょうめないうちに、先程さきほど弓矢ゆみやはじかえしたもう一人ひとりてきが、おともなくその人物じんぶつ背後はいご姿すがたあらわしたのである。


「おまえたちは何者なにものだ!」

自分じぶん攻撃こうげき容易たやす無効化むこうかされたことに激昂げきこうし、扶桑ふそういかりをあらわにしてさけんだ。

「それは、むしろわたしいたいことだろう?」

わたしつめややかにこたえた。

直接的ちょくせつてきこたえをあたえることはなく、その冷淡れいたん一言ひとことはかえって扶桑ふそう怒火どかをさらにがらせた。

このやり取りは、かれにとって自身じしん偉大いだいなる身分みぶんこうから挑発ちょうはつされるにひとしかった。

「ふん! われこそはこの世界せかい偉大いだいなる存在そんざいえらばれし第十位だいじゅうい、人々(ひとびと)に『三足鳥さんぞくちょう扶桑ふそう』とばれるものだ!

おまえたちには黄泉路よみじへの土産みやげとでもしてやろう!」

眼前がんぜん人物じんぶつからはなたれる強大きょうだいちからたしかにかんじながらも、扶桑ふそう依然いぜんとしておのれちからちあふれる自信じしんいだいていた。

艾拉卡エラカさえあれば、自分じぶんはいかなるときでもたかみから弱者じゃくしゃ見下みくだせる――そう確信かくしんしていたのだ。

扶桑ふそうふたた魔力まりょく凝縮ぎょうしゅくさせ、そのなかかたちえてゆみえがした。

そして冷静れいせい弓弦ゆづるしぼり、わたし緹雅ティアけてはなった。

それはいままでとはことなり、黒色こくしょくひかりびたのごとく、わたしたちへと疾走しっそうする。

十階戦技じっかいせんぎ静夜追月せいやついげつ

空気くうきき、するど音爆おんばくとどろかせながら、わたし緹雅ティア心臓しんぞうめがけて一直線いっちょくせんすすんだ。


だが、その攻撃こうげき扶桑ふそうしていたようにわたしたちへ命中めいちゅうすることはなかった。

わたしたちはただかるをひねり、おともなくけたのだ。

その軌跡きせきはかすりさえせず、まるでときそのものがわたしたちのためにあゆみをゆるめたかのように。

扶桑ふそう眼差まなざしには驚愕きょうがくはしった。

まさか、この一矢いっしがかくも容易よういくかわされるとはゆめにもおもわなかったのだ。

それだけではない。

障壁しょうへきれた瞬間しゅんかん突如とつじょその飛行ひこうまり、空気くうきふるわせる強大きょうだい吸引きゅういんちから発生はっせいした。

その吸力きゅうりょくせられるように、瞬時しゅんじ障壁しょうへきなかへとまれていった。

扶桑ふそう見開みひらき、みずからがはなった障壁しょうへきれた刹那せつな完全かんぜん吸収きゅうしゅうされる光景こうけい届けるしかなかった。

その表情ひょうじょうはますます陰鬱いんうつしずみ、ついには怒声どせいげた。

「おまえ……おまえはいったいなにをした!」

胸中きょうちゅうたす不安ふあん急速きゅうそくふくがっていく。

この不可視ふかし障壁しょうへきちからは、まるでえざる戦局せんきょくあやつっているかのようであり、扶桑ふそうこころ苛立いらだたせつづけていた。


わたししずかに微笑ほほえみ、いたこえこたえた。

べつにどうということはない。ただ……その攻撃こうげきよわすぎただけだ。」

わたし言葉ことばは、まるで冷水れいすいびせるように扶桑ふそうこころえた。

かれうつ光景こうけいをまったく理解りかいできず、わたし言葉ことば真意しんいさえつかめないでいた。


わたし展開てんかいしていたこの障壁しょうへきは、わたし職業技能しょくぎょうスキルのひとつ――世界せかいいき

この技能スキルは、わたしがこの世界せかい穿越せんえつして以来いらい進化しんかげてきた。

この障壁しょうへきたんなる結界魔法けっかいまほうではない。

すべての攻撃こうげき吸収きゅうしゅうつづけることのできる透明とうめい防御層ぼうぎょそうなのだ。

展開てんかいされると、それはわたし中心ちゅうしん一定範囲いっていはんい円形えんけい防御層ぼうぎょそう形成けいせいし、物理攻撃ぶつりこうげきであろうと魔法攻撃まほうこうげきであろうと、どれほどの威力いりょくつものであれ吸収きゅうしゅうし、そのちからふうめる。

だが、この障壁しょうへき万能ばんのうというわけではない。

展開てんかいには莫大ばくだい魔力まりょく消耗しょうもうするうえ維持いじつづけるためにも相当そうとう魔力まりょく必要ひつようとなる。

さらに、同等どうとう等級とうきゅう魔法まほうあやつ存在そんざいや、特殊とくしゅ神器しんきものたいしては、この障壁しょうへき防御力ぼうぎょりょく完全無欠かんぜんむけつとはえない。

もし相手あいて魔力量まりょくりょうわたし自身じしん魔力まりょく上回うわまわ場合ばあい、あるいはこの障壁しょうへき突破とっぱするために特化とっかした神器しんき所持しょじしているならば――

この障壁しょうへきはもはや防御ぼうぎょ役割やくわりたさなくなるだろう。


「ふん! おれめるためにしたじゅつか? おれあまたな!」

扶桑ふそうはこの魔法まほうをまったくかいさず、不屑ふせつ眼差まなざしをけた。

自分じぶんがその障壁しょうへきえられぬのであれば、施術者せじゅつしゃたたたおせばよい――そうしんじてうたがわなかった。

かれにとって障害物しょうがいぶつなど、るにらぬ些事さじにすぎなかった。

「いやいや、私はまだおまえにきたいことがやまのようにあるのさ。」

私はつめややかにこたえ、その声音こわねにはわずかに挑発ちょうはついろじっていた。

「ならばおれさきたおしてみろ!」

扶桑ふそう歯噛はがみしながらえ、挑発ちょうはつそそがれた火山かざんのごとく全身ぜんしん爆発ばくはつ寸前すんぜんにまでたかぶらせた。

つぎ瞬間しゅんかん扶桑ふそうわたし緹雅ティアかって猛然もうぜん突進とっしんした。

その足音あしおと轟音ごうおんひびかせ、かれむたびに強烈きょうれつ気流きりゅうぜ、戦場せんじょう全体ぜんたいふるわせた。

つづけざまにかれふたた十階戦技じっかいせんぎ焚燒金剛拳ふんしょうこんごうけんす。

その拳撃けんげき一発いっぱつ一発いっぱつわたし緹雅ティア目標もくひょうにまっすぐせまり、まるでめるすべなき災厄さいやく奔流ほんりゅうのようであった。


しかし、そのこぶしわたしたちに到達とうたつしようとした刹那せつな、それは緹雅ティアによってはばまれた。

彼女かのじょにぎられた刀刃とうじん冷光れいこうひらめかせ、瞬時しゅんじ扶桑ふそう攻撃こうげきむかち、かるやかにその一撃いちげきめた。

たとえ扶桑ふそうちからがどれほど強大きょうだいであろうと、かれこぶしろすたびに、緹雅ティアつね余裕よゆうをもってその攻撃こうげきながし、微塵みじん影響えいきょうすらけなかった。

「そ、そんな……馬鹿ばかな!」

扶桑ふそうかおには、驚愕きょうがく困惑こんわくが入りじったいろかんだ。

自分じぶん攻撃こうげきがこれほど容易よういふせがれるなど、かれゆめにもおもっていなかったのである。

その事実じじつかれこころ疑念ぎねんこし、一瞬いっしゅんにして混乱こんらんうずへとたたんだ。


緹雅ティアかすかにわらみ、かろやかにこたえた。

理由りゆう単純たんじゅんよ。おまえの武器ぶきは、相手あいて物理抗性ぶつりこうせい攻撃力こうげきりょくよりひく場合ばあいにしか成立せいりつしないの。

もし物理抗性ぶつりこうせい攻撃力こうげきりょく上回うわまわったら、その武器ぶき完全かんぜん無力化むりょくかされるだけよ!」

そのかるやかで余裕よゆうある口調くちょうから、扶桑ふそうさとった。

――彼女かのじょはすでに自分じぶんふだ見抜みぬいている、と。

その言葉ことば扶桑ふそういかりはさらにさかった。

かれ素早すばや後方こうほう退しりぞき、両手りょうてを合わせた。

つぎ瞬間しゅんかんかれからは十羽じゅっぱ三足烏さんぞくうした。

その一羽いちわ一羽いちわ濃烈のうれつほのおまとい、瞬時しゅんじ緹雅ティアかこみ、同時どうじ火炎魔法かえんまほうはなった。


「もしおまえが超高ちょうこう物理抗性ぶつりこうせいつというなら、そのわりに魔法抗性まほうこうせいひくいはずだろう!」

扶桑ふそうこえ高揚こうようし、戦場せんじょうとどろいた。

だが、緹雅ティアひとみには微塵みじん恐怖きょうふかんでいなかった。

彼女かのじょふたた微笑ほほえみ、剣刃けんじんいた。

瞬時しゅんじに、三足烏さんぞくうもろとも火焔かえん奔流ほんりゅうられ、その姿すがたした。

その火焔かえん猛攻もうこうは、あまりにも容易ようい無力化むりょくかされ、まるでるにらぬちいさな火種ひだねぎなかったかのようであった。


かろんじられるのは本当ほんとう頭痛ずつうたねね。」

緹雅ティアにした武器ぶきかろやかにるい、その魔法まほうをまったくかいさぬ様子ようすった。

「おまえの攻撃こうげきはせいぜい八階はっかい魔法まほう程度ていどおそれるにりないわ。」

彼女かのじょにとって、その程度ていど攻撃こうげきるにらぬものにすぎなかった。


かっている。」

扶桑ふそう攻撃こうげきされたにもかかわらず、おどろ様子ようすせなかった。

八階はっかい魔法まほう緹雅ティアにはかぬ可能性かのうせいたかいことを、かれ理解りかいしていたからだ。

つまり、先程さきほど攻撃こうげきはただの陽動ようどう

本当ほんとう一撃いちげきは、これからされる。

扶桑ふそう弓弦ゆづるふたた限界げんかいまでしぼり、矢身やみ周囲しゅうい膨大ぼうだいなエネルギーを急速きゅうそく収束しゅうそくさせた。

その強大きょうだい力場りきじょうつつまれ、万物ばんぶつくすかのごときちから凝縮ぎょうしゅくしていく。

矢身やみからはなたれる圧倒的あっとうてき気配けはいは、あらゆるものをくかのようにするどかった。

「これこそが(おれ)本当(ほんとう)()(ふだ)だ!――

十階戦技じっかいせんぎ咒翼じゅよく幻鴉毒影げんあどくえい!」

扶桑ふそういかりのほのおえ、はなたれた瞬時しゅんじ巨大きょだい鳥影ちょうえいへと変貌へんぼうした。

その巨鳥きょちょう全身ぜんしんからは濃烈のうれつ毒気どっきはなたれ、一息ひといきうだけでもいのちとしかねないほどであった。

そのくちばしからも毒気どっきし、紫紅色しこうしょくあやしい光芒こうぼうまとったその姿すがたは、もの背筋せすじこごらせるほどの戦慄せんりつはなっていた。


その巨鳥きょちょう緹雅ティア到達とうたつするまで、あと数歩すうほ距離きょりという刹那せつな突如とつじょとして空中くうちゅうえるように消散しょうさんした。

まるで、なに神秘的しんぴてきちからまれたかのように。

「な、なにだと!」

扶桑ふそう驚愕きょうがくし、見開みひらいて前方ぜんぽう凝視ぎょうしした。

みずからの最強さいきょう攻撃こうげきが、なぜこのように忽然こつぜんったのか、まったく理解りかいできなかったのだ。

その予想外よそうがい事態じたいが、かれこころおおきくみだした。


そのとき緹雅ティア背後はいごからこえひびいた。

さきにこの魔法まほうたくわえておいてかった。そうでなければ、今度こんどすこ厄介やっかいだったかもしれないな。」

わたしは淡々(たんたん)とげ、にはあらたな魔法陣まほうじんかびがる。

つぎ瞬間しゅんかん数千すうせん悪鬼あっきかおあつまったかのような邪悪じゃあく盾牌たて緹雅ティアまえあらわれ、凄惨せいさん気配けはいはなった。

毒鳥どくちょう猛毒もうどく瞬時しゅんじにその盾牌たてへと吸収きゅうしゅうされ、緹雅ティアへは一切いっさいがいおよぼさなかった。

「これがわたし魔法まほうひとつ――

九階きゅうかい魔法まほう噬腐之盾しょくふのたて吞穢羅剎面どんえらせつめん

さん属性ぞくせいどく属性ぞくせいをすべてたてだ。」

わたし微笑ほほえみながらった。

「こんな魔法まほうがあるなら、最初さいしょから使つかえばいいじゃない!」

緹雅ティアこられず吐槽つっこみ、声色こわいろにはすこしばかりの茶化ちゃかしがじっていた。

「まあまあ、そううなよ! これは相当そうとう代償だいしょう必要ひつようなんだ。

以前いぜんは、こういうときはいつも亞米アミたのんでいたくらいだからな。」

わたし緹雅ティアけて説明せつめいつづける。

「この技能ぎのう最大さいだい欠点けってんは、発動はつどうさい自分じぶん魔力まりょく一割いちわり支払しはらわなければならないこと。

さらに十分じゅっぷんごとに、追加ついか魔力まりょく一割いちわり消耗しょうもうするんだ。

持久戦じきゅうせんにはまったくいていないから、滅多めった使つかわないんだよ。」

わたしかるってかたをすくめた。


扶桑ふそう想像そうぞうだにしなかった。

みずからの最強さいきょう攻撃こうげきが、たかが九階きゅうかい魔法まほうによってはばまれるなど――

まえきている状況じょうきょうは、もはやかれ理解りかいえていた。

先程さきほど攻撃こうげきんだすきのがさず、緹雅ティア十階じっかい魔法まほう夜沉星幻やちんせいげん発動はつどうした。

この魔法まほう操作系そうさけい性質せいしつち、その原理げんり通常つうじょう攻撃こうげき魔法まほうとは根本こんぽんてきことなる。

それは無数むすう形態けいたいへと変化へんかし、迅速じんそく目標もくひょうらえる。

さらに、てき捕縛ほばくするのと同時どうじに、その生命力せいめいりょく魔力まりょく吸収きゅうしゅうくし、やがて反抗はんこうちからすらうばるのだ。

最高階さいこうかい魔法抗性まほうこうせいたぬかぎり、この魔法まほうふせぐことはほぼ不可能ふかのう

それこそが、緹雅ティアがこの魔法まほう行使こうしした瞬間しゅんかん扶桑ふそうのがれられなかった理由りゆうであった。

扶桑ふそうもまたすぐれた魔法まほうってはいたが、かれ自身じしん魔法抗性まほうこうせいけっしてつよくはなかった。

そのため、この魔法まほうまえでは急速きゅうそく生命力せいめいりょくうばわれていった。

かれ恐怖きょうふ苦痛くつうち、肉体にくたい無形むけいちからによってかれるかのようにむしばまれ、次第しだいちからうしない、あらがすべをなくしていった。

その瞬間しゅんかんわたしもまた感じかんじとっていた。

扶桑ふそう肉体にくたいから生命力せいめいりょくながっていく気配けはいを――

それはまるで、徐々(じょじょ)に干上ひあがり、やがておともなくえゆくかわながれのようであった。


扶桑ふそう生命力せいめいりょく崩壊ほうかいふちへとちかづいたその瞬間しゅんかん緹雅ティア精確せいかくにその限界点げんかいてん見極みきわめ、魔法まほう解除かいじょした。

そのとき扶桑ふそうは、まるで氷冷ひれい深淵しんえんまれたかのように、すべてのちから喪失そうしつし、もはや反抗はんこうこえすらはっすることができなかった。

そして、かれからは艾拉卡エラカ無力むりょくすべちていった。

同時どうじに、わたし召喚魔法しょうかんまほう発動はつどうし、黒蛇こくじゃした。

そのへび深淵しんえんやみはらまれた異形いぎょう生物せいぶつのごとく姿すがたあらわし、瞬時しゅんじ扶桑ふそう四肢ししへといた。

黒蛇こくじゃ冷酷れいこく眼差まなざしは扶桑ふそう射抜いぬき、そのひとみつぎ命令めいれいけているかのようであった。

蛇身じゃしんからみつくときには、ぎしぎしときしおと嗚咽おえつのようないびつひびきが空気くうきふるわせ、扶桑ふそう身体しんたい完全かんぜん拘束こうそくされ、もはや一歩いっぽうごけなかった。


扶桑ふそうひとみには極度きょくど無念むねん宿やどり、憤怒ふんぬちたさけびがほとばしった。

「くっ……くそっ! はなせ! おれはなせ!」

わたしちいさくわらい、にした艾拉卡エラカでた。

その息吹いぶきいまなお濃烈のうれつ魔力まりょくび、圧倒的あっとうてき気配けはいはなつづけていた。

私は扶桑ふそう眼前がんぜんへとあゆり、やわらかなこえげる。

「これは、戦利品せんりひんとしてもらっておくよ。……ふむ、なるほどな。

そのゆみはおまえが技能ぎのう幻化げんかさせたものか。どうりであれほどの貫通力かんつうりょくっていたわけだ。」

その言葉ことばいた途端とたん扶桑ふそうかおはさらにゆがみ、みにくった。

かれみとめようとしなかった――

みずからがにぎっていたはずの掌握権しょうあくけんくずちていくことを。

その攻撃こうげきのすべてをわたしたちに軽々(かるがる)と無効化むこうかされ、秘匿ひとくしていたはずのちからすら、いとも容易たやす見破みやぶられてしまったのだ。


「こいつ、どう処理しょりする?」

緹雅ティアいかけた。

わたし微笑ほほえみをかべてった。

「まあまあ~まだきたいことがやまほどあるんだ。」

そして私はひるがえし、扶桑ふそう視線しせんけ、しずかにささやいた。

「おまえはなにはなさないだろうな……。ならば、ためしてみるか――この魔法まほうを。」

私はべると、手首てくびからまばゆ魔法陣まほうじんかびがった。

それは空中くうちゅうでゆっくりと回転かいてんし、燦然さんぜんたるひかりはなつづける。

やがて光輝こうきひろがり、私は十階じっかい魔法まほう靈魂情報れいこんじょうほう発動はつどうした。

魔法まほう展開てんかいされると同時どうじに、周囲しゅうい空気くうき重苦おもくるしくよどみ、時間じかんそのものが停止ていししたかのような錯覚さっかくおぼえた。

凝縮ぎょうしゅくされた魔力まりょくわたしてのひらあつまり、扶桑ふそう脳裏のうりへとながんでいく。

無形むけい橋梁きょうりょうのごときちからわたし意識いしき扶桑ふそう魂魄こんぱく直結ちょっけつし、強烈きょうれつ魔力まりょく奔流ほんりゅうたがいをつらぬいた。

この魔法まほう莫大ばくだい魔力まりょく代償だいしょうとするが、その効果こうか絶大ぜつだいだ。

対象たいしょう記憶きおく思想しそう直接ちょくせつ読みよみとることができ、相手あいて精神防壁せいしんぼうへき強引ごういんやぶり、心奥しんおう世界せかいのぞむことが可能かのうとなる。

元来がんらい、この魔法まほうはゲームないにおいてはほとんど役立やくだたぬ技能ぎのうとされ、なぜレベル10にいたってようやく習得しゅうとくできるのか、私はながらく疑問ぎもんおもっていた。

しかし、この世界せかいてからは状況じょうきょう一変いっぺんした。

この魔法まほうきわめて有用ゆうようちからとなり……同時どうじ緹雅ティア芙莉夏フリシャによってギルドないでの使用しようきんじられた。

その理由りゆううまでもない――他者たしゃこころ直接ちょくせつのぞむ、それはあまりにもふかく「侵犯しんぱん」に行為こういだからだ。


だが、未知みちてきまえにして、これこそが現状げんじょう最善さいぜんだとわたしかんがえていた。

てきみずからの情報じょうほうかくすことにけており、もはや扶桑ふそうくちから有用ゆうよう情報じょうほうすことはのぞめないとさとっていた。

靈魂情報れいこんじょうほう』は精神系せいしんけい魔法まほうにはぞくさない。

その構築こうちく精神魔法せいしんまほうとはまったことなり、むしろわたし書物しょもつんだ特殊とくしゅ魔法体系まほうたいけい――『靈子れいし魔法まほう』にちかかった。

このしゅ魔法まほう精神魔法せいしんまほうくらべ、より直接的ちょくせつてき原始的げんしてき性質せいしつつ。

たんなる意識いしき干渉かんしょうではなく、相手あいて魂魄層面こんぱくそうめんじか交信こうしんするものなのだ。

いまなら理解りかいできる。

なぜこの魔法まほうがレベル10にならねば習得しゅうとくできないのかを――。

この世界せかいにおいて、この魔法まほうきわめて危険きけん存在そんざいであるからだ。

一度いちどでも魂魄こんぱくへの干渉かんしょうおこなえば、相手あいて精神せいしんはもはやもと状態じょうたいたもつことができない可能性かのうせいたかい。

それは強烈きょうれつ侵入性しんにゅうせいゆうするちからにほかならなかった。


ただし、靈子れいし魔法まほうだれもがあつかえるものではなく、その使用条件しようじょうけんきわめてきびしい。

このしゅ魔法まほうあつかえるのはごくかぎられた職業しょくぎょうのみであり、わたしたちのギルドないでも、これをあつかえるのはわたし亞米アミ姆姆魯ムムル、そして納迦貝爾ナガベルにんにすぎない。

かれらがこれらの特殊とくしゅ魔法まほうっているにもかかわらず、私はかれらが実際じっさいにその魔法まほう行使こうしする場面ばめん一度いちどたことがない。

わたし自身じしんあつかえる靈子れいし魔法まほうかずけっしておおくなく、そのひとつひとつがたか魔力消耗まりょくしょうもうともなう。

わたし今回こんかい発動はつどうしている『靈魂情報れいこんじょうほう』は、靈子れいし魔法まほうなかでももっと基礎的きそてき技能ぎのうにあたり、わたし意識いしき対象たいしょうたましいへと短時間たんじかん接続せつぞくし、相手あいて記憶きおくることができる。

だが、これはけっして万能ばんのう魔法まほうではない。

書物しょもつしるされていたとおり、熟練じゅくれんしたてきとく靈子れいし魔法まほう通暁つうぎょうしているものは、このしゅ魔法まほうたいして独自どくじ反制はんせいおこない、わたしろうとする記憶きおく改竄かいざんすることさえできるという。

もし相手あいてこころ防御ぼうぎょ十分じゅうぶんかためていた場合ばあい、この魔法まほう完全かんぜん無効化むこうかされる可能性かのうせいすらある。

さらにわるいことには、わたし誤導ごどうされ、意図的いとてき仕組しぐまれたわな誤情報ごじょうほうつかまされるおそれがあるのだ。

それはわたしたちにとってきわめておおきな危険きけんとなりうる。


わたし扶桑ふそうれたその瞬間しゅんかん、私は扶桑ふそう記憶きおくはじめた。

うつされる光景こうけいはひどくくらく、どこであるのか判別はんべつできない。

周囲しゅうい景色けしきゆがみ、ぼやけ、まるで異次元いじげん空間くうかんまよんだかのようだった。

具体的ぐたいてきかたち色彩しきさいもなく、ただ無限むげんやみがすべてのひかりんでいた。

今日きょうからおまえは三足烏さんぞくう扶桑ふそうだ。」

ひく命令めいれいめいたこえ空間くうかんひびわたるのを、私はかすかにった。

「よくけ! 世界せかいはおまえをえらんだ。破壊はかい象徴しょうちょうとして、聖王国せいおうこくほろぼすのだ!」

そのこえふたたひびき、冷酷れいこくかつ無情むじょうで、こばむことのできない宿命感しゅくめいかんびていた。


そのとき映像えいぞうなか扶桑ふそうがゆっくりと両眼りょうがんひらいた。

そのひとみからは深淵しんえんのようなちからはなたれていた。

周囲しゅうい祭壇さいだんのようにえ、その中央ちゅうおうではほのおが轟々(ごうごう)とさかっていた。

祭壇さいだん前方ぜんぽうには墨緑色ぼくりょくしょくのローブを羽織はおったなぞ人物じんぶつたちがならび、かれらのかお陰鬱いんうつひかりおおわれ、その姿形すがたかたち輪郭りんかくのみが幽暗ゆうあんかがやきにかびがっていた。

まるで、なにめられた儀式ぎしきおこなわれているかのようであった。

だが、わたしかれらの素顔すがおたしかめるまえに、扶桑ふそう身体からだ突如とつじょとして激烈げきれつ変化へんかおとずれた。

かれ絶叫ぜっきょうすると同時どうじに、強大きょうだいちからかれ肉体にくたいおそい、一瞬いっしゅんにして不気味ぶきみちからまれていった。

扶桑ふそう肉体にくたいはまるで不可視ふかしちから精気せいきくされるかのように、はげしい燃焼ねんしょうとも全身ぜんしんほのおおおい、瞬時しゅんじかたちうしない、血溜ちだまりとなって崩壊ほうかいした。

「また……これか。」

「どういうこと? まさか、あのとき德蒙デモンというやつおなじなのか?」

となり緹雅ティアが問いかけ、その眼差まなざしには困惑こんわくかんでいた。

かえってからはなそう。」

わたしひくこえこたえ、その胸中きょうちゅうには重苦おもくるしい感情かんじょうひろがっていった。


このたたかいののちわたし緹雅ティア聖王国せいおうこくすくうことに成功せいこうした。

扶桑ふそうともに、支配しはいされていた人々(ひとびと)や守護獣しゅごじゅうたちももと姿すがたもどし、そのひとみにはふたたひかり宿やどった。

ただ、このあいだきた出来事できごとについて、かれらには一切いっさい記憶きおくのこっておらず、まるですべてが抹消まっしょうされ、さかのぼることのできない空白くうはくだけがのこされていた。

かみのぞけば、わたし緹雅ティアしたことをものだれもいなかった。

かみたちは人々(ひとびと)のまえわたしたちの功績こうせき感謝かんしゃしめそうとしたが、わたし緹雅ティアはそのしずかに姿すがたし、痕跡こんせきひとつものこさなかった。


わたしたちと扶桑ふそうとの一戦いっせん、その一部始終いちぶしじゅう山腹さんぷくちすくむ黒衣こくい使者ししゃうつっていた。

「なるほど……すべてはあるじ予見よけんとおりか。」

「こののち報告ほうこくだな。

つぎ六島之國ろくとうのくにか?

あかのあいつが予定通よていどおりにうごいているかどうか……。」

黒衣こくい使者ししゃはただひとりでつぶやき、地面じめん漆黒しっこく蓮華れんげしるしきざむと、その黒霧こくむとなってえた。



龍族聖域りゅうぞくせいいき最奥さいおう儀式房ぎしきぼうでは、二人ふたり龍人りゅうじん盤上ばんじょうかっていた。

しかし、そのばんただ棋盤きばんではなく、六大国ろくだいこくおお地図ちずであった。

この二体にたい龍人りゅうじんあきらかに通常つうじょう龍人りゅうじんとはことなっていた。

その姿形すがたかたちたしかにりゅうであり、身体からだかた龍鱗りゅうりんおおわれていたが、一方いっぽう天使族てんしぞくつばさち、もう一方いっぽう悪魔族あくまぞくつばさっていた。


「どうやら聖王国せいおうこく攻略こうりゃく行動こうどう失敗しっぱいわったようだ。『越位水晶えついすいしょう』だけでなく、『無冕神器むめんしんき』までうばわれた。」

「だが、これまでの情報じょうほうからすれば、聖王国せいおうこくに『無冕神器むべんしんき』にあらがえる傢伙やつなど存在そんざいするはずがない。」

「もし、あのものたちがうごいたのなら、できなくもないだろう?」

「だが、報告ほうこくによれば、どうやらあのものたちのによるものではないらしい。聖王国せいおうこく潜入者せんにゅうしゃからの情報じょうほうにも、あのものたちの痕跡こんせきはなかった。どうやらあらたに誕生たんじょうした二人ふたり混沌級こんとんきゅう冒険者ぼうけんしゃらしい。」

所詮しょせん混沌級こんとんきゅう冒険者ぼうけんしゃごときでは、あの魔神ましん相手あいてになどなれるはずもあるまい。その二人ふたり一体いったい……。」

「我々(われわれ)のちからでは、その二人ふたりにすらおよばぬ可能性かのうせいたかい。さいわいにも鑰匙かぎすでれてあるし、『契約之印けいやくのいん』の効果こうかもある。だからこそ、我々(われわれ)はこれほど容易ようい行動こうどう露見ろけんけられているのだ。」

悪魔あくま羽翼うよく龍人りゅうじんが、にした立方体りっぽうたいもてあそびながらった。

偉大いだいなるあるじは、なに指示しじなさるのか?」

「わからぬ。だが情報じょうほうによれば、あの二人ふたりつぎうごきはたか確率かくりつ六島之國ろくとうのくにだという。すみやかにうごかねばならぬ。すくなくとも、鑰匙かぎ回収かいしゅうせねばならない。」













第六章だいろくしょう物語ものがたりをようやくえることができて、とてもうれしいです。

来週らいしゅう一週いっしゅうやすみをり、そののち10/11から第七章だいななしょうはじめます。

第七章だいななしょう第一巻だいいっかん最後さいごしょうとなり、完成かんせいまでおそらく6〜8しゅうほどかかる予定よていです。

最近さいきん以前いぜん文章ぶんしょう見直みなおすことにおおくの時間じかんついやし、不足ふそくしているとかんじた細部さいぶおぎないました。

また、すべての漢字かんじあらためて注音ちゅういんなおすつもりです。そのためにもうすこ時間じかん必要ひつようですが、できるだけはや完成かんせいさせたいとおもっています。修正後しゅうせいご読者どくしゃみなさんに、よりみやすくかんじていただければうれしいです。

現在げんざい数人すうにん固定読者こていどくしゃがいてくださることが本当ほんとううれしく、わたしにとっておおきなはげみになっています。自分じぶん作品さくひんみなさんの期待きたい裏切うらぎらないものでありたいとねがっています。

わたし作品さくひんについてなにおもうことがあれば、どんなことでも歓迎かんげいします。

わたしはそうした意見いけんにしたときはかなら真剣しんけんみ、そこからみなさんがきな部分ぶぶんや、わたしりない部分ぶぶんることができます。

あらためて、んでくださるみなさんに感謝かんしゃします。

それこそが、わたしにとってかすことのできない原動力げんどうりょくです。


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